弁護士コラム

コロナによる休業に関する特約の効力

[投稿日] 2020年04月17日 [最終更新日] 2020年04月17日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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新型コロナウィルス感染拡大による事業者の休業に関し、労働者の賃金の他、取引先や一般利用者との関係において、反対債務(例:当該事業者への会費)の支払義務ないし事業者からの返還義務が問題となります。

 

1.特約がない場合

事業者と取引先や一般利用者との間で、感染症拡大時の休業に関し、約款等により休業時の取扱いに関する定めがない場合、一般論として、緊急事態宣言の全国拡大、感染拡大状況や感染防止の観点に照らすと、不可抗力による危険負担(民法536条1項)に該当するケースが大半と思われますが、危険負担と解した場合、相手方である取引先や一般利用者は反対債務の支払いを拒絶できます。

なお、危険負担と解した場合、民法改正により、①本年3月31日以前に締結された契約は、改正前民法536条1項及び附則30条1項により反対債務は当然に消滅しますが、②4月1日以降に締結された契約の場合、改正後民法536条1項では履行拒絶権となるため、前払しているような場合には別途解除の意思表示が必要となります(改正後民法542条1項1号ないし2号)。もっとも、既払金返還請求と契約解除の意思表示を一括して行う場合には、実質的な差異はあまり生じないと思われます。

 

2.休業時の支払義務に関する特約の有効性

(1) 新型コロナウィルス感染拡大防止を理由とする休業を危険負担の問題と解した場合、民法536条1項は任意規定のため特約を定めること自体は可能ですが、例えば会費等の休業中の費用について支払義務ないし不返還を定める特約について、定型約款に関する改正民法548条の2第2項や、消費者契約法10条に違反するとして無効とならないかが問題となります。なお、本年3月31日以前に締結された契約に関する定型約款についても、原則として改正民法548条の2以下で定める規制が適用されます(附則33条1項)。

 

(2)(特に消費者との関係における)危険負担に関する特約について、改正民法548条の2第2項や消費者契約法10条との関係に関する解釈が確立しているとはいえず、少なくとも私の知る限りでは、明確に判断した判例は存じ上げません。

 

(3)もっとも、消費者契約法制定前の事案ですが、居住用建物の賃貸借契約に関し、退去時の敷引特約に関し、阪神淡路大震災により建物が倒壊した場合において、「いわゆる礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存する場合は別として、一般に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の損害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立していたとすることはできないから、他に敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情がない限り、これを賃借人に返還すべき」とした例があります(最判平成10年9月3日)。

 

(4)一方で、平成28年の消費者契約法改正に関し、内閣府消費者契約法専門委員会における同年10月28日の議事録によれば、一部の委員より、天災その他不可抗力による損害の負担を消費者に負わせる条項につき不当条項リストに加えるべきではないかという提案がなされたものの、契約内容や性質にかかわらず一律に不当条項とすることには慎重論も出され、消費者契約法10条の解釈にゆだねることとされたようです。

 

(5)ただ、①改正前民法534条1項では、不動産売買等の特定物の物権の移転に関する契約について、不可抗力により契約後に物権移転債務(例:不動産の所有権の移転)が履行不能となったとしても、反対債務(例:代金債務)は消滅しないと定め、②同条2項では一般の売買等の不特定物については特定後に履行不能となった場合に同様と、③改正前民法535条1~3項では停止条件付双務契約の目的物につき同様とし、民法自体が危険負担に関する特例を定めていました。

 しかし、改正前民法534・535条については、不合理であるとの批判が強く、平成29年5月に成立して本年4月1日に施行された改正民法では削除され、民法536条に一本化されました。

 上記改正経緯が、改正民法548条の2第2項や、消費者契約法10条の解釈につき、特約を無効とする方向で影響を及ぼす可能性があります。改正民法548条の2第2項では「相手方の権利を制限し、又は義務を加重する条項」という要件が、消費者契約法10条では「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して」という要件があり、危険負担に関しては民法536条1項が比較対象となると解されます。

 

(6)また、改正民法548条の2第2項では、「第1条2項で定める基本原則に反して相手方の利益を一方的に害するもの」、消費者契約法10条では「民法第1条2項で定める基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」という要件があります(*民法1条2項は信義誠実の原則)。

 新型コロナウィルス等の感染症による休業時に関する特約があり、特約通り適用する場合であっても、代替措置を講じるなど、相手方の利益を一方的に害さないようにご留意いただく必要があります(そのような余裕はないというケースも少なくないかもしれませんが、相手方との協議が必要と見込まれます)。

 

(7)なお、事業者間取引であり、かつ定型約款に該当しない個別契約条項などについては、消費者契約法10条や民法548条の2は適用されませんが、具体的な内容や適用場面によっては、公序良俗違反(民法90条)、信義則(民法1条2項)、権利濫用(民法1条3項)等により制限される可能性があります。

 

(8) 訴訟等の法的手続に移行した場合、最終的には裁判所の判断となりますが、上記(2)で述べた通り解釈が確立しているとはいえないところ、上記(3)の敷引特約に関する裁判も、一審・二審は有効としたものの最高裁で無効とするなど裁判所の判断が分かれており、コロナ等の感染症蔓延時の危険負担に関する特約の効力についても、最高裁まで紛争が続く可能性があります。法的手続へ移行するか否かは当事者への判断になりますが、事業者においては、今後の評判や集客等への影響等も踏まえた経営判断が必要になると思われます。

小川 智史 弁護士

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