弁護士コラム

取締役の責任について

[投稿日] 2017年06月15日 [最終更新日] 2017年06月15日
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小川 智史 神田須田町法律事務所

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 企業の経営者、あるいは株主や取引先の方から、取締役の責任追及に関するご相談を受けることが少なくありません。そこで、今回は、取締役の会社や第三者等に対する責任について整理しておきたいと思います。

 

1.会社に対する責任について

(1)まず、取締役は会社との間においては委任契約の関係にあり(会社法330条)、①委任契約上の受任者の義務としての善管注意義務を負います(民法644条)。

 また、善管注意義務の他、②会社法上、職務遂行に当たり会社のための忠実義務が定められています(会社法355条)。そして、忠実義務の具体化の代表例として、競業避止義務(同法356条1項1号)や利益相反取引に関する規制(同項2号)が定められており、取締役会非設置会社では株主総会の承認が(同項柱書)、取締役会設置会社では取締役会の承認が必要とされます(同法365条1項)。

 善管注意義務と忠実義務の関係について学説上はいろいろ議論がありますが、前者については取締役の知見を活かして会社のために期待されるべき注意を果たす義務、後者については会社の犠牲の下自己または第三者の利益を図ってはならない義務、といったような位置づけになるかと思います。

 一般的な取締役の責務である善管注意義務・忠実義務以外にも、会社法上様々な具体的な義務規定が定められていますが、詳細は割愛します。

 

(2)取締役が上記の各種義務に違反した結果会社に損害が発生した場合、会社に対する債務不履行として損害賠償責任を負います(同法423条1項)。

 また、競業避止義務違反の場合、会社に生じた損害額の算定が困難であることから、当該取引により取締役、執行役又は第三者が得た利益の額が損害額と推定されます(同条2項)。

 

(3)取締役の債務不履行(任務懈怠)責任について、十数年前には数百億円もの責任を認める判決が出された例がありました。しかし、現実的に支払える額ではないとともに、無限定に責任が肯定されると取締役の成り手がいなくなってしまうとの声が経済界から上がったこともあり、取締役の責任の限定に関する規定が定められました。

 具体的には、①取締役の職務執行につき善意(故意がない)かつ重過失がない場合には、(a)代表取締役については報酬の6年分、(b)代表取締役以外の社内取締役については報酬の4年分、(c)社外取締役については報酬の2年分を限度として、株主総会の特別決議により免除可能とされます(同法425条1項、309条2項8号)。また、②同様の条件により、取締役の過半数(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)で免除できる旨定めること(同法426条1項)、③定款で定めた金額と上記金額のいずれか高い金額を限度として責任限定契約を締結できる旨定款で定めることができるとされます(同法427条1項)。大企業では、多くの会社が③の責任限定契約を締結していると思われます。

 ただし、自ら利益相反取引を行なった取締役は、利益相反取引により会社に生じた損害賠償責任について免責されないとされます(同法428条)。

 

(4)取締役の任務懈怠責任については、一次的には会社から追及を行なう必要がありますが、そもそも株主の多数派から取締役が選任されており、会社からの取締役への責任追及を期待できない可能性があります。

 そこで、①公開会社(全ての株式について譲渡制限がない会社を言います。同法2条5号。いわゆる上場会社イコールではありません)において6か月前から引き続き株式を保有する株主は、株式会社へ取締役(厳密には、取締役以外の役員等も含みますが、ここでは取締役のみ問題とします)に対する責任追及等の訴えを提起するよう請求することができます(同法847条1項)。非公開会社の場合は、6か月前からの継続保有要件はありません(同条2項)。

 そして、②上記請求から60日以内に会社が取締役に対する責任追及等の訴えを提起しない場合には、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができます(同条3項。いわゆる「株主代表訴訟」)。

 

2.第三者に対する責任について

 上記の会社法423条1項に基づく取締役の任務懈怠責任は、あくまで会社に対する責任であって、債権者や取引先等の第三者が直接取締役に対し会社法423条1項に基づく責任を追及できるわけではありません(債権者代位権行使等の方法も理論上は考えられますが、一般的ではありません)。

 

(1)そのため、非上場の中小企業では、金融機関からの借り入れを行う際、代表取締役等の経営者に対し会社債務の連帯保証を求められる場合が多いです。経営者の連帯保証がなされると、会社が破産等の法的整理を行う場合、通常、連帯保証人である経営者個人も法的整理が必要となります。

 しかし、連帯保証人である経営者個人において、法的整理を選択することに抵抗を有する方も少なくないとともに、会社債務の個人保証が経営者の再起に向けて重荷となることは否定できません。

 そこで、中小企業庁が公表している経営者保証ガイドラインでは、①法人と個人が明確に区別されている場合などに、個人保証を求めないこと、②多額の個人保証を行なっていても、早期に事業再生や廃業を決断した場合に、一定の生活費等を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること、③保証債務の履行時に返済しきれない債務は原則として免除すること、を定め、もって経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援するとされます(詳細は中小企業庁HPをご参照ください)。

 また、本年5月29日付コラム「民法改正について」でも言及しました通り、事業用の貸金等保証契約に関しても民法改正がなされ、規制が強化されています。ただし、経営者保証の規制が強化されたとしても、金融機関等においては相応の担保が必要であるため、別の担保提供を求められる可能性があります。

 

(2) 上記(1)のような保証契約のない取引先等の第三者であっても、取締役の職務執行に関する任務懈怠について悪意(故意とおおむね同義となります)または重過失があった場合には、取締役の第三者責任に基づき個人責任を追及できる可能性があります(会社法429条1項)。

 取締役の第三者責任については、会社に対する責任よりも要件は限定されていますが、中小企業の倒産等の場合に主として代表者の責任追及が問題となります。肯定される例としては、①会社の経営が悪化しているにもかかわらずなお放漫経営を行なっていた場合、②いわゆる計画倒産の場合、③会社の取引自体が詐欺的で違法性を有する場合、等があげられます。

 

3.刑事責任について

(1)取締役の刑事責任について、代表例としては、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、特別背任罪に該当し、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされます(同法960条1項)。

 理論上は、競業避止義務違反や利益相反取引規制違反も特別背任罪に当たりうると解されますが、実際に有罪となった例としては、①銀行における不正融資の事例、②会社の代表者がギャンブル等に多額の会社財産を費消した例等が挙げられます。

 

(2) 特別背任罪の他、いわゆる総会屋対策のための罰則として、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与した場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます。

 上記以外にも、もろもろの罰則規定がありますが、ここでは割愛することとします。

 

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。

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