一部執行猶予の制度について
[投稿日] 2017年09月20日 [最終更新日] 2017年09月20日平成28年6月1日から、刑の一部執行猶予の制度が始まりました(注[1])。
法律自体は制度開始3年前に成立していましたので(注[2])、いよいよの施行となりました。
1 刑の一部執行猶予制度
刑の一部執行猶予の判決は、次のようなものになります。
「被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する。」
この場合、まず、刑務所で2年6カ月間受刑し、その後釈放されて、執行猶予が取り消されることなく2年間が経過すれば、結果的に残りの6カ月間分は刑務所に行かずにすむことになります。
この制度は、受刑後に充分な保護観察等の社会的処遇を行う期間を設けることで、再犯の防止に繋げることを目的としたものです。
あくまでの実刑の変形ですので、実刑が相当と判断された場合に初めて適用が問題となるものであり、全部実刑か全部執行猶予か迷った場合に適用されるというものではありません。
なお、今回の制度では、刑法上の一部執行猶予と薬物法上の一部執行猶予の2つの制度がもうけられており、少々複雑です。
2 刑法上の一部執行猶予制度
刑法上の一部執行猶予は、(1)前科要件と、(2)再犯防止のための必要性・相当性要件を満たした上で、(3)3年以下の懲役・禁錮が宣告されるときに適用が可能です(注[3])。
(1) 前科要件
①前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
②前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
③前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
従来の全部執行猶予の前科要件との違いは、全部執行猶予中の者も対象になるという点です。
要件が緩和されているわけですが、全部執行猶予中に一部執行猶予の判決を受けた場合、全部執行猶予刑は必ず取り消されることになります(注[4])
(2) 再犯防止のための必要性・相当性要件
「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」のみ、一部執行猶予の選択が可能です。
再犯防止の必要性・相当性を巡る主張立証においては、被告人の犯罪行為の内容に対応する保護観察における処遇プログラムや、それ以外の社会的処遇プログラム(クレプトマニアについての入院・自助グループへの参加など)の存在・有用性、それらへの被告人の受講意思、住居や支援者の確保などの主張立証が想定されます。
(3) 刑期
3年以下の懲役又は禁錮を言い渡すべきときに適用がありますが、宣告刑のうちどの程度を猶予すべきかについては条文上制限はありません。
もっとも、本来が「実刑相当」の事案ですので、自ずと制限があるとの意見が多いようです。
(4)猶予期間
猶予期間は1年から5年の範囲で定められます。
ですが、国からの監督期間が長くなりすぎるのも制度として問題があると思われます。
(5)保護観察の有無
刑法上の一部執行猶予の場合、保護観察に付するかどうかは条文上は任意です。
ただし、再犯防止のための必要性・相当性要件との関連で、保護観察の付与が原則となるとの意見があります。
3 薬物法上の一部執行猶予制度
単純な薬物犯罪(覚せい剤の単純所持・使用等)では、一部執行猶予の適用範囲が拡大されます。(注[5])
なお、単純な薬物犯罪と他の罪(窃盗罪等)が併合審理される場合も適用が可能です。(注[6])
両制度の関係ですが、刑法上の一部執行猶予制度の前科要件を満たす者は刑法が優先適用され、刑法上の一部執行猶予の前科要件を満たさない場合に薬物法上の一部執行猶予が検討されるという関係になります。
(1)前科要件
ありません。理論上は何度でも適用可です。
(2)再犯防止のための必要性・相当性要件
「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内においても規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に、一部執行猶予の選択が可能です。
(3)刑期・猶予期間
刑期・猶予期間は、刑法上の一部執行猶予の場合と同じです。
(4)保護観察
刑法上の制度の場合と異なり、執行猶予期間中は必ず保護観察に付されます。
しかも、この場合、保護観察期間中は、薬物防止に関する専門的処遇プログラムの受講が義務付けられます。(注[7])そして、このプログラムでは、何と簡易薬物検査が実施されます。
これはなかなかインパクトがあります。
4 弁護人として
理論的には大丈夫のはずなのですが、一部執行猶予の制度ができたことにより、これまでであれば全部執行猶予であった事案に安易に一部執行猶予の言い渡しがされることにならないかという危惧はあります。
一部執行猶予といっても結局は実刑ですから、そうなってしまうと社会復帰は大変です。
弁護人としては、法律上全部執行猶予が可能な事案ではまず全部執行猶予を求めることになると思われます。
その上で、予備的に一部執行猶予を求めるかどうかは難しい問題です。
当事務所では、刑事弁護も取り扱っております。いずれの弁護士も無罪判決獲得の実績があります。
脚注
1. 刑法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(平成27年政令第238号)。[戻る]
2. 刑法等の一部を改正する法律(平成25年法律第49号)及び薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成25年法律第50号)が平成25年6月13日に成立。
3. 刑法27条の2
4. 刑法26条1項
5. 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律
6. 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条は、「その罪又はその罪及び他の罪について」と定めています
7. 更生保護法51条の4
木村 栄作 弁護士
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