時効の借金を「返す」と言ってしまった...覆せる?
[投稿日] 2015年07月24日 [最終更新日] 2017年02月08日
民事・その他を得意としている弁護士
最高裁昭和41年4月20日判決
時効は、期限がきたら自動的に効力を生じるもの。
何もしなくても債権・債務がなくなる。
そんな風に考えていませんか?
実は、時効は期限が来たからと言って勝手に効力を生じるものではありません。
援用権者(時効を主張する権利のある者。借金問題の場合は借主)が、「時効制度を使いたい」と主張してはじめて有効に機能するのです。
この主張を「援用」といいます。
では、援用権者が、時効を知らずに返金の意思を示した場合はどうなるのでしょう?
後で時効に気付いたときに、「時効を援用する!」と覆せるのでしょうか?
木材商のXは、弁済期を昭和24年8月29日に、利息を月5分に設定して、Yから金7万8000円を借り受け、公正証書を作成しました。
このような商事債権(商取引によって生じた債権)は、弁済期から5年で消滅時効にかかるため(商法522条)、YのXに対する債権は、昭和29年8月30日には時効を迎えていたはずでした。
ところがXは、昭和33年3月7日付の手紙でYに「借金を元本だけにまけてもらいたい、そうすれば年内に分割払いで返済できる」と申し入れたのです。
この約束が果たされなかったことを理由に、昭和34年7月、Yは公正証書に基づきXの動産について強制執行をします。
これに対しXは、5年の消滅時効などを主張し、請求異議の訴え(Xの請求は実体と異なるとして執行の排除を求める訴訟。民事執行法35条)を提起しました。
今回問題となるのはこちらの、借主Xが貸主Yを訴えた裁判です。
原審は「商人は商事債務が5年で消滅時効にかかると知っている」という前提に立ち、Xは時効の完成を知りながら時効の利益を放棄したのだと推定しました。
そして、元本と利息率年1割(旧利息制限法2条)を超えない部分に対し、Yの強制執行を認めました。
これに対しXは、商人(X)が債務を承認したというだけで「Xが時効利益を放棄した」と推定するのは、経験則に反し違法だと主張して上告しました。
最高裁は上告を棄却し、Xによる時効の援用を認めませんでした。
その根拠は以下の通りです。
- 「商人は時効完成時期を知っているもの」といえるか
まず、一般的に債務者が時効完成後に債務を承認した場合、その債務者は時効完成の事実を知らないのが普通だと認定。
これは商人でも同じであって、「商人だから時効完成を承知したうえで利益を放棄した」と当然に推定するのは不適切と判断しました。 - 時効完成の事実を知らずに債務を承認した場合、債務者Xは時効を援用できるのか
これについては「許されない」との考えを示しました。
時効完成後に債務を承認する行為は、時効による債務消滅の主張と相容れないものですから、相手方Yも「Xはもう事項の援用をしないのだな」と捉えると思われます。
したがって、こうした相手方の信頼を不当に裏切らないためにも、承認後は債務者に時効の援用を認めることはできないと結論付けたのです(信義則、民法1条2項)。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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