弁護士コラム

日大アメフト部の危険タックル問題について

[投稿日] 2018年05月24日 [最終更新日] 2018年05月24日
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小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

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 現在、日本大学(以下、「日大」といいます)、と関西学院大学のアメリカンフットボールの試合において、日大の選手が関西学院大学の選手に対して危険なタックル行為を行なった件が大きな社会問題となっており、本年5月22日には加害行為を行なった選手が、5月23日には日大アメフト部の前監督及び担当コーチが記者会見を行い、各自の認識等について説明等がなされました。

 本件は被害者側から大阪府警に傷害罪で被害届が提出され、現在試合会場を所轄する警視庁で捜査を開始しているとのことですが、上記記者会見内容等を基に、本件における傷害罪の成否について検討を行いたいと思います。

 

第1.加害行為を行なった選手自身についての傷害罪の成否

1.本年5月23日までの報道によれば、被害者側は全治三週間のけがを負っているとのことです。まず、人に対して有形力を行使して傷害結果を負わせた場合、外形的には傷害罪の構成要件に該当しますが、あくまでスポーツのルールにのっとった正当な活動により結果が生じた場合には、正当業務行為により違法性が阻却されるとされます(刑法35条)。

2.しかし、一般論として、スポーツの場合でもルールに反して相手に故意に怪我をさせる行為が許容されるとは言えず、本件の場合は相当性を逸脱して故意に実行されたと思われ、理論上は正当業務行為とは言えず違法性阻却は認められない可能性が高いでしょう。

3.上記の通り理論上は加害行為を行なった選手に傷害罪が成立する可能性が高いところ、全治3週間の怪我は軽傷とは言えず、社会的な影響も大きい点に照らすと、一般的な傷害事案の場合は、被害者との示談が成立しなければ略式起訴による罰金刑に処せられる事案が多いです。

 ただ、当該選手の会見内容を前提とすれば、①担当コーチから「相手のQBを潰してこい」「相手が怪我したらうちに得になる」と言われたとされ、②試合に出るにはコーチや監督の指示に従わるを得ない状況であったこと、③被害を受けた選手に直接謝罪に伺っていること、④20歳の学生という立場ながら、実名で顔も出して記者会見を行なっていること等の点を踏まえると、被害者の被害感情等の諸事情によっては、現実に処罰するのは相当でないとして、起訴猶予等の実質的に処罰を科さない処分になる可能性もあります。 

 

第2.監督ないし担当コーチについての傷害罪の成否

 日大アメフト部の前監督(以下、単に「監督」といいます)ないし担当コーチについては、主として、当該加害行為を行なった選手との傷害罪の共謀共同正犯の成否が問題となります(刑法60条)。監督及び担当コーチが5月23日の記者会見で説明した認識ないし主張が認められるか否かはともかく、記者会見内容を前提に、以下検討を行います。

 

1.共謀の成否について

 まず、監督ないし担当コーチの会見内容によれば、①「QBをつぶしてこい」との指示はあったが、それぐらいの強い気持ちで試合に臨むべきという趣旨であり、故意に相手選手に怪我を負わせる趣旨ではないとのことです。

 上記主張が成り立つか否かはともかく、仮に上記言動のみで明確に傷害行為の指示ないし共謀を認定できない場合でもなお当該選手との黙示の共謀を認定できるか、という問題があります。

 黙示共謀に関する参考判例として、暴力団が抗争状態にあった際、傘下の幹部組長が車で移動中、前後の車列に乗車していた当該組長の配下の組員が拳銃を所持していた事案において、当該組長と配下組員との明示的な共謀は認定できなかったものの、黙示の共謀が認められるとして銃刀法違反の共謀共同正犯の成立を肯定した例があります(最高裁平成15年5月1日決定)。

 本件においても、まずは事実認定の問題ではありますが、仮に明示の共謀を認定できない場合、上記判例と同様、黙示の共謀を認定できるか否かが問題となる可能性があります。

 なお、仮に傷害の共謀が成立しないとしても、当該選手に傷害行為をそそのかしたとして、傷害罪の教唆が成立する可能性もあります。

 

2.傷害罪の故意について

(1) 次に、仮に監督ないし担当コーチと加害行為を行なった選手との間で外形的には共謀が成立する可能性が高いとしても、傷害罪が成立するためには、故意が必要とされます(刑法38条1項)。恋の傷害税については法定刑が1月以上15年以下の懲役または50万円以下の罰金であるのに対し(刑法204条、12条1項)、過失傷害罪の場合は30万円以下の罰金または科料にとどまるため(刑法209条)、大きく刑罰に差が生じます。

 

(2) それでは、刑法における故意とは具体的にいかなる内容を指すのか、学説上は色々議論はありますが、判例・通説では、犯罪の実行行為による結果発生に関する認識・認容とされます。また、確定的な故意でなくても、「未必の故意」と言って結果発生を認容していた場合も故意有とされます。

 本件の場合、具体的には、「(スポーツとしての相当性を明らかに逸脱した危険な)タックル行為によって相手の選手が怪我するかもしれないが、怪我してもやむを得ない」と認識していた場合には、傷害罪の未必の故意ありという帰結になると思われます。

 

(3) 本件における監督ないし担当コーチの認識について、記者会見では、②当該加害行為を行なった選手がルールを逸脱して相手の選手に危険なタックル行為を行なうとは想定していなかった、③担当コーチにおいて、相手の選手を怪我させた方がこちらに得であるという趣旨の発言は行なっていない、との説明がなされていました。

 要するに、傷害罪の未必の故意すらなかったとともに、上記結果発生という因果関係は予見困難であったという趣旨と解されます。

 

(4) 上記主張が認められるか否かはともかく、監督ないしコーチに傷害罪の共謀共同正犯の成立を肯定するためには、上記主張を排斥する必要があります。

 そして、監督ないしコーチの認識に関しては、刑法上は「錯誤論」といってややこしい問題があります。

ア 「錯誤論」とは、要するに、実際に実行された行為や結果と、実行行為者の認識した内容に食い違いがある場合に、故意を認めることができるか否か、という問題です。例えば、①暗い夜道で落石が道をふさいでいると思ってタックルしたら実は人であり、ケガをさせてしまったという場合、「人に対するタックル」という認識がないため、傷害罪の故意が否定されます。

イ また、②「因果関係の錯誤」といって、実行行為と結果発生との間に予期せぬ事情が存指揮した場合、理論上は因果関係を認識していなかったとして故意が必要と解されます。もっとも、「因果関係の錯誤」に関しては、よほど予見困難な異常な因果関係でない限り、錯誤有として故意が否定されるケースは滅多にありません。

ウ また、違法性阻却事由を基礎づける事実の認識に関して、正当防衛に関する誤信の例をあげれば、③暗い夜道で何者かが襲ってくると思ってタックルしたら実は襲ってくるという事実はなかった場合、正当防衛の前提である、急迫不正の侵害に当たる具体的事実が存在すると認識していたとして、故意が否定されるとされます(学説上議論はありますが、通説的にはこのように解されます)。

エ 一方で、④「この行為は違法でない」と認識して実行した場合、「違法性の錯誤」あるいは「法律の錯誤」とされますが、この場合は実行行為自体は認識しており、法的評価の問題であるため、判例・通説では原則として故意は阻却されないとされます。

オ 本件では、監督ないしコーチの会見内容を前提にすると、上記②ないし③、特に③の点が問題となる可能性があり(正当防衛の場合とは状況が異なりますが、違法性阻却事由を基礎づける事実の錯誤という点で刑法上は同様の位置づけとなります)、監督ないしコーチの主張を排斥できるか否かが問題となります。

 

3.まとめ

 以上、会見内容を前提に理論上の問題点を検討しましたが、刑法上の問題点を踏まえ、まずは捜査機関による捜査の上、事実認定によります。

 本件においては、(1)特に担当コーチとの関係では、「相手の選手を怪我させた方がうちに得になる」という趣旨の発言を行なった事実が認められるか否か(すなわち、いずれの供述の方が信用できるか)の点の他、

(2)①加害行為を行なった選手は日本代表候補選手であるにもかかわらず、本件試合以前からレギュラーメンバーから外されたとされるとともに、②本件試合前日以前にも担当コーチから同様の趣旨の指示があったとされること、③本件試合当日のメンバー表にも記載されていなかったとされること、③当該タックル行為直後監督ないしコーチが当該選手を直ちに交代させることもなく、④その後も危険なタックル行為自体を叱責した形跡も見当たらないことの等の点を踏まえ、⑤監督が試合直後の取材で「法律的にはよくないかもしれないけど」と語ったとされる点等を踏まえ、⑥各当事者に虚偽供述を行なう動機が存するか否か、⑦各当事者の供述内容が不自然・不合理でないか、等の事情を総合考慮の上、事実認定がなされるものと見込まれます。

 本件において、監督ないし担当コーチに傷害罪の成立を肯定できるだけの証拠有と認められ、かつ情状としても悪質である場合には、正式起訴となる可能性があります。

小川 智史 弁護士

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