弁護士コラム

「人身切り替え」って何?交通事故の刑事手続について気をつけること

[投稿日] 2017年12月22日 [最終更新日] 2017年12月25日

Q 交通事故を起こしてしまいました。お相手にたいした怪我はないとのことで,警察では「物件事故」として受付がされていたのですが,後日お相手が「首が痛い」として病院に通院したそうです。自動的に警察の扱いも人身事故になってしまうのでしょうか?免許の点数などが心配です。


A 当初は物件事故として取り扱われたものが,後日になって人身事故として扱いが変わることがあります(このことを「人身切り替え」などと呼んだりします)。人身事故と物件事故とでは免許の点数のこと以外にもさまざまな点でちがいがあります。


1 物件事故と人身事故のさまざまなちがい 

 物損事故と人身事故では,取り扱いに大きなちがいがあります。
 そのちがいを生じる一番の理由は,
・物件事故は「犯罪」ではない(ただし道交法違反などがあれば別)
・人身事故は「犯罪」になりうる
 からです。

 これは,物件事故というのは,客観面だけをみると「器物損壊」(刑法261条)ですが,器物損壊罪には過失犯処罰の規定がありませんので,故意がないと犯罪にならないということです。
 
 これに対して,人身事故の場合には,自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪(自動車運転致死傷行為処罰法)などにより刑法犯になりうるということになります。

 
 この「犯罪になるかどうか」ということから,警察の取り扱いも,

・物件事故の場合には,簡単な事故受付しかされない(簡易な物件事故報告書しか作成されない)
・人身事故の場合には,詳細な実況見分が行われる(実況見分調書などが作成される)

というちがいとなって現れます。

 法律相談などの際,「事故後に警察に話したから,警察に聞いてもらえればわかる!」とおっしゃる相談者の方がいらっしゃいますが,物件事故の場合には極めて簡易な状況図(場合によっては図すらもない)しか描かれていないことがほとんどです。

 ですので,もし今後,過失割合などに争いが生じそうな場合には,加害者・被害者どちらにとっても,人身切り替えによってきちんと実況見分をして,正確な図面を残しておいてもらうということは有益である場合もあります。

 

2 どういう場合に人身切り替えができるか

 診断書を担当警察署(交通課)へ提出し,所定の用紙に記入するというのが一般的なようです。ただし,事故からあまりに期間があいてしまうと,警察の受付を渋られるなどの場合もあるようです。
 
 事前に電話をして,実況見分の日程を相手方と調整したりすることも多いようですので,まずは担当捜査官に電話で打診をするほうが良いでしょう。

 


3 人身切り替えを止める手段はあるのか

 相手方が人身切り替えをしそうだという場合に,「免許の点数が危ないので相手方が人身切り替えするのをやめさせたい」という相談もしばしば受けることがあります。ですが,相手方が診断書を提出しようとするのを無理矢理止める手立ては法律上はなく,あとはそれを受けて警察がどのような処理をするかは警察の決めることです。

 また,「あんな軽い事故で怪我をするはずがない。実況見分にも行きたくない。」という話も聞くことがありますが,それはあとあと民事の賠償事件の中で争う(傷病発生と事故との相当因果関係)べきことで,実況見分に行かない理由にはなりません(理由なく警察からの呼び出しを拒否し続けていると,最悪の場合には逮捕の理由にもなってしまいますので注意しましょう。)。


 ただ,「あんな軽い事故で怪我をするはずがない」という部分は,たとえ人身事故としての受付がされてしまったあとでも,民事の損害賠償の示談・訴訟の中で争っていくことは可能です。

 そうなったときのためにも,きちんと実況見分に行き,事故状況について「ここは正しい,ここはちがう」と自分の言葉でしゃべるほうが後々のためにも良いでしょう。通院経過や当事者の複数の不審な請求歴などが後日わかり,事故の発生そのものを争うような場合もないわけではありません。

 実況見分時に気をつけることとしては,自分が見た(記憶がある)ところと,見ていない(記憶がない)ところ(想像・推測)をきちんと区別して,明確に捜査官に伝えるようにしましょう。
 

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新田 真之介 弁護士

取扱分野
交通事故

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