弁護士コラム

自動運転車の導入について

[投稿日] 2016年12月10日 [最終更新日] 2017年01月24日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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1.自動運転車の運転実験について

  本日か昨日だったかと思いますが、国交省が、高齢ドライバーによる交通事故防止のため、過疎地での自動運転車の運転実験を行なう、との報道がありました。

  仮に、自動運転車により相当程度安全性が担保され、本格的な実用化が実現した場合には、12月8日付「高齢ドライバーに対する免許制限について」のコラムで言及しました、高齢ドライバーに対する免許制限に関する憲法上の問題はクリアされる可能性があります。

  こうした技術革新により少しでも交通事故が減少するに越したことはありませんので、今後の運用の現実化に期待したいところです。

  ただ、アメリカでグーグルが運転する自動運転者が事故を起こした例もあり、個人的には、自動運転車に関する技術革新はまだまだ発展途上ではないかと思います。

 

2.自動運転車が実用化された場合の交通事故案件の対応について

(1) それでは、実際に自動運転車が実用化された場合において、交通事故案件の対応は一体どうなるのでしょうか。

 

(2) そもそも、自動運転車が実用化された場合、「運転免許」や「運転者の注意義務」、あるいは「交通規制」の概念自体に根本的な見直しが必要となり、現在の道路交通法の改正では対応できず、新法制定が必要ではないか、と言った見解を聞いたことがあります。

 

(3) 法制度の定め方の点は脇に置いておくとしても、交通事故が発生した場合の「過失」(民法709条、自賠責法3条1項但書)の具体的内容について、「運転者の注意義務違反」ではなく、主として「当該自動車の欠陥」の有無に基づいて判断する必要が出てくるのではないかと思います。

 現在の「運転者の注意義務違反」に関する過失割合については、多数の判例の蓄積の上に、類型的な事故については基本的な過失割合が明確化されています。類型的な過失割合基準に基づく算定は、「保険会社の対応が機械的」との批判はありますが、争点を限定し、紛争の早期解決を図る効果は否定できないと思います。

 しかし、「運転者の注意義務」から「自動車の欠陥」に過失の判断基準が変更された場合、過失割合に関する判例が蓄積されるまで、保険会社も過失割合に関する判断を行なうことが容易ではありません。そうすると、過失割合に関する判断を保留し、争う余地がある場合には、原則として訴訟提起及び判決による決着を求めてくる可能性があります。現在の交通事故対応でも、人身事故の慰謝料等について、少なくとも交渉段階では、原則として保険会社は裁判基準より低い金額を提示する例がほとんどであり、上記対応の可能性は十分にあります。

 また、過失割合、あるいは当該車種による交通事故発生の類型的危険性が不明確な場合、保険会社においても保険料算定が容易ではありません。いったいどのように保険料算定を行なうのか、その辺は保険理論にも関連するので、当職にはわかりかねますが、相当多数の走行実験の積み重ねが必要となるでしょう。

 

(4) また、自動運転車が導入される場合であっても、全ての国民が一律買換えすることは不可能であり、相当期間は手動運転自動車と併存する必要があるでしょう。

 そうすると、「手動運転車と自動運転車との交通事故における過失割合算定」の問題も生じることが予想されます。

 

(5) 以上の点について全て立法(政令・省令を含む。以下、「立法等」といいます)で定めることはできませんし、個別具体的事案における法解釈・適用は最終的に裁判所で判断すべき事項であり、仮に立法等であまりに細かく定めた場合、司法権侵害として憲法76条1項違反となるおそれがあります。他の法律の施行の場合と同様、法令の所轄官庁で運用基準を示すのが限界ではないかと思います。

 そのため、仮に自動運転車が実用化された場合であっても、施行から少なくとも数年程度は(場合によっては10年以上)、交通事故対応実務が混乱し、紛争が長期化する事案が増加する可能性があります。

 

3.自動車製造メーカー等との関係での問題点

(1) 自動運転車の実用化については、自動運転車に詳しい方から、「自動運転車は技術的には走行可能だが、自動車メーカーやシステム製造会社、あるいはシステムに情報を送信する通信会社(以下、「自動車メーカー等」といいます)の製造物責任等の法的責任を免責しないと、自動車メーカー等が販売に消極的である」という話を聞いたことがあります(本当にそうなのか、当職には判断しかねますが)。

 

(2) 話は若干変わりますが、東京電力の福島第一原発事故に関し、アメリカのGE等が原子炉等を製造した関係もあり、原子炉製造メーカーの損害賠償責任については免責し、製造物責任法(以下、「PL法」といいます)の規定は適用しないとされています(原子力の損害賠償に関する法律4条1項・3項)。

 しかし、当該規定に関しては、原発事故が発生した場合の被害者の損害賠償請求権を否定するものであり、財産権を定める憲法29条1項等に違反するのではないか、という見解があります。

 

(3) そうすると、自動運転車に関し、自動車メーカー等の製造物責任や、民法上の不法行為責任(民法709条)等について免責した場合、同様の問題が生じる可能性があります。

 そもそも、PL法は、民法の不法行為責任規定によった場合、製造過程における企業側の製造過程における過失の立証が困難であるため、製造物自体の危険性に着目し、製造物事故により生じた被害の救済を図る趣旨で制定された、という経緯があります。かかる経緯に照らせば、安易に例外を認めた場合には憲法29条1項や法の下の平等を定める憲法14条1項違反の問題が生じる恐れがあります。

 また、民法の不法行為責任(民法709条)は第三者に対する損害賠償責任を定める一般的・包括的規定であり、特別法の規定がない新たな被害類型が生じた場合の、重要な法的根拠となります。不法行為責任の免責についても、やはり憲法違反の問題が生じる恐れがあります。

 

(4) もし、上記(2)で述べた原子炉メーカーの免責規定について、東京電力等の原子力事業者が原則として全額の賠償責任を負うことをもって(原子力の損害賠償に関する法律3条1項本文)、合憲性の根拠とするのであれば、自動車メーカー等の免責の場合も同様の代替手段を確保する必要があります。

 おそらくは、まず自賠責保険ないし任意保険の一層の充実を図ることになるでしょうが、自動運転車の欠陥等の調査費用の増加について、保険料の増額という形で利用者(契約者)に転嫁することになる可能性が高いでしょう。

 また、加害者が任意保険にも自賠責保険にも加入していない場合、政府保障事業による保障がありますが、現状では使い勝手がいいとは言えず、より一層の拡充及び手続の簡便化が必要になるでしょう。しかし、そうすると、損害賠償金や調査費用等の諸費用について、国の財政負担が増加し、最終的に増税という形で国民に転嫁される可能性があります。ただ、それ以前に財務省が同意しない可能性があります。

 

(5) 仮に、自動車メーカー等の免責を含む自動運転車実用化の立法を行なう場合、内閣提出法案に関しては、内閣法制局がまず合憲性審査を行ないます。一般論としては、内閣法制局は、特殊な一部の法案を除き、厳格な合憲性審査を行ない、事実上「一次的な合憲性審査機関」としての役割を果たしてきました。そのため、これまで最高裁で法令自体が違憲と判断された例は数えるぐらいしかありません(司法試験の受験の際、法令違憲判例は全て頭に入れておくべき、と言われる方もいらっしゃいました)。

 

(6) 内閣法制局の見解は私も把握しておりませんし、まだ現実に国会への提出が予定されていない法案については、おそらくは合憲性審査は行なっていないのではないかと思います(他にも多数の法令審査が必要でしょうから、そのような余裕はないのではないかと思います)。

 あくまで私の私見ですが、少なくとも上記の通り自動運転車の安全性について不明確な段階では、自動車メーカー等の製造物責任ないし不法行為責任を免責することは、財産権を定める憲法29条1項や、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反する疑いがあるのではないかと思います。

 将来、更に技術革新が進み、自動運転車の安全性が相当程度確保されたと認められる場合には、自動車メーカー等の免責を含む自動運転車の実用化に関する立法が現実に審議される可能性があります。

 その場合においても、世論は割れることが予想されますが、将来の議論に委ねたいと思います。

 

4. コラムの訂正について

 (1)12月8日付「高齢ドライバーに対する免許制限について」のコラムにつき、3(2)エにおいて、(生存権は)「国に対し積極的な社会福祉政策実現を求める趣旨と解されますが(憲法25条)」との記載がありますが、()部分は「(通説)」の誤記ですので、訂正します。

 

 (2)12月9日付「大統領制における罷免と議院内閣制の比較」のコラムにつき、1(2)の立憲主義の説明に関し、権力者に対し権力を「行使」する法規範、との記載がありますが、「権力の行使を制限」する法規範、の誤りですので、訂正します。

 

 本サイトにおきましては、原則としてコラム投稿後の訂正ができないため、すみませんがこのような形での訂正とさせて頂きます。

小川 智史 弁護士

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