弁護士コラム

ハリルホジッチ監督の解任について

[投稿日] 2018年04月15日 [最終更新日] 2018年04月16日
Resized avatar mini magick20170419 15354 4y9nui

小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

依頼者のために最善を尽くしていきます

 本年4月9日、日本サッカー協会より、ハリルホジッチ日本代表監督の解任が発表されました。

 ハリルホジッチ前監督についてはスポーツ新聞・雑誌等では以前から解任論があったものの、ワールドカップ2か月前の解任は大変な衝撃です。

 私はサッカーの専門家ではないため、監督解任の妥当性については言及は差し控え、専ら法的観点から検討を行いたいと思います。

 

1.本件における準拠法について

 ハリルホジッチ前監督は、ボスニア・ヘルツエコビナ出身とされますが、現在はフランス国籍を有し、フランスに居住しているとのことです。

 フランス法については私は存じ上げませんが、準拠法について、法適用に関する通則法7条では「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」と定められ、当事者による選択がない場合は、同条8条1項では「最も密接な関係がある地の法による」とされます。

 したがって、日本法を前提とする限り、日本法を準拠法とする可能性が高いですし、同監督との契約において日本法を準拠法とする旨定められている可能性があります。

 また、契約上、日本サッカー協会本部を管轄する東京地方裁判所を専属的合意管轄とする旨の約定が存する可能性があります。

 

2.監督契約の法的性質及び民法の規定等

(1)監督契約の法的性質

 スポーツにおけるオーナーと監督との契約は、(具体的な運用はともかく)個々の試合の方針その他関連する事項につき、監督の裁量権に委ねて実施する委任契約と解されます。

 委任契約の解除につき、実際には日本サッカー協会との契約で詳細な解除事由が定められていると推測されますが、契約内容は詳しくは分かりませんので、民法の規定ないし委任契約一般に関する判例等を参考に、以下検討を行います。

 

(2)委任契約解除に関する民法の定め

   まず、委任契約は当事者の信頼関係存続を基礎とすることから、各当事者がいつでもその解除をすることができるとされます(現行民法651条1項)。

 もっとも、相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、相手方の損害を賠償しなければなりませんが(現行民法651条2項本文)、やむを得ない事由があったときはこの限りでないとされます(同項但書)。なお、現行民法648条3項では、「委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。」と定めていますが、現行民法651条2項本文の文言からして、651条2項本文は、648条3項の特則と解されます。

  現行民法651条1項の適用に関し、不動産の管理委託契約において、不動産の保証金を受任者が保管中に自由に利用できるとされていた事案において、受任者の利益のためにも委任がなされた場合であっても、委任者が解除権自体を放棄したとは認められない場合には、やむ得ない事由がなくても委任契約を解除できるとした判例があります(最高裁昭和56年1月29日判決)。

 

(3)委任契約に関する民法改正

 2020年4月1日施行予定の民法改正との関係に言及しますと、委任契約に関する主な改正点としては、(1)委任契約の中途解約がなされた場合の受任者の報酬につき、①委任者の責めに帰することのできない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、②委任が履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬請求ができる旨の規定が追加されました(改正民法648条3項1号、2号)。

 また、(2)委任契約の解除に関し、①相手方に不利な時期に委任を解除したとき、②委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときは、原則として相手方に生じた損害を賠償べき旨明記されました(改正民法651条2項本文、1号・2号)。やむを得ない事由が存する場合の除外は現行法と同様です(同項但書)。もっとも、改正民法651条2項2号は従来の判例の明文化ですので、実質的な変更には当たらないと解されます。

 

3.本件における損害賠償請求等について

(1)本件における損害賠償請求の可否について

 本件に関し、実際の契約内容は捨象して民法の規定に基づき検討を行うと、現行民法651条1項により解除自体は可能ですが、ワールドカップで指揮を執って勝利することを最大の目標としていたと解されるため、2か月前の解任は、同条2項本文の「相手方に不利な時期」に当たる可能性が高いと思われます。

 そして、本件において、同条2項但書の「やむを得ない事由」に当たるか否かが問題となるところ、報道されている情報のみでは不明確な点も多く、双方の主張ないし認識が相違する部分が多いうえ、サッカーに関する専門的な検討も必要ですので、明確にはわかりかねます。

 ただ、仮に日本サッカー協会が「やむを得ない事由」に該当する旨主張する場合には、日本サッカー協会が「やむを得ない事由」を基礎づける事実を立証する必要があります。

 もっとも、民法の規定だけでは要件が抽象的であり、事例判断になってしまうため、実際は契約で詳細に定められている可能性があります。

 

(2)損害賠償請求の範囲

  ハリルホジッチ前監督の解任について、民法651条2項但書の「やむを得ない事由」に当たらない場合には、契約内容を捨象すれば、法的には日本サッカー協会に対する損害賠償請求ができる可能性が高いです。

 

 この場合の損害の範囲についてですが、①ワールドカップグループステージ終了までの報酬金は、本来予定されていた利益として、損害に含まれると思われます。

 

  これに対して、②グループステージを突破して決勝トーナメントに進出した場合に別途成功報酬が定められていた場合(あくまで仮定の話です)、解任との因果関係(相当性を含む)について監督側で立証する必要があります。

 しかし、日本代表は1998年フランス大会以降前回ブラジル大会まで5大会連続でワールドカップに出場し、うち決勝トーナメント進出を果たしたのは2002年日韓大会と2010年南アフリカ大会の2回ですが、ハリルホジッチ前監督が指揮を執り続けた場合の決勝トーナメント進出可能性につき立証することは困難でしょう。

   また、スポーツにおいて上記のような「たられば」の話をするのは、個人的には妥当でないと思います。

 

 なお、③契約上、解除に関する違約金の定めがある場合は、原則として違約金の定めによることとなります。

 

(3)その他関連問題

   現在までの報道によれば、ハリルホジッチ前監督は今回の解任について大変憤慨しており、4月中に来日した上で記者会見を実施する予定とのことです。

   もっとも、日本サッカー協会との契約で、監督在任中に知りえた部外秘の事項に関する守秘義務及び守秘義務違反の場合の違約金が定められている可能性があります。

   上記の条項が存すると仮定した場合(あくまで仮定の話です)、どこまでが守秘義務の対象か、仮にハリルホジッチ前監督が具体的な反論等を行なった場合にその内容によっては形式的に守秘義務条項が適用されるのか等、実際に争いが生じるか否かはともかくとして、理論上は様々な法的問題が生じる可能性があります。

 

4.まとめ

 上記の通り、ハリルホジッチ監督の解任については、同監督と日本サッカー協会の認識や主張に相違があるようであり、解任に至る経緯等も不明な点が多いですが、ワールドカップが目前に迫っていますので、個人的には何とかワールドカップで健闘頂くよう日本代表を応援したいと思います。

小川 智史 弁護士

注力分野
交通事故
  • Icon 2初回相談無料
  • Icon 2土曜日相談可
  • Icon 1当日相談可
  • Icon 4夜間相談可(18時以降)
  • Icon 3分割払いあり
依頼者のために最善を尽くしていきます

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。

契約書に強い弁護士

複数弁護士で対応。豊富な対応件数と実績があります。

【銀座駅徒歩5分】依頼者の方々が直面している1つ1つの事件について、皆様の声に真執に耳を傾け、ご相談者・ご依頼...

丁寧な説明を心がけています。

ベンチャー企業・中小企業の法務サポートを専門業務にし、IPO等のイグジットのほか企業が目指すビジョンの実現のた...

ページ
トップへ