弁護士コラム

薬物使用と自動車事故についての最近の動向

[投稿日] 2018年05月14日 [最終更新日] 2018年05月14日

今回は薬物と自動車事故についてです。

2014年に,池袋で「危険ドラッグ」使用者による死亡事故が起きたことをきっかけに大きく社会的注目を集めました。

警視庁の統計によれば薬物事犯の検挙人数はここ数年1万人を越えて横ばい状態であり,決して減少しているわけではないようです。

しばしば薬物犯は「被害者のいない犯罪だ」と言われますが(それ自体,本人や周囲の人間に対する危険などさまざまな議論があります),薬物使用中の事故などは被害者を生む典型かと思います。


1 危険ドラッグ吸引と自動車事故


「危険ドラッグの大流行とは、高度な現代科学の知識と先端技術が悪用された人類の歴史上で類を見ない知能犯の仕業と言える。」

これは、ある論文(京都大学・金子周司「危険ドラック吸引と自動車事故ー2012年から2014年にかけて国内で起こった96の事例ー」
(雑誌『法科学技術 』22巻2号49頁以下
))の一説です。

危険ドラッグの包括規制(2013年)後もあとを絶たない危険ドラッグ使用者による交通事故の問題につき、非常に興味深い論文でしたので、ポイントのみを紹介させていただきます。

論文の書誌情報はこちらです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafst/22/2/22_r019/_article/-char/ja


①  危険ドラッグに関連した交通関係法令違反での検挙事例は2012年に初めて19件発生し、翌年には38件、2014年には157件と急激に増加した。

②  96事例で事故直後の目撃情報がなかった7件を除き、運転者が意識朦朧で発見された例が73件と圧倒的に多かったが錯乱や興奮状態が目撃された例も16件あった。

③  事故前後の様子を記録している運転者が皆無である一方、記憶がない時間帯も含めて吸引をしばらくは事故に至らず運転していた例が多い。

つまり、目から入力する情報に応じて運転操作を行っている(つまり意識がある)にもかかわらず、起こっている事象記名できない前向性健忘に陥っていることを意味する。

④  重大事故では事故現場に向かってハンドルを切らずまっすぐに、かつアクセルを踏んだまま加速しながら突っ込んだ事例が多くあったが、これはアクセルに置いた右足が硬直するようなカタレプシーが起こったことを意味する。(実際、事故後に駆動輪のタイヤが溶けるまで空転していた場合や右足を車外に出そうとしたら硬直していた場合があった)

 

 

2 保険約款の免責


搭乗者傷害保険や人身傷害保険,車両保険などの約款では,


「被保険者が法令に定められた運転資格を持たないで被保険自動車を運転している場合,酒気を帯びた状態(ただし,道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「道交法」という。)65条1項の規定に違反している状態をいう。以下同じ。)で被保険自動車を運転している場合,又は,麻薬,大麻,あへん,覚せい剤,シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で被保険自動車を運転している場合に生じた傷害に対しては,保険金を支払わない。」

 

というような免責条項が入っている場合が多いと思われます(詳しくは個別の約款を確認してください)。

裁判例としては,以下のようなものがあります。

■静岡地裁沼津支部平成21年11月30日判決(自保ジャーナル・第1816号)

単独事故による人身傷害保険金等の請求につき、27歳からシンナーを吸引、塗装業で稼働の原告は、ガードレールに衝突の第1事故、その3日後には側溝に脱 輪して走行不能の第2事故以外にも、曲がり切れずポールに衝突等、4日間に5 件の自動車事故を発生させ、病院診療録には「慢性シンナー中毒との記載がある」等から、「原告は、シンナーの影響により正常な運転ができないおそれがある状 態」で「運転して」、「本件事故を起こした」と認定して保険金支払を免責した。

■東京高裁平成20年9月24日判決(交民集41巻5号1171頁)

未明の高速道路から一般道に降りる流出路上で、20歳男子Aがパンツ一枚で横臥、訴外普通貨物車に轢かれ死亡、Aの両親が甲保険会社に傷害保険金を請求する事案につき、Aの遺体からは幻覚剤で麻薬に指定されるトリプタミン系化合物が検出、この幻覚剤を摂取した結果、パンツ一枚で流出路に横臥という異常行動に至ったと認定し,事故時Aは薬物により『心神喪失』状態にあり、家族傷害保険の普通保険約款での免責事由にあたるとして、Aの両親の請求を棄却した。


などがあります。

このように,危険ドラッグ使用によって正常な運転ができないおそれがある状態で運転して事故が起きても,保険金が支払われないということになります。


3 民事の損害賠償責任


危険ドラッグ使用そのものが問題となった民事の損害賠償事件の判例はみつかりませんでしたが,
大麻やシンナーなどを含めると,以下のようなものがありました。


■仙台地裁平成24年3月26日判決(自保ジャーナル1885号)
歩道で信号待ち待機中の16歳男子高校生亡Aが、酒気帯び・居眠り運転の被告乗用車に衝突されて死亡した事案につき、「被告による本件事故直後の大麻の投棄や、 自ら119番通報及び110番通報をしなかったことは、亡Aの死亡との間に因果 関係を認め難いとしても、やはりそのような事情を知らされた亡Aや、両親の悔しさ、悲しみ等が深まる一方であることは、社会通念上も首肯し得ることであるから、慰謝料の増額方向に作用する事情になり得るものであるといえる」等から、亡A2,200万円、両親各250万円の慰謝料を認めた。

 

■大阪地裁平成10年2月26日判決(自保ジャーナル1264号)
深夜、歩行者横断が困難な時速60㌔の4車線道路で運転車両がパンク、側道でのタイヤ交換を中断して横断したとき、飲酒運転でスピード超過の加害乗用車に衝突された事案で、被害者が覚せい剤使用での異常行動をとったこと等から4割の過失相殺が適用された事例。

■大阪地裁平成25年3月8日判決(自保ジャーナル1903号)
自賠責1級1号後遺障害を残す45歳男子原告が、覚せい剤による9級精神障害の加重認定を受ける事案につき、「原告の症状精神病は、覚せい剤使用による行動の障害が含まれ、行動にも障害が現れていたと認められることからすれば、同症状は現存障害との関係で素因減額事由として考えるのが相当である…原告の症状精神病が自賠等級別表第二の9級相当であると判断されたこと、もっとも、本件診断書が存在することなどの事情を勘案し、原告において、25%の素因減額をすることが相当であると解する」と認定した。

 


■高松高裁平成5年7月20日判決(自動車保険ジャーナル1050号)
仲間3人で加害乗用車を窃取・管理し、5日間、互に交替運転して乗り回していたが事故時はシンナーを吸引し、ノーヘルで制止を振り切って自動二輪車を運転 し、追従するよう促して先行中、100キロの高速運転で衝突された右事案につき、自賠法は免責されたが、加害運転者には民法709条責任が認められた事例

 

■宇都宮地裁平成5年4月12日判決(交民集26巻2号470頁)
シンナー吸引している友人の車に同乗し、事故で死亡した被害者に対し、シンナー吸引の事実を知りながら同乗した被害者に、3割の過失相殺を認めた事例。

このように,被害者に与えた損害については当然不法行為責任を負うことになりますし,また自らに損害が発生したという場合でも,過失相殺や素因減額(これら用語については別の記事で解説します)による減額がなされています。

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新田 真之介 弁護士

取扱分野
交通事故

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