弁護士コラム

交通事故発生場所から遠い地方裁判所に損害賠償を提起されました。自分の近くの裁判所に事件を移してもらうことはできますか?

[投稿日] 2018年06月14日 [最終更新日] 2018年06月14日

(相談)交通事故が発生した場所と全くちがう場所に損害賠償請求訴訟を提起されてしまいました。

そもそも民事交通賠償事件はどの裁判所に訴えを提起することができるんでしょうか?

また,一度提起された訴訟を別の裁判所に移してもらうことはできるのでしょうか?

 

弁護士の新田真之介です。交通事故などの民事損害賠償請求事件を専門としています。

 

今回は「管轄」と「移送」というお話です。民事訴訟法全般ではなく,交通事故による賠償事件に特化して,あまりむずかしくならないようおおざっぱな説明をします(正確な条文の文言や例外などまで確認したいと場合は民事訴訟法4~5条やその注釈書を是非参照してください。)


1 民事交通事件の土地管轄

そもそも交通事故に基づく損害賠償請求事件を訴えることができる場所(「土地管轄」といいます)としては,以下の選択肢があります。

  1.  被告の住所地
  2.  原告(被害者)の住所地(「義務履行地」とよばれます)
  3.  事故が発生した場所(「不法行為地」とよばれます)
  4.  当事者が合意した場所

(他にも,いくつかの事件が併合されている場合や,管轄がないが被告が応訴した場合などがありますが,複雑なので今回は省略します。)

よく問題になるのは,事故の発生場所や当事者(運転者など)の住所とは全くちがう遠方の裁判所に訴えが提起された場合に,事件を他の裁判所に移してもらえるか,という問題です。


2 民事訴訟法17条に基づく移送(いわゆる裁量移送)について

民事訴訟法17条は,

第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

としています。条文だけをみると,

  • 当事者の住所
  • 証人の住所
  • 検証物の所在地
  • その他の事情

が挙げられています。


ところで最近,別冊判例タイムイズ1446号(2018年5月号)に,「民事訴訟法17条に基づく移送について-要件・考慮要素の検討を中心に-」という裁判官による論文が掲載されました。

それによれば,民訴法17条に明文でしめされた考慮要素以外に,以下のような考慮要素が裁判例で挙がっているという指摘がありました。

  • 鑑定人の住所・鑑定の対象物の所在地
  • 当事者の資力・属性等(健康状態や,一方が国又は公共団体など)
  • 事案の性質
  • 専門部・集中部の存在
  • 管轄原因
  • 関連訴訟の係属
  • 管轄選択権の濫用

これらの要素どうしの関係や重要度についてもさまざま検討されており,興味深い内容だと思います。

 

3 民事交通訴訟の場合

民事交通訴訟では,以下のようなケースでよく移送申立がなされるように思います。
その申立が「認められやすいか,認められにくいか」については個別の具体的事情によってそれぞれのケースでは判断されることは上記2で紹介したとおりですが,以下のような傾向はあるように思います(あくまで個人的な見解です)。

(1)移送が(比較的)認められやすいケース

(例1)事故の双方運転者ともに遠方なのに,求償請求を含む場合など,会社の本社所在地が東京だからというだけで東京に提訴したとき

(例2)医学意見書や工学鑑定書などの技術的な争点が出てくることが訴訟開始時点で明らかで,移送先の裁判所には交通事故専門部(または集中部)があるとき(とくにはじめが簡易裁判所の場合:ただし民事訴訟法18条により同じ場所の地方裁判所への移送になることが多いかもしれません)

これらの場合では,比較的あっさりと移送が認められることが多いように感じます。

 

(2)移送が(比較的)認められにくいケース


(例3)審理がある程度進んだあとで,示された和解案が不利だったために(裁判官を変えて控訴と同じ効果を得るためと推認されるタイミングで)移送を申し立てられたとき

(例4)事故場所と被告住所はA県,被害者の住所だけが遠方のB県で,B県の裁判所に提起されたケース

実はこの例4のような場合が1番移送申立がされやすい場合だと思いますが,比較的移送が認められるのが難しいという印象です。
物損だけでなく後遺障害をはじめとする人身損害も含んでいる場合は原告が遠方まで出頭する場合の不便を考慮しなければならない一方,目撃証人などの尋問の可能性が高い場合は,証人への旅費等の問題も出て来ます。

理論面とは別として,実際問題としては,担当弁護士の出頭の負担を考えて申立をするかどうか判断することが多いかと思います。すでに遠方で訴えが提起されているとすれば,そちらに近い場所で弁護士を探すとか,両方の弁護士どうしが近い場所で管轄を合意するとか,いろいろな方法があるように思います。

また,仮に移送が認められない場合でも,遠方の地方裁判所の場合には電話会議を利用した弁論準備手続が使われることが多いですし,まだ電話会議システムがない簡易裁判所でも,第2回期日以降でも擬制陳述(事前に提出した書面を期日で陳述したことにすること)にするなど,工夫次第では負担が大きくならないように運用できているように思います。

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新田 真之介 弁護士

取扱分野
交通事故

コラムの内容は更新時のものであり、最新の情報と異なることがあります。

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