【民法改正】債権者・主債務者の保証人に対する情報提供義務とは?
[投稿日] 2020年10月30日 [最終更新日] 2020年10月30日
法令を得意としている弁護士
2020年4月1日に施行された新民法により、保証人を過大な負担から保護するためのさまざまなルールが追加されました。
債権者・主債務者の保証人に対する情報提供義務も、追加されたルールの一つです。
保証人が不意打ち的に過大な負担を被らないように、保証契約締結時・締結後の一定の場合において、債権者・主債務者には保証人に対する情報提供義務が設けられました。
従来の取扱いとは大きく異なる部分がありますので、企業担当者の方は、現在使用している保証契約などのひな形を見直しておきましょう。
この記事では、民法改正によって新設された、保証人に対する情報提供義務の内容について詳しく解説します。
1. 保証契約締結時における主債務者の情報提供義務について個人を保証人とする事業用債務の保証契約を締結する場合には、主債務者は保証人に対して、一定の事項に関する情報提供をしなければならないとされています。
1-1. 情報提供の目的|保証人にリスクを十分理解させること保証契約では、保証人が主債務者の財産状況がどの程度悪化しているかなど、保証に関するリスクを十分に把握していないケースが非常に多くなっています。
特に事業用債務の補償については、保証額が高額になるケースもあります。
そのため保証契約締結時に、保証人に対して十分な説明を行い、保証人になるかどうかの判断材料をきちんと提供することが大切です。
このような理由から、事業用債務の保証契約締結時において、主債務者から保証人に対して情報提供を行わせ、保証人にリスクを周知することが義務付けられました。
1-2. 提供すべき情報の内容は?主債務者が保証人に対して提供すべき情報は、以下のとおりです(民法465条の10第1項)。
(1)財産および収支の状況
(2)主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況
(3)主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨およびその内容
上記の情報からは、主債務者について、
・余裕資金はあるのか
・今後のキャッシュフローは安定しているか
・多重債務状態に陥っていないか
・債務支払いのために処分できる財産はあるか
などの情報が得られますので、どのくらいの確率で保証債務を支払わなければならないかをある程度見積もることができます。
保証人としては、主債務者から提供を受けた情報を基に、本当に保証人になってもよいのかどうかを冷静な視点から判断することが期待されます。
1-3. 情報提供義務違反の効果|保証契約の取り消し主債務者が情報提供義務に違反した場合、保証人は、保証契約を取り消すことができます。
ただし、保証人による取消しが認められるのは、情報提供義務違反について「債権者が知りまたは知ることができたとき」に限られます(民法465条の10第2項)。
これは、債権者と保証人の保護のバランスを取ることを目的としており、債権者が情報提供義務に関して何ら責任がない場合には、債権者の犠牲の下で保証人を保護することは適当でないとしたものです。
債務者が情報提供義務に違反し、保証契約が取り消されてしまったら、一番困るのは債権者です。
前述のとおり、債権者が情報提供義務違反について善意無過失であれば、保証人からの取り消しは認められません。しかし、無過失の証明は非常に難しいため、保証契約の中で事前に対策を打っておくべきでしょう。
債権者が取り得る対策としては、以下の2つが考えられます。
1つ目は、主債務者から、保証人に対する情報提供を行ったことについての表明保証を取得する方法です。
主債務者から表明保証を取得しておけば、万が一保証人が情報提供義務違反を理由として保証契約を取り消した場合、債権者は主債務者に対して、表明保証違反による損害賠償を請求できます。
2つ目は、保証人から、主債務者より情報提供を受けたことについての表明保証を取得する方法です。
こちらの方がより確実で、後で保証人が情報提供義務違反を理由とする取り消しを主張しても、禁反言による信義則違反であると反論することが可能になります。
実務上は、上記の2つの対策を併用して、保証契約の条文に盛り込んでおくとよいでしょう。
2. 保証契約締結後における債権者の情報提供義務について保証契約の締結後は、債権者が保証人に対して情報提供をしなければならない場面があります。
2-1. 債権者が保証人に情報提供すべき場面は2つ債権者が保証人に情報提供すべき場面には、以下の2パターンがあります。
2-1-1. 委託を受けた保証人から請求があった場合
委託を受けた保証人から債権者が請求を受けた場合、以下の情報を保証人に対して提供しなければなりません(民法458条の2)。
・債務不履行の有無
・債務の残額
・残額のうち弁済期が到来しているものの額
なお、委託を受けていない保証人に対しては、債権者には上記の情報提供義務はありません。
2-1-2. 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者は保証人に対して、期限の利益の喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知することが必要です(民法458条の3第1項)。
なお、保証人が法人の場合については、債権者は上記の情報提供義務を負いません(同条3項)。
主債務者の期限の利益喪失について、上記の情報提供義務を怠った場合、債権者は保証人に対して、上記の通知を行うまでの期間に係る遅延損害金を請求することができないというペナルティを負います(同条2項)。
2-2. 実務上の対応|債権者・主債務者間で守秘義務の免除を合意債権者と主債務者の間で守秘義務契約書(NDA)を締結している場合には、債権者の保証人に対する情報提供について、債権者が負っている守秘義務に抵触しないようにしておく必要があります。
通常の守秘義務契約書では、法令に基づいて要求される情報開示については、守秘義務の例外として、相手方の許可なく行うことができる旨が定められているでしょう。
この場合は、債権者の保証人に対する情報提供についても、主債務者の許可なく行うことができるので問題ありません。
しかし、世間に出回っている守秘義務契約書の中には、こうした例外規定が全く設けられていないものもしばしば見受けられます。当事者間の暗黙の了解で、保証人に対する情報提供はOKと整理する方法もないわけではありませんが、契約上もきちんと整理しておく方が本来は望ましいです。
この機会に、法令に基づく開示など、守秘義務の例外として情報提供を行うことが想定される場合について、守秘義務契約書の中に書き込んでおくと良いでしょう。
3. まとめ民法改正によって新たに設けられた保証人に対する情報提供義務に関しては、債権者の側が注意しなければならない点が数多く存在します。
保証契約を債権者の立場で取り扱っている企業の方は、この機会に保証に関する条項が入っている契約書を見直して、保証人に対する情報提供義務への対策を盛り込んでおきましょう。
民法改正に合わせた契約書のアップデートは、弁護士に依頼して行うのが安心です。
弁護士は、最新の法令の内容を踏まえつつ、依頼者のビジネスに即した形で契約書を整えてくれます。
民法改正に合わせた保証規定などの見直しを検討している企業の方は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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