壊れた携帯の弁償として新品を貰った場合、壊れた方は渡す必要がある?

Legalus編集部さん 2015年07月04日

 酔っ払った同僚に絡まれ、倒れた拍子に私の携帯電話が破損してしまいました。後日、壊れた携帯電話の弁償として新しい携帯電話をもらったのですが、その同僚は「壊れた携帯電話を渡せ」と言います。「データを削除できないから渡せない」と断っているのですが、相手は聞く耳を持ちません。私は壊れた携帯を渡さなければならないのでしょうか?なお、絡まれたときに胸を強打して病院にかかったのですが、その治療費については同僚に請求していません。

(30代:男性)

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Legalus編集部

     あなたは、同僚に絡まれたことにより、携帯電話を壊され、胸に傷害を受けています。そこで、あなたは、同僚に対し、携帯電話の価値および治療費に相当する額についての不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したことになります(民法709条)。あなたが新しい携帯電話を同僚からもらったのは、このうち、携帯電話の価値に相当する額の損害の賠償を受けたものであると考えられます。しかし、あなたは新しい携帯電話をもらっているため、壊れた携帯電話の価値〔修理できない場合であっても、携帯電話の部品自体が取引対象とされている市場もあります〕の分だけ、あなたには受けた損害以上の利益が残っていることになります。このような場合、法はどのような取扱いをすることにしているのでしょうか?

     民法には、「債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する」という規定があります(同法422条)。この規定に従えば、あなた〔債権者〕は債権の目的物〔壊れた携帯電話〕の価格の全部の支払を受けたのですから、債務者〔同僚〕はその物〔壊れた携帯電話〕について当然にあなたに代位する〔あなたの所有権を当然に取得する〕ことになります。民法典中の『債務不履行の責任等』という項目にあるこの規定が『不法行為』にも適用されるのかが問題となりますが、価値の残存する物がなお権利者に帰属することを許すとすれば債権者は不当な利得を得ることとなり、実際に生じた損害を賠償させようとする損害賠償制度の目的に反することになります。そこで、民法は債務不履行にだけこのような規定を設けましたが、一般に、不法行為についてもこの規定は準用されるべきものと考えられています。したがって、本件の場合、壊れた携帯電話の所有権はすでに同僚に帰属してしまっているものと考えられます。
     もっとも、携帯電話には、あなた自身の個人情報だけではなく、あなたの知人の個人情報も収められています。そのため、それらのデータが残った状態で同僚に引渡せば、同僚による不正使用の危険のみならず、杜撰な管理をされることによって思わぬ被害を受けることも考えられます。ところが、近年の個人情報保護法制の整備にも関わらず(個人情報保護法の立法〔平成17年4月1日施行〕や遺失物法の改正〔平成19年12月10日施行〕など)、本件のような場合に携帯電話の引渡しを拒めるような規定は見当たりません。では、あなたが壊れた携帯電話の引渡しを拒む手段はないのでしょうか?
     あなたは治療費相当額の損害賠償請求権も有していますので、あなたに治療費を請求する意思がないのであれば、これと壊れた携帯電話の引渡債務をお互いに放棄し合う形での和解契約民法695条)を締結することが考えられます。同僚がこの申出に応じてくれない場合、専門業者にデータを削除してもらい、その上で携帯電話を引渡すという手段を採ることも考えられます。

2015年07月04日

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