弁護士コラム

自賠責保険における高次脳機能障害認定システムとはどのようなものか。

[投稿日] 2018年07月03日 [最終更新日] 2018年07月03日
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岡田 正樹 弁護士 むさしの森法律事務所

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国土交通省は,2000(平成12)年に続いて,2003(平成15)年の労災保険における高次脳機能障害認定システムの改正を受けて,自賠責保険におけるシステムの見直しを2006(平成18)年以降に着手し,それが2007(平成19)年2月2日付で検討委員会より「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書,これを平成19年報告書と言います。)として公表されました。
自賠責保険の現段階における高次脳機能障害に対する見解及び特に認定基準について知る重要な資料と言えます。
その後,いわゆるMTBI(軽度外傷性脳損傷)をめぐる問題点を整理することを一つの目的として平成23年(2010年)報告書も出されておりますが,基本的な認定視点は大きくは変更されていないと考えられておらず,重要性に変わりありません。


1 脳外傷による高次脳機能障害の「定義」
①典型的な症状
多彩な認知障害,行動障害および人格変化

②発症の原因および症状の併発
認知障害,行動障害および人格変化は,主として脳外傷によるびまん性脳損傷を原因として発症するが,局在性脳損傷(脳挫傷,頭蓋内血腫)とのかかわりも否定できない。
実際のケースでは,両者が併存することがしばしば見られる。

③時間的経過脳外傷による高次脳機能障害は,急性期には重篤な症状が発現していても,時間の経過とともに軽減傾向を示す場合がほとんどである。これは,外傷後の意識障害の回復とも似ている。したがって,後遺症の判定は,急性期の神経学的検査結果に基づくべきではない。

④社会生活適応能力の低下
多彩な認知障害,行動障害および人格変化の症状が後遺した場合,社会生活への適応能力が様々に低下することが問題である。これを社会的行動障害と呼ぶことがある。

⑤見過ごされやすい障害
外傷による高次脳機能障害は,種々の理由で見落とされやすい。

認知障害とは,記憶・記銘力障害,注意・集中力障害,遂行機能障害などで,具体的には,新しいことを覚えられない,気が散りやすい,行動を計画して実行することができないなどである。

行動障害とは,周囲の状況に合わせた適切な行動ができない,複数のことが同時に処理できない,職場や社会のマナーやルールを守れない,話が回りくどく要点を相手に伝えることができない,行動を抑制できない,危険を予測・察知して回避行動をすることができない,などである。

人格変化とは,受傷前には見られなかったような,自発性低下,衝動性,易怒性,幼稚性,自己中心性,病的嫉妬・ねたみ,強いこだわりなどの出現である。


2 交通事故による高次脳機能障害とするための要件
前提として「脳外傷における高次脳機能障害の症状を医科学的に判断するためには,意識障害の有無とその程度・長さの把握と,画像資料上で外傷後ほぼ3ヶ月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の所見が重要なポイントとなる。また,その障害の実相を把握するためには,診察医所見は無論,家族・介護者等から得られる被害者の日常生活の情報が有効である。」としています。

その上で,症状の判断について次のような点を挙げています。 

①意識障害の有無とその程度
脳外傷による高次脳機能障害は,意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴である。
一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合,外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに対し,二次性脳損傷では,頭蓋内血腫や脳腫脹が増悪して途中から意識障害が深まるという特徴がある。
また,脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは,永続的な高次脳機能障害が残ることが多い。

②画像所見
びまん性軸索損傷の場合,受傷直後の画像では正常に見えることがあるが,脳内に点状出血を生じていることが多く,その後,脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮が目立ってくる。
およそ3ヶ月程度で外傷後脳室拡大は固定し,以後はあまり変化しない。

③因果関係の判定(他の疾患との識別)
頭部外傷を契機として具体的な症状が出現し,次第に軽減しながらその症状が残存したケースでびまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には,脳外傷による高次脳機能障害と事故との因果関係が認められる。

一方,頭部への打撲などがあっても,それが脳への損傷を示唆するものではなく,その後通常の生活に戻り,外傷から数ヶ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し,次第に増悪するなどしたケースにおいては,外傷とは無関係に内因性の疾病が発症した可能性が高いものと言える。
画像検査を行って,外傷後の慢性硬膜下血腫の生成や脳室拡大の伸展などの器質的病変が認められなければ,この可能性はさらに支持されるものと考えられる。この可能性の中には非器質性精神障害も含まれる。

【高次脳機能障害認定基準の要約】
この平成19年報告書の脳外傷における高次脳機能障害認定基準は,以下のとおりに要約されます。
(1)意識障害を必要としている。特に「脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは,永続的な高次脳機能障害が残ることが多い。」とすることで,実際には,脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続する必要性がある。

(2)びまん性軸索損傷の場合には受傷後およそ3ヶ月程度で外傷後脳室拡大は固定するので,その時期には脳萎縮が判明する画像所見が得やすい。

(3)外傷から数ヶ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し,次第に増悪するなどしたケースについては,脳外傷によるものではなく,非器質性精神障害を含む内因性のものと考える。
(注:数ヶ月以上とは「3ヶ月程度で外傷後脳室拡大は固定する」としているので,その後の4ヶ月程度以降のものを意味していると考えられます。)

3 軽度外傷性脳損傷(MTBI,Mild Traumatic Brain Injury,なお,同報告書では脳震盪症候群との訳語を当てています。)についての考え方

1) MTBIについては,現在の画像検査において外傷所見が見出せず,また意識障害の存在も確認できない場合であっても,脳外傷による高次脳機能障害と認定すべきだという問題提起がなされている。

2) しかし,当委員会の判断としては,一般的に実施されているCT,MRI等の検査において外傷の存在を裏付ける異常所見がなく,相当程度の意識障害の存在も確認できない事例について,脳外傷による高次脳機能障害の存在を確認できる信頼性のある手法があると結論するには至らなかった。

3) しかしながら,上記結論は,あくまでも現在の医療水準の到達点を前提とするものであって,現在の画像診断技術で異常が発見できない場合には,外傷性による脳損傷は存在しないものと断定するものではない。

4) この点については,今後の画像診断技術などの向上を待つこととし,その進捗に応じて,従来の画像診断に拘泥することなく,適切に対応すべきであると考える。

5) なお,今回の有識者からの意見聴取において,被害者の精神症状のみから,その原因が器質因か非器質因かを鑑別することができるとの見解も示されたが,そのような考え方は,現在の医科学的な知見に照らして採用困難と考える。

6) 従って,労災補償における障害認定基準にあるとおり「高次脳機能障害は,脳の器質的病変に基づくものであることから,CT,MRI等によりその存在が認められることが必要」とする考え方を維持すべきである。
しかし,一方,医学の進歩の動向に十分な注意を払うことも不可欠であり,将来に向け定期的な検討を維持すべきである。


4 高次脳機能障害について症状固定時期など乳幼児・高齢者についてはどう考えていますか。
(1) 一般的な成人被害者
急性期の症状の回復が急速に進み,それ以降は目立った回復が見られなくなるという時間的経過を辿ることが多い。
従って受傷後少なくとも1年程度を等級認定時期の目安としている。
従って,後遺障害診断書に記載された時点を症状固定時期とすることで多くの場合に妥当性は確保できる。

(2) 乳幼児被害者
①原則---等級認定すべき時期
本来は,乳児は幼稚園,幼児は就学時まで,等級評価を行わないことが妥当と考える。
すなわち,事故により異常の有無や程度は,ある程度被害者の成長を待たなければ判定できないことが多く,将来成人後に,どの程度の能力低下が生ずるかは,成長過程を観察しなければ判断が難しいからである。

②例外---既に等級認定がされてその後に症状増悪した場合
この場合に,上記時期(注:乳児は幼稚園,幼児は就学時)以前に後遺障害診断書が作成され,後遺障害等級認定の手続きがなされた場合に,認定を拒絶するのではなく,現時点での症状固定日と捉えて等級認定をするが,仮に入園・入学後に症状増悪が判明したために追加請求がされた場合には,これを受けて高次脳機能障害審査会にて慎重に検討することが必要である。

③例外の場合で既に示談が成立している場合
ただし,被・加害者間で損害賠償責任に関する示談が成立したケースにおいて,示談で被害者が損害賠償請求権を放棄している場合には,自賠責保険に対する請求もできないことになる。
しかし,示談において,障害の悪化に関する賠償の権利を示談の対象から除外していれば,損害賠償・自賠責保険への請求も可能と判断される。
そのため既に成立している示談において被害者側がどの範囲の損害賠償請求権を放棄したこととなるのか微妙な判断を求められることとなるため,慎重な判断が不可欠となる。

(3) 高齢者
①障害等級の認定時期
高齢者は,加齢による症状の変化を勘案し,外傷治療終了後の合理的な期間内に症状固定として取り扱うことが妥当である。
高齢被害者には,加齢に伴い,時間が経過すると障害が重篤なものとなっていく事例が見られる。
この様な場合,事故と高次脳機能障害発生に因果関係が認められれば,症状固定後の症状悪化についても,交通事故との因果関係を否定できない場合がある。
しかしながら,症状悪化の原因として,被害者の加齢による認知障害の進行が同時に存在していることが多いので,そのことも考慮すべきである。
そこで,自賠責保険の障害認定手続きにおいては,症状固定後一定の期間が経過し,状態が安定した時点の障害程度をもって障害固定とし,障害等級の認定を行うものとする。

②その後の症状悪化について
その後,時間が経過する過程で症状が悪化した場合については,交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因になっていることが明白でない限り,上位への等級認定の対象とはしないという取り扱いが合理的と思われる。


5 自賠責と労災認定の基準の違い
(1) 労災認定基準
労災保険では,高次脳機能障害について,被災者の職場における就労状況に着目し,①意思疎通能力②問題解決能力③作業負荷に対する持続・持久力④社会行動能力の4つの能力(以下,「4能力」という。)の喪失の程度により等級評価を行うしくみとしている。
具体的には診療医(労災保険においては指定医療機関の専門医)が,主治医としてこれらの「4能力」のそれぞれを「障害なし」および「わずかに喪失」~「全面喪失」までの「6段階」の障害区分で評価し,この内容に基づき等級格付けを行っている。
なお,労災保険では,上記認定基準を定めたことに伴い診療医および被害者側に障害の実態について確認する様式を新設した。
これにより,診察医に対しては前述の「4能力」の6段階評価および介護の要否等について報告を求め,被害者側には日常生活の状況について報告を求めるしくみとしている。

(2) 労災認定基準(4能力+6段階評価)との整合性
①非就労者である小児および高齢者
非就労者である小児および高齢者は,その特有の事情を反映し,労災認定基準に関する解釈を微修正することが適切な等級認定につながるものと考える。
すなわち,小児は事故後の各種能力(学習能力等)の獲得や集団生活への適応能力に与える高次脳機能障害の影響を勘案し,また,高齢者は,加齢による症状の変化を勘案した上で妥当な後遺障害等級を認定すべきである。

②就労者である成人の被害者
従前の考え方を用いて後遺障害を認定した後,労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し,最終結論とすることが労災保険に準拠する自賠責保険としての妥当な認定方法と考える。
この場合,実際の検証作業に当たっては,従前の整理に従い,労災認定基準と自賠責保険の等級認定の考え方との間の対応関係を明確にし,仮に「高次脳機能障害整理表」を用いた等級評価と自賠責保険での等級評価が異なる場合は,その根拠を明確にし,労災との相違点を整理しておく。

岡田 正樹 弁護士

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