弁護士コラム

大統領制における罷免と議院内閣制の比較

[投稿日] 2016年12月09日 [最終更新日] 2017年01月21日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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1.大統領制における大統領の罷免について 

(1) 本日、韓国で朴大統領が、自身や関係者のスキャンダルを理由として、国会で罷免決議がなされ、憲法裁判所の審判にかけられることとなりました。現時点では、朴大統領は、弾劾決議前に自発的辞職はせず、憲法裁判所での弾劾手続移行もやむなしと判断しあようです。

 韓国は大統領制であって、大統領自身が国民の直接選挙で選ばれているため、国会との二元代表制ということになり、議会から行政の最高責任者として選任された訳ではありません。

 

(2) 現代において、民主主義国家では、国家の指導者による独裁防止のため、何らかの形で最高指導者の権限に歯止めがかけられています。

 歴史的な経緯を踏まえれば、君主や独裁者により、恣意的な国家の統治がなされるのを防止するために国家の最高規範として「憲法」が定められ、「法の支配」を実現するため、権力者に対し権力を行使する法規範となっています(いわゆる「立憲主義」)。

 

(3) 他の大統領制をとる主な国としてアメリカが挙げられ、私もアメリカの憲法について詳しくはありませんが、原則として大統領の任期が2期8年までの制限となっていたはずです。アメリカ大統領に関しては中途辞任した例はほとんどなく、ニクソン元大統領がいわゆるウオーターゲート事件で中途辞任した例ぐらいだったと思います。

 アメリカの場合、大統領が一定の犯罪行為を犯したとして下院の半数及び上院の2/3以上の賛成により弾劾決議が可決した場合には、罷免されるとされます。ただ、実際に大統領の弾劾決議が可決された例はないようです。上記ニクソン元大統領の場合、弾劾決議が議決される前に辞任したとのことです。

 また、アメリカでは任期途中で大統領が不在となった場合には副大統領が大統領に昇格することを前提とするため、選挙戦の際に副大統領候補も指名した上で、副大統領候補も含めて大統領選を行ないます。

 任期途中での大統領交代に関しては、上記ニクソン大統領の例の他、①第2次世界大戦・太平洋戦争中にルーズベルト大統領が死去してトルーマン副大統領が昇格し、第2次世界大戦・太平洋戦争が終結した例や(なお、ルーズベルト大統領の死去は1945年4月12日とされますが、第2次世界大戦の終結日をいつととらえるかは、世界史の専門家にお任せします)、②ケネデイ大統領暗殺によりジョンソン副大統領が昇格した例等が挙げられます。

 

2 我が国における首相に対する不信任

(1) 日本の場合においては、議院内閣制を前提としており、国会の議決により内閣総理大臣を指名することとし(憲法67条1項)、両議院の議決が異なった場合には、両院協議会を開いても意見が一致しない場合等においては、衆議院の議決が優越することとなります(同条2項)。

 そして、内閣総理大臣の辞職を求める場合には、衆議院において内閣不信任決議を行なうことができ、決議から10日以内に衆議院を解散しない場合には、内閣は総辞職する必要があります(憲法69条)。

 内閣不信任決議が可決し、内閣が衆議院を解散した主な例としては、1993年の宮澤内閣不信任決議が挙げられますが(当時自民党に所属していた小沢一郎氏らが賛成に回ったため、可決しました)、確か現行憲法下では内閣不信任決議が可決した場合は全て衆議院を解散していたのではないかと思います。

 もっとも、現行憲法上、内閣は少なくとも衆議院の過半数を占める与党議員の投票により選任されている以上、内閣の就任後に与党が衆議院で過半数割れしたり、与党議員が賛成に回るような場合でないと、実際に内閣不信任決議が可決すること自体が例外的です。

 

 (2) ただ、現在の安倍内閣は再度の就任後は約4年間政権を維持しておりかなり安定した政権ですが、それ以前の政権は1年程度で内閣が総辞職する例が多かったです。

 他国と比較した場合でも、主な議院内閣制をとる国として、イギリスやドイツ等が挙げられますが、いずれも数年程度首相を務める国が多く、我が国は他の議院内閣制をとる国と比較しても、短命な内閣が多い国と言えるでしょう。

 

3 衆議院の解散について

(1) 上記の通り、衆議院で内閣不信任案が可決した場合には内閣は衆議院を解散することができますが、一般的な衆議院の解散はそのような場合に限定せずに行われています。

 その法的根拠について、学説的には色々ありますが、現在の内閣の見解は、天皇の国事行為として内閣の助言と承認により衆議院の解散を行なうとされている所(憲法7条3号)、天皇は国政に関する権能を有しないとされるため(憲法4条1項)、内閣に衆議院の解散の決定権がある、という根拠によります(なお、天皇の国政不干渉については、いわゆる天皇陛下の退位に関しても問題となりますが、ここでは詳しくは言及しません)。

 

(2) そのため、内閣の衆議院に対する「7条解散権」が最大の武器であり、牽制効果を有することになります。

 典型的な例としては、2005年に当時の小泉首相が、いわゆる郵政民営化法案について、参議院で否決された際、衆議院の解散・総選挙を行なった例が挙げられます。この時は、小泉首相支持勢力が衆議院の2/3以上を獲得した結果、法律案について参議院で否決した場合であっても、衆議院で出席議員の2/3以上で再可決した場合には法律として成立するため(憲法59条2項)、小泉首相としては郵政民営化達成が可能となった訳です。

 

(3) もっとも、現行憲法下では間接民主制をとっており(憲法前文、43条1項、41条等)、そもそも国民が直接個別の法案の可否を判断するものではなく、本来国会議員の選挙はあくまで代表者を選ぶ選挙のはずです。そのため、単一政策の実現のみを目的とする選挙は間接民主制違反の疑いがあります。

 しかし、衆議院の解散の有効性について裁判で争えるか否かの点について、最高裁は、高度に政治性を有する事項については司法審査の対象外であるとして(「統治行為論」)、衆議院の解散自体については司法審査の対象外とされます(ただし、いわゆる「一票の格差」による選挙の有効性の問題に関しては、国民の平等権侵害(憲法14条1項)として、司法審査対象とされます)。

 そのため、衆議院の解散自体について裁判で争うことは事実上不可能です。結局、現在の解釈による「7条解散」の下では、衆議院の解散について原則として内閣の裁量による判断となり、その当否については選挙結果によって判断される、ということになります。

 ただし、「一票の格差」について憲法14条1項違反として最高裁による「違憲」ないし「違憲状態」の判決が出された場合において(最高裁の判例では「合理的期間内における是正の有無」も要件としているため、「違憲状態」という判断がされる場合があります)、国会において格差是正を行なわない場合まま、内閣が衆議院を解散した場合には、衆議院解散後の総選挙の有効性について裁判所が判断を行なう可能性があります。

 

4 我が国における直接民主制的制度

(1)  上記の通り、内閣に関しては、法的には衆議院の総選挙を通じてその信任・不信任を行なうこととなります(ただ、実際には参議院選挙の結果を踏まえて内閣が総辞職した例も少なくありません)。

 

(2) これに対し、地方自治体の場合は、地方自治体の長は住民からの直接選挙で選ばれるため、議会との関係では大統領制に近い形になります。

 地方自治体の長に関しては、地方自治体の議会において議員数の2/3以上が出席してその3/4以上が賛成した場合には地方自治体の長の不信任決議がなされ、地方自治体の長は不信任決議可決の通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができるとされます(地方自治法178条3項・1項)。

 そして、地方議会の解散による再選挙後、議員数の2/3以上が出席してその過半数が再度不信任決議に賛成した場合、地方自治体の長は失職します(地方自治法178条3項・2項)。

 

(3) 地方自治体の長に関し、記憶に新しいところでは、東京都の舛添前知事が、自身のスキャンダルを原因に不信任決議を出され、議会の解散を示唆したものの、勝ち目がないと見込まれることもあり、辞任に追い込まれた例があります。

 これに対し、2002年に長野県の田中康夫知事について県議会で不信任決議が可決されたところ、田中知事はいったん辞職した上で知事選に出馬し、再選された例があります。おそらくは、上記地方自治法の規定を踏まえ、議会を解散するよりもいったん辞職して再度知事選に出馬した方が得策と考えたのでしょう。

 

5 まとめ

  以上より、我が国の議院内閣制において、現実に内閣不信任決議が可決された例は少ないものの、実際には内閣支持率が著しく低下した場合など、政権維持が困難と判断し、就任から1年程度で辞任に追い込まれた例が少なくありません。

 1年程度の短命での内閣総辞職については、上記の通り議員内閣制をとる主な他国に比べても短く、政策の維持ないし一貫性、あるいは外交関係の継続性、緊急課題への対応等に関し、色々批判もあるところです。

 

 ただ、内閣総理大臣が、いわば「空気を読んで」総辞職することは、衆議院の解散・総選挙を経ない場合であっても、内閣は総辞職すべきという世論が速やかに反映されていることの表れでもあり、我が国における国民主権原理ないし表現・言論の自由(憲法21条1項)が一定程度機能し、独裁防止の効果が図られていることの証でもあるような気がします(この点はあくまで私の私見ですので、いろいろ反対意見もあるとは思いますが)。

 

 なお、韓国で大統領の弾劾決議が成立していること自体、韓国の民意が議会に反映されていることの証だと思いますので、私が韓国の統治制度についてそれ以上とやかくいうつもりはありません(もし韓国籍の方や韓国出身の方が本コラムをご覧になっている場合には、別に韓国の統治制度を批判しているわけではありませんので、誤解しないようにして下さい)。

 

小川 智史 弁護士

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