弁護士コラム

ハリルホジッチ監督の解任について(2)

[投稿日] 2018年05月02日 [最終更新日] 2018年05月14日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 サッカー日本代表のハリルホジッチ前監督について、来日して4月27日に記者会見を行ない、解任理由に関する反論等が主張されました。

 また、一部報道によれば(本年5月2日時点)、フランス人弁護士を選任の上、法的手続を含む対応の検討を行なっているとのことです(*5月11日付報道によれば、日本人弁護士を選任して東京地裁に提訴する予定とのことです)。

 

 主たる内容として、選手とのコミュニケーションの点が問題となっていますが、双方が主張するような事実関係があったか否か、仮にあったとして解任理由とすることが妥当か否かは私からは言及は差し控え、専ら法的観点から、以下検討を行ないたいと思います。

 ただし、前回と同様、フランス法等の日本法以外の法律が適用される可能性や、実際の日本サッカー協会との契約内容は捨象し、あくまで民法等の日本法の規定や従来の判例等に基づく検討となります。また、本コラムはあくまで報道等で判明している事情を前提に、一般的な日本法の解釈や判例を基に検討するものにすぎず、実際の法的帰結は下記の通りになるとは限らない点に、ご留意頂く必要があります(下線部分は5月11日追記)

 

1.本来の契約上定められていた報酬について

 本年5月2日時点までの報道等によれば、ハリルホジッチ前監督との本来の契約期間は本年8月までであり、日本サッカー協会は8月までの当初の報酬相当額は支払う方針とのことです。

 上記報道等を前提にした場合には、日本サッカー協会は解任理由について、民法651条2項但書の「やむを得ない事由」該当性は主張しない趣旨と解され、同規定の適用は争点にならないと思われます。

 

2.慰謝料や逸失利益について

 上記会見を踏まえた報道等によると、ハリルホジッチ前監督側は解任理由に関し、慰謝料や逸失利益の請求も検討しているようです。実際に請求がなされるか否かはわかりませんが、請求すると仮定して検討します。

 

(1)請求の法的根拠について

 契約に基づく請求としては、前回検討しました通り、契約上特別の定めがない限り、上記1で述べた以上の請求は容易でないと思われます。もっとも、他に請求の法的根拠として、解任理由について名誉毀損に基づく損害賠償請求が考えられます。

 

 名誉棄損に基づく損害賠償請求につき検討しますと、まず、①名誉毀損とは、相手方の社会的評価を低下させる事実を不特定多数に対し適示することをいうと解されます。本件におけるコミュニケーションの問題が名誉毀損に当たるか否か微妙なところですが、ハリルホジッチ前監督のコミュニケーション能力に関する評価を低下させるととらえれば、形式的には名誉棄損に当たる可能性がないとは言えません。名誉棄損に該当することは、前監督側で主張立証する必要があります。

 

 もっとも、②名誉棄損に関しては、言論の自由との関係上、(a)公共の利害に関する事実であり、(b)専ら公益を図る目的にあり、(c)内容が真実か、真実と信じたことに相当の理由があるときは、違法性が阻却されるとされます。直接的には刑法230条の2で規定される刑事罰に関する定めですが、判例上、民事でも同様の基準で判断されるとされます。

 本件において、事柄の性質上、解任の具体的理由を明らかにする必要があり、上記(a)(b)の要件は満たす可能性が高いと思われます。

 問題は(c)の要件であり、事実関係につき争いがある部分が多く、また実際に上記請求がなされるか不明ですが、現実に法的手続が実施された場合には、日本サッカー協会において要件該当性を主張立証する必要があります。なお、上記事実関係に関し法的紛争が生じること自体が妥当なのか、という問題はここでは捨象します。

 

(2)損害の範囲について

 仮に、本件に関し、上記(1)の要件を満たす(違法性阻却事由にもあたらない)場合には、精神的損害による慰謝料については請求できる可能性がないとは言えません。

 もっとも、名誉棄損による逸失利益、具体的にはハリルホジッチ前監督の信用低下により今後の仕事を得られなくなったことによる損害については、本年5月2日時点で報道されている限りではすでに新たな監督オファーもあるようですので、当該報道を前提とする限りでは、損害の発生を認めることは困難と思われます。

*なお、実際には新たな監督就任が困難となった場合、上記コミュニケーションの点が解任理由とされたことが原因である、と前監督側から主張がなされる可能性もありますが、当該解任理由との間に法的に相当な因果関係が認められるか、も問題となる可能性があります(5月12日追記)。

 

(3)小括

 以上より、ハリルホジッチ前監督の解任理由及び解任に至るプロセスについては、批判的な見解も少なくないようですが、現実に損害賠償請求等の法的手続を実施するとなると、日本法で検討する限りでは、一般論としては容易でないと思われます。

 もっとも、まずは日本サッカー協会との契約の定めや、当事者間の交渉によることになると思われます。

 *もし、実際に訴訟提起された場合には、解任理由に関する事実関係自体が争点となる可能性があり、当事者の主張立証を踏まえた上で、判決による決着となった場合には最終的には裁判所の判断によります(5月14日追記)。

 

3.その他

 4月27日の会見において、ハリルホジッチ前監督は、槙野智章選手(以下、「槙野選手」といいます)からのメッセージとして、前監督の主張として用いていたようです。

  しかし、実際には槙野選手からの直接のメッセージではなく槙野選手のSNS掲載内容を基にしたものであるとともに、原文とは相当程度内容が変わっていたようです。

  もし、SNS掲載内容の改変による引用であった場合には、厳密には、ハリルホジッチ前監督解任に関する槙野選手のSNS掲載内容も、槙野選手の思想または感情を創作的に表現したものとして著作物に該当する可能性が高く(著作権法2条1号)、著作者人格権(憲法13条、著作権法19条等)や著作物の同一性保持権(同法20条)の侵害にあたる可能性があります。

  もっとも、上記前提に立った場合でも、槙野選手は、ハリルホジッチ前監督の会見内容に逐一抗議する様子ではないようであり(ワールドカップや所属チームでのプレー等に集中する必要があり、それどころではないでしょう)、実際に著作権侵害が大きな問題となる可能性は低いですが。

小川 智史 弁護士

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