弁護士コラム

会社の業務中に従業員が交通事故を起こして,会社が被害者に損害を賠償した後,従業員に求償できる?

[投稿日] 2019年03月26日 [最終更新日] 2019年03月26日

新田・天野法律事務所の弁護士新田真之介です。

今回は「従業員への求償」についてです。

会社の業務中に従業員が車を運転していて交通事故を起こして,第三者に損害を加えてしまった場合について,基本的なまとめをしてみます。

その上で,実際に求償をかけるのか,もしくは損害保険が使えるなら使うのかなどは経済的なものやレピュテーションなものもあるので個別の経営判断になろうかと思います。

 

1 使用者責任(民法715条1項)と被用者への求償

会社の業務中に従業員が事故をお置きした場合,使用者(会社)は,従業員(被用者)がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。

この民法715条には,3項で,「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定されているので,被害者に損害賠償を支払った使用者は,直接の加害者である被用者に対して求償できることになります。

 

2 信義則上の制限(判例)

ただ,求償を無制限に認めるのは使用者と被用者の公平に反するとして,無制限に求償することはできない(制限される)と考えられています。

判例は,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して損害の賠償または求償の請求をすることができるとしました(最高裁昭和51年7月8日判決,交民9・4・915)。

 

3 裁判例の傾向は,20~30%程度に制限するものが多い

上記の最高裁の規範は抽象的なので,「ではいったいどのくらい求償できるの?」という疑問が生じますが,諸事情の総合考慮なので,具体的ケースを参考にするほかなさそうです。

ちなみに上記の最高裁の事例は,従業員がタンクローリーを運転中に起こした事故について,被害者に損害賠償を支払ったことに基づく求償と,会社自身に発生した損害(タンクローリーの修理費等)に関する請求について,①使用者が十分に保険に入っていなかったこと,②臨時乗務中の事故であったこと,③被用者の通常の勤務成績が良かったこと,などの事情から,信義則上,使用者は被用者に対して損害の4分の1(25%)に限り求償できるとしました。

その後の裁判例では,以下のようなものがあります。[]で求償を認めた割合を示しました。

(1)東京地裁平成14年10月30日[0%

アルバイト従業員が勤務先の車両で起こした自損事故について,使用者が事故後に「一生懸命働くなら,修理費は請求しない」等述べたことをもって債務免除の意思表示があったと認定。

(2)京都地裁平成12年11月21日判決[5%

単独事故を起こした運転手に会社が修理費を請求した事案で,車両保険に加入せず,頻繁に起こる事故に対して安全指導や車両点検等を怠っていることなどを考慮。

(3)神戸地裁平成26年9月26日判決[10%

従業員が大型貨物車を運転し,3回の交通事故を起こして使用者が支払った修理費とレッカー代,第三者に支払った損害について求償請求したケースで,会社には一定額を被用者に求償・賠償請求することを定めた内規があった場合でも,会社は信義則上相当な限度でしか請求できないとした。

(4)神戸地裁平成25年6月26日判決[20%

運送会社のトラックが自損事故を起こしたために会社が修理費を負担したケースで,従業員と連帯保証人への求償を5分の1に制限した。

(5)大阪地裁平成23年12月1日判決[25%

孫請会社従業員が,元請会社所有のフォークリフト運転中に死亡事故を起こしたケースで,孫請会社は「フォークは元請会社の所有だから任意保険が付保できなかった」と主張しましたが,判決は「元請会社と請負契約を締結する際に任意保険の付保の有無を確認してそれがない場合には自らそれに代替する損害分散の措置を講じておくべきであった」として,25%に制限しました。

(6)神戸地裁平成25年7月25日判決[30%

運送業務中の居眠り運転で事故を起こした従業員への車両損害と休車損害の請求について,従前の従業員の勤務態度が良好であったこと,車両保険に加入を止めていたこと(ただし従業員は了解していたこと),勤務日程が特に無理なものであったり運転に影響を及ぼすような過積載を強いられたりした事情も認められないこと等から,30%の限度で賠償責任を負うとしました。

(7)横浜地裁平成20年9月11日判決[33%

被用者の不注意で明らかに高さの足りない橋桁に衝突した事故で,保険に加入していなかったこと等を考慮して,会社が支払った修理費の3分の1に求償を制限した。

 

4 まとめ

以上のとおり,「従業員への求償は,とれても2~3割」とおおまかに頭にいれておくのが良いと思われます。

会社としては,まずは事故防止措置(安全指導や健康管理等)を充実させることと,損害保険への加入などの措置をとっておくことが優先でしょう。

その上で,上記のような制限があってもなお求償請求をすべきかどうか,判断していくことになります。

 

参考文献 

・大嶋・羽成・松居編『新版 交通事故の法律相談』(2016年)97頁以下

・板東他編『交通事故事件処理の実務』(2013年)272頁以下

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新田 真之介 弁護士

取扱分野
交通事故

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