【弁護士に聞く】追突事故の当事者となった時の慰謝料相場は?
[投稿日] 2018年09月14日 [最終更新日] 2018年09月14日
慰謝料・損害賠償を得意としている弁護士
交通事故の中でも、比較的多い追突事故。そのため、いつ自分が当事者になってもおかしくありません。
また、追突事故でやっかいなのが、むち打ち症です。
「ずっと続く痛みに悩まされる」そんなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで、追突事故の場合、特にむち打ち症になってしまった場合、慰謝料はどうなるのか、交通事故案件の経験豊富な むさしの森法律事務所の岡田正樹弁護士にお話を伺いました。

(むさしの森法律事務所)
弁護士歴30年以上。多数の交通事故案件を取り扱っており、事務所の年間相談件数は200件以上、解決する事案の数は100件以上。
――追突事故とその他の事故の違いは、一言でいうとどのような点にあるでしょうか?

岡田 弁護士
まず、追突された側に責任がないことが多いという点ですね。
多くの場合、過失割合に関して、追突された車が0、追突した車が100になります。
また法律上の話ではありませんが、追突事故は、むち打ち(頸椎捻挫)および腰椎捻挫など、捻挫系のケガを発症することが多いという特徴もあります。
実際の交通事故のパターンとしては、追突事故はかなり多いのではないのでしょうか。
信号待ちで停止中の車列に、信号見落としで追突するというパターンが多いと思われます。
――追突された車の過失は0%になることが多いとのことですが、被害者側に過失が認められるケースはありますか?

岡田 弁護士
急ブレーキによる停止、急減速の場合は、追突された車に過失が出てくる場合もあります。ただし、やむを得ない場合は除きます。
過失が出るのは、不必要な急ブレーキ・急減速の場合です。
例えば、子どもが飛び出てきそうに見えたから急ブレーキをかけた場合は、やむを得ないといえるので、過失は出ません。
もっとも、やむを得ない急ブレーキであることを立証できるかどうかという問題はあります。
- 追突事故の過失割合は追突車:被追突車=100:0であることが多い。
- 事故のパターンとしては、追突事故はかなりよくある。
――追突事故により負傷や死亡などの人的損害が生じた場合、慰謝料はどれくらい請求できますか?

岡田 弁護士
追突事故の場合、高速道路以外の一般道では基本的に被害者が亡くなることはまずありません。
また、追突による負傷は捻挫系が多く、入院の必要もない場合が多いです。
そうすると、症状としては、他覚的所見のない自覚症状のみということになります。
傷害部分の慰謝料は、通院期間(実日数による換算)により算定されます。
後遺障害に当たる場合は、等級に応じて慰謝料が算定されます。
――後遺障害の等級は何級に該当しますか?

岡田 弁護士
むち打ちは、一般的にはせいぜいが14級9号で、ほとんどが非該当です。まれに12級13号となることがあります。
ところで、後遺障害の等級は、「局部に神経症状を残すもの」は14級9号、「局部に頑固な神経症状を残すもの」は、12級13号に該当します。
14級9号と12級13号との違いは、神経症状が「頑固」かどうかです。
この「頑固」とは、主観的に頑固な痛みという意味ではなく、他覚的な所見があるもの、すなわち、医学的に証明ができるという意味です。
14級9号の神経症状は、医学的に証明はできないが、そういう痛みがあるのは当然だろうと説明がつくものをいいます。
――「医学的に証明ができる」とは、どういうことでしょうか?

岡田 弁護士
神経圧迫とは、頚椎の間からでている末梢神経が出口のところで圧迫されている状態です。
これがMRIなどの画像で出ていて、しかも、痛みやしびれなど症状が出ている部位が神経の支配領域と一致する場合が、「医学的に証明ができる」ということです。
むち打ちつまり頚椎捻挫は、頚椎やそれらの末梢神経そのものではなく、靱帯等の軟部組織がダメージを受けているもので、必ずしも神経圧迫を伴うものではありません。
むち打ちの後遺障害は、せいぜいが14級9号であり、それにも当たらない被害等が大半だと言われています。
つまり、14級9号の場合、MRIでは神経圧迫が見られず、「医学的に証明ができる」といえない場合を言うのです。
しかし、事故状況、治療の期間や内容などからみて痛みが続くと説明がつく場合だということになります。
――では、追突事故により車両が大破したなどの物的損害が生じた場合、慰謝料を請求することはできますか?

岡田 弁護士
車両の損害については、裁判になったとしても、慰謝料は発生しません。
いくら大事にしていた愛車であっても、車両は消費財だからです。
ただ、慰謝料とは違うのですが、新車や1~2年の国産車で、フレームがゆがんだり全塗装になったりした場合、「格落ち」になり金銭的な価値に影響したということで修理費の一定割合に応じた金額を請求できることがあります。
もっとも、格落ちが認められる場合もかなり限られるので簡単ではありません。
私見ですが現実の運用としては、この部分が慰謝料のように扱われているといえるかもしれません。
――車以外の物的損害についても、慰謝料は一切認められないのでしょうか?

岡田 弁護士
物的損害であっても、ペットに損害が生じた場合に慰謝料を認めたケースはあります。
これは私の解釈ですが。
ペットは車とは違って、格落ちとか減価償却という考え方で損害額を決めることはできないので、経済的価値を補完する意味合いで、慰謝料を認めたのではないでしょうか。
だから、物損でも慰謝料が認められる可能性があると一般化するのは正しくありません。
- 追突事故特有の慰謝料等の損害賠償基準があるわけではない。
- 追突事故では「むち打ち症」を発症することが多い。後遺障害と認定された場合、等級に応じた慰謝料を請求できる。
- 物的損害の慰謝料をとることはほぼ不可能。
――追突事故の被害者としては、少しでも慰謝料を多く取りたいというのが本音ではないかと思います。慰謝料を高くとるためには、何かポイントがありますか?

岡田 弁護士
自動車事故の慰謝料は、性別・職業・社会的地位に関係なく、平準化されています。
それを超えて多く取れるということはありません。
会社の社長でも、主婦でも、通院実績(通院期間、頻度)と後遺障害の等級に応じて平等に判断されます。
ただし、慰謝料とは別に発生する「休業損害」「逸失利益」については、年収などが影響してきます。
――では、違いが出ることはないでしょうか?

岡田 弁護士
治療期間あるいは後遺障害等級に応じて定額化しているので、個別的な事情を強調しても慰謝料が簡単に増額されることはありません。
なお、増額と言うこととは次元が異なるのですが、慰謝料の基準には次の3つの基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
各基準によって、支払い金額は変わってきます。
――自賠責基準とはどんなものでしょうか?

岡田 弁護士
政令に定められた最低限の支払い基準です。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)については、「一日4200円×通院実日数×2」で算定されます。
つまり、通院期間に応じて日額4200円として算定するのです。
この式で言う「通院実日数」とは、実際に通院した日数のことです。
例えば6か月の間に、45日通院した場合は、暦の上でが6か月間通院したのだから30日×6=180日が通院期間となるのではありません。
実際に通院した日数である45日×2の「90」日間が通院期間となります。
つまり、通院実日数を2倍して隔日通院に引き直して通院期間を算定するのです。
――任意保険基準とはどんなものでしょうか?

岡田 弁護士
各保険会社と共済が設定している「我が社基準」です。
そのため、詳細は公開されていません。
実は、以前は任意保険基準も公開されていました。
しかし保険会社が横並びで一律の基準を使用することが独禁法違反に当たるのではないかという指摘を受け、現在は各社が独自の基準を設けています。
――任意保険基準は、自賠責基準よりも高額なのですが?

岡田 弁護士
非公表なので、実際のところはよくわかりません。
任意保険基準の方が一般的には高めといえます。
ただし、通院の実日数を基本として、頻度を考慮して通院期間に応じた金額を算定する点は自賠責と変わりはありません。
――弁護士基準(裁判基準)とはどんなものでしょうか?

岡田 弁護士
日弁連交通相談センターが発行している「赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」別表の基準です。
この表には東京地裁の実務に基づいた賠償額の基準が示されています。
基本的には、自賠責基準や任意保険基準よりも賠償額が高めになります。
なお「弁護士基準」というより「訴訟基準」という方が正確かもしれません。
弁護士に依頼しない本人訴訟の場合でも、この基準を使うことができますから。
また、紛争処理センターで使われるのもこの基準です。
ただ弁護士は、交渉の段階から弁護士基準を使うことが多いので、弁護士に依頼すれば、訴訟でなくてもこの基準に近くはなります。
注意が必要なのは、任意保険基準も同じですが、「訴訟基準」(弁護士基準)は、自賠責基準と違って過失相殺の対象となるので、常に、それらの基準の満額が手元に残るわけではないということです。
- 交通事故の慰謝料は平準化されている。
- 自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の三つの基準があり、弁護士基準が最も高額だといわれている。
――「追突事故で、むち打ち症になった」という話をよく聞きます。むち打ち症を理由に慰謝料を請求したい場合、まず何をするべきでしょうか?

岡田 弁護士
慰謝料は損害項目の一つとして請求します。
むち打ちに限らず、慰謝料には入通院期間である傷害部分の慰謝料と、後遺障害慰謝料があります。
先ほども説明しましたが、傷害部分の慰謝料の金額は、通院日数によりほぼ自動的に決まります。
また、後遺障害慰謝料は、症状固定後の等級に応じて決まります。
――むち打ち症は「後遺障害と認定されにくい」と聞きました。

岡田 弁護士
むち打ちの症状が自覚症状の痛みのみであり、痛みは可視化できないのが認定されにくい理由でしょう。
また、治療期間が短期間であることが理由になることもあります。
むち打ちの場合、保険会社は、3か月で治療の打ち切りを提案してくる場合が多いのですが、自賠責の場合、治療期間が6か月に満たない場合は、後遺障害として認定されません。
継続した一定の痛みが残存していることが後遺障害認定の前提なのですが、6ヶ月に満たない短期間で治療が終わるのに半永久的な痛みが残存するわけがないと考えられてしまうのです。
――むち打ち症で後遺障害の等級認定をとる場合、どのような検査を受けておくべきでしょうか?

岡田 弁護士
ジャクソンテスト、スパーリング検査があります。
しかし、損害保険料率算出機構はこれらの検査の結果を信用していません。
もっとも、それらの検査をやっていないよりもやっていた方が検査結果に基づいて治療したという評価に結びつくのでやっておく意味はあります。
なお、大切なのは、最初にレントゲンを撮影しておくことです。
レントゲンで何がわかると言うことではありません。
ただ、レントゲンを撮影しないで、後になって自覚症状を強調しても「最低限の検査すらせずに症状を過度に誇張している」と解釈されかねないのです。
――むち打ち症で後遺障害の等級認定をとる場合、後遺障害診断書の記載のポイントはありますか?

岡田 弁護士
常時痛として残存している旨の記載は必須です。
「常時痛」とは、安静時でも何をしていても痛みがあることをいいます。
「何か特定のことをしていると痛む」という運動痛は、常時痛とは言えません。
なお、判で押したような単に「常時痛」があるという記載も印象は良くないでしょうね。
また、「痛みは残存しているが、治療によりさらに改善の見込みがある」など、改善傾向にある旨の記載があると認められない可能性が高いです。
他にも、「寒い朝に痛む」など、気候の変化により痛みが増す旨の記載もだめです。
それ以外の日は痛くないのかというニュアンスになってしまうからです。
――後遺障害診断書に上記のような不適切な記載があった場合、ドクターにお願いすれば、診断書を書き直してもらえますか?

岡田 弁護士
診断書の書き直しは、西暦と和暦を間違えたなど、明らかな誤記の場合はともかく、診断内容について書き直しはしてくれないでしょう。
ドクターのプライドの問題もありますが、虚偽診断書作成罪(刑法160条)に問われかねませんからね。
また、もし診断書の書き直しができたとしても、元の記載は残ります。
裁判になって文書送付嘱託がされれば、全ての診断書が出てしまいます。
書き直しを依頼したことでかえって不利になる可能性もあります。
- 「むち打ち症」は後遺障害として認定されにくい。
- 後遺障害診断書に、常時痛が残存している旨の記載があることが必須。
追突事故は、基本的に被害者には過失がない事故ですが、それによってむち打ち症などの、特有の症状が出ることがあります。
しかしむち打ち症は、辛い症状があっても後遺障害と認定されにくいのが難しいところです。
むち打ち症で後遺障害の等級をとるには、いくつかポイントがあります。
保険会社に治療の打ち切りを打診され、どうしてよいか迷ったときは、交通事故案件の経験豊富な弁護士に相談するのもよいでしょう。
更新時の情報をもとに執筆しています。適法性については自身で確認のうえ、ご活用ください。
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