弁護士コラム

自然災害により生じた損害の賠償請求等の可否について(3)

[投稿日] 2018年09月15日 [最終更新日] 2018年09月16日
Resized avatar mini magick20170419 15354 4y9nui

小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

依頼者のために最善を尽くしていきます

本年9月5日付「自然災害により生じた損害の賠償請求等の可否について(1)」、9月6日付「自然災害により生じた損害の賠償請求等の可否について(2)」では、自然災害により生じた損害等に関する法律問題全般について検討しましたが、今回は、特に土地の工作物責任について、台風に関する関連判例を再検討及び整理しておきたいと思います。なお、6月に大阪府北部を中心に発生した地震、7月に西日本を中心として発生した水害、9月4日の台風21号による被害、9月6日の北海道で発生した地震の被災者の方々には、心よりお見舞い申し上げます。

 

1.福岡高裁昭和55年7月31日判決(判例時報992-71)

 上記コラム(1)では河川の国家賠償請求に関する最高裁判例を基に検討しましたが、台風により屋根瓦等が飛散した場合の土地の工作物責任につき直接判断したケースとして、当該判決が存するようです。

 

(1) 昭和55年福岡高判では、台風により北九州市内所在の建物から被害が生じた場合の工作物責任の成否について、「土地工作物に瑕疵がないというのは、一般に予想される程度までの強風に耐えられるものであることを意味し、北九州を台風が襲う例は南九州ほど多くはないが、過去にもあり、当該建物には予想される程度の強風が吹いても屋根瓦が飛散しないよう土地工作物である建物所有者の保護範囲に属する本来の備えがあるべきであり、その備えがないときには、台風という自然力が働いたからと言って、当該建物に瑕疵ないし瑕疵と損害との間の因果関係を欠くものではないと解すべき」との基準を示しています。

 

(2) その上で、当該事案について、「北九州空港で15時10分秒速30メートルであり16時なお18メートルあったとはいえ、これよりさき被控訴人所有の建物の屋根瓦は風速未だ1秒14.5メートルに達しない昼過ぎ頃移行に飛散し始めており、かつ台風通過後の右建物の屋根の被害状況はその付近一帯の建物の屋根がそれに比べて比較的大きかったというべきであるから、被控訴人所有の建物の屋根には小穴をあけた硬い瓦を針金で屋根に固定するとか、屋根瓦を止め金で固定するとか、瓦の固定について建物所有者の保護範囲に属する本来の備えが不十分であったと推認することができ、ひいては右屋根の設置又は保存に瑕疵があったというべき」と認定しています。

 

(3) もっとも、責任の範囲について、全て建物所有者の責任とするのではなく、「損害の少なくとも3分の1は被控訴人所有者の建物の保存に瑕疵があったことによると認めるのが相当」として、自然災害による寄与度を考慮して、工作物所有者の責任を限定しています。

 

2.今後の裁判所の判断への影響の可能性

(1)上記昭和55年福岡髙判を基に、9月4日の台風21号により生じた被害に関して検討すると、最大風速50メートル以上を記録した台風であり、完璧な予防策を講じることは困難であるから瑕疵があるとは言えない、あるいは仮に瑕疵があるとしても工作物占有者ないし所有者の責任は一層限定されるべき、という考え方もありうるでしょう。

 

(2)ただ、昭和55年福岡髙判は40年近く前の裁判例であり、40年前と現代では、台風の進路の予測可能性、非常に勢力の強い台風が日本に接近・上陸する頻度、防災対策の可能性や建物構造、その他社会的環境が大きく異なっています。

 

(3)また、コラム(1)でも述べました通り、地震により生じた被害の工作物責任に関し、昭和の時代と比較して高いレベルでの耐震性を求める趣旨と解され、かつ所有者に100%の賠償責任を肯定する裁判例が近年出ています(詳細は次回コラム(4)にて記載します)。台風の場合、自身と比較しても具体的な接近可能性について予見自体は可能であるため、仮に台風21号により生じた被害に関する工作物責任の成否につき訴訟に移行した場合、裁判所が昭和55年福岡髙判と同様の判断を行なうとは限らない点に留意頂く必要があります。

 

(4)上記踏まえ、台風21号により生じた被害につき、工作物責任の成否が問題となりうるケースにおきまして、(1)賠償請求を実施ないし予定されている方においては、①当該建物付近の被害状況等に照らして、相手方の工作物に瑕疵があると言えるケースか、②仮に訴訟提起した場合、瑕疵の存在の立証の問題の他、寄与度による限定がなされる可能性がある点を踏まえ、どこまで徹底的に争うかを踏まえて方針を検討頂く必要があると思われます。

 逆に、(2)賠償請求を受けているあるいは受ける可能性がある方におかれましては、①当該建物周辺の被害状況等の瑕疵の有無に関する事情のほか、②訴訟に移行した場合、場合によっては裁判所が全部若しくは一部の責任を認める可能性も否定できず、リスクマネージメントを考慮する必要があること、③仮に法的責任はないとしても、円満解決の観点から一定の見舞金の支払等を行なう、という政策的判断を行なうか否か、等につきご検討頂く必要があると思われます。

 

(5)もっとも、同種事案の訴訟において、一般的には判決に至る前に裁判所から各当事者に和解勧告を行なう場合が少なくなく、当事者間で話し合いが困難な場合は、裁判所から和解案が出された時点で判断頂く、という選択肢もないわけではありません。ただし、この場合は相応の時間や労力、費用を要することになります。

 

 

 

小川 智史 弁護士

注力分野
交通事故
  • Icon 2土曜日相談可
  • Icon 1当日相談可
  • Icon 4夜間相談可(18時以降)
  • Icon 3分割払いあり
依頼者のために最善を尽くしていきます

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。

Go To Top Html