弁護士コラム

日産ゴーン会長の逮捕について(3)

[投稿日] 2018年11月23日 [最終更新日] 2018年11月23日
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小川 智史 弁護士 神田須田町法律事務所

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 前回に引き続き、今回は、ゴーン氏らの逮捕を踏まえた、会社としての新たなガバナンス体制構築方法に関する法的問題について検討を行います。現実に実施されるか否かは不明ですが、法的に考えられる主な方法として以下の点が挙げられます。

 

1.役員の地位の解職ないし解任について

(1)「代表」取締役の地位の解職について

 報道によれば11月22日、日産は臨時取締役を開催し、ゴーン氏らの「会長」職及び「代表」取締役としての地位についての解職を決定したとのことです。

 もっとも、取締役は株主総会決議により選任されているため、取締役会決議ではあくまで「代表」権の解職に留まり、現時点では取締役としての地位は存続しています。

 なお、ゴーン氏らは現在勾留中ですが、仮に勾留されていなかったとしても、解職対象である「代表」取締役は特別利害関係人に該当するため、解職に関する取締役会決議には参加できません(会社法369条2項)。

 

(2)取締役の地位の解任について

 ア 取締役の地位の解任については、まず、株主総会の普通決議すなわち過半数株主の賛成を得る必要があります(会社法339条1項、309条1項)。

 報道によれば、日産はゴーン氏らの取締役の地位を解任するため臨時株主総会の招集を検討中とされます。

 ただ、日産についてはフランスのルノーが約43%の株式を有する筆頭株主とされるとともに、ルノーにおいては、無罪推定の原則等を踏まえ、現時点でゴーン氏のルノーCEO職の解職は行なわないようです。

 そのため、臨時株主総会を招集したとして、ルノーがどのような対応をするかが最大の焦点であり、現時点で報道等で明らかになっている情報を前提とする限りでは、解任のための株主総会決議が成立するか否かは不明です。

 イ もし、解任の総会決議が否決された場合、役員の職務執行に関し不正行為又は法令・定款違反がある場合には、総株主の議決権の3%以上を6か月以上有する株主は、役員の解任の訴えを提起できるとされます(会社法854条1項)。また、提訴に先立ち、取締役の職務執行停止の仮処分を行なう方法も考えられます(民事保全法23条2項)。

 現実に解任の訴えといった法的手段が実施されるか否かはともかく、仮に解任の訴えが認められたとして、株主総会決議で新たに役員を選任される場合、普通決議により過半数株主の賛成が必要なため、やはりルノーの動向がどうなるかにより大きく左右されます。

 

2.ルノーとの関係における持株比率の問題について

 上記の通り、ルノーが日産の約43%の議決権を有しているとされており、今後日産の独立性を高めるためには、ルノーの持株比率や議決権の問題をクリアする必要があります(なお、そもそも90年代の経営危機時にルノーが支援に乗り出したという経緯があるようですが、経営政策上の妥当性の点についてはここでは捨象します)。実際に実行するかはともかく、主な法的手段としては以下の方法が考えられます。

 

(1)日産からルノーに対する持ち株比率変更による議決権の制約

 会社法上、株式持ち合いによる馴れ合い防止の趣旨から、議決権行使の対象となる会社が他の会社の議決権の25%以上を保有するなどして実質的に支配する場合、25%以上の議決権を保有等をされている会社は、25%以上議決権を保有等をしている会社に対する議決権を行使できないとされます(同法308条委1項カッコ書)。

 つまり、日産がルノーの議決権を25%以上取得した場合、ルノーは日産の議決権を失うことになります。現在日産はルノー株式を約15%保有しているとされ、日産においてルノー株買い増しも検討されているとの報道もあるようです。

 たさし、ルノーはフランス政府が約15%の議決権を保有する筆頭株主とされており、私はフランス法は詳しく存じ上げませんが、仮に何らかの形でフランス法に抵触する場合、ルノーの株式の取得が制限される可能性もないとは言えません。

 

(2)ルノーから日産に対する持ち株比率の変更について

ア 上記の他、ルノーの日産に対する持ち株比率を下げる方法として、第三者割当増資等による新株発行ないし新株予約権発行の方法も考えられます。

イ ただ、一般に新株発行について資金調達の必要性等の合理的理由が必要とされ、持株比率変動を主要な目的とする場合には、不公正発行としてルノー等の株主から差止め請求を受ける可能性があります(会社法210条)。日産の資金状況が良好な場合、新株・新株予約権発行の必要性を認めるのが容易でない可能性があります(なお、日産の本年度第2四半期報告書によれば、本年9月末時点で現預金合計額が約1兆0869億円、流動資産合計額が約11兆7446億円とされます)。

ウ なお、2005年のライブドアからニッポン放送に対する新株予約権発行差止請求に関する東京高裁決定において、一般論としていわゆるグリーンメーラーによる買収や、焦土経営を目的とする場合等、株主全体の利益を保護するため正当な理由がある場合には、経営支配権維持・確保を目的とする新株・新株予約権発行も不公正発行に該当しない場合があるとされます。

 ただ、ルノーの場合は日産の経営支援開始から約20年に渡り日産の株式を保有しているとされ、日産からルノーへの配当や、ルノーへの経営統合の検討等の問題はあるようですが、現在判明している事情のみをもって上記例外的事由に当たると言えるかは疑義があります。

 

(3)他の協力企業等による1/3以上の株式取得について

ア ルノーにおいては、近々日産及び三菱自動車との経営統合を検討していたとの報道がなされています。

 仮に日産に対し、合併や株式交換、定款変更等の重要な組織変更を行なう場合、株主総会において議決権行使可能な株主の過半数が出席の上、2/3以上の議決権を有する賛成を得る必要があります(会社法309条2項)。

 上記ルノーの議決権を前提とすると、2/3の賛成を得られるか否か必ずしも明らかではありませんが、逆に、1/3以上の議決権を有する反対派株主を集めれば、少なくとも合併や株式交換等の組織変更は阻止できる可能性が高いでしょう。

イ ただ、①日産株式の1/3を取得するためには多額の資金が必要になるほか、上場会社の主要な持ち株比率の変更については、市場に公開して情報公開を図るととともに他の株主の取引機会確保の観点から、②特定の株主からの買受を前提とする場合であっても、買受後持ち株比率の合計が1/3を超える場合には、公開買付けの方法による必要があるとされます(金融商品取引法27条の2第1項)。そのため、なかなか一筋縄ではいかないと思われます。

 

3.まとめ

 日産とルノーの関係については、フランス政府がルノーの筆頭株主であることもあり、色々と複雑な問題をはらんでおり、今後の展開によっては外交問題となる可能性もあります。そのため、日本法を前提とする限りでは上記のような方法も考えられますが、あくまで可能性としてありうるという点に留まり、実際に今後どのような展開になるかは不明です。

 なお、ルノーによる日産や三菱自動車の経営統合が検討されていたとされることから、ゴーン氏らの逮捕の背景について様々な見解が述べられているようですが、私からは推測で検討することは差し控えます。

小川 智史 弁護士

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