弁護士コラム

民事訴訟のIT化について(1)

[投稿日] 2018年06月01日 [最終更新日] 2018年06月01日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 本年3月30日、政府の日本経済再生会議は、民事訴訟のIT化に向けての取りまとめ(以下、「IT化取りまとめ」といいます)を発表しました。これまで、民事訴訟では訴状等につき裁判所に印刷された書類の原本を提出するのが原則でしたが(準備書面や書証は、通常FAXでも可とされますが)、IT化により今後民事訴訟手続は大きく変貌すると見込まれます。民事訴訟のIT化の要点は以下の通りとなります。

 

1.民事訴訟手続IT化の趣旨・意義

 上記「取りまとめ案」によれば、従来の民事訴訟手続では裁判所に訴状等の原本を提出した上、原則として裁判期日への直接出頭が必要とされていたものの、近年行政や民間企業でも著しくIT化が進んでいる点を踏まえ、民事訴訟手続もIT化を図るとのことです。

 IT化の趣旨・意義に関しては、(1)裁判手続にテレビ会議やウェブ会議を導入することにより、①遠方の裁判所へ出頭するための時間的・経済的負担の軽減、②裁判手続の迅速化・効率化、③訴訟記録の電子化による審理の透明性確保、記録保管等に関するコストの軽減等を挙げた上、④代理人(弁護士)側にもIT化に対応可能な環境が整いつつあること、⑤本人訴訟の場合のサポート環境が整備されれば負担軽減につながること、等の点がIT化のニーズとして挙げられています(「IT化取りまとめ」P4。ただし、筆者による抜粋)。

 そして、(2)IT化の基本的方向性として、①迅速・効率的な裁判の実施により、紛争解決インフラの国際競争力強化、裁判にかかわる事務負担の合理化、費用対効果等も踏まえて推進させるべきであり、②電子メール等を用いた電子情報のやりとりへ単純に移行するに限らず、訴えの提起・申立からその後の手続に至るまで、IT化への抜本的対応を視野に入れ、③国民の裁判を受ける権利の実質的補償を図っていくとされます(「IT化取りまとめ」P5~6参照。ただし、筆者による要約)。

 

2.民事訴訟手続における主なIT化の内容

 民事訴訟手続におけるIT化について、具体的には以下のような方法が検討されています(「IT化とりまとめ」P7~P15。ただし、筆者による要約)。

(1)オンラインでの訴え提起(訴状等提出)、登記簿・住民票等の添付資料につき行政機関との情報連携、オンラインでの手数料等納付。

(2)答弁書・準備書面・書証等の訴訟手続関連書面につきオンラインでの提出に一本化。

(3)口頭弁論期日・争点整理期日についてウェブ会議等の活用。

(4)人証調べ(証人尋問・本人尋問)についてもウェブ会議等による実施。ただし、不特定多数への一般公開については慎重に検討。

(5)判決の送達方法について、①裁判所の専用システムへの判決情報のアップロード、②その旨の当事者に対する通知、③各当事者によるシステムからのダウンロード。なお、判決の公開対象の拡大は、個人のプライバシーや企業情報に配慮しつつ、今後の課題として丁寧に検討。

*「IT化取りまとめ」でも言及されていますが、特に第1回口頭弁論期日は「原告訴状陳述、被告答弁書擬制陳述(被告不出頭)。次回期日は○月〇日でいかがですか。」で終わってしまう場合が多く、原告側にとってはそのために出頭するのは不毛な時間の浪費に近いため、効率化を図ることが望ましいと思われます。ただ、争点整理期日に関しては、実際に出頭して裁判官や相手方(代理人)の様子を見ることも重要な意義を有する場合があり、どちらがよいかは今後具体的な事案ごとに検討する必要があるでしょう(*以下は筆者による私見)。

 

3.セキュリティ対策について

 民事訴訟手続IT化において、十分なセキュリティ対策をとる必要がある者の「裁判手続に一般的に求められるセキュリティ水準としては、訴訟記録の内容や性格、裁判の公開原則等々の関係から、極めて高度かつ厳格な水準までは要求されず、基本的には、行政機関や民間の取引におけるセキュリティ水準と同程度のものを念頭に、合理的な水準を確保することが相当」とされています(「IT化取りまとめ」P16~P17。ただし、筆者による抜粋)。

 その上で、「防衛分野や金融サービス分野等で用いられるシステムのように高度の機密や経済的利益の獲得を直接の目的としたサイバー攻撃等のリスクが常時存し、一次のシステム停止も許されないことを前提としたシステムと比べ、これと同水準のセキュリティ水準保確保するようなことは求められない。」とされています(同上)。

 民事訴訟手続のIT化にともなうセキュリティリスクについて、個人的に懸念する点はありますが、次回以降追って検討を行いたいと思います。

 

4.IT化実施のプロセス・予定について

 民事訴訟手続IT化については、全ての事件類型の民事訴訟手続きについて利用可能なIT化を推進するとされますが、IT化プロセスに関しては、以下の通りとされます({IT化取りまとめ」P18~P22参照。ただし、筆者による要約)。

(1)現行法の下で、IT機器の整備や試行等の環境整備により実現可能となるものについては、速やかに実現を図っていく。具体的には、ウェブ会議等の試行・運用を開始する。

(2)関係法令の改正により初めて実現可能となるものについて、所要の法整備を行ない、直ちに制度的実現を図っていく。具体的には、双方当事者の出頭を要しない第1回期日や弁論準備手続期日等の新たな運用を制度的に位置づけ、その運用を開始すること等。

(3)関係法令の改正とともにシステム・ITサポート等の環境整備を実施した上で、オンライン申し立てへの移行等を図る。

 具体的な予定に関して、(1)については2019年度からにも特定庁での試行等を実施し、(2)については2022年度頃からの開始を目指し、(3)については、(具体的な予定はまだ未定ですが)司法府の自律的判断を尊重した上での環境整備に向けた検討・取り組みを踏まえ、2019年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて検討・準備を進めていく、とのことです。

小川 智史 弁護士

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