生活保護

生活保護
生活保護とは、生活保護法によって規定されている、生活費を給付する公的扶助制度です。
生活保護制度の目的憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」として、最低限度の生活を送るのは基本的人権のひとつであるとしています。
生活保護法はこれをふまえ、1条で「この法律は、日本国憲法第25条 に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定して、その理念と目的を明確にうたっています。
このように、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度です。
この制度の特徴
生活保護法には、制度を特徴づける重要な原則や原理が規定されています。
(1) 無差別平等の原則(2条)
困窮の要件を満たす限り、すべての国民に無差別平等に適用されること。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴や職歴等が問われることはありません。この原則は、法の下の平等(憲法14条)によるものだといわれます。
(2) 補足性の原則(4条)
補足性の原則とは、この制度が、あらゆる手段を使っても最低限度の生活が困難な時にそれを補足するために利用される制度であることをうたっている原則です。
1)生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用してもなお、最低生活の維持が不可能なときに、はじめて利用されるものです(たとえば、売却処分していない不動産がありながら受給申請しても受給されません)。
また、民法に定められた扶養義務者の扶養及びその他の扶養は、生活保護に優先して実施されます。
2)保護の実施中は、最低限度の生活を超える部分での自動車の保有・運転に関する制限などをされることがあり、指示に従わない場合は保護の変更、停止もしくは廃止されてしまうことがあります。
(3) 申請保護の原則(7条)
生活保護は原則として要保護者の申請によって開始されます。保護請求権は、要保護者本人、扶養義務者や同居の親族でも可能です。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な場合は、「職権保護」といって行政機関が自ら保護を決定することがあります。
(4) 世帯単位の原則(10条)
生活保護は、あくまで世帯を単位として能力の活用等を求めて補足性の要否を判定し程度を決定する(ミーンズテスト)を経て実施されます。
生活保護は次の8種類からなります。これらは、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人又は世帯の生活状況の相違を考慮して、1つか2つ以上の組み合わせで実施されます。
(1) 医療扶助 (公費負担医療)
被保護者が、けがや病気で医療を必要とするときに行われる扶助。国民健康保険や後期高齢者医療制度からは脱退することとなり、薬などは原則として現物支給により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされています(34条)。
(2) 生活扶助
衣食その他日常生活の需要を満たすための扶助で、飲食物費、光熱水費、移送費などが支給されます。基準生活費(第1類・第2類)と各種加算とに分けられ、第1類は個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第2類は世帯として消費する光熱費等とされていて、各種加算は障害者加算(重度障害者加算、重度障害者家族介護料、在宅重度障害者介護料)や母子加算、妊産婦加算、介護施設入所者加算、在宅患者加算、放射線障害者加算、児童養育加算、介護保険料加算があります。
(3) 教育扶助
被保護家庭の児童が、義務教育を受けるのに必要な扶助であり、教育費の需要の実態に応じ、原則として金銭をもって支給されます。
(4)住宅扶助
被保護者が、家賃、間代、地代等を支払う必要があるとき、及び家屋の補修、その他住宅を維持する必要があるときに行われる扶助です。原則として金銭をもって実費が支給されます(上限あり)。
(5) 介護扶助
要介護又は要支援と認定された被保護者に対して介護保険とほぼ同等の給付が保障されます。生活保護法指定介護機関において現物支給するのが原則です(34条の2)。介護保険の加入者である場合はそちらが優先して適用され、介護保険の1割自己負担分が介護扶助から支出されます。
(6) 出産扶助
被保護者が出産をするときに行われる給付で、原則として、金銭により給付されます。ただ、生活保護では他の法律による支給が優先するため、児童福祉法の入院助産制度を優先適用し、生活保護の出産扶助は自宅出産など指定助産施設以外での分娩の場合などしか適用されません。
(7) 生業扶助
生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための費用、就労のための支度費用(運転免許証)等が必要な時に行われる扶助で、原則として金銭で給付されます。高等学校就学費は、この扶助により支給されます。
(8) 葬祭扶助
被保護者が葬儀を行う必要があるときに行われる給付で、原則として、金銭により給付されます。
被保護者は、生活保護の実施につき、以下の権利があります。
- 不利益変更の禁止: 正当な理由がない限り、既に決定された保護を不利益に変更されることはありません(56条)。
- 公課禁止: 受給された保護金品を基準に、租税やその他の公課を課せられることはありません(57条)。
- 差押禁止: 被保護者は、既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがありません(58条)。
その一方、以下の義務が課せられます。
- 譲渡禁止: 保護を受ける権利は、他人に譲り渡すことができません(59条。受給された金品で取引をしてはならないという意味ではありません。念のため。)。
- 生活上の義務:能力に応じて働き、あるいは支出の節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければならないとされています(60条)。
- 届出の義務:収入や支出など、生計の状況に変動があったときや、居住地又は世帯構成に変更があったときは、すみやかに実施機関等へ届け出る必要があります(61条)。
- 指示等に従う義務:保護の実施機関が、被保護者に対して生活の維持・向上その他保護の目的達成に必要な指導や指示を行った場合(27条)や、資産状況や健康状態等の調査目的で、保護の実施機関が居住場所に立ち入り調査した場合(28条)、医師検診受診義務や歯科医師検診受診義務の命令があった場合(28条)、適切な理由により救護施設等への入所を促した場合(30条1項但書)は、従わなければならないとされています(62条)。
- 費用返還義務:緊急性を要するなど、本来生活費に使える資力があったにも関わらず保護を受けた場合、その金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければならないとされています(63条。支給されるまでに時間がかかる年金など)。
- ケースワーカーが必要と認めた場合は受給者に対して家計簿と領収書(レシート)の提出を求められます(2014年より施行)。
厚労省によれば、生活保護の受給者数は、第二次世界大戦後の混乱の中、1951年には月平均で204万6646人が受給し、その後長い間減少が続きましたが、1995年の88万2229人を底に増加に転じ、2011年3月には200万人を突破し、ついに2012年7月には212万4669人と過去最多の受給者数を記録しているといわれます。「貧困家庭が増加している」といわれる根拠の一つがここに表れているといえます。
手続面の実態にも問題が生活保護法は保護を請求する権利(保護請求権)として無差別平等主義を保障しており、保護の申請は権利として保障されています。つまり、保護申請があれば福祉事務所は無条件に受理してすみやかに保護の要否についての審査を開始するというのが生活保護法の根本原則なのです。
そして、生活保護の申請は要式行為ではなく、保護申請に「形式上の要件」はありませんから、申請の意思表示が行われれば、たとえば口頭によるものであっても、それだけで申請行為は成立するのです。にもかかわらず、いったん申請されてしまうと多くの場合、保護を開始しなければならないことから、違法に申請を拒否している例があるとする調査結果があります。日本弁護士連合会によれば、福祉事務所に行ったことがあると答えた180件のうち118件で福祉事務所の対応に違法性が見られたとして、担当職員の「門前払い」の問題が指摘されました。対応する側にも、意識の変革が求められるところです。
生活保護を得意としている弁護士
戎 卓一 弁護士 兵庫県
戎みなとまち法律事務所氏家 悠 弁護士 神奈川県
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