弁護士コラム

検察庁法改正法案について

[投稿日] 2020年05月12日 [最終更新日] 2020年05月13日
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小川 智史 弁護士 小川智史法律事務所

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本年3月18日付「東京高検検事長の定年延長について」でも言及しましたが、3月13日に検察庁法改正を含む国家公務員法等の一部を改正する法律案が閣議決定され、現在国会で審議中です。特に、検察官の定年延長に関する検察庁法改正に関する法案が大きな問題となっていますが、具体的な問題点について取り上げます。

 

第1.検察庁法改正法案の主な内容

 検察庁法改正に関する法案は、正確には、単独で提出されているものではなく、「国家公務員法等の一部を改正する法律案」として、国家公務員法等の他の法律改正案と一括して提出されています(以下、検察庁法の改正に関する部分について、「検察庁法改正法案」といい、具体的な条文番号につき「改正案〇条■項」と表記します。)

 検察庁法改正法案の主な内容としては、以下の点が挙げられます。

1.現行検察庁法22条では検事総長以外の検察官の定年を63歳としているが、(最終的に)すべての検察官の定年を65歳とする(改正案22条1項)。*ただし、法案が施行される令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間は検事総長以外の検察官の定年を64歳とし、段階的に引き上げるとされる(改正案附則3条)。

2.①検事正(地検のトップ)は原則62歳以下とするが(改正案9条2項)、一定の事由がある場合には63歳以降も法務大臣の判断により検事正の職にとどめることができる(改正案9条3~5項)。②次長検事(最高検のナンバー2)又は検事長(高検のトップ)も原則62歳以下とするが(改正案22条4項)、一定の事由がある場合には63歳以降も内閣の判断により従前の職にとどめることができる(改正案22条5項、6項)。

3.各検察官が定年に達した場合でも、一定の事由がある場合、①検事総長、次長検事又は検事長(以下、「検事総長等」といいます。)については内閣の定めるところにより、②その他の検察官については、法務大臣の定める準則により、最長3年まで定年延長できるとしている(改正案22条2項、3項)。

 なお、昨年秋の原案の段階では内閣や法務大臣の判断による幹部検察官の職務延長や定年延長の規定はなかったものの、黒川氏の定年延長後である本年2月に追加されたとされます。

 

第2.検察庁法改正法案に関する問題点

 第1で述べた主な改正内容のうち、2の点については、人材の新陳代謝が停滞するのではないかといった問題はありますが(なお、検察官の特殊性については後述します)、この点を含め、戦後の検察庁法制定時に定めた定年制が今後も妥当するか否かの問題と思われます。

 これに対し、2及び3の点については、(1)内閣又は法務大臣の裁量による在職や定年の延長(以下、「定年延長等」といいます。)により、個々の刑事処分について政治的な影響を及ぼす恐れ、(2)一般の国家公務員と異なる検察官の特殊性、という問題が存します。

 また、3)上記法案については不要不急の立法ではないか、という疑念もあります。以下、詳述します。

 

1.内閣の裁量による検察官人事を通じた政治的影響力拡大の恐れ

 (1)そもそも検察官は、犯罪を捜査して被疑者の起訴・不起訴の刑事処分を決した上、起訴事案については主張立証の上で裁判所に被告人の処罰を求める立場にあり、刑事処分の公正性や、政治的な独立性・中立性が求められるとされます。検察官も厳密には行政権に属しますが、主に刑事司法手続のスタートとなる役割を担うで準司法官という立場にあるとされます。このような立場から、担当検察官によって処分が異なることのないよう、検察官一体の原則があり、上席検察官は個々の検察官に対する指揮監督の他、その事務を自ら取り扱うことができるとされます(検察庁法12条)。

(2)そして、現行法上、①検事総長等の任免権は内閣に存するものの(同法15条)、政治的独立性・中立性の観点から検察庁の方針が尊重されてきたとされます。また、②検察庁法の文言上は、国家公務員法の特例として定年が定められ(同法22条、32条の2)、黒川弘務氏(以下、「黒川氏」といいます。)の定年延長以前は定年までには検事総長等は退官していました。

(3)本件改正と黒川氏の定年延長の関係については後述しますが、黒川氏に限らず、他の場合においても、検事総長等について内閣の裁量により延長が可能となると(基準は策定されたとしても、裁量は発生します)、内閣の意に沿う検事総長等は定年延長等を行ない、意に沿わない検事総長等は定年延長等を行なわないことも法的には可能となり、人事権を通じて個々の事案の刑事処分にも影響を及ぼす可能性があります。

 現実にどこまで個々の刑事処分に影響を及ぼすか否かはともかく、上記(1)で述べた検察官の準司法官という立場に照らすと、裁判所も検察官による起訴がなされないと原則として刑事処罰という司法権を行使できないという点で、三権分立を脅かす恐れがあります。

(4)なお、現行の検察庁法14条でも法務大臣は検察官に対する指揮監督権を有しますが(ただし、個別の事件については検事総長に対してのみ)、昭和29(1954)年に政治家の逮捕に関し(造船疑獄事件)法務大臣の指揮権発動がなされたものの、猛烈な批判を浴び、以後個別事件に対する法務大臣の指揮権は事実上凍結されているとされます。

 

2.一般の国家公務員と異なる検察官の特殊性

(1)検察庁法改正案に関しては、公務員制度改革の一環として「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が提出されており、5月11日に安倍首相も「検察官も一般職の国家公務員であり」と国会答弁しています。

(2)しかし、一般の国家公務員は、国家の政策の業務執行機関として職務を遂行するのに対し(例:国税の徴収、国道の建設・管理等)、検察官は上記のとおり刑事事件を中心に準司法的役割を担っており、政治的な独立性・中立性が求められる点で一般の国家公務員とは性質を異にします。

 実際、改正案31条では(現検察庁法32条の2に対応)、「検察官の職務と責任の特殊性に基づいて」、検察庁法22条等について国家公務員法の特例を定めたとの文言を維持しており、上記安倍首相の答弁は改正案との内容と矛盾しています。さらには、検察庁法自体が「検察官の職務と責任の特殊性」に基づいて制定されたものであり、仮に検察官が「一般職の国家公務員」であるならば、検察庁法の存在自体と矛盾するといっても過言ではありません。

(3)また、検察官は、①懲戒処分の場合を除き、その意思に反して、免職・停職・言及されないという身分保障があるほか(検察庁法25条)、②退職した場合でも弁護士登録することが可能である上、③相応のキャリアのある検察官は、退職後も公証人等の公的役職に就任する場合が少なくありません。そのため、検察官が退官後に職にあぶれるというケースは極めて稀です。

(4)したがって、「検察官の職務と責任の特殊性」に照らせば、上記第1の1.検察官全体の定年延長はともかく、2と3.内閣または法務大臣の裁量による定年延長等について、一般の国家公務員と同様にとらえること自体が、検察官の準司法官的役割を看過するものと言わざるを得ません。

(5) なお、「検察官と職務と責任の特殊性」に基づき一般の国家公務員と異なる取り扱いをすることは、合理的理由による区別であって、法の下の平等を定める憲法14条1項には違反しないと解されます(少なくとも、現検察庁法が憲法14条1項違反という見解は私の知る限りほぼ存じ上げません)。

 

3.不要不急の法案ではないかという問題

(1)上記のほか、次長検事又は検事長の職務継続に関する改正案22条5項では、「内閣」が「職務の遂行上の特別の事情」を勘案し、「公務の遂行に著しい支障が生ずると認める事由として内閣が定める事由があると認めるとき」は職務継続できると定めています。

 しかし、上記検察官一体の原則に照らせば、そもそも検察官の職務は担当者によって相違が生じないようにする必要があり、他の検察官により代替しうるものであるべきであって、「職務の遂行上の特別の事情」や「公務の遂行に著しい支障」を前提とすること自体、恣意的判断が生じる恐れがあります。

(2)さらには、現在新型コロナウィルス感染拡大拡大による緊急事態宣言中であるにもかかわらず、検察庁法改正法案について拙速に審議を進めること自体、不要不急の法案の立法ではないか、重大な疑義があります。

 

第3 黒川氏の定年延長との関係

1.黒川弘務氏については定年延長する旨の閣議決定が1月31日になされていますが(当該問題については3月18日のコラムで言及した通りです。)、検察庁法改正法案は令和4年4月1日施行予定とされます。

2.ただ、黒川氏は国家公務員法81条の3第1項により定年延長されているところ、同2項では最長3年まで定年延長が可能とされています。黒川氏は本年8月7日まで定年延長されているため、同規定に基づき別途2年半、すなわち改正法案施行日以降まで定年延長が繰り返される可能性も否定できません。なお、現職の稲田伸夫検事総長は中途退官しない場合でも令和3年8月14日に満65歳となるため、黒川氏が検事総長に任命される可能性があります。東京高検検事長の指揮監督権は東京高検管轄内の区域内の検察官に対してですが(検察庁法8条)、検事総長は全ての検察官に対して指揮監督権を有します(同法7条)。

3.そして、①黒川氏が検事総長に就任した場合、65歳に達した段階で現行の国家公務員法81条の3に基づき定年延長を行なったうえ、②さらに、別途検察庁法改正案22条2項により最長3年まで定年延長可能というのが法務省の見解のようであり(改正法案附則3条5~7項)、長期間の定年延長がなされる可能性があります。

*法務省が上記の見解のようですので、当初の記載を改めます。

 

小川 智史 弁護士

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