弁護士コラム

「未払賃金なし」と一筆書いたら、残業代請求はできないか。

[投稿日] 2017年11月27日 [最終更新日] 2017年11月27日
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影山 博英 影山法律事務所

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労働者が退職にあたって、使用者の求めに応じ、未払い賃金がない旨、あるいは一切の債権がない旨の書面に署名して提出しているケースがあります。そのような書面に署名する義務がないことはもちろんですが、署名に応じなければ退職金や最後の月給を支払わないなどの不利益を暗示又は明示された場合、やむなく要求に応じてしまう心理は理解できます。

このような書面に署名している場合、未払いの残業代があったとしても、その債権を放棄したものとして請求できなくなってしまうのでしょうか。
諦めるのは早計です。

最高裁は、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)の趣旨を踏まえ、労働者の賃金債権を放棄する旨の意思表示の効力を肯定するためには、それが労働者の自由な意思に基づくことが明確でなければならないとし、「自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していた」か否かを問題としています(シンガー・ソーイング・メシーン事件最判S48.1.19民集27巻1号27頁)。当該事案では、労働者に経費の使用に関して幾多の疑惑があることなどの事情から上記「合理的な理由」が肯定されています。

労働者の側に会社に対して損害賠償義務を負うような事情がない通常のケースであれば、労働者が自ら任意に賃金債権を放棄することは一般的には不合理であり、「合理的な理由」が客観的に存在するとは容易に認め難いと思われます。
したがって、賃金債権を放棄する書面に(署名せずに済めばその方が良いのはもちろんですが)署名してしまったとしても、それだけで直ちに残業代等の未払賃金の請求を断念する必要はありません。

そのような書面に署名していた場合であっても、未払賃金があるとお考えであれば、(その書面の控えも持って)弁護士に相談なさってください。

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。

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