弁護士コラム

知的障害など,判断能力に疑いがある相手との交通事故の示談交渉はどうすればいいですか?

[投稿日] 2018年04月05日 [最終更新日] 2018年04月06日

 

弁護士の新田真之介です。交通事故の損害賠償を専門にしています。
 
高齢社会の進展により,事故の当事者(加害者・被害者とも)が高齢者であるというケースは増えているものと思われます。
 
それにともない,(すでに弁護士が委任されている場合は別として),
 
交渉の相手が,知的障害(認知症などを含む)により判断能力に疑問があるケース
 
というのもしばしば相談を受けます。
 

Q 示談交渉の相手が判断能力に疑問があるものの,まだ後見開始などは受けていないようです。このまま示談して大丈夫ですか?

 
判断能力に疑問があるままで直接本人と示談書をとりかわしても,
後日,「意思無能力により無効だ」と問題になる可能性があります。
 
 

Q 家族にかわりにサインしてもらってもだめなんですか?

 未成年者の親権者と異なって,成人の場合は,単に親族であるというだけでは法的な代理権はありませんから,
 
 まずは弁護士などに相談してもらうなど,後見人をつけてもらうように促すことを試みるべきです。
 
 

Q それでも後見人がつかず,全く進展がない場合はどうしましょう?

 ①債務不存在確認訴訟とあわせて,②特別代理人選任申立(民事訴訟法35条)を行うという方法が考えられます。
 
 
 (公財)日弁連交通事故相談センターが発行する「交通事故相談ニュース40号」(2018年3月1日発行)『交通事故被害者等の判断能力と示談の効力に関する問題』(瀬谷ひろみ弁護士)にも,
 
「これらが奏功せず賠償の実現の目途が立たない場合は,支払側から債務不存在確認請求訴訟と特別代理人選任申立を行うことも考えられよう。」
 
という記述があります。
 
 

Q 「特別代理人」とは何ですか

 
民事訴訟法35条1項は,
 
法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
 
と定めています。
 
簡単にいうと,訴訟無能力者(後見開始の審判を受けていない意思無能力者も含まれると考えられています)に対して訴えを提起する場合に,裁判所に「この訴訟だけの代理人」をつけてもらうよう求めるという制度です。
 
 
申立の手数料は500円程度(民事訴訟費用法3条)ですみますが,
特別代理人の報酬のための予納金として10万円前後を準備する必要があります(最終的には敗訴者負担)から,やはり「最後の手段」と考えるべきだと思われます。
 

Q 「遅滞のため損害を受けるおそれ」とは?

 
条文にかかれている「遅滞のため損害を受けるおそれ」は,通常は,
・消滅時効にかかるおそれ
・証拠散逸のおそれ
 
などが考えられますが,この問題状況の場合,支払側から提起することになりますので,どこまで「損害を受けるおそれ」として認められるのか(当事者の事故状況への記憶が薄れていく,などでも認められるのか)が問題になります。
 
裁判例を調べてみたところ,特別代理人がよく選任される,
・当事者の法人(運転者の使用者など)が破産手続が開始されているケース
・相続事件との絡みで特別代理人が選任されたというケース
以外には,以下の裁判例が見つかりました。
 

○ 被害者側から(被害者の兄を)特別代理人に選任することを申し立てた事例

 事故で重度の精神障害の後遺症を残す被害者の事案で、訴訟の際、禁治産者宣告を受けてからだと、相当期間を要し、治療費等の損害が膨らむため、民訴法56条を準用し、未成年である被害者の長男を特別代理人にして訴訟を行なう事が認められた事例(京都地裁昭和57年9月7日)

○ 加害者が精神障害によって不法行為を行っており,被害者からの損害賠償請求事件の中で特別代理人の選任を申立てた事例
 心神状態にある者による隣家への放火行為の過失の有無につき、自らを医師の治療を受けない状態で放置することの危険性は認識し得たものと、過失があるものと損害賠償責任を認めた事例(神戸地裁尼崎支部 平成10年6月16日判決)
 
しかし,支払側からの債務不存在確認請求と合わせて特別代理人の選任が申し立てられた裁判例は,今回検索した範囲では見つかりませんでした(もしご存知の方はご一報いただければ幸いです)。
 
 
一見すると,「賠償を請求する側ではないんだから,時効消滅するまで気長に待っておけばいいのでは?」という考え方もありそうですが,
 
この度の民法改正により,人身損害の消滅時効が3年から5年に伸びますので,
 
今後「そんなに長くまっていられない」という事情があるケースも出てくるものと思われ,
 
この制度の活用が注目されると予想されます。
新田・天野法律事務所 〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1-12-6 KSビル6階
Resized avatar mini magick20171121 20539 dh0emu

新田 真之介 弁護士

取扱分野
交通事故

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。