弁護士コラム

過払金返還請求事件における貸付残高の主張立証責任

[投稿日] 2019年12月03日 [最終更新日] 2019年12月03日

過払金返還請求事件については,既に大部分の論点が最高裁で決着しましたが,未だに最高裁で解決されていない残された論点の一つが「ある一定時点における貸付残高の主張立証責任」の問題です。

今でも古くから取引を続けてこられた方の案件では,取引開始当初の取引履歴が保存されていない等の理由によってこの論点が争われることがあります。

この論点について,私はかねてより「ある一定時点における貸付残高については貸主において主張立証責任を負う」との理解を前提に訴訟活動を行っており,それに沿った判決をいただいたこともあります。

他方,下級審の裁判実務においては,「ある一定時点における貸付残高については借主において主張立証責任を負う」との前提に立ち,取引履歴の冒頭貸付残高をゼロとする借主の主張について,その当時の貸付残高がゼロであったことの主張立証責任を借主に負わせる例が散見されます。

しかしながら,そのような見解は妥当なものとは思われません。以下,その理由の詳細を述べます。

(以下の記述は,私が実際に訴訟において提出した準備書面の一部を抜粋したものです。自由に利用していただいて構いませんが,責任は負いかねますので,各自の責任において利用していただきますようお願いいたします。)

 

貸付残高の主張立証責任を貸主が負うと解すべき理由

1 不当利得返還請求訴訟の要件事実

 過払金返還請求訴訟は,不当利得返還請求訴訟の一種であるところ,不当利得返還請求の請求原因事実は,①原告の損失,②被告の利得,③損失と利得との因果関係,④利得が法律上の原因に基づかないことである。

2 「法律上の原因に基づかないこと」の意義

⑴ 「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証責任については,利得者が主張・立証すべきであるというのが最高裁判例の立場であり(最判昭和59年12月21日・集民143号503頁),この立場を前提とすべきである。

⑵ 「法律上の原因に基づかないこと」の意義については,従来から「形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が実質的・相対的には正当視されない場合」(我妻榮「債権各論(下一)(民法講義Ⅴ4)」)などと説明されており,いずれにせよ当事者間の法律関係の全体的な評価により判断されるべきことであると考えられてきた。すなわち,「法律上の原因に基づかないこと」は,総合的な法律判断として存否の判断が行われる要件であるから,「消極的事実」ではなく,法的価値判断を要する評価概念である。

⑶ ところで,「法律上の原因に基づかないこと」という要件については,これを消極的事実と捉える見解と,法的評価概念と捉える見解との対立がある。しかし,仮に「法律上の原因に基づかないこと」を消極的事実であると捉えてしまうと,「法律上の原因に基づく」と言えるあらゆる事実の不存在の主張立証を利得者に課すこととなってしまうが,これは「悪魔の証明」を利得者に課するものであって妥当ではない。

3 過払金返還請求訴訟の要件事実

⑴ では,過払金返還請求訴訟において,利得者たる借主は,「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証のため,いかなる具体的事実を主張立証すべきか。
 前述のとおり,「法律上の原因に基づかないこと」は評価概念であり,総合的な法律判断によって存否が判定されるものであるから,同要件の主張立証責任の具体的内容は,不当利得法理を支配する正義・衡平の観点からも正当視し得るものでなくてはならない。そうだとすると,「法律上の原因に基づかないこと」という要件に関する具体的な主張立証責任を検討するにおいても,過払金が「利息制限法という借主保護を目的とした強行法規に違反する不法な利益」であるという基本的な視座を踏まえることも必要である。

⑵ 過払金返還請求訴訟において,過払金額を確定するために必要な「事実」は,貸付額及び貸付年月日,返済額及び返済年月日,法定限度利率を上回る約定利率の合意の各事実のみであり,これらの事実が明らかとなれば,裁判所による事実認定ないし法的評価を経ることによって過払金額は自動的に確定されることになる。
 したがって,これらの事実のうち,どの事実について借主側において主張立証すれば,過払金返還請求権の発生を基礎付けられるかということを検討することになるが,借主は,過払金返還請求訴訟の請求原因事実として,①利息制限法違反の約定利率の合意を含む金銭消費貸借契約の締結,及び②かかる金銭消費貸借契約に基づく弁済額及び弁済年月日の2点を主張立証すれば足りると解すべきであり,上記各事実の主張立証によって,①利得,②損失,③因果関係,④法律上の原因に基づかないこと,といった不当利得返還請求権の請求原因事実に関する主張立証が尽くされるものと解すべきである。
 他方,借主から貸主に対して交付された金員のうち,いかなる部分が貸付金に対する有効な弁済となるのか,そして,借主によって主張立証された弁済金がどのように充当されるのかという点については,貸主において主張立証すべき抗弁である。
 そしてこの場合,貸主は,貸付金額及び貸付年月日等を主張立証することで足りる。すなわち,弁済金が貸付金に対してどのように充当されるかについては,法定充当規定の適用ないし法的評価により判断されるべき問題であるから,抗弁事実としては,貸付金額及び貸付年月日のみで足りるのである。
 したがって,継続的金銭消費貸借取引におけるある一定時点の貸付残高については,貸主において主張立証すべきこととなる(実際には,貸主において貸付金額及び貸付年月日を主張立証し,借主において弁済額及び弁済年月日を主張することで,自動的にある一定時点の貸付残高は確定されることになる。)。

⑶ 上記のように解した場合,貸主より開示された取引履歴の冒頭に記載された貸付残高を無視することになるため,「何となく」借主に不当な利益を与えることになるようにも見えるが,実際の取引履歴が明らかでない場合,実際にはその時点で既に過払状態となっている可能性も否定できないのであるから,利益衡量上も妥当である。
 また,貸金業法によって帳簿保管を義務付けられている貸主において,貸付金額及び貸付年月日の主張立証を行うことは,借主がこれを行う場合に比してはるかに容易である。
 そもそも,利息制限法所定の制限利率を超過する利率での貸付を行っている貸金業者は,後の過払金返還請求に備えて,みなし弁済規定の適用を受け得る業務体制を整備していなくてはならず,そのためには,顧客に対して交付した貸金業法17条及び18条所定の法定書面の写しを全て保管しておく必要があるから,本来,取引履歴の存否を問うまでもなく,17条書面及び18条書面の写しを保管しておくべきであり,これらの書面によって取引内容を確定させることは容易である。貸金業法17条及び同18条が,貸金業者に対し,罰則を課してまで法定書面の交付を強制している趣旨は,貸主・借主間における取引内容についての紛争を防止するためなのである。したがって,取引履歴や17条書面及び18条書面の写しを保管していないことによる不利益は,利息制限法違反という法令違反行為を漫然と行ってきた貸金業者において全て甘受すべきものである。

⑷ 以上のとおり,過払金返還請求権は,制限超過利息の収受という貸金業者が絶対に犯してはならない利息制限法違反という法令違反行為により発生したものなのである。そして,貸金業者は,旧貸金業法43条1項によるみなし弁済規定の適用を受けられる前提で制限超過利息を収受し続けてきたのであり,みなし弁済規定の適用を受けるためには,全ての取引に関する法17条書面及び18条書面の写しを訴訟において証拠として提出することが不可欠なのである。取引履歴の欠如に起因する紛争は,すなわち貸金業者が法17条書面及び18条書面の写しを提出し得る体制を整備してこなかったことに起因するものであり,取引履歴の保存義務の存否に関わらず,本来,借主に対して交付した法17条書面及び法18条書面の写しを備え付けていなければ,そもそも制限超過利息の収受を正当化される余地は無いということである。中途半端な取引履歴に記載された「ある一定時点の貸付残高」は,本来,当該時点以前の全ての取引に関する法17条書面及び法18条書面の交付に関する主張立証を前提とした法43条1項の適用を前提とする金額に過ぎない。そもそも,それ以前の貸付行為自体が立証されていない以上,かような数字は「落書き」も同然である。
 したがって,中途半端な取引履歴の開示により,制限超過利息の返還を免れることは,利息制限法の脱法行為そのものであって,断じて許されるものではない。
 以上のとおり,継続的金銭消費貸借取引における「ある一定時点の貸付残高」の主張立証責任を借主に負わせる見解は,決して正義・公平を旨とする「法の番人」であるべき裁判所が採用すべきものではない。

⑸ これに対して,「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証責任を借主が負っていることから,直ちに継続的金銭消費貸借取引における「ある一定時点の貸付残高」を借主が主張立証すべきであるとする見解は,「法律上の原因に基づかないこと」を消極的事実(貸付残高が存在しないという事実)と捉えたことによる誤解及び利息制限法及び貸金業法の構造に関する誤解に基づくものである。
 さらに,ある一定時点の貸付残高(貸付残高の不存在)についての主張立証責任を借主に負わせようとする発想の根本には,「法律上の原因に基づかないこと」という要件と「利得」要件との混同があり,「過払金の発生」をもって「利得」と捉えるという誤解があるように思われる。

⑹ 「過払金」は,貸金業者とその顧客との継続的な金銭消費貸借取引において,「貸金業法43条1項の要件を充足する場合には貸金業者の顧客に対する貸付債権が認められるが,同条の適用がない場合には,利息制限法所定の制限利率に基づく引き直し計算が行われ,その結果,過払金が生じた場合には,貸金業者がその返還義務を負う」という性質のものであって,「債務の残存」と「過払金の発生」とは表裏一体の関係にある。
 仮にある一定時点の貸付残高について,貸主主張の残高を前提とする場合には残債務があるが,ゼロとすれば過払いとなっているという事案において,借主側から過払金返還請求訴訟が提起され,貸主側から反訴として貸金請求訴訟が提起された場合,ある一定時点の貸付残高の主張立証責任は貸主側ないし借主側のいずれが負うべきなのであろうか。「同一訴訟において,同一の要件事実に関する主張立証責任は,同一当事者が負う」ということは,主張立証責任の分配に関する大原則である。すなわち,債務が残存しているのか過払金返還請求権が発生しているのかによって,同一の要件事実(ある一定時点の貸付残高)に関する主張立証責任の所在を別異に解することは,主張立証責任の分配に関する大原則に反する。そして,債務が残存している場合(貸金請求)において,「ある一定時点の貸付残高」についての主張立証責任を貸主が負うことは明らかであるから,過払金が発生している場合(過払金返還請求)においても,同様に解すべきである。
 以上のとおり,過払金返還請求訴訟において,ある一定時点の貸付残高についての主張立証責任を借主が負うとする見解がいかに不合理なものであるかということは一目瞭然なのである。

4 結論

 したがって,債務が残存していようが,過払金が発生していようが,ある一定時点における貸付残高についての主張立証責任を貸主が負うべきことは,論理的必然である。

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岡部 宗茂 弁護士

取扱分野
借金・債務整理 交通事故 企業法務

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