婚約・婚約破棄

「婚約」と「婚約破棄」の定義と損害賠償|結婚しないと慰謝料が発生する?
結婚前に婚約という状態になることがあります。
しかし、婚約状態になった後に「やっぱりこの人と結婚できない」などと一方的に婚約を取りやめることもあります。(このことを婚約破棄といいます。)
さて、結婚をしているわけではない婚約の状態でも何か法的な責任が生じるのでしょうか?
これから婚約を考える人、または婚約中だけど婚約を破棄したい人は、婚約と婚約破棄、法律の面からみた場合の問題点をチェックしておきましょう。
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婚約とは、「男女が将来の結婚を約束すること」です。
法律に特別な規定はありません。
「男女間での将来結婚しようとする合意」であり、「誠心誠意を以って将来に夫婦たるべき予期の下に」なされる必要がある、と定義した判例があります(誠心誠意判決(大審院判決昭和6年2月20日))。
判例は「男女間の将来的な婚姻についての契約」と位置づけているといえます。未成年であっても意思能力があれば婚約することができます。
ただし、近親婚のようなそもそも婚姻が許されない人の間では、婚約は無効となります。
また、配偶者のある人との婚約については、公序良俗に反するため無効であるとされます。(婚姻がすでに事実上の離婚状態にあるならば認めてよいという考え方もあります。)
どうやったら婚約になる?
では、何をしたら婚約状態になるのか決まっているのでしょうか?
婚約のあとの結婚(婚姻)は、民法で「戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」と定められています(民法739条1項)。
しかし、婚約については、民法上何も定められていません。何の方式も必要としない「不要式行為」であるとされています(最高裁判決昭和38年9月5日)。
婚約が認められるには「男女間で結婚の約束が成立している」という事実だけでOKです。
契約書を取り交わす必要はありません。
一般的には、婚約指輪を送ったり、互いの両親の家を訪問したり、結納を交わしたりする場合が多いと思われます。
ただし、これらは婚約成立を証明する事実にはなるものの、婚約の成立の要件ではないとされています(大審院判決大正9年5月28日)。
一般的に婚約と認められる要素
婚約破棄をした場合、「そもそも婚約が成立していたかどうか」が問題になることがあります。
婚約は男女間の約束のみで成立しますが、男女二人の間の約束の存在を証明することはとても困難なので、ケース・バイ・ケースとなります。
あるケースでは、「結納などの婚約の成立と認められるような外形的な事実がない場合には、その認定は慎重にすべき」とした上で、次のような内容を総合的に考慮しています。
- 交際が肉体関係を伴う形で続いたこと
- 両親や友人に対して相手方を婚約者あるいは結婚を前提とした交際相手として紹介していること
- 一緒に将来の拠点となるべき不動産物件を求めて不動産業者をあたり、最終的に不動産を購入していること
遅くとも不動産を購入した時点では、互いに将来夫婦として共同生活を営む合意が形成されていて、婚約という法的保護を与えられるべき実質を有する段階に至っていたというべき、として、婚約の成立を認めています(神戸地裁判決平成14年10月22日)。
■一時的な口約束は認められにくい一時的な口約束だけでは、本心から結婚する意思があったとはいえず、結婚の約束が成立したとはいえません。
男女の間で恋愛が盛り上がると、具体的な見込みがなくても「結婚しようね」などと口にすることはよくあることだからです。
上記のように、結婚に向けて具体的に検討しているという具体的な状況が認められる必要があります。
婚約で生じる義務
婚約をすると、「将来結婚するように努力する義務」をお互いが負うことになります。
もっとも、婚約者がこの義務を果たさないからといって、相手方にこの義務の履行を強制することはできません。強制的に結婚させても、結婚本来の目的を果たすことはできないからです。
ただし、義務が生じるということは、それを果たすことができなければ責任が問われても仕方がないということになります。
つまり、正当な理由がないのに、将来結婚する義務を果たさなかった場合、法律的には違法な行為と評価され、損害賠償の問題が生じる可能性があるのです。
一旦成立した婚約を一方的に撤回することを婚約破棄と言います。
前章にあるとおり、正当な理由がないのに婚約破棄をした場合、相手に対して損害賠償の問題が生じる可能性があります。
婚約破棄が認められるのはどんなとき?
婚約破棄をしてしまうと、必ず損害賠償の義務が生じるというわけではありません。
「正当な理由」があれば、慰謝料などを請求することはできません。
「正当な理由」とは、将来、円満な夫婦生活を送ることができないような事情が生じている場合です。
具体的には、例えば以下のような理由です。
- 相手方に不貞な行為があった
- 相手方が愛人や子どもがいることを隠していた
- 相手方から虐待や侮辱を受けた
- 相手方が生活関係の重要な部分について嘘や隠し事をしていた
- 相手方が精神病にかかった
- 相手方が事故で重い障害を負った
- 相手方の性的不能が判明した
- 日常生活が困難になるほどの経済的状況の変化が起きた
こうした状況の下では、結婚したとしても円満な家庭生活を営むことは期待できないので、婚約を破棄する正当な理由があるといえます。
本人に非があるとはいえないケースもあります。
しかし結婚したとしても普通の家庭生活を営むことは困難といえるため、婚約破棄の正当な理由になることがあります。
こうした理由の婚約破棄だと慰謝料請求が可能
「正当ではない理由」によって婚約破棄された場合、慰謝料等を請求することができます。
部落差別を理由とした婚約破棄、宗教の違いを理由とした婚約破棄、などが挙げられます。また、他に好きな人が出来たという理由は到底「正当な理由」とは認められません。
男女別、よくある婚約破棄の理由
では、どんなときに婚約破棄になるのでしょうか?
婚約破棄の理由は人それぞれですが、男女ともに多いのは異性関係です。
「婚約中に浮気をされた」「他に好きな異性ができた」「昔の恋人が忘れられなかった」などです。
他に男女ともに多い理由に、性格の不一致があります。
結婚に向けて準備を進めるうちに、交際中は気づかなかった相手の嫌な面が見えてしまったり、価値観の相違に気づいてしまったりすることは少なくないようです。
男性によくある理由としては「結婚で自由がなくなるのが嫌になった」というものがあります。
結婚すれば、独身時代とは違って、自分が自由に使えるお金や、時間は制約されてしまいます。それが我慢できない場合もあるようです。
女性によくある理由に「相手の家族との同居を強制された」というものがあります。
結婚相手の親族との付き合いに不安を覚える女性は少なくないようです。
婚約破棄をされた側は、破棄した側に対して、法律上、慰謝料やその他の損害賠償を請求することができる場合があります。
どんな場合にどんな請求ができるのか、チェックしておきましょう。
慰謝料を請求できるケースのチェックポイント
慰謝料とは、相手の違法な行為によって精神的に損害を受けた場合に、その損害を回復するために相手に請求することができる金銭のことです(民法709条、民法710条)。
ポイントは、相手の婚約破棄が「違法」であること、すなわち「正当な理由がないこと」です。婚約破棄に正当な理由があれば、慰謝料請求は認められません。
また、婚約破棄に至った原因が自分にある場合は、相手に慰謝料を請求することはできません。
請求できるもの
婚約破棄された場合、相手に対して慰謝料やその他の損害賠償を請求することができます。
損害にもいろいろありますが、婚約破棄によって直接的に被った損害と、婚約破棄されなければ得られたであろう利益があります。以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
■直接的な損害婚約をしたために発生した金銭的な損害を請求できる場合があります。
例えば、婚約のためや結婚後の生活の準備のために支出した費用は、婚約破棄によってすべて無駄になってしまいます。
具体的には、婚約指輪の購入代金や結納金、結婚式場や新婚旅行のキャンセル料、新居の準備費用や家財道具の購入費用などです。
これらは、実際に支出した金額を損害として相手に請求することができます。
逸失利益(いっしつりえき)とは、将来得られたかもしれない利益のことです。
婚約破棄における逸失利益の典型例をあげると、女性が結婚に備えて退職したケースです。
退職しなければ得られたはずの収入が、逸失利益に当たります。
具体的には、退職後再就職するまでの期間の収入分や、再就職しても以前より収入が減ってしまった場合の減収分が損害となります。
実際に、減少した分の収入の1年分の支払いを命じた判決もあります。(徳島地裁昭和57年6月21日)
ただし、雇用の流動化が進んでいる近年では、退職の逸失利益は認められにくい傾向にあります。
将来には常に不確定な要素が付きまといます。例えば、いつまで働くかはその時々の事情によりますので、退職後いつまでの期間についての収入を損害と考えればよいのかは難しいところがあります。
また、仕事を辞めたことについて、婚約者がどの程度関与したかも考慮する必要があります。
例えば、婚約者が仕事を辞めてほしいと強く要求した場合と、婚約者に特に相談せず自分の判断で退職した場合とでは、婚約者の関与の程度は全く異なります。
したがって、逸失利益については、退職からいつまでの期間についての減収分を損害
と考えるのか、退職について婚約者がどの程度関与したのかを考慮して、ケース・バイ・ケースで判断することになります。
相手に婚約を破棄されれば、精神的にダメージを受けるのは当然のことといえます。不当に婚約を破棄された場合、相手に対して慰謝料を請求することができます。
気になるのは慰謝料としていくら請求できるかという点です。
精神的ダメージの大きさは人それぞれですし、婚約破棄の元となった行為そのものへの慰謝料も含まれるため、ケース・バイ・ケースです。
数十万円から数百万円といったところで、幅があります。
具体的な金額は、婚約期間の長さ、肉体関係の有無、当事者の年齢・社会的地位・経歴・資産、婚約解消に至った経緯などあらゆる事情を考慮して決められますが、婚約期間が長い場合や、相手の責任が重い場合(不貞や虐待など)は、慰謝料が高くなる傾向があります。
婚約破棄の慰謝料事例
■宗教が理由のケース挙式や生まれてくる子の教育について一度は相手の信仰する宗教を了承しながらも、その後改宗を求めて、ついに婚約を破棄したケースです。
相手の宗教の挙式について適切な確認を怠ったことや、結婚のために退職したこと等の事情を考慮して、30万円の慰謝料請求に対して、30万円の支払いと認めています(大阪地裁判決昭和42年7月31日)。
見合い後2週間で結納を交わして婚約し、3ヵ月後に結婚式を行うことを約束して、女性に嫁入り道具を指示して準備させたにもかかわらず、女性の容姿等に抱いていた不満から結婚式の約1週間前に理由を告げることなく仲人を通じて電話1本で婚約を破棄したケースです。
その態度等から400万円の慰謝料請求に対して400万円の支払いを認めています。
なお、このケースでは、男性の母親の態度も問題とされ、第三者である母親も共同不法行為者として訴えられ、裁判所は責任を認めています(徳島地裁判決昭和57年6月21日)。
婚約相手が被差別部落出身であることを理由に家族に反対されて婚約破棄となったケースです。
差別で被った精神的苦痛が痛烈であっただろうと察せられることや、このことがもととなり婚約破棄された側が退職を余儀なくされたことなどを考慮して、1000万円の慰謝料請求に対して500万円の支払いを認めています(大阪地裁判決昭和58年3月28日)。
このケースについても、反対した両親が共同不法行為者として訴えられ、裁判所は責任を認めています。
■性格へのちょっとした不満が理由のケース見合い後交際を経て結婚式の日取りを決めたものの、相手の性格が物足りないなどとさしたる理由もないのに婚約破棄をしたケースです。
婚約破棄された側がこの件により体調不良となり、ついには退職となったこと、破棄した側は大企業に勤務し安定した生活をしていること等を考慮し、35万円の慰謝料の支払いを認めています(福岡地小倉支判昭和45年12月4日)。
婚約中に、男女またはその親族間で金銭や物品のやり取りをする場合があります。例えば、結納金・嫁入り道具・婚約指輪などです。
婚約を破棄した場合、これらの金銭や物品は、相手に返す必要があるのでしょうか?
一つずつみてみましょう。
結納金とは、婚約が成立した場合に、男性の家から女性の家に対して支払われる金銭のことです。
古くからの慣習として行われてきたものですが、最近では結納を省略するケースも多いですね。
判例では、結納金は、「婚約の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与である」と位置付けています。
婚約を破棄した場合、受領した結納金は原則として返還しなければなりません。
もっとも、婚約解消に責任のある方が結納返還を求めることは、信義則上許されないと考えられています。
■嫁入り道具嫁入り道具とは、結婚生活を始めるにあたって、女性の親が花嫁に持たせる家財道具類のことです。
婚約を破棄した場合、嫁入り道具は原則として返還しなければなりません。この点は結納金と同様です。
この場合も、婚約解消に責任のある方が返還を求めることは、信義則上許されないと考えられています。
■婚約指輪婚約が成立したことの証として、男性が女性に贈ることがある婚約指輪。
婚約破棄の場合、結納金と同様に、婚約指輪も原則として返還することになります。
ただし、金銭である結納金とは違って、指輪はいわば中古品であり、指輪を返還しても、購入時と同じ金銭的価値にはならないという問題があります。
また、婚約破棄によってケチがついた指輪を返還されても困る、むしろ処分してしまいたいと考える人もいるでしょう。
婚約指輪の返還については、男女で話し合い、返還する・しない、処分の方法、差額の清算方法を決めることも多いようです。
5章 婚約破棄で弁護士に依頼するべきケース婚約を破棄したいが、相手から何らかの請求をされそうだという場合があります。
逆に、婚約を破棄されたので、相手に何か請求したいという場合もあります。
当事者間で話がまとまればよいのですが、話し合いがつかない場合は弁護士に相手との交渉や、裁判を依頼するのも一つの方法です。
婚約破棄をしたい側
婚約破棄の条件として相手から過大な要求をされた場合、婚約破棄の理由について相手と認識の差があって話し合いが進みそうにない場合、相手も弁護士を立ててきた場合などは、弁護士に相談・依頼したほうがよいでしょう。
婚約破棄された側
婚約破棄をされた場合、理由が不当なものであるなら、損害賠償や慰謝料の請求を考えなければなりません。
ただし、自分と相手の認識が食い違っていて、話し合いがどこまで行ってもまとまらない場合もありますし、相手が誠実な態度で交渉に臨んでくれない場合もあります。
場合によっては、相手が「そもそも婚約などしていない」と言い出すことも考えられます。
相手に損害賠償や慰謝料を請求したいが、事実関係の認識の違いや相手方の不誠実な交渉態度が原因で話し合いがまとまりそうにない場合、相手も弁護士を立ててきた場合などは、弁護士に相談・依頼することを検討しましょう。
婚約・婚約破棄を得意としている弁護士
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彼氏から別れ話されました。婚約破棄になるのか知りたい。