芸能人の交際について

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小川 智史 神田須田町法律事務所

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 芸能人のプライベートの交際について、所属事務所等が処分を課す例が時折見られます。そこで、芸能人の交際に対する制約の可否等につき、以下検討を行ないます。

 

1.一般論について

 まず、芸能人の場合も、自己決定権に基づき、幸福追求の自由の一内容として、恋愛の自由が認められると解されます(下記東京地裁平成28年1月18日判決参照)。

 したがって、芸能活動の性質や契約内容等にもよりますが、、仮に恋愛の自由を制約する契約内容が存在する場合であっても、公序良俗違反により無効と解され、法的拘束力は認められない可能性があります。

 

2.不倫の場合について

(1) 不倫の場合には、貞操義務違反としてそれ自体公序良俗に反する為、不倫の場合に制裁を科す趣旨の契約内容も、相当な範囲内では有効と思われます。

(2) もっとも、所属事務所との所属契約を解除するとなると、当該芸能人にも重大な不利益が生じるおそれがありますし、一次的には配偶者との関係における問題です。

 そのため、不倫の場合であっても一律に契約解除できるとするのは妥当でなく、当該芸能人の業務内容、これまでの業績及び今後の活動への影響、これまでの素行不良の有無等を総合考慮して、一般的な継続的役務供給契約の場合と同様、不倫が芸能活動に与える影響の重大性を要件とすべきであると思われます。

(3) また、不倫の場合の違約金を課すことも一般論としては可能と思われますが、不相当に過大な場合、暴利行為として公序良俗違反により無効になるものと思われます。そのため、所属事務所等においては、違約金の定めがある場合であっても、不倫による取引先からの契約解除による損害等、実損額を明らかにするのが望ましいのではないかと思います。

 例えばCM契約において、不倫による商品のイメージダウンが重大な場合にはCM契約の解除自体はやむを得ないと思われます。この場合に事務所側の損害は多額になることが予想されますが、当事者である芸能人が負担する義務を負うか否かは、個別の事情によることになるでしょう。

 

3.アイドルグループの場合について

 アイドルグループの場合、ファンとの疑似恋愛を前提に恋愛禁止を建前としているグループも少なくなく、その特殊性を踏まえた検討が必要になります。「恋愛禁止規定」に反して恋愛を行なった場合、いくつかの側面からの問題点がありますので、以下の通り検討します。

 

(1)所属事務所等からの損害賠償請求の可否について

ア まず、「恋愛禁止義務違反」について、所属事務所等から当該アイドルに対して損害賠償請求訴訟がなされた事案がいくつかあります。

イ 肯定例としては、①所属事務所とアイドルとの間で、異性との交際禁止条項があり、アイドルの交際が発覚した後に事務所の判断で所属グループが解散したため、事務所側がマネジメントのために支出した費用等の請求を行なった事案において、事務所側にも過失相殺を行なった上で、65万円の損害賠償請求を認めた東京地裁平成27年9月18日判決があります。ただし、この事案においては、デビュー当時からアイドルが男女交際を行うとともに、流出した写真の内容も著しく信用を低下させる性質のものであった、という事情があるようです。また、この事案においては、契約条項の効力自体については直接の争点にはなっていなかったようです。

ウ 否定例としては、②やはり恋愛禁止条項がある契約において、交際発覚後アイドルが契約解除を申し入れた事案において、自己決定権の一種としてアイドルにも恋愛の自由が認められるべきであるから、一律に損害賠償義務を課すのは不相当であり、(アイドル側が事務所等に)積極的に損害を生じさせようとの意図をもって殊更これを公にした場合等、害意が認められる場合等に限定して解釈すべきであるとして、当該事案での請求を棄却した東京地裁平成28年1月18日判決があります。ただし、主として原告からの損害賠償請求の可否に関する判断であり、恋愛を禁止する趣旨の条項が直ちに公序良俗に反するとまでは判断していないようです。

エ これらの裁判例に照らすと、「恋愛禁止規定」が一律に無効とは言えず、当該アイドルの交際内容や、所属事務所が被る損害等の諸事情を考慮して判断する傾向があると言え、事案ごとの判断になるものと思われます。 

 

(2)アイドルグループからの除名または契約解除の可否について

 もう一つの側面として、アイドルが「恋愛禁止条項」に違反した場合に、所属事務所等がアイドルグループから当該アイドルを除名(契約解除)できるか、という問題があります。契約解除されたアイドルが、アイドルグループ所属契約に基づく地位確認請求訴訟を行なった例は当職は存じ上げませんし、おそらくそのような事例は想定しがたいと思いますが、仮定の話として検討します。

 

ア 除名の可否については、アイドルの交際による影響の重大性や、恋愛の自由との関係もありますが、そもそもアイドルグループのメンバーをどのように構成するかについては、主宰者の表現の自由にかかわる問題であり、法的判断が可能なのか否か、という問題が生じる可能性があります。

イ この点に関し、政党からの除名処分に基づき、政党が元党員に対し建物の明渡請求を求めた事案において、結社の自由(憲法21条1項)に基づく政党の内部的自治権を尊重し、①除名処分が一般市民法秩序と直接の関連性を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審査権は及ばず、②当該処分が一般市民としての権利を侵害する場合であっても、処分の可否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情がない限り当該規範に照らし、規範がない場合には条理に照らし、適正な手続きに則ってされたか否かによるべきであり、裁判所の審理も②の点に限られるとした判例(最高裁昭和63年12月20日第三小法廷判決)があります。

ウ アイドルグループの場合、政党と同様に考えられるか否かという問題がありますが、政党と同様に考えた場合には、グループからの除名は当該アイドルの権利義務に関する事項ですので、上記②の基準によることになります。

 上記(1)で述べた裁判例を踏まえると、アイドルグループにおける「恋愛禁止規定」が一律に公序良俗違反とまでは言えませんが、契約解除の可否についてはアイドルグループ所属契約が、(a)当該アイドルと事務所との所属契約に基づくものであるか、(b)所属事務所とアイドルグループ主宰者との業務委託ないし請負契約的な性質のものであるか等、契約の性質に応じて検討する必要があります。

エ まず、上記東京地裁平成28年1月18日判決は、(a)の性質を有するアイドルとプロダクションとの間のマネージメント契約について、相手方の指揮命令に服する雇用類似の契約と判断しています。

 雇用類似の契約と解した場合、契約解除については解雇権濫用の禁止を定める労働契約法16条が適用ないし類推適用され、重大な違法性がない限り契約解除はできないという帰結になりそうです。また、解雇の適法性を判断するにあたり、「適正な手続」に則って行なわれる必要があるところ、人気のあるメンバーは軽い処分で済ませ、人気のないメンバーは除名等の重大な処分を行なうことは不公平で適正手続とは言えないのではないか、との問題もあります。いずれにせよ、上記各裁判例が、所属事務所等からの損害賠償請求については制限している点に照らすと(肯定した裁判例も原告請求額の一部にとどまります)、解雇についても要件はかなり厳しくなるものと思われます。

 もっとも、解雇に至らず単にアイドルグループからの除名にとどまる場合は、労働法上使用者側に広く配転命令権が認められます。恋愛禁止義務違反を理由とする配転命令が権利濫用に当たらないかという問題がありますが、上記の通り使用者側の表現の自由との関係に留意する必要があります。

オ これに対し、(b)契約内容が実質的にも業務委託契約の場合、そもそも無理由での契約解除が可能であり(民法650条1項)、解除に正当理由がない場合には、当該アイドル(グループ主宰者との契約の相手方が所属事務所の場合は所属事務所)からの損害賠償請求の問題となります(同条2項)。

カ  このへんはなかなか難しいところですが、実際にアイドル側が契約上の地位確認訴訟を提起するケースは考えにくく、当該アイドルの恋愛をどのように考えるか、主宰者による処分をどのようにとらえるべきかは、当該アイドルのファンの判断にゆだねられるのではないかと、個人的には思います。

 

(3)アイドル側からの損害賠償請求の可否について

 

ア 仮に、「恋愛禁止義務違反」を理由にアイドルグループから除名(契約解除)された場合、アイドル側から相手方に対し不当解除として損害賠償請求できないか、という点も問題となります。当職は現実にそのような請求がなされた事案は存じ上げませんし、現実になされる可能性は低いと思われますが、仮定の話として検討します。

イ 上記の通り、「恋愛禁止規定」が一律に公序良俗違反とまでは言えませんが、アイドルグループ所属契約解除等が違法・不当な場合には、理論上は相手方に対する損害賠償請求権が発生する可能性があります。

ウ ただ、損害の発生及び解除・除名との相当因果関係については、アイドル側で立証する必要があります。

 そして、アイドルが人気商売である点に照らすと、人気がある場合にはソロでも活動可能ではないか、との問題があるため、アイドルグループに所属していた場合に得られたであろう利益と、ソロ活動の場合に得られる利益との差額を計算する必要がありますが、当該アイドル自身の行動による人気低下という可能性もあるため、当然に相当因果関係が認められるとは限りません。

エ また、所属事務所等における初期投資費用の負担の問題もあり、結局事案ごとの判断になるかと思われます。

 

(4)まとめ

 以上より、アイドルの場合はなかなか難しい問題がありますが、上記のような法的リスクがあるため、仮に恋愛禁止義務違反による解除を行う場合には、当事者間の協議による円満解決が図られるのが望ましいでしょう。


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