弁護士コラム

ハリルホジッチ元監督の訴訟について

[投稿日] 2018年07月28日 [最終更新日] 2018年07月28日
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小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

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 先日行われたロシアワールドカップでは、日本代表がベスト16に進出するとともに、ベルギー戦では死闘を繰り広げ、全国に感動と熱狂、興奮をもたらしたのは記憶に新しいところです。

 一方で、本年4月に解任されたハリルホジッチ元監督から日本サッカー協会の田嶋会長らに対する損害賠償請求等訴訟について、7月27日に東京地裁で第1回口頭弁論期日が開かれ、法廷での争いが本格的に開始したようです。そこで、報道等により明らかになっている内容を基に、現在の状況を整理しておきたいと思います。ただし、下記内容は報道等で公表されている内容を前提とするものであり、訴訟における詳細な主張立証は下記の限りではない可能性に留意頂く必要があります。

 

1.ハリルホジッチ元監督側の請求等について

 (1) まず、ハリルホジッチ元監督側の請求は「名誉棄損に基づく1円の損害賠償請求及び謝罪広告等」であって、「解任の効力または解任に基づく損害賠償請求」は問題としていないようですので、留意しておく必要があります。

 実際、マスコミ取材に対してハリルホジッチ元監督の代理人弁護士は7月27日に、解任の事実ではなく、いわゆるコミュニケーションの問題に関する田嶋会長の会見内容が問題であるという趣旨の回答を行なっているようです。

(2)なお、東京地裁の掲示では、本件訴訟の当事者の表示に関し、「被告 田嶋幸三他」となっていましたので、この点からも、「コミュニケーションの問題」発言を行なった田嶋会長自身を主たる被告としていると思われます。

 報道によれば本件訴訟では日本サッカー協会も被告となっているようですが、日本サッカー協会を被告とする法的根拠としては、日本サッカー協会は公益財団法人に当たるところ、「公益財団法人」とは、公益目的事業を行なうとして行政庁の認定を受けた一般財団法人をいうとされ(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律2条2号、4条)、一般財団法人はその代表者がその職務を行なうについて第三社に加えた損害を賠償する責任を負うとされる点(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律197条、78条)、によるものと思われます。

 

2.田嶋会長及び日本サッカー協会側の反論等について

(1)上記ハリルホジッチ元監督の請求に対し、田嶋会長及び日本サッカー協会の反論の要旨としては、

①本件請求は、ハリルホジッチ元監督との契約における仲裁合意の対象となるためFIFAまたはスポーツ仲裁裁判所に管轄権があり、東京地裁に管轄権は認められない

②ハリルホジッチ元監督には解任後他の監督就任のオファーがなされている点等を踏まえると、田嶋会長の「コミュニケーションの問題」発言が元監督の社会的評価を低下させるものとは言えず、名誉棄損には当たらない

という趣旨のようです。

 上記①の主張に関しては、そもそも名誉棄損の成否という実体判断に入る前に、管轄という訴訟要件を満たしているか否か、入り口の問題に関する主張となります。また、②の主張に関しては、「コミュニケーションの問題」が実際にあったか否かの問題以前に、そもそも名誉棄損に当たらない、という主張となります。

 

(2) 本年5月19日付「ハリルホジッチ監督の解任について(3)」では、「コミュニケーションの問題」の有無に関する真実性が主たる問題となる可能性について言及しましたが、真実性の問題は名誉棄損の違法性阻却事由と位置付けられますので、真実性の問題に至る以前に、まずは上記①及び②の主張について検討がなされる必要があります。

 ただし、今後の展開次第では、名誉棄損に当たるとした場合における真実性(真実か、または真実と信じたことに相当の理由があったか)に関する双方主張立証がなされる可能性があります。真実性の問題が主たる争点となるか否かは、特に、被告側が「管轄外である」「名誉棄損に当たらない」との主張をメインとして違法性阻却事由に関する点は問題としないか、それとも「仮に名誉棄損に当たるとしても、コミュニケーションの問題があったことは事実である」という趣旨の主張立証を行なうか否かによると思われます。

 

3.その他関連事項について

 本件に関連して、ハリルホジッチ元監督はフランス在住であるとともに今後他の監督に就任する可能性があるため来日が容易でない他、仮に海外クラブ在住の選手の証人尋問を実施する場合やはり帰国が容易でない可能性がある、という問題があります。

 この点に関しては、本年6月1日付「民事訴訟のIT化について(1)」でも言及しました通り、民事訴訟IT化の第一段階として、早ければ2019年度にもウェブ会議による争点整理等の実施が検討されています(「IT化取りまとめ」P19~22)。もし、本件訴訟が長期化した場合、ウェブ会議を利用した証人尋問・本人尋問等の可能性も、一般論としてはないとはいえません。

 ただ、証人尋問・本人尋問に関しては、直接法廷で被尋問者の表情やしぐさ等を確認した上で証言内容を精査することも重要な要素とされます。そのため、仮に法的にはウェブ会議による実施が可能であるとしても、まだ試行自体開始されていない点に照らすと、当該尋問者の尋問実施が必要不可欠であり、かつどうしても被尋問者との日程の調整がつかず法廷への出頭が困難であるというような例外的な場合に限られるものと思われます。

小川 智史 弁護士

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