弁護士コラム

 「ボランティア勤務」を定めた雇用契約書、何が問題?

[投稿日] 2017年03月21日 [最終更新日] 2017年03月22日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 兵庫県姫路市の某私立認定こども園では、給付金を受けるために市に提出した雇用契約書とは別に、欠勤や遅刻をすれば罰金や無給勤務を科す「裏契約」を交わしていたと報道されています。「裏契約」には、①欠勤や遅刻、早退をした月は給与から1万円減額、②無断欠勤すれば無給のボランティア勤務7日間、③30分以上の遅刻なら2日間、④保護者を待たせた場合には10日間のボランティア勤務、お客様宅に謝罪、⑤祝日などで保育士の休日数が園の規定よりも多い月は、日数に応じて給与カットのような内容が定められていたとのことです。このような契約には、法的にどのような問題があるのでしょうか。

 本件について、あくまで報道等で伝えられている事実関係を前提に、以下の通り法的問題について検討を行います。

 

1.正当な理由に基づく欠勤・遅刻、早退等の場合について

(1) まず、本件「裏契約」のうち、①~④の点については、保育士に雇用契約違反があった場合の懲戒処分を定める趣旨と解されます。

 しかし、そもそも使用者が労働者に対する懲戒処分を行なうに当たっては、懲戒事由が存るとともに、相当な範囲内で行われる必要があり、これに反してなされた懲戒処分は無効とされます(労働契約法15条)。

(2) したがって、①及び③については、欠勤や遅刻、早退が、例えば交通機関の遅延によるものであったり、労働者が体調不良であることが客観的に明らかであるなど、正当な理由に基づく場合には、懲戒事由には当たらないというべきでしょう(特に、保育士が風邪等を引いている場合、小さいお子さんにうつす可能性を考えると安全管理上も問題があります)。また、④の点についても、そもそもの原因が正当な理由に基づくものであれば、懲戒事由に当たらないというべきでしょう。

(3) もっとも、労働者は雇用契約に基づき使用者に対し労務を提供する債務を負っており、これが履行できない以上、ノーワーク・ノーペイの原則により、欠勤や遅刻、早退した時間に対応する部分については給与請求権は発生しません(民法536条1項)。

 したがって、欠勤や遅刻、早退に対応する日割り計算あるいは時給換算した分の給与をカットすることは、原則として可能です。ただし、特定の労働者に対してのみそのような扱いをした場合は、不平等取扱いとして無効となる可能性があります。

 

2.正当な理由のない欠勤や遅刻、早退等の場合について

(1) 遅刻や欠勤、早退等が正当な理由に基づかない場合は、雇用契約の債務不履行に当たります。このように雇用契約違反がある場合には、使用者は相当な範囲内で懲戒処分を行なうことができます。ただし、減給処分については、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払い期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされます(労働基準法91条)。

(2) したがって、上記①、③については、給与カット額の合計が、欠勤等の日割りないし時給換算額及び労働基準法91条所定の合計額を超える場合には、違法となります。

(3) また、②、④のボランティア勤務については、その間無給で働く義務を課すものであり、実質減給に等しいと思われます。そうすると、現実の欠勤日数分を控除しても、②、④のいずれの場合も月の1割以上の減額に当たると思われ、労働基準法違反に該当する可能性が高いでしょう。

 なお、④に関しお客様宅への謝罪について、理由のいかんを問わず謝罪を強制する趣旨であれば、保育士の思想良心の自由を侵害するものとして、当該契約内容は公序良俗に反し無効というべきでしょう。もっとも、保育士自身の責めに帰すべき事由により園児に被害が生じた場合には、謝罪をさせることが社会通念上不相当とは言えないのではないかと思います。したがって、当該契約内容については、当該保育士自身の責めに帰すべき事由により園児や保護者に被害が生じた場合に限定解釈すべきと思われます。

 

3.出勤日数に応じた給与の定めについて

 上記⑤の点については、月額固定給ではなく標準勤務日数を前提に給与を定める趣旨と解すれば、祝日が多い月に他の月の給与額と差をつけること自体は直ちに違法とまでは言えないのではないかと思います。

 ただ、勤務開始から6か月以降で年休請求権が発生している場合には、年休請求権行使が可能です。年休取得請求に関し、使用者には時季変更権がありますが(労働基準法39条5項但書)、格別出勤の必要性・相当性がないにもかかわらず時季変更権を主張して出勤を求めた場合、権利濫用として違法となる可能性があります。

 

4.その他の法的問題点について

 兵庫県ないし姫路市の補助金支給要件について詳しくは存じ上げませんが、補助金申請に当たり保育士との雇用契約の内容が要件となっているにもかかわらず、市に提出した雇用契約書の内容と別に保育士との「裏契約」が結ばれていたのであれば、補助金の不正受給に当たる可能性があります。

 なお、本日(3月21日)時点の報道によれば、当該こども園が保育士数を実際よりも多く市に報告して給付金を水増し請求していたとして、兵庫県は当該こども園としての認定を取り消す方針とのことです。

 

小川 智史 弁護士

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