弁護士コラム

ハリルホジッチ監督の解任について(3)

[投稿日] 2018年05月19日 [最終更新日] 2018年05月19日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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 標記の件につき、本年5月18日、ハリルホジッチ前監督が、名誉棄損に基づき、①慰謝料1円及び②解任理由に関する謝罪広告を求めるとの内容で、近日中に日本サッカー協会を東京地裁に提訴するとの報道がありました。

 上記報道の通り提訴がなされたとして、法的問題点について検討を行いたいと思います。なお、本コラムはあくまで報道等で公表されている事実を前提に検討するものにすぎないとともに、あくまで一般的な法解釈に基づく検討であって、現実に法的帰結が下記の通りになるとは限らない点にご留意頂く必要があります。

 

1.慰謝料請求について

 まず、慰謝料の請求について、仮に解任理由及びその好評が名誉棄損に当たるとすれば、精神的損害が全く発生していないということは考え難いため、事実上損害額の問題は争点とならず、名誉棄損の成否に集約されると思われます。

 

2.謝罪広告の請求について

  次に、判決で被告に謝罪広告の掲載を命じることが、思想良心の自由を定める憲法19条に反しないかが学説上は問題となりますが、単に陳謝の意を示す趣旨の広告の掲載を命じることは憲法19条に反しないとする最高裁判例(昭和31年7月4日大法廷判決)があります。

 

3.予想される本件訴訟進行

(1)名誉棄損の成否となりますが、まず、(a)「コミュニケーションの問題」を解任理由とした事実は周知のとおりであり、後は当該理由を公表したことについての法的評価の問題というべきでしょう。なお、「コミュニケーションの問題」の点が事実の適示(刑法230条1項。民事でも同様の基準による)に当たるか否かが問題となる可能性がないとは言えませんが、少なくとも具体的な事実関係の公表については事実の適示に該当する可能性が高いでしょう。

 そうすると、本年5月2日付「ハリルホジッチ監督の解任について(2)」で述べた通り、(b)本件解任理由につき「真実であるか、(結果的に真実であると立証できなかったとしても)真実と誤信した相当の理由が存するか」の点(以下、「解任理由の真実性等」といいます)にほぼ集約される可能性があります。

 

(2) 通常の訴訟では、①原告訴訟提起→②被告答弁書提出→③さらに双方主張・反論及び裁判所による争点整理→④争点整理がまとまった段階で和解の可否について検討→⑤和解困難な場合は証人尋問・本人尋問→⑥場合によっては尋問後に再度和解協議→⑦判決→⑧不服のある当事者が控訴するか否か、という流れになります。

 

(3) しかし、上記前提に立てば、当事者双方の主張立証にもよりますが、本件における争点は、解任理由の真実性等の点に絞られる可能性があり、①~③までは早期に進行する可能性があります。

 そして、解任理由の真実性等については日本サッカー協会が立証する必要があるところ、④の段階で和解しない場合には、解任理由に関して関係者が陳述書を提出した上で、⑤関係者の尋問を実施する必要がありますが、ハリルホジッチ前監督及び田嶋会長の本人尋問の他、本件解任理由、すなわち「コミュニケーションの問題」について、関係する選手の証人尋問が必要になる可能性があります。

 

(4) ただ、各選手は多忙のため東京地裁への出廷が容易でない可能性があるほか、現実にどのような立証活動を行なうか、またそもそも、日本サッカー協会が和解せずに各選手の証人尋問等を申請して(あるいは申請しないで)、判決による決着を求めるか、の判断が必要になる可能性があります。

 

4.現実に訴訟提起された場合、どのような帰結になるかは分かりませんが、本件解任理由及びそのプロセスに疑義を呈する見解が少なくないとともに、今後の日本代表監督選定にも影響を及ぼす可能性があることから、本件裁判の動向を注視していきたいと思います。

小川 智史 弁護士

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