弁護士コラム

NON-STYLE井上裕介氏の交通事故について

[投稿日] 2016年12月18日 [最終更新日] 2017年01月09日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 先日、お笑いコンビNON-STYLEの井上裕介氏(以下、「井上氏」といいます)が交通事故を起こした件について、報道で大きく取り上げられていますが、検討を行なってみたいと思います。

 

1.本件事故の態様

 各種報道を前提にしますと、12月11日の深夜、井上氏が運転する自動車が世田谷区内の交差点付近でタクシーと衝突する交通事故が発生しました(以下、「本件事故」といいます)。

 その際、井上氏は、警察官への報告等を行なわず、そのまま事故現場を去ってしまったということだそうです。

 また、報道によれば、本件事故により、被害者であるタクシー運転手の方は、加療2週間程度の怪我が生じているとそうです。

 

2.井上氏の刑事責任について

(1)上記事故については、①被害者の方に怪我が発生しているということですので、自動車運転過失致傷罪が成立する可能性が高いです(自動車の運転により人 を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。

  また、客観的には事故発生時に被害者の救護や警察官への報告を行なっておらず、②道交法上の加重救護義務違反罪(いわゆる「ひき逃げ」。道交法72条1項前段、117条2項)、③報告義務違反罪(同法72条1項後段、同法119条1項10号)が成立する可能性があります。

  上記②③の罪の成立については、事故発生の認識が必要であるところ(刑法38条1項)、現在(12月18日昼ごろ)までの報道の限りでは井上氏は事故発生 の認識していたのか不明確なようです。

 他の車と衝突した場合には自動車に一定の衝撃があるはずであり、衝突を認識しないのは不自然ではないかという意見もありえます。ただ、井上氏に事故発生の認識を認定できるか否かについては、その他の事情も踏まえ、有罪と認められるだけの証拠があるか否か、一次的には検察官において判断することになります(起訴された場合には最終的に裁判官が判断します)。

 

(2)処分の見込みについてですが、前科・前歴がない場合、①のみの場合には、加療2週間程度の場合、通常は起訴猶予か略式起訴で罰金刑となるケースが多いです。

  これに対し、特に②の罪が成立した場合、悪質なひき逃げ犯に対する処罰を厳格化する趣旨で法定刑が引き上げられた経緯もあり、一般論としては正式起訴される例が大半です。

  もっとも、井上氏において直接被害者の方に謝罪するとともに、被害者の方も井上氏への厳罰を望まない旨報道機関に電話した、という報道もあります。

  そのため、(a)被害者に対し真摯に謝罪を行ない、深く反省している点の他、(b)井上氏が芸能活動を自粛し、下記3で述べる違約金等が発生する可能性があることも踏まえ、(c)被害者に対し賠償を行ない、示談成立に至った場合には、起訴猶予ないし罰金となる可能性もないとはいえません。具体的な処分に関しては 検察官が判断することとなります。

 

(3)なお、同種事案においては逮捕・勾留せずに在宅で捜査がなされるのが一般的です。また、井上氏は被害者に謝罪しているとされるとともに、有名人である点も踏まえると、逮捕・勾留まではなされず、在宅で捜査が行われる可能性が高いでしょう。

  在宅の場合には逮捕・勾留の場合に比べれば厳格な期間制限があるわけではないため、最終的な処分が決まるまで時間がかかる可能性があります。

 

3.井上氏の行政処分、民事責任等

(1)仮に井上氏に救護義務違反(ひき逃げ)の成立がみとめられた場合には、違反点数として35点が加算され、一発で免許取り消しとなります。

   この場合、上記の通り道交法117条2項違反にも該当するため、3年以上10年以下の範囲で免許の再取得が禁止されることが予想されます(道交法103条8項・2項4号)。

 

(2)被害者に対する民事責任ですが、本件においては、被害者の方が怪我をしているということですので、治療費・通院交通費・休業損害・通院慰謝料等の損害を賠償する必要があります。また、2週間程度の通院ではまず認められることはないですが、後遺障害が発生した場合には、後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料の賠償責任も発生します。

  そして、通常の交通事案では、ほぼすべてのケースにおいて、保険会社は慰謝料につき裁判基準より低額な慰謝料しか提示しません。そのため、慰謝料額の増額を求めて第三者機関へのADR申立て等の手続が必要となる場合がほとんどです。

  もっとも、上記の通り被害者の方が井上氏に厳罰を求めない旨の報道もあるようですが、本件において被害者への慰謝料額をどうするかについては、被害者の意向等の諸事情を踏まえて、井上氏(ないし井上氏が依頼した代理人)において検討することになるかと思います。

 

(3)その他、本件事故により井上氏はしばらく芸能活動を自粛し、出演予定のTV番組等を辞退することとなったため、TV局やCM依頼会社等の関係者への違約金が発生する可能性があります。違約金については、井上氏の所属事務所(よしもとクリエイティブ・エイジェンシー)と関係先との間で交渉することになるのではな  いかと思います。

 

4.井上氏の今後について

  報道によれば、井上氏は「法的処分が決定するまで」芸能活動を自粛する予定とのことです。

  「法的処分が決定するまで」が具体的にいつか、という点に関してですが、これを文言通り解釈すれば、起訴猶予ないし略式起訴の場合は、当該処分が決定した時点ということになるかと思います。これに対し、もし正式起訴された場合には、判決宣告日まで自粛する可能性もあります。もっとも、芸能人の場合は世論の  反応等諸事情により変動することが予想されますので、上記文言通りになるかどうかは今後の動向次第でしょう。

 

5.12月8日付コラムの補足

  12月8日付「高齢ドライバーにおける免許規制について」のコラムにおいて、免許規制の強化について言及しましたが、現行法では、①一定の危険性が生じた場合における免許取消又は6月以内の免許停止について道交法103条1項各号で定め、②ひき逃げ等の特に悪質な場合の免許取り消しについて同条2項各号で 定めています。

  そして、道交法103条1項8号では、運転により「前各号に掲げるもののほか、(中略)著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」には管轄公安委員会が免許取り消しをできる旨の包括的規定があります。したがって、現行法上は、同項1号~7号に該当しない場合であっても、事故発生の危険があるドライバーに対し、同項8号により免許取消が行われる可能性があります。

小川 智史 弁護士

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