弁護士コラム

高齢ドライバーに対する免許規制について

[投稿日] 2016年12月08日 [最終更新日] 2017年01月16日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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近時、高齢ドライバーによる重大事故の発生が度々マスコミ等で報道され、社会問題化しています。

そこで、高齢ドライバーに対する運転免許規制について、検討を行ってみたいと思います。


1.現在ないし近々予定されている道交法上の規制

(1) 現在の道路交通法(以下、「道交法」といいます)においては、70歳以上の方が運転免許を更新する場合、運転能力が低下しているおそれがあることから、特別の講習の受講が義務付けられています。


(2) また、75歳以上の方が運転免許を更新する際には、運転能力が著しく低下していないか検査を受ける必要があり、認知症発症ないしその疑いがある場合には、具体的な程度に応じ、運転免許の停止ないし取消がなされる場合があります。詳細は警察庁HP「講習予備検査に関するQ&A」を参照いただけましたら幸いです。


(3)その他、一定の危険性が生じた場合において、管轄公安委員会による運転免許の取り消し、又は6月以内の免許の停止について道交法103条1項各号において定められており、ひき逃げ等の悪質な場合の免許取消については同条2項で定められています。

 同条1項1号~7号では、類型的な危険性を有する場合について例示しており、例示に当たらない場合であっても、包括規定として同項8号により、運転行為が「著しく道路における交通の危険を生じさせる恐れがあるとき」には取消又は免許停止ができる旨定めています。

 現行法上、同項8号に該当する場合には高齢ドライバーに対する免許取消や6月以内の免許停止が可能ですが、後述する居住移転の自由(憲法22条1項)や生存権(憲法25条1項)との関係を踏まえますと、同項1号~7号等と同程度の危険性が必要と思われます。

 

(4)もっとも、上記の点だけでは、高齢ドライバーによる交通事故発生増加に対ししかるべき対応ができない、として今年の通常国会で道交法が改正されました。
具体的には、75歳以上の高齢ドライバーについて、運転免許更新時に限らず、一定の交通違反が発生した場合には、医師による認知症検査を義務付け、認知症の疑いがあると診断された場合には、運転免許の停止ないし取消事由に該当することとなります。検査対象となる具体的な交通違反事由については、そうしたキーワードで検索すればいろんなサイトが出てくるので、ここでは割愛します。
 当該改正については、来年3月12日に施行予定であり、本日(平成28年12月8日)時点では、まだ適用されないということになります。


2.道交法改正の可能性について

(1) 最初に述べた通り、近時高齢ドライバーによる交通事故が頻繁にマスコミ報道が取り上げられており、上記改正で十分に対応できるか、についてはより一層の検討が必要でしょう。

 内閣においても、高齢ドライバーによる交通事故増加について、早急な課題として法改正を含めた対策を検討しているようです。


(2) 特に、実際に高齢ドライバーによる交通事故に遭遇された方にとっては、上記対策だけでは到底不十分ではないか、というお気持ちもあるのではないかと思います。

 刑事罰に関してですが、現行法の改正経緯に関しても、元々交通事故については、刑法の業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)一類型に過ぎず、法定刑も5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金に過ぎませんでした。

 しかし、これでは悪質な運転行為による交通事故に対処できないとして、被害者遺族等が中心になって国会への働きかけや世論形成を行ない、①危険運転致死傷罪が新設され(旧刑法208条の2)、現在は傷害事故の場合は15年以下の懲役、死亡事故の場合は1年以上の有期懲役と定められ(現・自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条)、②通常の事故の場合も7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金と法定刑が引き上げられました(旧刑法211条2項、現・自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。
 なお、有期の懲役刑については1月以上20年以下と定められているため(刑法12条1項)、①のうち傷害事故の場合の懲役刑は1月以上15年以下、死亡事故の場合の懲役刑は1年以上20年以下、②につき懲役刑は1月以上7年以下となります。3年以下の懲役の場合には、刑の執行猶予が付く場合もあります(刑法25条)。

(3) 今後の法制度については、立法論ないし政策論であり、人それぞれの価値判断にもよりますので、ここでは具体的な立法論ないし政策論には言及しません。 ただ、我が国は民主主義国家である以上、法改正には国民の代表者である国会(原則として両議院)で決議される必要があり(憲法41条、43条1項、59条1項。ただし、衆議院での再可決について59条2項)、個々人の主張のみによって実現できるものではありません。


(4) もっとも、個々人の主張を法改正のために反するための方法としていくつか挙げてみますと、①警察庁のパブリックコメント等で意見を述べる、②国会議員の方にSNS等で法改正に関する意見を述べる(ただし、個々の議員さんは毎日多数の陳情がなされ、皆さんお忙しいでしょうから全ての陳情に対応頂けるか分かりませんが)、③TV・週刊誌等のマスコミに取り上げてもらい、世論形成を行なう、等の方法が考えられます。
私がこれらの方法を推奨しているわけではありませんので、実際に実施するか否かは本コラムをご覧いただいた方それぞれの判断になります。


3.道交法上の免許規制を強化する場合の問題点について

(1) 上記2では、刑法や道交法等を改正し、規制を強化する場合について検討を行いました。
 さらなる防止策としては、高齢者に対する運転免許規制をより一層強化する、というのも一つの方策でしょう。


(2)ア しかし、そもそも東京23区等の大都市では電車やバス等の公共交通機関が多数あり、車がなくてもそれほど不便がないかもしれませんが(実際、私も東京23区内を移動する限りでは、自動車がなくて不便を感じることは滅多にありません)、それ以外の地域では自動車は移動のために必要不可欠な手段です。

イ にもかかわらず、あまりに規制を強化しすぎてしまうと、その規制の仕方いかんによっては、憲法で認められた居住・移転の自由(憲法22条1項)や生存権保障(憲法25条1項)、法の下の平等(憲法14条1項)に違反してしまうおそれがあります。

ウ 具体的に検討しますと、①例えば雪国で冬季に自動車を使えない場合、自転車や徒歩での移動は困難であり、近所に買い物に行くことすらできず、生活に支障が生じるおそれがあります。②そこまで極端な場合でなくても、私も地方出身ですが、実家の近くには1時間に1本程度しかバスがなく、自動車がないと日用品や家電製品の購入にも支障が生じます。
 また、「公共交通機関を使えばいい」という意見もあるかもしれませんが、③最近JR北海道が赤字路線の廃止ないし経営見直しを発表したように、地方では公共交通機関の維持するのもなかなか大変です。④最近北海道新幹線や北陸新幹線が開業しましたが、いわゆる整備新幹線の場合、従来JRが運営していた並行在来線について、新幹線開業後は自治体等が出資する第三セクターに経営を移管し、全部ではないですが実質的に税金を投入して経営を維持するに近い形になっています。⑤更に、鉄道以外にも、地方では行政がバスを運営している例が少なくありません。「公共交通機関の利用を優先する」という考え方に立った場合、最終的に増税という形で国民負担が増大する可能性がありますが、それ以前に我が国の現在の財政状況ではおのずと限界があるでしょう。地方では都会のように公共交通機関が沢山あるわけではなく、通勤・通学にも重大な支障が生じる恐れがあるでしょう。

エ また、憲法上、生存権等の社会権規定(憲法25条以下)が定められており、国に対し積極的な社会福祉政策実現を求める趣旨と解されますが(憲法25条)、最高裁の判例では、生存権の具体的内容については、文化の発達、国民経済の進展その他多数の不確定要素を総合考慮して初めて決定できるものとされています。したがって、公共交通機関の充実については、基本的には立法政策の問題ということになると思います。
 もっとも、生存権等の社会権についても、立法により積極的に「文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項)が侵害された場合には、憲法違反となりうると解されています(通説)。そのため、一律に運転免許の制限を強化し、交通が不便な地域で日常生活を送ることが困難となった場合、生存権侵害として憲法25条1項違反となるおそれもあります。

オ そして、法の下の平等規定(憲法14条1項)については、画一的な平等を求めるものではなく、合理的理由による区別は許容する趣旨と解されていますが(通説)、一律に「〇歳以上」年齢で規制することや、一定の危険性がないにもかかわらず運転免許を制限した場合、他のドライバーと比較して合理的理由による区別とは言えないでしょう(ただし、民法で未成年者の行為能力が制限されている点を踏まえ、18歳未満に普通自動車運転免許取得を認めないことは合理性有という前提に立っていると思われます)。

(3)高齢ドライバーによる交通事故発生については、大変重大な問題であり、その防止策についてはより一層の対応が必要かと思います。

 前述の通り、現行法上も道交法103条1項8号による包括的規制がありますが、仮にそれ以上に規制強化を行なう場合であっても、運転者の年齢や運転能力、過去の交通事故歴ないし交通違反歴等、事故発生の危険性及び防止効果との関連性を踏まえた上で、十分な検討が必要でしょう。

  なお、上記の点を踏まえた(と思われる)解決策の一つとして自動運転車の導入が検討されているようですが、この点につきましては別途「自動運転車の導入について」のコラムにて検討しておりますので、こちらもご参照いただけましたら幸いです。


4.コラムの訂正について

 当初、12月7日に投稿したコラムにおいて、(1)75歳の方の免許の「更新」の場合の検査義務についても施行前という趣旨の記述がありましたが、上記の通り訂正いたします。
 また、(2)同投稿において、危険運転致死罪の法定刑につき1年「以下」の有期懲役と記載しましたが、1年「以上」の誤りですので、上記の通り訂正いたします。

小川 智史 弁護士

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交通事故
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