弁護士コラム

無関係の会社が出願した「PPAP」商標に意味はあるのか?

[投稿日] 2017年02月02日 [最終更新日] 2017年02月02日

元弁理士が経営するベストライセンス株式会社(以下、「ベスト社」)が、「PPAP」「ペンパイナッポーアッポーペン」を商標登録出願したことが話題になっています。ベスト社は、YouTubeで一世を風靡した楽曲「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」を歌っているピコ太郎氏や、同氏が所属するエイベックス社とは全く関係のない会社です。

■ベスト社の商標は登録される?

そもそも、ベスト社の商標は特許庁の審査をクリアし登録されるのでしょうか。

商標法が定める商標の登録要件の1つに、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」商標であること、というものがあります。

PPAP商標のケースは、ニュース等によって広く知られていますから、特許庁の審査官は、まず、ベスト社が自己の業務にPPAP商標を使用する意思があるのか、という点に疑義があるとして、ベスト社に対し「拒絶理由通知」を送る可能性が高いと思われます。これは、商標登録を受けられない理由があると特許庁の審査官が判断した場合に、その理由を出願人に通知するものです。

しかし、ベスト社の代表者は元弁理士ですから、そこであきらめることはしないように思います。例えば、「PPAP」の商標を付したグッズを作成し、AMAZONなどで少数でも販売を開始しておいて、これを説明する資料を特許庁に提出し、ベスト社は「自己の業務」にPPAP商標を使用している、と反論するかもしれません。

そのような場合、審査官がどのように判断するかは微妙ですが、商標登録が認められる可能性もないとはいえないように思います。

■ピコ太郎は「PPAP」を歌えなくなる?

では、仮に、ベスト社の商標が登録された場合、ピコ太郎氏はもう「PPAP」を歌えなくなるのでしょうか。

結論からいうと、そのような心配はありません。そもそも、商標とは、自社の商品やサービスを、他社の商品やサービスと識別する機能(これを「自他商品識別機能」といいます)をもつことから、そのような商標に蓄積された信用を守るため、法的に保護が認められているものです。したがって、商標法は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には、商標権の効力が及ばない、と定めています。

ピコ太郎氏が歌う「ペンパイナッポーアッポーペン」という歌詞は、ピコ太郎氏の商品やサービスを他の人の商品やサービスと識別する機能を有するものではないことは明らかです。また、「PPAP」についても、楽曲のタイトルとして使用されている場合は、楽曲の内容(テーマ)を表しているものであり、やはり、自他商品識別機能をもつものではありません。したがって、ピコ太郎氏は安心して「PPAP」を歌い続けることができます。

■グッズ販売はどうなる?

エイベックス社は、子会社を通じて「PPAP」の文字が記載されたTシャツや文房具などのグッズを販売しています。ベスト社の商標が登録された場合、これらのグッズ販売は商標権侵害になってしまうのでしょうか。

ここでも、上に述べたのと同様に、「PPAP」の文字がどのような機能を果たしているかが問題となります。

確かに、販売されているグッズには「PPAP」の文字が記載されてはいますが、これらは、ピコ太郎氏の写真と一緒に付されていたり、ピコ太郎氏の特徴的な衣装を思わせる豹柄のデザインが施されていたり、リンゴとパイナップルがペンで刺されている絵の横に記載されていたりします。そういった使用の態様からすれば、これらのグッズに付された「PPAP」の文字は、販売元のグッズを他の会社の商品と識別するための機能を果たしているものではなく、これらのグッズが、ピコ太郎氏の楽曲「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」をモチーフとしたグッズであることを示しているといえるでしょう。

したがって、これらのグッズに付された「PPAP」の文字は、自他商品識別機能を有しておらず、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」に該当するため、ベスト社の商標権の効力は及ばないと考えられます。

ちなみに、自他商品識別機能を発揮しない使用態様のグッズには商標権の行使ができないという理論は、新しいものではなく、キャラクター「ポパイ」の絵が描かれたアンダーシャツに対する商標権の行使を否定した裁判所の判決が、今から約40年も前に出されています。

以上にみたように、ベスト社が出願した商標は、仮に登録されたとしても、ピコ太郎氏に対して楽曲ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」を歌うなということも、エイベックス社に対してグッズ販売の中止を求めることもできないと考えられます。

商標権は、その商標の使用を独占することに価値がある権利であり、商標権者の許諾を受けずに使用している第三者に対して、その使用をやめさせることができてはじめて、取得した意味があるものです。そのような観点からいえば、ベスト社が出願した「PPAP」商標には、ほぼ意味がないといえるでしょう。ベスト社の代表者である元弁理士が、ビジネスとしてこのような出願を行っているのだとすれば、ビジネスモデルを見直したほうがよいように思われます。

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大江 哲平 弁護士

取扱分野
企業法務

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