選挙

選挙
選挙は、現代の民主主義を根幹で支える、最も重要な制度です。この項では、日本の選挙制度についてその概要を解説します。
選挙とは、端的に定義するなら、首長や議員、団体の代表者や役員を選び出すことをいいます。以下に、選挙制度の重要な原理を掲げましょう。
現代の日本では、普通選挙が実施されています。普通選挙とは、狭義には財力(納税額の多寡や財産の有無)を選挙人の要件としない選挙制をいい、広義には財力・人種・信条・性別などを選挙人の要件とせず、一定年齢に達したすべての国民に選挙権を与える選挙制度を指すといわれます。普通選挙は、憲法15条3項及び44条但書で保障されています。
普通選挙の実現は漸進的で、1928年に財産制限が撤廃され、女性参政権が第二次世界大戦後に実現しました。
選挙人の選挙権を平等に扱う選挙制度の重要な原則で、一人一票(数的平等)で一票の価値が平等(価値的平等)なものです。憲法14条1項及び44条但書で保障されています。
これに対し不平等選挙とは、数的あるいは価値的に格差のある選挙のことをいいます。
直接選挙とは、選挙人が代表者を直接選ぶ選挙制度をいい、間接選挙とは、選挙人が選挙人(中間選挙人)を選びその中間選挙人が投票を行う選挙制度です。フランスやオーストリアなどの上院選挙やアメリカ大統領選挙で採用されています。日本では採用されていません。
日本国憲法には直接選挙制について定めた明文の規定はありませんが、学説としては憲法43条の「選挙」には間接選挙が含まれると解する学説(参議院議員通常選挙においては衆議院議員総選挙とは異なり独自の間接選挙制の採用も許容される)と同条1項の「選挙された議員」の文言を根拠として直接選挙が保障されているとみる説(参議院議員通常選挙においても直接選挙によらねばならない)の両方が存在します。しかし実際には国内に間接選挙のシステムが採用されているものはありません。
秘密選挙・公開選挙秘密選挙とは、選挙人の投票内容の秘密が保障されている選挙制度で、日本では憲法15条4項前段で保障されており、また公職選挙法46条(無記名投票制)や52条(投票の秘密保持)、68条(他事項記載投票の無効)などもこの原則に基づいて規定されています。
公開選挙とは署名などで投票内容が分かるもののことをいいます。公開選挙では、誰が誰に投票したかわかってしまうため、特に社会的弱者が自由に意思表明することが困難となるおそれがあります。日本では採用されていません。
強制選挙とは、棄権に対して制裁を伴う選挙制度。有権者が必ず投票しなければならない義務投票によるものをいい、自由選挙とは、投票したい者だけが自由に投票することを選択できる選挙制度をいいます。日本で採用されているのは、もちろん後者です。
国政選挙の方法 衆議院選挙日本の国政において、議会は衆議院と参議院の2つがあり、それぞれルールにのっとって選挙が実施されています。
通常の衆議院の選挙(補欠選挙などを含まないもの)は、「総選挙」とも呼ばれますが、これは法律上の名称ではありません。
- 総選挙の機会
任期満了(4年)によるものと解散によるものとがあります。いずれも全議員がリセットされます。 - 年齢 選挙権と被選挙権
選挙権の年齢は18歳以上で、被選挙権は25歳以上とされています。 - 選挙区
小選挙区と比例代表の並立制が採用されています。小選挙区では、当選者はいずれも1名です。前者の定員は295、後者は180であり、このことから、党派の比率形成が、かつての中選挙区制度よりも選挙ごとに激しく変化するようになったとする説もあります。 - 最高裁判所裁判官国民審査
- 総選挙に併せて、最高裁判所の裁判官について、国民審査が行われます。
もうひとつの国会=参議院の選挙は、いくつかの点で衆議院とは異なる特色を有しています。
- 通常選挙の機会
参議院議員の任期は6年と定められており、従来より定員の半分ずつが改選される方式を採用しています。衆議院と違って解散されることがないため、参議院選挙は必ず3年に一度実施されることになります。 - 年齢 選挙権と被選挙権
選挙権の年齢は18歳以上で、被選挙権は30歳以上とされています。 - 選挙区
都道府県を単位とした選挙区制(大選挙区制)と全国単位の比例代表制の並立制が採用されています。大選挙区制では、1つの選挙区から1名~6名の当選者が選出されます。前者の定員は146、後者は96です。2016年の参議院選挙から、いわゆる「一票の格差」を是正するため、人口の少ない鳥取県と島根県、徳島県と高知県は、それぞれ2県で1つの選挙区とする合同選挙区の制度がスタートしました。
なぜ、選挙権年齢(18歳)と被選挙権年齢(衆議院は25歳、参議院は30歳)が違うのでしょうか。さらに、なぜ参議院では衆議院の25歳より5歳も下限を上げているのでしょうか。国政の選挙を所管する総務省のWebサイトを見ても、この疑問に直接答えるコンテンツは見当たりません。
まず、そもそも選挙権年齢と被選挙権年齢とをなぜ違わせたのか、確認してみましょう。このことについては、被選挙権を選挙権によって認められた選挙に参加する権利の一環である「立候補の自由」、とみなす見解がある一方で、選挙を通じて当該公職にふさわしい人物を選び出すのが選挙の目的であるとして、被選挙権を権利そのものではなくて権利能力とする見方を採用して、選挙で選ばれた場合に公職に就くことを許される資格と捉える見解があります。
後者の説に立てば、選挙権と異なる要件を付される場合を肯定することとなり、その場合には選挙権よりも要件が狭くとらえられることとなるため、両者の年齢に格差を設けていることを後押ししていると思われます。
実際に各国で採用されている年齢の比較を見てみましょう。1つ目が選挙年齢、2つ目が下院(衆議院)の被選挙権年齢、3つ目が上院(参議院)の被選挙権年齢です。
- 日本 :18,25,30
- フランス:18,18,24
- イギリス:18,18,21 (オーストリアも同様)
- アメリカ:18,25,30
- ドイツ :18,18,18 (スウェーデン、スペインも同様)
- イタリア:18、25,40
- 韓国 :19,25,25
これはあくまでサンプルに過ぎませんが、選挙権年齢と下院(参議院)の被選挙権年齢とを同じ年齢にしつつ、上院でのみ年齢を違わせているのが多数派のようです。ドイツ、スウェーデン、スペインではすべてが18歳でした。
どれが正しいというのはないとしても、選挙権年齢と被選挙権年齢とに格差を設けている国と同じくしている国とでは、よってたつ考え方が異なるといえそうです。もっとも、日本においても、両者の年齢について何歳分か程度格差を付けることに、いったいどれほどの意味があるのか、と疑問を持つ意見があるのも事実です。
両院の年齢差の根拠は?では被選挙権年齢のうち、下院(衆議院)と上院(参議院)とで異なる年齢を設けている意図は何でしょうか。日本では古くから「参議院は良識の府である」とする考えが支持を得てきました。良識を持つことと年齢を重ねることとの関連性を肯定してきたといえます(ただし参議院が新設された当時の議論では「良識の府」などという議論は全くなく、誰がこのようなことを言い出したかは不明であり、由来は不明だとされます。)。
海外では両院の違いがどう認識されているのでしょうか。一般に下院の議員には「国民の代表」という性格があり、その選出は人口に比例して行われるのに対し、上院の議員には「地域の代表」、「州の代表」、「連邦の各構成単位の代表」、また貴族制度のある国では「階級の代表」などといった性格があり、この違いが年齢の差を設けることに結び付いている可能性があります。
現代社会で、両院の役割の違いが、実態としては必ずしも明確でなくなってきた全体状況の中で、結論を急がずに闊達な議論が交わされるのが期待されます。
選挙を得意としている弁護士
戎 卓一 弁護士 兵庫県
戎みなとまち法律事務所新阜 直茂 弁護士 東京都
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