弁護士コラム

遺産分割と相続税

[投稿日] 2018年02月15日 [最終更新日] 2018年02月20日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 相続財産について遺産分割を行う場合、遺産総額によっては、相続税の申告が必要となります。相続人間の対立等によってなかなか遺産分割協議がまとまらない場合も少なくありませんが、遺産分割未了であっても相続税の納付義務が発生する場合があるため、一般的な注意点について以下の通り整理しておきたいと思います。

 

1.相続税全般に関する注意点

(1) まず、相続税の申告の要否に関しては、「基礎控除額」として、3000万円+600万円×法定相続人数が課税価格から控除されます(相続税法15条1項)。ただし、法定相続人数の算定に当たり、相続税法上は養子の数の算入に制限がありますので、注意する必要があります(同条2項、3項)。

 そして、原則として、遺産総額に基づく課税価格から基礎控除額を控除した残額を基準として、相続税が課税されます(同法2条1項、16条。詳細は国税庁タックスアンサーNo.4152、4155等をご参照ください)。厳密には、配偶者控除や小規模宅地等の特例等、色々例外があるのですが、詳細は割愛します。

 

(2)また、相続税申告における課税価格の算定に当たり、特に、被相続人の死亡を原因とする保険金ないしこれに類する金員(以下、「死亡保険金等」といいます)の受領に注意する必要があります。死亡保険金等に関しては、民法上は原則として相続財産に該当せず例外的に特別受益に準じて扱われる場合があるにとどまりますが、相続税法上はみなし相続財産として課税価格に加算されます(相続税法3条1項各号)。

 したがって、被相続人を被保険者とする死亡保険金等の有無について特に注意する必要があります。なお、保険金の支払いや受取人との関係によっては適用が異なる場合がありますが、詳細は国税庁タックスアンサーNo.1750をご参照ください。

 

(3)さらに、最も注意すべき事項として、相続税の申告は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(同法27条1項。詳細は国税庁タックスアンサーNo.4205参照)。

 もし、相続税の申告が遅れた場合、延滞税や加算税等が課される可能性がありますので(詳細は国税庁タックスアンサーNo.9205等参照)、申告期限には十分注意する必要があります。

 

2.法定相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合

 (1) 上記の通り、相続税申告が遅れた場合、延滞税や加算税が課される可能性があるため、遺産分割をめぐりもめている場合であっても、いわば一時休戦を行ない、相続人間で共同して相続税申告を行なうのが望ましいです。

 

(2)もっとも、実際には10か月以内に遺産分割協議がまとまらない場合も少なくありません。特に、申告期限内に遺産分割が行われていないと、配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用を受けられず、相続税の関係では大きな不利益が生じる可能性があります。

 このような場合、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、申告後3年以内に現実に遺産分割が行われた場合等において、上記控除が適用になる場合があるとされます(詳細は国税庁タックスアンサーNo.4208をご参照ください)。

 

(3)なお、死亡保険金等については、法定相続人が受取人の場合、500万円×法定相続人数を上限として非課税限度額があります(詳細は国税庁タックスアンサーNo.4114をご参照ください)。

 

(4)また、法定相続人間で感情的な対立があり、被相続人の遺産内容が明らかでない場合は、金融機関へ預金履歴の開示を求める等して、相続財産調査を行なうことが可能です。

 

3.遺言による指定相続人間での分割の場合(法定相続人でない場合)

(1)これに対し、被相続人が遺言により指定相続人間での分割を指定した場合、特に、被相続人に配偶者や子がなく、兄弟姉妹や甥姪等に相続ないし遺贈させる旨の遺言を残した場合、兄弟姉妹・甥姪には遺留分減殺請求権が認められないため、民法上は遺言に則って遺産分割を行なって終了することになります。

 

(2)しかし、法定相続人でない指定相続人において、相続財産の具体的内容に関する情報開示を得られない場合、相続税の申告に関して深刻な問題が生じます。

 実際、被相続人(配偶者や子供がおらず)の兄弟姉妹が高齢であるため、甥姪を指定相続人として死亡保険金等を受領したものの、相続財産の管理者が感情的になって相続財産全体に関する情報開示を行なわなず、さらには法定相続人である兄弟姉妹が高齢で意思能力を欠く状態であるものの成年後見人も選任されておらず、法定相続人からの情報開示請求も困難である、と言った事案に遭遇したことがあります。

 この場合、上記の通り民法上は遺言により遺産分割方法が指定されており、指定相続人においてはそれ以上の権利を有しないため、遺産分割調停申立てやその他強制的な情報開示手段を実施することは困難です。

 上記のような場合、税務署においても、相続財産調査は相続人間で解決すべき問題として、一般論しか回答頂けないようです。

 

(3)相続財産全体が把握できず相続人において相続財産総額を推定して申告した場合、不足があれば修正申告を求められて延滞税や加算税の納付が必要になる可能性が高いです。逆に、後から多く納付したことが判明した場合、更正請求により差額の返還請求を行なうことは可能とされます。

 

(4)その他、相続財産を把握している管理者(遺言執行者等)が感情的になり相続財産開示を行なわなかった場合、相続財産の不開示を原因として生じた損害(延滞税や加算税の他、税務調査対応により休業損害が生じた場合、修正申告のための税理士費用、精神的損害についての慰謝料等)につき、理論上は不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。

 しかし、実際に賠償請求を行なった場合、親族間での対立がより深刻化する恐れが高いことから、なかなか現実的ではありません。何とかして非協力的な管理者を説得する必要があります。

 

(5)その他税務上のリスクについては、私からの言及は差し控えますが、民法に基づく遺産分割請求とは別に、関係者に相続財産の開示を行なってきちんと相続税申告を行なわないと、上記のように相続税法上の申告義務者全員におけるデメリットが大きいため、感情的な対立は一旦脇に置いた上で、(相続税法上の)相続人間全員で協力していく必要があるでしょう。

 

*以上の点につきましては、あくまで法律論として一般的な注意点を整理したものにすぎません。相続税申告における具体的な適用等につきましては、税理士等の税務専門家にご相談いただく必要がありますので、ご注意いただきますよう、お願い申し上げます。

小川 智史 弁護士

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