弁護士コラム

民事訴訟のIT化について(2)

[投稿日] 2018年06月19日 [最終更新日] 2018年06月19日
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小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

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本年6月1日付「民事訴訟のIT化について(1)」でIT化の概要について検討を行ないましたが、今回は特に、IT化におけるセキュリティの問題を中心に検討を行ないたいと思います。

 

1 セキュリティリスクに関する総論

 民事訴訟手続のIT化において、事件記録や事件情報については、訴訟当事者本人とその代理人等の関係者に限るのが相当とされますが(「IT化とりまとめ」P10)、裁判所のホームページへのハッキングやID・パスワードの流出等に起因する情報漏洩・流出リスクが懸念されます。

 IT化情報の漏洩・流出に関しては、近時コインチェック社からの仮想通貨流出が大きな問題となったほか、中央省庁においても外部からのハッキングと見られる事象が過去に発生したとされます。裁判手続をIT化した場合、同様のサイバー攻撃被害が懸念されます。

 

2 政府検討会議における検討状況

(1) 民事訴訟手続IT化におけるセキュリティ対策の概要については、「民事訴訟のIT化(1)」でも言及しましたが、政府の日本経済再生会議内「裁判手続等のIT化検討会」でが公表している第6回議事要旨(以下、単に「第6回議事要旨」といいます)では詳細な検討がなされ、セキュリティに関する主な留意点として、以下のような事項が挙げられています(「第6回議事要旨」P1~P11。ただし、筆者による抜粋ないし要約)。

①情報の漏洩防止、改ざん防止、喪失防止は基本的に守るべき事項である。

②海外からのサイバー攻撃、国家的なサイバー攻撃について、(裁判資料に関しては)必ずしも大きなインセンティブがあるとはいえないのではないか。

③内部関係者による意図的な漏洩や情報破壊のインセンティブも大きいとは言えないが、人為的ミスが最も多いのではないか。

④ソフトウェアやシステムには脆弱性があり、年月が経つと穴が開いたシステムになる可能性が高い。

⑤ネットバンクの様なワンタイムパスワードシステムを実施すると、かなりのお金がかかる。また、手続を厳密にしすぎると、やり過ぎで利便性を損ねてしまう。

⑥防衛や金融、大手通信事業者のように、365日・24時間絶対に止めてはいけないようなシステムと比較すれば、もう少し柔軟なシステムでもよいのではないか。

⑦証拠物に関しては作成の真正をきちんと確認する必要があり、電子署名・認証を含め検討が必要である。

⑧現行民訴法の閲覧制限規定(92条)では、私生活についての重大な秘密、営業秘密等に関する閲覧制限が定められており、情報資産としての重要度が高いものについては、それに併せた保護が必要である。

 

(2) なお、ウェブ会議の実施方法との関連問題として、証人尋問・本人尋問等の人証調べについて、憲法の公開原則がインターネットでの公開まで想定しているかという問題があり、現状でも法廷での録画・録音は禁止されている点をふまえ、インターネットで被尋問者をさらし者にしないよう、インターネットで尋問状況を録音・録画できないよう、公開の方法や通信セキュリティについて十分な配慮が必要との意見が出されています(「第6回議事要旨」P14。ただし、筆者による要約)。

 

3 セキュリティリスクに関する私見

上記踏まえ、いくつか私見を述べたいと思います。

(1) まず、上記2(1)②記載したサイバー攻撃の可能性については、上記1で述べた状況に照らすと、必ずしも低いとは言えないのではないと思われます。

 

(2) 次に、上記2(1)⑧でも言及されているように、民事訴訟記録においても、流出した場合に被害が大きいと想定される資料、例えば個人の戸籍謄本や企業の知的財産情報等に関しては、セキュリティレベルを上げる必要があると思われます。

 これに対し、公開法廷で実施された期日内容に関する記録、例えば証人尋問・本人尋問等の内容を記載した尋問調書は微妙な所であり、上記2(2)で言及した通り、「さらし者にしない」という点に配慮する必要はありますが、尋問調書は証言内容を書面として記載したものであり、現行法制度でも証言自体の録音・録画は禁止されているものの証言内容自体の公開は原則として制限されていないことから、戸籍謄本や知的財産情報ほどのの厳格性を要しない、と考える余地もないとは言えないでしょう。

  

(3) なお、検討会会議とは別に、そもそも憲法で裁判の公開原則が定められており(憲法82条1項)、民事訴訟でも口頭弁論期日は傍聴可能であること、現行法上も何人も訴訟記録の閲覧請求が可能であること(民訴法91条1項)等の点に照らし、そもそも訴訟記録は公開を前提とするものであって、現行法下の制度に比べて著しくリスクが増大するとは言えない、とする見解もあるようです。

 しかし、上記見解に関しては、①憲法上も公序良俗を害する場合には対審は非公開で実施できるとされること(憲法82条2項前段)、②現行法上も民事訴訟の口頭弁論期日では「(原告又は被告が)準備書面の通り陳述ですね。相手方は次回期日までに反論書面提出をお願いします。」程度しか傍聴席からは分からない場合も少なくないこと、③争点整理に関しては非公開の弁論準備手続で実施される場合が少なくないこと、④訴訟記録の閲覧についても、非公開の口頭弁論内容に関する第三者からの閲覧制限(民訴法91条2項)や秘密保護のための閲覧制限(同法92条1項)等の制限がある点等に照らせば、⑤ハッキングやサイバー攻撃の場合は裁判所に出向く必要がないとともに情報取得者の特定が容易でないこと等の点に照らせば、訴訟記録全体の公開を前提としたリスク管理を行なうのは妥当でないと思われます。

 

(4) 民事訴訟手続IT化に伴う利便性・効率性の向上は紛争解決手段としての裁判の実効性確保に資すると思われますが、具体的なセキュリティ対応に関しては、保護すべき情報の性質に応じて慎重な検討が必要というべきでしょう。

小川 智史 弁護士

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