弁護士コラム

クリーニング店における衣料品の長期保管について

[投稿日] 2017年09月30日 [最終更新日] 2017年09月30日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

依頼者のために最善を尽くしていきます

 近時、クリーニング店において衣料品のクリーニングを行なったものの、顧客が衣料品の引取りを行なわず、店舗側で長期間の保管を余儀なくされる事例について、報道等で取り上げられています。

 そもそも、クリーニングを依頼した衣料品については、クリーニング完了後に顧客側で速やかに引き取るべきであるのは大前提ですが、上記のような事例が少なくないとのことですので、医療品の長期保管に関する法的な検討を行いたいと思います。

 

第1 長期保管と衣料品の所有権の関係

1 所有権は消滅時効にかからないこと

  そもそも、長期保管を余儀なくされることの背景には、民法上、所有権の永続性を認め、所有権は消滅時効にかからないとされる点があります(なお、他人に取得時効が成立した場合には反射的に所有権を喪失するとされますが、本件では捨象します)。

  現行民法167条1項は「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」、同条2項は「債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。」と定めており、民法167条2項の反対解釈が根拠と解されます。 

 

2 クリーニング業に関る特別法等

 クリーニングに関しては、特別法としてクリー二ング業法があるものの、長期保管の衣料品の処分の可否に関する定めはないようです。

 同法以外には、生活衛生関係営業の運営の適正化に関する法律第57条の12第1項では、全国生活衛生営業指導センターは、損害賠償の実施に関する事項を含む標準営業約款を定めることができるとされています。ただ、クリーニング業に関する標準営業約款では、長期保管衣料品の処分の可否に関する定めはないようです。

 なお、クリーニング事故賠償基準6条2項によれば、「クリーニング業者が洗濯物を受け取った日より90日を過ぎても洗濯物を受け取らず、かつ、これについて利用者の側に責任があるときは、クリーニング業者は受取の遅延によって生じた損害についてはその賠償責任を免れる。」と定めています。ただ、上記賠償基準6条2項については、90日経過後に生じた事故等に関する賠償責任を定めた趣旨のようであり、必ずしも衣料品の処分に関して定める趣旨ではないようです。

 そのため、民法の原則によることになると思われます。

 

3 長期保管のための費用との関係 

 仮に、長期保管後にクリーニング店側が顧客の衣料品を処分した場合、理論上は顧客の所有権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する可能性はあるものの、年数の経過した衣料品について通常は顧客側の損害額は小さいと思われます。

 一方で、長期間の保管によりクリーニング店側に発生した保管費用については顧客への債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権が発生すると思われるところ、実際問題として、顧客の損害よりも店側の保管費用の方が高くなるケースが少なくないと思われます。

 ただ、損害賠償見込み額の点をもって、衣料品の処分が直ちに認められる訳ではないため、「勝手に処分すること」のリスクが残る点に問題があります。

 

第2 上記問題に対する対処法の検討

 上記の問題について、クリーニング店の約款あるいや規約(以下、「約款等」といいます)で、一定期間経過後も引取りしない場合の処分に関する定めを置く方法が考えられますが、この場合の法的問題点について検討します。

 

 1 衣料品の処分を定める規定の効力について

  一方当事者の所有物の処分を定める条項については、当該条項が契約上明記されて当事者が認識の上で同意し、その内容が合理的なものであれば有効とされます。例えば、賃貸借契約終了時等の不動産の明渡に関しては、通常は明渡後の残置動産の処分条項を定め、原則として有効とされます。

 しかし、クリーニングの場合、通常は店頭で申込み及び衣料品の引渡しを行なった上で代金を支払って完了するケースが多く、逐一契約書を作成するケースはまずないと思われます。もし、「仕上がりから~か月以内に引き取り頂けない場合は当店にて処分することに同意いたします。」といった書面を毎回作成する必要が生じるとなると、かえって顧客から敬遠される恐れがあると思われます。

 

 2 約款等による処分規定の効力について

 (1) そこで、クリーニング店で、一定期間経過後の衣料品処分に関する約款等について、店頭で明示するとともに、衣料品のお客様控えにも明示する方法が考  えられます。

   約款等に契約上の法的効力が認めれれる根拠については諸説ありますが、現行法の解釈に照らすと、上記方法の場合に、顧客側が衣料品処分に関する定めに同意したと言えるのかという問題があります。

 

 (2) なお、本年5月26日可決・6月2日公布の民法改正法案(以下、単に「改正民法」といいます)によれば、定型取引(「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」と定義されます)をした者は、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす、と定めています(改正民法548条の2第1項)。

 そうすると、上記(1)で述べた方法が、上記②により有効とされる、という解釈する余地はあるかもしれません。

 ただ、実際の改正民法548条の2第1項2号の適用については、上記の方法で認められるか否かも含め、今後の改正民法の解釈や施行(公布から3年以内)後の裁判所の判断にもよると思われます。

 

 3 消費者契約法等との関係について

 仮に、上記2(1)で述べた方法自体は有効として契約内容となりうるとしても、その内容によっては、消費者の利益を一方的に害すると認められる場合には、無効となる可能性があります(消費者契約法10条)。なお、定型約款に関する改正民法548条の2第2項にも、同様の規定があります。

 そもそも、本来仕上がり完了後速やかに顧客が引き取るべきであるのに長期間引取りしないのが悪いととらえると、一定期間経過後の衣料品の処分に関する条項が消費者の利益を一方的に害するといえるのか、とも思われます。

 ただ、所有権が消滅時効にかからないという原則や、顧客側の都合(例えば、病気や事故等)も一律に判断できない場合が存する点をふまえると、仮に衣料品処分に関する条項を定める場合も、具体的な期間や処分事由について、慎重に検討する必要があると思われます。

 

 4 その他

  上記の条項の法的効力はともかく、当該条項が顧客に対する注意喚起の効果を有する、という側面はあるものと思われます。

 

第3 注意事項

 上記記載内容は、あくまで私の個人的見解に過ぎず、その法的効力の有無や、上記記載内容を実施した場合に生じる顧客トラブル、その他生じる法的問題について、私が何等の責任を負うものではありません。

 もし、クリーニング店等の関係者の方におかれまして、上記記載の方法の実施を検討される場合には、あくまでご自身の責任においてご判断頂きますよう、お願い申し上げます。

小川 智史 弁護士

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