遺言書の書き方

正しい遺言書の書き方~無効な遺言にしないために気をつける事
自分が死んだ後には、相続人たちが相続トラブルを起こさないように準備をしておきたいものです。ここで、遺言を残しておく方法が役立ちます。遺言を残すと、誰がどのような遺産を相続するかが特定できるので、相続人間で争いが起こりにくくなるからです。
ただし、遺言は厳格な要式行為なので、間違った作成方法をとってしまうと無効になってしまいます。そこで、遺言書を書く場合には、正しい書き方を知っておく必要があります。
そこで今回は、無効な遺言書にしないために、正しい遺言書の書き方をご説明します。
そもそも、遺言書を作成しておくべき人は、どのような人なのでしょうか?
これについては、いくつかのケースが考えられます。
まずは、法定相続人が複数いるケースです。この場合、遺言書がなければ、相続が起こった後、相続人たちが自分たちで遺産分割協議による話し合いをすることによって、遺産の分割方法を決めなければなりません。しかし、意見が合わない場合などには、熾烈な相続争いが起こって、もともと仲の良かった兄弟などでも絶縁状態になってしまうこともあるからです。
次に、遺産を法定相続人以外の人に渡したいケースも遺言を作成しておくべきです。
たとえば内縁の妻に今住んでいる不動産を取得させたい場合などがあります。
この場合、遺言書がないと、内縁の妻には相続権がないので、家を取得することができませんし、家を相続した他の相続人(前妻の子どもなど)から、内縁の妻が家を追い出される可能性もあります。
遺産を、法定相続人のうちの特定の人に多く相続させたいケースでも、遺言書を作成すべきです。遺言書がないと、法定相続人が法定相続分に従って遺産を取得しますが、遺言があると、法定相続分にかかわらずたくさんの遺産を特定の法定相続人に渡すことができるからです。
自筆証書遺言を書くときに必ず押さえるべきポイント遺言書を作成する方法には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。この中でも、自筆証書遺言を作成する際には、多くの注意点があります。
自筆証書遺言とは、全文を自筆で書くタイプの遺言書です。遺言は厳格な要式行為なので、少しでも要式から外れると無効になってしまいます。
以下では、自筆証書遺言を作成する際の注意点を順番にご説明します。
まず、自筆証書遺言では、全文を自筆することが必須です。本文やタイトル部分など、一部でもパソコンで作成したり代書してもらったりすると、遺言は無効になってしまいます。
また、遺言書に遺産目録を添付する際などには、その遺産目録も自筆する必要があります。
次に、日付の記載も重要です。日付は、正確に〇年〇月〇日まで記載する必要があります。日付も自筆で記入する必要があるので、ゴム印などを利用してはいけません。また、ここで、〇月吉日などと記載すると、日付が特定されていないとして、やはり無効になってしまうので注意が必要です。
さらに、遺言者本人が署名押印することも必須となります。このとき利用する印鑑には特に制限はありませんので、認め印でも有効にはなりますが、後に相続人が遺言書の真正をめぐってトラブルになることを防止するためには、実印を利用する方が良いでしょう。
自筆証書遺言で加除訂正をする場合にも注意が必要です。自筆証書遺言の加筆訂正方法については、民法によって方式が指定されているので、これと異なる加除訂正をすると遺言書は無効になります。
具体的には、民法968条2項において、「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」とされています。
たとえば訂正をする場合には、訂正する部分を二重線で消して、訂正箇所に押印します。そして、遺言書の欄外や末尾に「○○行目『××』を『△△』に訂正」と書いて、署名をします。自分で加除訂正方法に自信が持てない場合には、遺言書の加除訂正をするよりも全文を書き直してしまった方が確実です。
次に、具体的に遺言書を作成する場合にはどのような内容の記載をするのか、その文例を確認してみましょう。以下では、いくつかの遺言書のサンプルをご紹介します。
まずは、全財産を妻に相続させる内容の遺言書の文例です。
遺 言 書
遺言者東京太郎は、次のとおり遺言する。
一.遺言者は、妻東京花子(昭和10年3月1日生)に、その所有する全財産を相続させる。
平成28年7月17日
東京都武蔵野市〇〇丁目〇番〇号
遺言者 東京太郎(昭和8年1月24日生) 印
次に、遺産を妻や長男、長女に相続させるパターンの文例を見てみましょう。
遺 言 書
遺言者東京太郎は、次のとおり遺言する。
一.妻東京花子(昭和10年3月1日生)に次の財産を相続させる。
1 土地
所在 東京都武蔵野市〇〇
地番 b番c
地目 宅地
地積 180.15平方メートル
2 建物
所在 東京都武蔵野市〇〇 b番c
家屋番号 33
木造瓦葺2階建居宅
床面積 1階60.4平方メートル
2階42.3平方メートル
二.長男東京一太郎(昭和40年6月20日生)に次の財産を相続させる。
〇〇銀行 武蔵野支店 口座番号 1234567 の遺言者名義の普通預金
〇〇信用金庫 武蔵野支店 口座番号 9876543 の遺言者名義の普通預金。
三.長女武蔵野さくら(昭和43年10月3日生)に次の財産を相続させる。
株式会社埼玉の株式のすべて(〇〇証券埼玉支店に預託)
四.その他の遺言者に属する一切の財産は、妻東京花子(昭和10年3月1日生)に相続させる。
五.この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
東京都武蔵野市〇〇A 丁目 B 番 C 号
弁護士 〇〇〇〇
平成28年7月17日
東京都武蔵野市〇〇丁目〇番〇号
遺言者 東京太郎(昭和8年1月24日生) 印
遺言には、公正証書遺言という種類もあります。公正証書遺言とは、公証人に公文書である公正証書として作成してもらうタイプの遺言書です。
公正証書遺言を作成しておくと、その作成過程に公証人がかかわってくれるので、要式違反になることがほとんどなく、遺言が無効になるおそれがなくなります。
また、作成の際に遺言者の身分確認などもしっかり行われるので、遺言が本物かどうかという争いが発生するおそれもなくなりますし、偽造や変造などの問題も起こりにくいです。
公正証書遺言を作成しておくと、確実に遺言内容を実現しやすくなるので、遺言を作成するなら公正証書遺言にしておく方法がおすすめです。
公正証書遺言を作成する場合には、まずは誰にどの遺産を相続させるのかをはっきり決定する必要があります。公証役場は法律相談をする場所ではありませんので、遺産相続方法自体は自分で決めておく必要があります。
遺産分割の方法を決めたら、必要書類を集める必要があります。必要書類の内容は、具体的なケースによって異なりますが、最低限戸籍謄本や身分証明書、印鑑登録証明書、遺贈する相手の住民票などは必要です。不動産を遺贈する場合には、不動産の全部事項証明書や固定資産税評価証明書も必要になります。預貯金などを遺贈する場合には、それらをメモにして書き出しておきましょう。
公正証書遺言を残す場合には、証人が2人必要になるので、自分で証人を用意出来る場合には、証人になってくれるように依頼しておきます。証人に関しても、その住所や氏名等を記載したメモを用意しておきましょう。なお、証人を用意出来ない場合には、費用を払って公証役場で証人を紹介してもらうこともできます。
必要書類をそろえて準備をしたら、近くの公証役場に行って、公正証書作成の申込をします。すると、日時を指定されますので、定められた日時に公証役場に行くと、遺言公正証書の作成ができます。
このとき、遺産の金額に応じて公正証書の作成費用がかかります。ケースによっても異なりますが、だいたい数万円程度になることが多いです。
今回は、遺言書の作成方法について解説しました。遺言書を作成する場合、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の方法がありますが、遺言は厳格な要式行為なので、要式に反した作成方法をとってしまうと無効になってしまいます。
自筆証書遺言を作成する場合、特に無効になりやすいので注意が必要です。
公正証書遺言を作成する場合には、手間と費用がかかりますが、確実に有効な遺言を残しやすいのでメリットが大きいです。
遺言書を作成する場合に作成方法に迷ったら、今回の記事を参考にしていただけましたら幸いです。
遺言書の書き方を得意としている弁護士
戎 卓一 弁護士 兵庫県
戎みなとまち法律事務所須山 幸一郎 弁護士 兵庫県
かがやき法律事務所森 圭 弁護士 愛知県
フォレスト法律事務所トップへ
本人が一度も見ていない遺言書は有効か