皇室

皇室(天皇制)
皇室は、天皇および皇族の総称です。天皇を中心にその配偶者である皇后、先代の天皇の未亡人である皇太后、先々代の天皇の未亡人である太皇太后、また皇太子をはじめとした男性皇族である親王、王、さらには生まれながらの女性皇族である内親王、女王があります。親王妃と王妃は親王、王の配偶者となることにより皇族になります。
ここでは、天皇と皇室の位置付けや役割などについて解説していきます。
天皇の存在の意義は、憲法1条に定められています。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」(仮名遣いママ)
この「象徴」という言葉は、ふつうに考えて大変理解しづらい語です。いったいどういう意味付けがされて使われたのか、たくさんの説がありますが、単純な事実関係としていうならば、白州次郎らの回顧によればGHQの憲法草案で「symbol」という語が用いられていたことから、直訳された結果のことであった、とのことです。
あまりにもあっけらかんとした事実ですが、帝国憲法で統帥権までをも有していた絶対的な位置づけとは全く違う存在であることを強調する、平たく言えば戦前の権限を一度ご破算にし、事実上政治的な権力を持たない存在にしてしまう意図がアメリカ側にあったことは間違いないでしょう(これについては、近世、近代、帝国憲法下を通して実権を持って自ら政治を統帥していたことは、そもそもなかったのだとする見方もあります。)。
いずれにしろ、天皇及び皇室は、政治的な実権を持たない存在として憲法において位置づけられ(4条)、今に至っているといえます。
国事行為天皇及び皇室は、国事行為を行うものとして規定されています(憲法7条等)。国事行為は具体的には以下の行為を指します。
- 内閣総理大臣を任命すること(6条1項)
- 最高裁判所長官を任命すること(6条2項)
- 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること(7条1号)
- 国会を召集すること(7条2号)
- 衆議院の解散(7条3号)
- 国会議員の総選挙の施行を公示すること(7条4号)
- 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること(7条5号)
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権(恩赦)を認証すること(7条6号)
- 栄典を授与すること(7条7号)
- 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること(7条8号)
- 外国の大使及び公使を接受すること(7条9号)
- 儀式を行うこと(7条10号)
- 国事行為の委任(4条2項)
これらの国事行為を指して、決して政治的実権をはく奪などされていないと唱える説もありますが、いずれも形式的な、または儀式的な行事行為にすぎず、政治的権限が与えられているわけではない、という説が有力です。
内閣の助言と承認の性質国事行為は内閣の助言と承認に基づかなければならず、内閣が国事行為の責任を負います(3条)。国事行為について天皇が国政に関する権能を有しないとすると、「内閣の助言と承認」は国事行為との関係でどんな意味を持つのか、具体的には、「内閣の助言と承認」に従うというのは国事行為の実質的決定権の所在が内閣にある(場合も含む)と理解するのか、「内閣の助言と承認」自体も形式的なものなのかが、問題となります。
このような問題が生じるのは、国事行為の中にはその実質的決定権の所在について憲法上明文がないもの(国会の召集、衆議院の解散など)があったり、内閣以外に実質的決定権があったりする(内閣総理大臣の指名、国務大臣の任免)にも関わらず、条文上は内閣の助言と承認に従うことになっているためといわれます。
本来的形式説天皇の国事行為は本来的に形式的・儀礼的・名目的なもので、内閣の助言と承認についても実質的決定権を含むものではない。内閣総理大臣の任命の実質的決定権については国会にあり(憲法67条)、このことからみても、そもそも内閣の助言と承認には実質的決定権を含むものではない(実質的決定権の所在とは切り離されているものである)とする説。この説の弱点は、国会の召集や衆議院の解散など実質的決定権の所在について憲法上明文がないものについて、実質的決定権がどこにあるのかを説明できなければならないことです。
結果的形式説天皇の国事行為は本来的には必ずしも形式的・儀礼的・名目的なものではないが、内閣の助言と承認には実質的決定権が含まれており、内閣の助言と承認に基づいて行われることから、結果的に天皇の国事行為は形式的・儀礼的なものとなるのだ、とする説です。国事行為が本来的に形式的・名目的な行為であるなら、これに対して内閣の助言や承認を必要とすることは無意味であり、また、本来的形式説のように考えるのであれば4条と3条の規定は順序が逆になるはず(国事行為の性質が決まった上で内閣の助言と承認を要するという順序になっているはず)であるというのが根拠です。
世論調査このような象徴としての天皇と皇室の存在にについて国民の意識はどう変わって来たのでしょうか。あるいは変わっていないのでしょうか。
日本国憲法公布・施行前の1946年5月27日の毎日新聞朝刊に結果が載った世論調査では、象徴天皇制への支持が85%だったといわれます。その後、メディア各社が行った世論調査の推移を見ると、1990年では「今の象徴天皇のままでよい」を回答に選んだ人の割合は73%だったとされ、2000年には象徴天皇を支持したのが8割、2002年には「(天皇は)今と同じ象徴でよい」を回答に選んだ人が86%だったとされます。さらにNHKが2009年10月30日から11月1日に行った世論調査では、「天皇は現在と同じく象徴でよい」が82%、「天皇制は廃止する」が8%、「天皇に政治的権限を与える」が6%となっています。数字の上では、結論は「変わっていない」というのが正しい理解と思われます。
生前退位2016年8月8日、天皇は、ビデオメッセージを公表し「象徴としてのお務めについて」と題して、生前退位についてお言葉を述べられ、「既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。」と率直に懸念を表明されました。
安倍総理はこれを受け、「重く受け止める」とコメントし、政府は、経団連の今井敬名誉会長を長とする「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を発足させ、会議では象徴としての天皇のあり方や、生前退位の制度を創設する具体的な方法が議論されはじめました。会議は6人のメンバーに加えて、毎回、憲法や皇室の専門家を招いて意見を聴取していく見通しです。政府は有識者会議の議論を踏まえ、生前退位に関する方針を決定して、関連法案を2017年の通常国会に提出して成立させ、生前退位を2018年にも実現したいとの意志を示しています。
この問題は、あくまで象徴天皇制の枠の中の天皇及び皇室の役割と「定年」の問題に過ぎないともとらえられますが、一方、憲法と絡んだ重大事と理解する立場もあり、予断を許しません。
皇室を得意としている弁護士
戎 卓一 弁護士 兵庫県
戎みなとまち法律事務所トップへ
天皇陛下が首相の任命を拒否した場合の違憲争いについて