弁護士コラム

日産ゴーン会長の逮捕について(1)

[投稿日] 2018年11月23日 [最終更新日] 2018年11月29日
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小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

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 11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時。以下、「ゴーン会長」といいます。)及び他の代表取締役1名(以下、併せて「ゴーン会長ら」といいます)が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕され、日本全国の他、関係国であるフランス、ブラジル、レバノン等の諸外国にも大きな影響を与えているようです。

 本件に関しては、様々な法的問題が想定されますが、現在(11月23日時点)までに報道されている内容を基に、まず、刑事責任関連について検討を行ないたいと思います。

 なお、11月23日現在、ゴーン会長らは有価証券報告書虚偽記載の疑いで逮捕・勾留されていますが、現時点では無罪推定の原則があり、最終的な検察官の処分や裁判所の判断がどうなるか不明ですので、以下他の刑事責任の可能性を含め、報道されている内容をもとに、あくまで仮定ないし可能性の問題として検討いたします。

 

1.有価証券報告書虚偽記載の疑いについて

(1) 報道によれば、市場に開示する日産の有価証券報告書上の取締役報酬に関し、ゴーン会長は2010~2014年の5年間において、本来計約100億円弱の報酬を受け取っていたにもかかわらず、実際には計50億円程しか記載していなかった疑いが存するとされます(さらに多額ではないか、との報道もなされているようです)。

(2) そもそも、金融商品取引法上、上場会社においては、重要な企業情報を記載した有価証券報告書を年に一度(同法24条1項)、その他四半期報告書(同法24条の4の7第1項)、重要事項の変更が生じた場合等の臨時報告書(同法24条の5第1項)を管轄財務局に提出して一般投資家に公開する義務があり、一般投資家に対して株式投資における適切な情報提供を図る趣旨とされます。

 かかる趣旨を踏まえ、①有価証券報告書の虚偽記載を行なった者については10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、又は併科するとされ(金融商品取引法197条1項1号、24条1項)、②法人についても7億円以下の罰金刑が定められています(同法200条1項1号)。なお、四半期報告書・臨時報告書の場合は若干罰則が異なりますが、割愛します。

(3) もっとも、有価証券報告書虚偽記載罪は故意犯であるとともに、一般的には企業の経理担当者等が報告書の原案を作成すると思われ、虚偽記載罪が成立するためには実際の作成者との共謀ないし指示も必要と解されます。

(4) また、上記の通り、大企業において有価証券報告書の虚偽記載が、代表取締役の判断のみで実施できるとは考え難いとともに、法人として有価証券報告書を管轄財務局に提出している以上、法人としての罪の成立も問題となります。11月23日時点での報道によれば、法人としての日産に対する有価証券報告書虚偽記載罪の捜査も実施されているようです。

 

2.他の刑事責任の可能性について

(1)上記の点の他、日本国内に住所を有しない外国人の非居住者の場合であっても、国内源泉所得と事業所得の恒久的施設を有する場合には所得税等の納税義務を有するとされるところ(国税庁タックスアンサーNo.2872、2873参照)、仮に本来申告すべき所得を過少申告していた場合には、いわゆる脱税として所得税法違反が問題となる可能性もないとは言えません。

(2)また、報道によれば、子会社を通じた不正支出の可能性が指摘されていますが、自己若しくは第三者の利益を図り又は会社に損害を加える謂目的で、本来許容される範囲を超えて不正な支出を行なった場合には、会社法上の特別背任罪等が問題となる可能性がないとは言えません。

(3)ただ、現時点では上記①②いずれについても、嫌疑の相当性を認めるだけの事情があるかは明らかでなく、あくまで仮定の問題にとどまる点に留意する必要があります。

 

3.日産関係者との検察官との司法取引について

 11月23日までの報道によれば、日産関係者と検察官において司法取引がなされたと指摘されています。

(1) 本件について具体的にいかなる司法取引がなされたかは不明ですが、司法取引制度について概要を説明しますと、組織的犯罪の摘発を主な目的として、金融商品取引法違反を含む特定犯罪について(他の特定犯罪の対象は割愛します)、被疑者又は被告人が特定犯罪に係る「他人の刑事事件」について、供述等を行なうことに得られる「証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して必要と認めるとき」は、検察官と被疑者又は被告人との間により、不起訴や略式起訴に関する合意を行なうことができるとされ(刑訴法350条の2以下)、本年6月1日より施行されています。

(2) ただ、特定犯罪に関する司法取引制度については、①冤罪の危険が高まる恐れがあることから、充分な裏付け証拠があるか精査する必要があるとともに、司法取引対象となった被疑者・被告人に対する免責・処分の軽減等の効果が生じることから、取引対象者に処分の軽減等を行なってもなお、他人の刑事事件を解明するだけの充分な必要性・相当性が認められる必要があるとされます。

(3) 本件においても、ゴーン会長らの捜査や、公判に移行した場合において、司法取引により作成された日産関係者の供述等の内容が争われる可能性があります。

 

4.上記の他、株主等に関する民事責任(賠償責任)や、会社のガバナンスの問題等もありますが、別途コラムを分けて検討を行いたいと思います。

 

 

 

小川 智史 弁護士

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