DV

DV(ドメスティック・バイオレンス)は、法律でどんな扱い?弁護士に相談するポイント
DV(ドメスティック・バイオレンス)という言葉は、最近ごく当たり前に見聞きするようになりました。家庭内で夫や妻から暴力を振るわれた、恋人の機嫌を損ねたら激しい罵声を浴びせられた。こうした被害がDVの典型です。
もちろん他人に暴力を振るうのは暴行罪、傷害罪などの犯罪です。しかしDVは、家庭などの第三者が立ち入らない場所で起こるので被害が発見されにくく、被害者は対処方法を見つけるのにも苦労してしまいます。
そのため、パートナーからの暴力被害については、被害がかなり大きくなるまで表面化せず、被害者一人で抱え込み、追い詰められやすいという傾向があります。
ここでは、DVの特徴や対処法、またDV被害の相談先などについて詳しく説明します。
現在誰にも相談できずに悩んでいる人の一助になればと思います。
目次 |
---|
一般的な会話の中でも良く使われるようになってきた「DV」という言葉。
なんとなくは知っているかもしれませんが、ここで改めて、どんなものなのか確認してみましょう。
1-1 DVの意味
DVとは、「ドメスティック・バイオレンス」(domestic violence)の略称です。
直訳すれば家庭内暴力のことで、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある者から振るわれる暴力」という意味で一般的に使用されています。
例えば、夫が妻に対して暴力を振るう行為がDVにあたります。
DVと聞くと、被害者は男性よりも力が弱い女性であることを思い浮かべる人が多いと思います。
実際、DV被害者の約85%は女性です。
しかし、性別は関係なく男性も被害者となることに注意が必要です。
例えば、妻が夫に対して暴言を吐き続けたり、叩いたりすることは、家庭内における肉体的・精神的暴力となり、DVになるのです。
1-2 結婚していなくてもDVになり得る(デートDV)
DVは、婚姻関係にある夫婦だけの問題ではありません。
ただ交際している間柄、特に中学生・高校生・大学生など若年者の間でも、交際相手から上記に述べたようなDV行為が行われている場合があります。
それは「デートDV」と言われています。
直接的な暴力だけでなく、相手の行動を一方的に制限したり、友人や家族と連絡をとることを禁止したりする行為などもデートDVに当たります。
特に、精神的にも未成熟な若者が当事者となることが多いデートDVを防ぐためには、お互いの意見を普段から落ち着いて話し合い、対等な交際関係を築く努力をしていく必要があります。
1-3 DVの種類
DVというと、一般的には殴る・蹴るなどの身体的な暴力がDVに当たると思われがちです。
しかしDVにあたる暴力にはさまざまな形態があります。
ここではDVの形態について大きく6種類に分けて詳しく説明していきます。
具体的には、相手を殴ったり、蹴ったり、物を投げつけるなど、身体に危害を加える行為のことです。
「暴力」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる人が一番多いであろう形態です。
精神的な暴力もDVになります。
例えば、相手に対して「死ね」「お前は何をやってもダメだ」などといった精神的に苦痛を与える発言をすることが当たります。
また、パートナーのことを無視し続けるといった精神的な嫌がらせも精神的暴力行為に当たります。
例えば、パートナーが性行為を拒んでいるにもかかわらず、無理やり性交渉を行うことや、避妊に協力しない行為も性的暴力行為として、DVになります。
夫婦(または内縁・恋人)関係であっても、性行為をするかどうかは、各々の自由意思にかかっています。そのため、拒否の意思を示しているパートナーに対して無理やり性行為を強制することは、性的暴力になりうるのです。
社会的暴力とは、例えばパートナーの友人関係や親戚関係を監視・制限したり、外出を制限する行為のことです。
相手の社会的なつながりを断ち、精神的に孤立させるという苦痛を与える行為であることから、DVになります。
働いていて十分な給与所得を得ているにもかかわらず家族に必要な生活費を渡さないことや、貯金を勝手に使い込む行為のことです。
故意に家族を経済的困窮させる行為であり、経済的暴力としてDVになります。
子供がいる家庭の場合、子供の前でパートナーに暴力を振るったり、パートナーを罵倒したり、または子供にパートナーへの暴言を言わせるなどの行為が行われることがあります。
このような子供を巻き込んだ行為も、DVに当たります。
1-4 増加傾向にあるDVの相談
DVの相談者数は年々増加しています。
警察庁の資料によると、配偶者からの暴力行為の相談は、2012年の43,950人から、わずか4年後の2016年には69,908人にまで増えています。
また、配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は2002年度には35,943件だったのに対し、平成27年度には11万1630件つまり3倍以上にまで増加しています。
ここでのポイントは、「相談者」が増えているということです。
DVが社会問題になり法も整備されてきて、「自分はDVを受けているかもしれない」と認識しやすくなったということや、外部の人に相談する重要さが伝わってきたという背景もあるものと思われます。
このように、多くの方が悩み、相談をしています。
あなたも、もしDVかもしれないと思ったら、まず相談をしてみてはいかがでしょうか。
1-5 なぜDVが起きるのか
多くの人が「暴力はいけないこと」であるとの認識はあるはずです。
しかし、なぜ上記のようにDVは減少せずに、社会問題としてあり続けているのでしょうか。
内閣府男女共同参画局のウェブサイトには、こんな記述があります。
また、暴力の原因としては、夫が妻に暴力を振るうのはある程度は仕方がないといった社会通念、妻に収入がない場合が多いといった男女の経済的格差など、個人の問題として片付けられないような構造的問題も大きく関係しています。
個人の性格・資質の問題もあるものの、社会構造や文化的な要素も背景にあると考えられています。
普段は穏やかな人が、家庭内では暴力的になるというケースもあります。
誰もがDVの被害者になる可能性があるといえるでしょう。
「まさか自分が」「まさかあの人が」といったことは考えず、被害者になっていると感じたら、対策を考えることが大切です。
2-1 いったん優しくなるがまた再開する!DVのしくみ
DVには次のような一定のサイクルがあり、それを繰り返すパターンが多いと言われています。
①蓄積期:イライラしてストレスがたまり二人の間にピリピリとした緊張関係ができる
②爆発期:ストレスが爆発し、怒りをコントロールできなくなり暴力をふるう
③安定期:爆発期にストレスを発散させたことで心が穏やかになり、自分の行動を反省したり、配偶者に優しくしたりする
安定期に加害者が優しくなることから、被害者は「これが本当の彼(彼女)だ」などと考えてしまい、被害を相談したり、逃げたりするなどの対応を取れなくなる傾向にあります。
しかし、また些細なことでストレスが溜まり始め、DVの加害者は①~③のサイクルを繰り返すことになります。
2-2 被害者や家族への影響
DVによって生じるのは、直接的な肉体的・精神的苦痛だけではありません。どんな影響があるのか、見てみましょう。
【①怪我・あざなど】身体的な暴力行為によってDVが行われた場合、殴られたり蹴られたりしたDV被害者は、身体にあざが出来たり、怪我を負うことがあります。
これは、次に述べる精神的被害に比べると、第三者からも気づかれやすいDV被害と言えます。
またこうしたあざなどを気にして外部との接触を避けるようになり、助けを求めにくくなるなどの悪循環も生まれがちです。
【②精神的な影響(PTSDなど)】DV行為が行われると被害者は、上記に述べたような身体的外傷だけでなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる可能性があります。
PTSDになると、暴力を受けているシーンが頭の中に突然思い浮かび、DVの被害状況を鮮明に思い出してしまったり(フラッシュバック)、神経が研ぎ澄まされて物音などに過剰に反応してしまったりするようになります。また、DVを受けた場所に近づくことができなくなったり、DV加害者に似た年恰好の人を見ると動悸がするようになったりなど、日常生活に支障をきたす可能性があります。
DVが原因となって、このように自分自身でも気づかないうちに、被害者にとって深刻な精神的影響が残るおそれがあるのです。
【③社会的な孤立】DVの加害者と被害者は、夫婦または内縁、恋人関係といった親密な関係にあるため、DV行為のことはプライベートな身内の問題であるとして、被害者は他人に相談できず、自分で抱え込んでしまい、孤立しやすい傾向にあります。
さらに、パートナーの友人関係や親戚関係を監視・制限、または外出を制限する方法(社会的暴力行為)でDV行為が行われると、被害者の社会的つながりが物理的にも断たれ、より一般社会から孤立してしまいます。
このようにDV被害者は、精神的にも物理的にも一般社会から孤立しやすく、第三者の手助けを得られにくいため、被害がより深刻化する危険があるといえます。
【④子供の心身や健全な成長への影響】子供が直接の被害者にならなくても、DV行為は悪影響をおよぼします。
子供にとって親は、模範とするべき一番身近な大人です。その親がDV行為を行ってしまうことは、子どもの健全な成長への悪影響が考えられます。
例えば、千葉県のDV対策班のページには、次のような記載があります。
子どもは両親の暴力を目の当たりにして、心に大きな傷を負います。また、親の暴力が子どもに及ぶことも珍しくありません。暴力を受けた親自身も子どもを虐待してしまうこともあります。
さらに、両親の暴力を見て育った子どもが、暴力によるコミュニケーションを学習し、将来人間関係がうまく築けなくなったり、DVの加害者や被害者になってしまう「暴力の世代間連鎖」という事例も報告されています。被害者に対するケアはもちろんですが、子どものためにも、「暴力の世代間連鎖」を断ち切るためにも、子どもへのケアも非常に重要な課題となっています。
このようにDV行為は、DVの直接的な被害者だけではなく、子供の健全な成長にとっても、悪影響を与える可能性がある行為なのです。
2-3 なぜ被害が大きくなってしまうのか
小さな兆候から、やがてはっきりした暴力行為に変わり、大きな被害になってしまうことがあります。
なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。
DVは親密な関係の中で起こる暴力行為であるため、被害者はパートナーから暴力を振るわれる自分を否定的に見るようになり、自己肯定ができず、無力感を持つようになります。
また、第三者に相談をしても、ただの夫婦げんかや家庭内の問題として、扱われてしまうため無駄だろうと考え、DVの被害申告をすることが出来ず、より被害が大きくなってしまう可能性があります。
【②相手への期待・愛情から】DVはストレスの蓄積期、怒りを爆発させる爆発期、安定期の3つのサイクルを辿ります。この安定期に加害者が優しくなることから、被害者は今度こそパートナーが心を入れ替え、優しくなってくれるのではないか、DVをやめてくれるのではないか、と期待してしまい、DV被害を他人に申告することが出来なくなる傾向にあります。
また、DV加害者に愛情があるため、刑事事件等になってはいけないと思い、他人に相談ができず、被害が深刻化している可能性があります。
【③今の生活を失うのが怖くて】妊娠・出産・子育てなどにより、一般的に女性は男性よりもライフスタイルが変化しやすく、仕事をやめざるを得ない場合があります。仕事を辞めて経済力を失ってしまった女性にとっては、パートナーのDV行為を申告することで、離婚もしくは刑事裁判などにより、生活基盤を失う可能性があります。
このようにDV加害者と被害者が、同じ経済基盤で生活している場合、主に経済力を含めた現在の生活環境を失う恐怖によって、DV被害の相談ができず、被害が深刻化する可能性があります。
【④(男性の場合)DVは女性が遭うものだと考えてしまうため】DVの被害者が男性である場合、被害者が女性である場合よりもさらに、被害が露見しにくい傾向にあります。
一般的に男性よりも女性の方が力が弱く、またDVの被害者は女性が圧倒的に多いため、DV被害に遭っている男性は、「自分がDV被害者である」となかなか認めることが出来ません。また、自分がDV被害者であるとは分かっていても、男性である自分がDV被害者であることは恥ずかしいと考え、第三者に相談できない人が多くいます。
そのため社会的孤立が進み、被害がより深刻化してからしか、DVに関する相談・ケアを行うことができず、被害が拡大してしまうのです。
第3章 DVの法的な扱いこの章では、DVを法的にどう扱うのかを説明します。
3-1 DV防止法について
増大するDVに対応するために作られた「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(配偶者暴力防止法)という法律があり、これは「DV防止法」と呼ばれることもあります。
この法律は、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的として制定されました。
女性だけでなく男性もこの法律の対象になりますが、DV被害者の多くが女性であることから、女性被害者に配慮した内容の前文が置かれています。
DV法における「配偶者からの暴力」の定義ですが、婚姻の届出をしていない「事実婚」(もしくは内縁状態)における暴力も含まれます。また、離婚成立後でも引き続き暴力を受ける場合、元配偶者からの暴力も含まれます。
DV法の特徴は、暴力を振るう配偶者から被害者を守るため、第10条に保護命令に関する規定を置いていることです。
(なおこの規定は、配偶者だけでなく、生活の本拠を共にする交際相手からの被害者についても準用されています。DV防止法28条の2)
保護命令違反をした加害者に対して罰則を科すことができる点で、被害者の保護をより手厚く行うことが出来るようになっています。
命令に違反すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
3-2 刑法
DV行為の中には、刑法に規定されている犯罪行為に該当し、刑事罰に問われる可能性のあるものがあります。
ここでは、DVがもとで起きうる刑法違反についていくつか説明します。
ここに挙げているもの以外にも、該当する可能性のある罪はあります。
大切なのは、DVのように家庭内の行為であっても、このように刑事罰に処される可能性があるということを認識することです。
DVの被害者となった方は刑事告訴も選択肢の一つとして自分の身を守るようにして下さい。
刑法208条では、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と規定されています。この条文に規定されている暴行罪は、人の身体に対する不法な有形力の行使である「暴行」を行い、人を傷害するに至らなかったときに成立します。
例えば配偶者を殴ったり、蹴ったりするDV行為は人の身体に対する不法な有形力の行使であり、「暴行」に当たるため、この暴行罪が成立する可能性があります。
【②傷害罪】刑法204条では、「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。この条文に規定されている傷害罪は、人に対して「暴行」つまり不法な有形力の行使を加え、「人の身体を傷害したとき」つまり人の生理的機能を害した場合に成立します。
そこで、例えば配偶者を殴ったり、蹴ったりして怪我をさせた場合だけではなく、配偶者を罵倒し続けて精神的苦痛を与え、精神的な病にさせた場合にも、そのDV行為は傷害罪に問われる可能性があります。
【③脅迫罪】刑法222条1項・2項では、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。」と脅迫罪について規定しています。
例えば配偶者に対して、「殺すぞ」「殴るぞ」「親族がどうなっても知らないぞ」などの害悪の告知をし、それが一般的に恐いと感じる行為であれば、そのDV行為は、脅迫罪に問われる可能性があります。
第4章 DVかも!と思ったときに取るべき行動DVの被害に遭ったら、対抗手段を取る必要があります。
どうするべきか、いくつかご紹介します。
自分がDVの被害を受けている可能性があると感じた場合には、出来るだけDVの証拠を集めておくことをおすすめします。
DV行為が民法709条に規定されている不法行為に当たるとして、加害者に対して損害賠償請求を行う場合や、刑事告発をする場合には、DV行為があったことを被害者側が立証する必要があります。そのため、DVの証拠を残しておくことがとても重要になるのです。
また、DVの加害者である配偶者と離婚をしたいと考えた場合、DVを行っていたという事実は離婚事由になります。
そのため、DV行為の証拠を残しておくことで、より迅速かつ有利に離婚手続をすすめることができます。
また、慰謝料を請求できる可能性もあります。
DVの証拠収集の方法としては、例えば、次のような方法があります。
- 病院に行って医師の診断書を書いてもらう
- DVによって生じた傷の写真を撮って残しておく
- DV加害者の発言を録音する
- DVの内容と日付・その日の天気や出来事を併記した信憑性の高い日記をつける
病院に行きにくいと感じていたり、わざわざDV被害の日記をつけることはハードルが高いと感じている人でも、まずは身近な出来ることからDVの証拠を残すようにして下さい。
【②避難する】DV行為の証拠集めの重要性について上記で述べましたが、あくまでも自分や家族の身の安全を絶対に優先させて下さい。
DV行為がエスカレートしており、生命・身体の危険を感じた場合には、緊急手段として物理的に避難することも必要となります。
危険が差し迫っており、早急に避難が必要な場合には、最寄の警察署や交番に助けを求めて下さい。
民間運営の「DVシェルター」と呼ばれる施設もあります。
一定期間、暴力を振るう配偶者から隔離してもらうことができます。ただし、外部と一切連絡が取れなくなる場合もあるので、利用には注意が必要です。
警察に相談することで、紹介してもらえる場合があります。
また女性を一時的に保護する、婦人保護施設というものもあります。
これは、家庭環境の破綻や生活の困窮など、様々な事情により社会生活を営むうえで困難な問題を抱えている女性を保護の対象としている施設で、DVの被害者も保護対象となっています。
DV加害者と一緒に生活していくことが難しいと判断した場合には、各都道府県に必ず1つ設置されている婦人相談所に相談し、入所を検討してもらうようにしましょう。
【③警察に注意・指導してもらう】すぐに交番や保護施設に行くほど危険が差し迫っていない場合であっても、DVがエスカレートしていく危険性があります。
そこで、第三者の公的機関である警察に注意・指導してもらい、配偶者のDV行為がエスカレートすることを防ぐという選択肢も検討しましょう。
ただし、警察という第三者の前では反省した態度を見せていても、警察に通報した行為に対して腹を立て、さらなるDVを行ってくる危険性もあります。配偶者の性格を見極め、警察による指導で、DV行為がおさまると考えられる場合にのみ行うようにしましょう。
【④刑事告訴する】DV行為は、暴行罪・傷害罪・脅迫罪などの犯罪行為に該当する可能性があります。
そのため、DV被害者は、加害者を告訴(捜査機関に対して犯罪を申告し処罰を求める意思表示)することができます。
刑事告訴するか迷っている段階でも、DV被害の取り返しがつかなくなる前に、告訴するか(出来るか)も含めて、法律の専門家である弁護士等にまず相談することをおすすめします。
【⑤保護命令の申し立てを行う】DV法10条にのっとり、地方裁判所に申し立てることで、裁判所から命令を発令できます。
被害者からの申し立てにより、裁判所が配偶者に対して、次のような命令を発することができます。
(1)被害者への接近禁止命令
(2)被害者と共に生活の本拠としている住居からの退去命令
(3)被害者への電話等禁止命令
(4)被害者の同居の子への接近禁止命令
(5)被害者の親族等への接近禁止命令
相手が命令に違反すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
まず、「(1)被害者への接近禁止命令」についてですが、これは被害者へのつきまとい・被害者の住居(別居の場合)、勤務先等の近くを徘徊することを禁止する命令で、期間は6か月と定められています。(DV法10条1項1号)
次に、「(2)被害者と共に生活の本拠としている住居からの退去命令」についてですが、これは住居からの退去及び住居の付近の徘徊の禁止を命ずる命令で、期間は2か月と規定されています。(DV法10条1項2号)
「(3)被害者への電話等禁止命令」は、被害者本人への接近禁止命令の実効性を確保するため、被害者に対する面会の要求、監視の告知、乱暴な言動、無言電話・緊急時以外の連続する電話・FAX・メール送信、汚物等の送付、名誉を害する告知、性的羞恥心の侵害のいずれの行為もしてはならないことを命ずるもので、被害者からの申立てにより、被害者への接近禁止命令と併せて発令されます。
「(4)被害者の同居の子への接近禁止命令」はDV法10条3項に規定されています。これは被害者と同居する未成年の子へのつきまといや子の学校等の近くを徘徊することを禁止する命令です。
被害者からの申し立てにより、必要があると認める場合に、被害者への接近禁止命令と併せて発令されます。
なおこの命令は子供が15歳以上の場合は、その子の同意がある場合に限られます。
「(5)被害者の親族等への接近禁止命令」はDV法10条4項に規定されています。
被害者の親族や、関係者へのつきまといや住居、勤務先等の近くを徘徊することを禁止する命令です。
被害者からの申し立てにより、被害者がその親族等に関して配偶者又は生活の本拠を共にする交際相手と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認める場合に、被害者の生命又は身体に危害が加えられることを防止するため被害者への接近禁止命令と同時に又はその発令後に発令されます。
なお、これは親族等の同意がある場合に限られます。(DV法10条5項)
保護命令の申し立て方法は、DV法12条に定められています。
保護命令の申し立ては、まず配偶者暴力相談支援センターまたは警察へ相談し、申し立てる方法があります。
相談しない場合には、公証人面前宣誓供述書(公証人の認証を受けるために11,000円が必要)を作成した後で、申立書に必要書類を添えて、地方裁判所に提出する方法があります。
申立てができる地方裁判所は、相手方または自分の住所や居所を管轄する地方裁判所か、暴力が行われた場所を管轄する地方裁判所のいずれかです。
第5章 DVに関する相談先 【①警察署】たとえ家庭内のことであっても、暴力行為に対して相談したり、援助や保護を求めたりすることができます。
単純に警告を出してもらうこともできますし、警察を介して禁止命令を出す手続きをしてもらうこともできます。
また、法令に違反する行為を受けたのであれば、被害届を出して捜査・検挙の結果、加害者を刑事罰に処することができます。
特に、身の危険を感じた場合は110番通報や最寄りの警察署・交番への連絡をするようにしましょう。
【②配偶者暴力相談支援センター】都道府県の婦人相談所など被害女性の保護に適切であると判断される施設が、配偶者暴力相談支援センターの機能を果たしています。
その他、市町村が設置している配偶者暴力相談支援センターもあります。
ここでは、相談やカウンセリングのほか、緊急時における被害者と同伴者の一時保護などを受けられます。
都道府県によっては婦人相談所のほかに女性センター、福祉事務所などを配偶者暴力相談支援センターに指定しているところがあるため、自分が住んでいる市役所に電話をして確認するようにしましょう。
【③女性センター】都道府県、市町村等が自主的に設置している女性のための総合施設で、名称はさまざまです。
ここでは、女性の地位向上や女性問題の解決を目的としており、女性が抱える問題全般の情報提供、相談等を実施しています。
上記の「配偶者暴力相談支援センター」に指定されている施設が女性センターと同義である場合もあるので、最寄りの女性センターを調べるか、市役所に問い合わせて確認することをおすすめします。
弁護士は、民事裁判だけでなく刑事裁判についても専門家としてのアドバイス、法的手続き方法、訴訟、相手との交渉まで行ってくれるスペシャリストです。
DV被害に基づく損害賠償請求や、刑事告訴を考えている場合には、法律の専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。
具体的にどんな対応をしてもらえるのか、次の6章で詳しく説明します。
DV行為は、上記に述べた通り、暴行罪・傷害罪・脅迫罪などの犯罪行為に該当する可能性があります。
そのため、DV被害者は、加害者を告訴(捜査機関に対して犯罪を申告し処罰を求める意思表示)することができます。
こうした刑事告訴について、弁護士に代行を依頼できます。
普段、平穏に生活している人にとって、刑事告訴は不明点の多い不安な手続です。
法律の専門家である弁護士に依頼し、相談しながら、スムーズに進めることをおすすめします。
DVの末に離婚を望む場合、弁護士は代理人として離婚の協議・調停・裁判等を行うことができます。
加害者の高圧的な態度に恐怖を感じて、離婚に進めなかったり、不利な離婚条件を飲まされたりすることのないよう、弁護士に交渉を代理してもらうとよいでしょう。
また、DVという不法行為に対しての慰謝料を請求できます。
適正な慰謝料を請求し、しっかり受け取るためにも、弁護士の存在は心強いものとなるでしょう。
6-1 相談する際のポイント
DVの加害者は、被害者自身の家族や恋人であることがほとんどです。
そのため、加害者を法的に糾弾したいのか、今後どうすれば良いのか、離婚した方が良いのか、など、さまざまなことを迷うものです。
そこで、様々な選択肢を弁護士に提示してもらい相談しながら、自分にとってベストの方法を見つけていくことをおすすめします。
弁護士は、さまざまな案件を扱っているため、似たような事例を聞いて、参考にしてもよいでしょう。
一時的な感情ではなく、第三者である弁護士の意見を聞きながら、長い目で見て、自分の人生にとってプラスになる対応を選ぶようにして下さい。
6-2 弁護士の探し方
弁護士検索システムから、DVの案件を取り扱っている弁護士を検索し、ご自宅や職場からアクセスできる地域で絞り込んで、相談しやすい弁護士を探してください。
相談は1時間5,000円~10,000円ほどで行えます。
また、初回相談は無料という事務所もあります。
まずは、相性が合いそうか確認してみるのもよいでしょう。
この記事を読んでいる方の中には、DV被害に遭い、誰にも相談できずに一人で抱えこんで悩んでいる方もいらっしゃると思います。
あなたが声を挙げなければ、DV被害者を保護することを目的として制定された法律も、公的な機関も、友人も、あなたを助けることができません。
自分や大切な家族のためにも、出来るだけ早く周囲に助けを求め、DV行為から解放されることを祈っています。
DVを得意としている弁護士
トップへ
DVされてどうしたらいいのか教えてください