離婚・男女 - 問題解決サポート
離婚や婚約前の中絶、婚約破棄など男女間のトラブルを円滑に解決するための知識と、離婚問題に注力している弁護士・法律事務所をご紹介します。
離婚の手続きにまつわるポイントや事前準備、不倫が原因で離婚した場合の慰謝料・養育費・財産分与の相場など正しい知識をぜひ身につけてください。
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結婚をしていない男女の間で問題となっていることに、ストーカー行為、リベンジポルノがあります。いずれもかなり卑劣な行為で、女性が被害者であるケースがほとんどです。
ストーカーとは何か、リベンジポルノとは何かを見ていきましょう。
A男さんとB女さんとは、恋人同士で、仲良くつきあっていたのですが、あることが原因となって別れました。恋人であるときには、肉体関係もあり、二人だけのことだと思っていたB女さんは、A男さんの要望のままに、ベッドにいる裸の写真もスマホで撮影することを許してしまいました。
別れた後、B女さんを忘れることのできないA男は、なんとかB女さんと再び恋人関係になりたくて、B女さんの最寄り駅で待ち伏せをしたり、B女さんの自宅に押し掛けるようになりました。それでもB女さんが無視していると、待ち伏せの回数が多くなり、さらには、B女さんが自分に振り向いてくれないことを怒ったA男は、裸の写真をネットに載せるぞとB女さんを脅した上で、ネット上に裸の写真を流しました。
A男の行為は、どのように扱われるのでしょうか。
まずは、ストーカー行為とは何かを見てみましょう。
ストーカー行為については、ストーカー規制法が定義を置いています。これを先の具体例に置き換えてみますと、B女さんに対する恋愛感情や恋愛感情が満たされなくなった怨恨の感情を満たすために、B女さんに対してつきまとうなどの行為であるとされます(同法2条)。
ですから、B女さんに恋愛感情を持っていたA男が、B女さんを待ち伏せたり、自宅に押し掛けたりした行為は、恋愛感情を満たすために、つきまっとったということで、ストーカー規制法違反となります。また、怒ったA男がさらにつきまとった行為は、恋愛感情が満たされなくなった怨恨感情を満たすためのつきまとい行為ですから、これもストーカー規制法違反となります。
このようなストーカー行為について、B女さんは、警察に対して、A男さんにつきまといをやめるように警告を出してもらいたいと要望することができ、警察が警告を発することになります(同法4条)。
警察が警告を出したにもかかわらず、ストーカー行為をやめようとしないA男に対して、B女さんが求めることによって、又は警察がその職権をもって、禁止処分を発することもできます(同法5条)。
次に、A男がB女さんの裸の写真をネットに流した行為は、リベンジポルノに当たります。リベンジポルノとは、通常は、女性に振られてしまった男性が、その腹いせに、その女性の裸の写真などをネットに流すなどの行為をいいます。
これを防止しようとするのが、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律です。特に、男性の腹いせがその動機とされているわけではありません。
この法律の特徴は、A男について懲役等の罰則が定められていることのほか、情報送信防止措置を採ったサイト運営者に関して、発信者であるA男による損害賠償請求を制限した点にあります。このことによって、ネットに提供された写真のさらなる拡大を防止しようとするものです。
ところで、ある統計によれば、肉体関係のある恋人の8割近くが、その種の写真を撮影しているということです。リベンジポルノを防止するためには、まずは、そのような撮影を許さないことです。
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ストーカーに遭ってしまったら?A男さんとB女さんは、既に5年以上一緒に住んでいますが、婚姻届は提出していません。この場合、A男さんとB女さんとの関係はどのようなものなのでしょうか。考えられる関係は、同棲、内縁(事実婚)又は単なる同居です。
現在においては、内縁関係は、婚姻関係に準ずるものとして、様々な法的効果が与えられていますが、同棲や同居には、そのような法的保護や法的効果が与えられていません。ですから、内縁関係とその他との関係とを区別することはかなり重要な問題であるといえます。
内縁関係とは、実際は夫婦として生活をしているのですが、婚姻の届出をしていないだけの男女の関係をいいます。3年以上共に生活をしていれば、同棲関係から内縁関係になるという俗説がありますが、それはあくまでも俗説です。
もちろん、男女が共に生活をしている期間の長短は、内縁関係があると認められる重要な要素ではあるのですが、それだけで内縁関係があると判断されるわけではありません。
内縁関係が婚姻関係と異なるのは、婚姻届を提出していないという1点だけですから、結局はA男さんとB女さんとの間に夫婦としての実態があるかどうかということになります。逆にいえば、先ほどの俗説で見てみると、3年を経過していなくても、夫婦としての実態があれば、内縁関係が認められることもあるということです。
では、夫婦としての実態というのは何でしょうか。抽象的にいえば、A男さんとB女さんとの間に、精神的結合があり、肉体的結合があり、さらに経済的結合があることを意味します。
精神的結合とは、簡単にいえば、夫婦として共に助け合い生きていきましょうということです。肉体的結合については説明はいらないでしょう。さらに経済的結合というのは、A男さんとB女さんとが、その収入に応じて、家庭生活で必要な費用、つまり婚姻費用とされる家賃、食費、光熱費などを負担していることを意味します。
さて、A男さんが、B女さんとの内縁関係を不当に破棄したとしましょう。B女さんが、A男さんに対して、慰謝料や財産分与の請求をする場合、B女さんとしては、A男さんとの関係が、単なる同居や同棲という関係ではなく、内縁関係にあったということを主張し、またその立証をしなければなりません。
しかし、先にみた各結合があることを具体的に立証することは、それほど簡単なことであるとはいえません。これらの各結合は、外から見て分かるものとはいえないからです。では、どうすればよいのでしょうか。
住民票や住居が賃借物件であるならば、賃貸借契約書を活用しましょう。これらは外部から見て客観的に分かるものですし、A男さんの意思も反映されているものですから、いざというときの役に立つものといえます。
住民票の記載から説明します。一通の住民票は、一個の世帯が記載されます。したがって、A男さんを世帯主とする住民票にB女さんが記載されている場合、まずA男さんとB女さんは同一世帯にあるということがわかります。そして、B女さんの欄には、A男さんとの関係を記載する部分があります。
かつては、「同居人」としか記載しなかったことが多いようですが、「内縁の妻」と記載することができます。この記載は世帯主であるA男さんの承諾の下でなされるものですし、住民票という公の書類に内縁の妻と記載されていることから、客観的に両名が内縁関係にあったということを証明することができます。
また、賃貸借契約書には、借主以外に必ず同居する人の氏名を記載する欄があります。A男さんが、借主であった場合、A男さんは、自らの意思で、同居人としてB女さんの氏名を記載し、さらに関係として「内縁の妻」と記載すれば、この賃貸借契約書も、内縁関係のあったことを証明する資料として使うことができます。
さて、A男さんは、B女さんと内縁関係にあるのですが、B女さんとは別にちゃんとした妻がいるという場合にはどのようになるのでしょうか。
内縁関係を婚姻関係に準ずるものと考えた場合、A男さんには、内縁の妻B女さんと、婚姻関係にある妻の二人がいることとなります。つまり、妻が二人いるようなもので、重婚状態にあるものと似たような状態になっています。
重婚は、公序良俗に反するものとして、禁止されています(刑法184条は重婚罪を規定しており、犯罪でもあります。)ので、重婚的内縁関係も公序良俗に反するものと評価することもできるでしょう。しかし、重婚的内縁関係が公序良俗に反するものだとしても、その解消にあたって、財産分与の請求を否定することや、遺族年金の内縁の妻への帰属を否定することまではありません。これらの財産清算は、重婚的内縁関係が公序良俗に反するということとは関係がないからです。最高裁も、これらのことを肯定しています。
ここで、「同棲」と「同居」についても簡単に説明をしておきましょう。
「同棲」とは、男女が単に一緒に居住している関係のことをいいます。通常は、そこに肉体的結合があるのでしょうが、夫婦という一つの単位を作り上げ、育てていこうという精神的結合や経済的結合が希薄であるといえるでしょう。そこで、婚姻関係に準ずる内縁関係とまでは認められない関係です。
次に「同居」とは、男女であることを問わず、単に一緒に居住していることをいいます。通常は、肉体的関係を伴わないものです。「同居」の典型は、ハウスシェアといわれるもので、家賃を安くしようという目的でのものです。
ところが、時代の変化に伴って、従来は「同居」と考えられていた「同性婚」が問題となっています。かつては、同性同士の居住ですから、「同居」にしか該当しなかったわけですが、同性婚も婚姻に準じていこうとの考えです。
まだ、内縁関係のような法的保護や法的効果が与えられているわけではありません。しかし、東京都渋谷区や世田谷区などいくつかの地方公共団体は、同性婚に対して、「パートナーシップ証明」を実施しています。これは、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えている関係」にあることを証明するものです。この証明があれば、不動産業者や病院に対して、夫婦と同様に扱うべきことが求められています。
婚約は婚姻予約といわれるもので、将来夫婦になるという当事者の意思が合致して成立します。意思が合致するだけでよく、特に何らかの方式があるものではありません。
そこで、将来婚約の成否が争われた場合には、婚約意思の表示、肉体関係の継続などを基礎事実として婚約の成否が判断されることになりますし、婚約指輪や結納の授受があれば、それらは婚約が成立したことを証する重要な証拠となるでしょう。
なお、結納とは、婚約の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に、当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与です。
婚約は、将来夫婦になるという約束ですから、近親婚に当たる場合は無効ですし、配偶者のいる者との間の婚約も公序良俗に反するものとして無効になります。
婚約が成立することによって、当事者は、将来夫婦になるよう、つまり婚姻が成立するように努力する義務を負うことになります。しかし、金銭の貸借などと違って、その履行つまり婚姻することを強制することはできません。婚姻意思を喪失している者に婚姻を強制することは無意味だからです。ただし、正当な理由のない不履行は、損害賠償責任を発生させます。
婚約は、当事者が一方的に破棄することができます。しかし、正当な理由のない婚約破棄は、不当破棄であるとして、他方当事者は破棄者に対して、損害賠償金の支払いを請求することができます。
では、どのようなものが正当な理由となるのでしょうか。挙式直前の相手方の行方不明、相手方からの虐待・暴行・侮辱、さらには性格の不一致も正当な理由になるとされています。民法に規定されている離婚原因が参考になるでしょう。
このような正当な理由が存在しない場合には、損害賠償が発生しますが、その範囲は、式場や新婚旅行のキャンセル料といった「実損」、結婚のために退職したというように婚約により失った利益である「逸失利益」、精神的損害を填補する「慰謝料」となります。また、前述した結納も、破棄者にそれを保有する理由がないことから、不当利得として返還義務が発生することになります。
男女間、特に婚姻をしていない男女間では、女性が妊娠をした場合に、その出産や中絶をめぐって争いとなることが少なくありません。
出産をめぐっては、まずその男性の子どもであるかどうかについて、男性側から疑義が提出されることがよくあります。挙句の果てには、女性に対して、男性関係が自分だけではないといったように、女性を中傷する言動がなされることもあります。
昔であればいざしらず、現代においては、親子関係をDNA型鑑定などで科学的に確定することができますので、そのような争いは、不毛な争いとなってしまったといってよいでしょう。
しかも、科学の発達によって、その子どもが出生する前に、つまり妊娠をしている状態で、その胎児の父親を確定することもできるようになっています。
DNA型鑑定などの科学的方法で、男性と胎児との間の父子関係が確定されたならば、出産費用のみならず、別稿で説明をする認知や将来の養育費の請求も可能となります。
次に、妊娠中絶をめぐってもかなりの問題が生じます。まずは、中絶をする、いやしないとの争いです。この問題は、女性の自己決定権や人格権にかかわる問題ですから、女性の意思が尊重されるべきだと考えられます。
ですから、女性が男性に対して、中絶をすると言って、男性に隠れて出産をした場合であっても、男性からの中絶に同意をしたはずだから、認知もしないし、養育費も支払わないとの男性側の主張はとおりません。
また、男女共に、中絶を希望している場合に、女性の側から、中絶費用のすべてを男性に請求するということがよくあります。しかし、妊娠をしたのは、男女二人の責任であって、男性側一方、女性側一方の責任というものではないでしょう。
よく見聞きするのは、男性側からの「女性が安全日だといったので避妊しなかったので、妊娠をしたのは女性のせいである」というもの、女性側からの「避妊をして欲しいと言ったのに、避妊してくれなかったから、妊娠をしたのは男性のせいである」というものです。
これらの言い分は、そもそもが、言った言わないの水掛け論になることも多く、妊娠を望まないのであれば、男女二人が注意をすべきでしょうから、やはり妊娠については、男女二人で責任を負うべきで、中絶費用はお互いに折半するということになると思われます(私見)。
法律上の婚姻関係にある男女間に産まれた子どもを嫡出子、法律上の婚姻関係にない男女間に産まれた子どもを非嫡出子といいます。非嫡出子は、いわゆる婚外子であり、妻のある男性が愛人に産ませた子どもがこれに当たります。
この場合、子どこの出生届は愛人が提出し、子どもは愛人の戸籍に入り、愛人の氏(姓)を名乗ることになります。以下では、愛人関係を前提に話を進めていきます。
認知とは、愛人関係にある男性が、愛人との間にできた子どもの父親が自分であることを認めることで、これによって親子関係(父子関係)が法的に発生します。
認知は、母親もなすことができるかのような条文がありますが(つまり母子関係の発生)、母子関係は分娩という事実によって当然に発生しますから、愛人である母親が認知をするということはまずないことです。
ところで、男性が自分の意思で認知をしてくれればよいのですが、「あなたの子どもよ」と愛人から迫られても、何だかんだと言っては認知をしぶる男性が多いことも事実です。そこで、法は、任意認知のほかに強制認知という裁判をもって父子関係を発生させる制度をもうけています。
男性は、いつでも自由に認知をすることができます。ただ、例外的に「承諾」が必要となる場合もあります。子どもや母親の利益を守り、男性が不当な利益を得ることを防止するための制限です。
男性が年老いて老後の面倒を見てくれる人がいないなどの場合、既に愛人の子どもが成人となっていることに目を付けて、その子どもに自分の老後の面倒をみてもらおうと考えることがないとはいえません。そこで、成年となった子どもを認知する場合には、その成年となった子どもの承諾が必要となります。
また、胎児を認知することもできますが、その場合には愛人である母親の承諾が必要となります。母親の名誉やプライバシーを守り、その胎児が本当にその男性の子どもなのかどうかという真実性を担保するためです。
さらに、死亡した子どもを認知する場合には、その子どもに直系卑属つまり男性から見て孫がいる必要があり、その孫が成人となっている場合にはその承諾も必要です。承諾が必要であるのは、成年となった子どもについての認知と同様の理由によります。
また、孫がいなければ、子どもは既に死亡しているのですから、認知をしても何の実益もありませんし、かえって子どもの財産を男性が相続して不当に利益を得ることを防止するためです。
さて世間では、愛人に子どもを産ませたことを憚って、男性が妻の承諾を得て、男性と妻との間の子どもであるとして届け出をすることがあります。また、昔のことですが、愛人との間に産まれた子どもを知人夫婦の子どもとして届け出た上で、知人夫婦の代諾(養子にすることの承諾)によって、男性の養子とするという事件もありました。さらには、男性の両親の子どもとして届け出ることもありました(つまり子どもは戸籍上男性の弟又は妹となります)。
このような場合に、それらの届け出に認知としての効力を認めてよいかが問題となります。
認知は、子どもの父親は自分ですと認める行為です。そして、男性が妻との間の子どもであるとして届け出る行為も自分の子どもですと認める行為と評価することができますから、認知の効力を認めてもいいとされています。
しかし、他の事例の場合には、養子とする趣旨、弟又は妹とする趣旨しかなく、そこに私がこの子どもの父親であると認める趣旨が含まれているとはいえませんから、認知の効力を認めることはできません。
男性が愛人から迫られて、任意認知をしましたが、その後男性の子どもではないことが明らかになった場合には、認知の無効を主張することができます。しかし、認知を取り消すことはできません。愛人から欺かれて任意認知をした場合、民法総則の詐欺取消の適用はなく、この場合でも無効主張をすることになります。
男性が任意に認知をしない場合に強制的に認知をさせる方法があります。これが強制認知又は裁判認知といわれるものです。
認知をしぶる男性に対して、子どもやその法定代理人などが認知を求めることができます。通常は愛人である母親が子どもの法定代理人ということでなされます。
強制認知制度は、子どもらに認知請求権があることを前提としています。子どもの認知をめぐっては、男性が、女性に対して、十分な養育費を支払うから認知を求めることは一切しないと約束させることがあります。つまり、母親による認知請求権の放棄です。
しかし、父子関係を確定させる権利を放棄させることは公序良俗に反するともいえますから、放棄は許されず、愛人との間のそのような約束は無効です。
強制認知のためには、子どもの父親がその男性であるとの事実が認められなければなりません。科学が発達していない時代には、男性が裁判で、愛人には自分以外にも多くの男性がいたとか、自分を裏切って他の男性と付き合っていたとか主張して、父子関係の発生を阻止しようとすることが多かったようです。
しかし、現代においては、DNA型鑑定がありますので、この鑑定をもって、父子関係の存否を判断することになります。もはや、男性側の出す抗弁は意味をなさない時代です。
妻と別れたら、妻が死んだら正式に結婚をしようという男性は意外に多いようですし、また、その約束を守って結婚する男性も少なくありません。この場合、愛人に子どもがいたらどうなるのでしょうか。
愛人との結婚前に男性が子どもを認知していた場合、愛人との結婚によって、その子どもは結婚時から、男性と愛人(つまり夫婦)との間の嫡出子となります。これを婚姻準正といいます。
また、愛人との結婚前には認知をしていなかったのですが、愛人と結婚をした後で、子どもを認知した場合も、子どもは嫡出子となります。これを認知準正といいます。
婚姻は、婚姻の意思と婚姻の届出によって成立します。婚姻とはどういうものかですが、哲学者のカントは「生殖器の相互使用契約」などと定義していますが、それは肉体的結合だけを意味するあまりにも身も蓋もない定義で、それに加えて経済的結合と精神的結合も必要だと言われています。
では、婚姻の意思とはどういうものなのでしょうか。婚姻の意思をどのように考えるかについては争いがありますが、判例は、「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」としています。この立場にしたがって、AさんとBさんの関係で、婚姻をめぐる問題を考えてみましょう。
AさんとBさんとは親しく交際をしていたのですが、Aさんの知らないところで、Bさんが勝手に婚姻届を提出したとしても、Aさんには婚姻の意思がありませんから、婚姻は無効となります。この結論は、婚姻の意思をどのように考えたとしても同じです。
Aさんは、Bさんと婚約をし、婚約をしたという証拠にするために、婚姻届を作成しました。ところが、その後に婚約が解消されてしまったにもかかわらず、Bさんが預かっていた婚姻届を勝手に提出してしまった場合にも、これは無効となります。
AさんはBさんと結婚をしたかったのですが、Aさんの親がBさんとの結婚に反対をしていました。ところが、BさんはAさんの子どもを身籠りました。Aさんには他の女性との間で結婚話が進み、AさんはBさんに別れを切り出したのですが、Bさんの「せめて子どもをあなたの嫡出子にして欲しい」との願いを聞き入れ、いったんAさんとBさんは婚姻届を出し、その後すぐに離婚をするということにしました。この場合、判例は、「単に他の目的を達するための便法」であって、真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかったとして、婚姻は無効であるとしています。
AさんとBさんは結婚をしていたのですが、AさんはBさんの母親との折り合いが悪く、二人は離婚をしました。ところが、Bさんの母親が亡くなったために、AさんはBさんのところに戻り同居生活を過ごしていました。その間にAさんはBさんに無断で婚姻届を提出し、Bさんはそれを知りながらも、Aさんと暮らしていました。この場合婚姻は有効でしょうか。
前に説明しましたように、Aさんの提出した婚姻届は「勝手に出された婚姻届」ですから、それは無効となるはずです。しかし、Bさんはそれを知りながら同居生活を続けています。そこで、判例は、Bさんの行為は、無効行為を追認したとして、婚姻届は、それを提出した日に遡って有効になるとしています。
AさんとBさんは結婚することを約束し婚姻届を作成しました。その翌日Aさんは重大な病気で意識不明状態となったのですが、BさんはAさんが意識不明となった当時に婚姻届を提出していました。これは有効でしょうか。つまり、婚姻届を提出するときに婚姻意思がなければならないかという問題です。もし必要だとすれば、意識不明状態のAさんに婚姻意思を認めることはできませんから、婚姻は無効となります。
判例は、「届出書受理前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情がない限り、婚姻は有効に成立している」としています。後で説明しますように、離婚に際しては離婚届出時に離婚意思が必要とされているのに対して、婚姻の場合には届出時点での婚姻意思は不要とされているのです。
先に見ましたように、勝手に出された婚姻届による婚姻や仮装婚姻は無効とされています。そこで、当事者や利害関係人は、婚姻の無効を求めることができます。この場合、調停前置主義の適用がありますから、まずは調停の申立を行い、そこで合意が成立しなければ家庭裁判所での訴訟となります。
では、先の仮装婚姻の事例で婚姻が無効となったとしましょう。AさんとBさんとの間に産まれた子どもは嫡出子となりますが、婚姻が無効となった場合、どのように扱われるのでしょうか。この場合、婚姻が無効である以上、嫡出子とはなりません。
婚姻の取消し原因は限定されていまして、不適法婚の取消しと詐欺又は強迫による取消しだけが認められています。不適法婚姻とは、婚姻年齢に達していない婚姻など婚姻の法定要件を欠いている婚姻のことです。A女性は17歳で結婚したとしましょう。この場合、婚姻適齢は18歳ですから、この婚姻は取り消すことができます。
では、Aさんが18歳になって、婚姻を追認していたらどうでしょうか。この場合、Aさんには婚姻を継続しようとの意思があると認められますから、ここで婚姻を取り消しても再度婚姻をすることが見込まれますので、取消し自体は無意味と考えられ、取り消すことはできなくなります。
このことは、婚姻年齢に達した後3か月が経過した場合も同じです。
詐欺や強迫による婚姻の被害者は、詐欺などを受けた人ですから、その本人だけが婚姻を取り消すことができます。しかし、婚姻年齢と同様に、追認や3か月の経過(詐欺などの事実を知った時や強迫から離脱した時から)で取り消すことができなくなります。
婚姻が取り消されるとどのようになるのでしょうか。取消しは婚姻が将来に向かって存在しなくなるということです。ですから無効と違って、その間に出生した子どもは嫡出子となります。また、その実体は離婚と異ならないことから、親権者の指定や財産分与も行うことになります。
離婚を前提としない普通の夫婦間における財産問題について説明します。大きく、夫婦間の契約取消権、夫婦財産契約、日常家事債務の連帯責任に分かれます。
AさんとBさんの夫婦がいて、Aさんは結婚前から所有していた土地を、Bさんに贈与することとして、贈与契約をして土地をBさんの所有としました。ところが、その後夫婦仲が悪くなり、Aさんは、土地を取り戻したいと考えるようになりました。Aさんは土地を取り戻すことができるのでしょうか。
Aさんとしては、夫婦仲が今後もいいことを条件として土地を贈与したのだから、夫婦仲がよくなくなった以上契約は白紙だとか、いろいろな理由をつけてくるでしょう。そこで、夫婦間の紛争を訴訟にすることを防止しようとの趣旨で、夫婦間の契約取消権を認めました。
これによって、Aさんは、いつでも、何の理由もなく、土地の贈与契約を取り消して、土地を取り戻すことができます。
では、Bさんが、贈与を受けた土地を誰かに売却していた場合はどうでしょうか。無条件に契約を取り消すことができるとしたら、Bさんは転売先から土地を取り戻す必要があるでしょうし、その転売先がさらに転売していたら、複雑な法律関係となってしまいます。そこで、このような場合には、Aさんはもはや契約を取り消すことができません。
なお、この取消権は婚姻中に行使されなければなりません。ですから、AさんとBさんの夫婦仲がさらに悪化し、婚姻が事実上破綻してしまったような場合には、「婚姻中」ではないとして、契約を取り消すことはできません。
AさんとBさんは長い間交際をしていて、今回結婚することにしたのですが、婚姻届を提出するまでの実質的婚姻期間中に二人で貯めていたお金があり、土地を買うことにし、残ったお金を当面の生活費の補填にすることにしました。そこで、土地については、Aさんが取得し預貯金をBさんが取得することにしました。この場合に夫婦財産契約をすることができます。
ただ、夫婦財産契約を結婚後にしてしまうと、先に見た夫婦間の契約取消権で、契約を取り消すことができてしまいます。ですから、夫婦財産契約は婚姻届提出前に不動産については登記をすることが必要ですし、婚姻届提出後にはこれを変更することができませんので注意をしてください。
AさんとBさん夫婦がいる場合、共同生活をおくるためには、例えば電気やガスの供給契約を結ばなければならないでしょう。多くの場合、奥さんである Bさんが、実際には電気の契約を締結したり、ガスの契約を締結したりしますし、その場合契約名義は夫であるAさんになっていることがほとんどです。
このような場合、後になって、夫であるAさんが妻Bさんに、そのような契約をする代理権など与えていないから、契約は無効だと主張したらどうなるのでしょうか。形式的には、そうかもしれませんが、それでは電気会社やガス会社は困ってしまいます。そこで、「日常の家事」「債務」については、夫婦が連帯して責任を負うとされているのです。簡単にいえば、「日常の家事」「債務」の範囲内であれば、夫Aさんは妻Bさんに代理権を与えていると実質的に考えるわけです。
では、次のようなケースはどうでしょうか。
AさんはBさんが結婚前から所有しているBさんの特有財産である不動産を、自己が経営する会社の債権者に売却してしまいました。Bさんは、自分知らないところで行われた売買だから無効であるし、BさんのAさんに対す委任状や印鑑証明は、Aさんが勝手にしたもので、代理権のない者の行為として無効であると主張しています。
これに対して、不動産を取得した債権者は、Aさんに代理権はないとしても、表見代理が成立すると主張しています。表見代理とは、簡単にいえば代理権はないのですが、いかにも代理権があるような外観があり、それを信じた第三者を救済しようとする制度です。
判例は、次のように述べています。「夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為(先の電気供給契約など)につき他方を代理する権限を有する。・・・夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為(今回の不動産売買契約)をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法110条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときに限り、民法110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りる」としたのです。
つまり、取引の相手方が保護されるのは、(1)「日常家事債務以外に代理権があった場合」(2)「客観的に日常家事債務とはいえないが、その範囲内だと思う正当な理由がある場合」ということになります。ですから、会社経営のため、Bさんが所有する他の不動産を売買する代理権をBさんがAさんに与えていたときには、第三者が保護される可能性があるということです((1)の場合)。また、不動産売却のような場合には、それが日常家事とはいえませんから、(2)に該当することはないでしょう。
婚姻生活を継続しながらも、一方配偶者が他方配偶者以外の異性と関係をもってしまうことが少なからずあります。「不倫」「不貞」「浮気」と言われるものです。「不倫」や「浮気」は、厳密にいえば、一方配偶者が他方の配偶者以外の異性と、性交渉を伴わない恋愛関係になることも含みます。
これに対して、「不貞」は、離婚原因を規定する民法770条1項1号に「配偶者に不貞な行為があったとき。」とされていますように、法的用語としても用いられていますが、性交渉又はそれに準じる行為を伴うものと理解されています。
したがって、性交渉を伴わない関係は「不貞」には該当しないこととなります。「不貞」とは、夫婦間の貞操義務に反する行為を意味することから、配偶者のある者が、配偶者以外の異性と自由意思によって性交渉を行うこととされているのです。貞操義務について、民法は規定を置いていないのですが、一夫一婦制の婚姻の本質からの当然の義務であると解されています。
不貞行為は、性交渉を伴うことから、離婚裁判の場合に、多くは夫側から、ホテルには行ったが性交渉はないとか、旅行には行ったが性交渉はないとして、自分の行為は、不貞行為に該当しないと主張されることがあります。
たしかに、不貞行為とは、性交渉又はそれに準じる行為を伴うものですから、本当にそのような関係がなければ、不貞行為とは言えないことになります。これは、離婚原因としての不貞行為があるかどうかという事実認定の問題ですが、事実認定は経験則に基づいて合理的になされますから、そのような夫の主張が認められる可能性はほとんどないといってよいでしょう。
稀に、その現場を押さえるといったこともあるようですが、そもそも、ホテルに行ったことまでは立証できたとしても、その部屋の中の状況を確認することまでは、多くの場合無理ですから、そこまでの立証は求められていないと考えてもらってよいでしょう。むしろ、ホテルに行ったとか、旅行に行ったとかという事実がある場合には、先の経験則に基づく合理的な判断によれば、性交渉があったと推測されるのですから、夫側としては、その推測を破るために、説得的にまた客観的な証拠をもって、性交渉がないことを主張・立証すべきことになるでしょうし、そのような立証はほとんど不可能でしょうから、性交渉があったとの推測が破られることはないといえます。
先に見ましたように、不貞行為は、他方配偶者にとって離婚原因となります。また、不貞行為の相手方の異性は、他方配偶者に対して、婚姻生活を妨害し、配偶者としての権利を侵害したことを理由として、その当時において婚姻生活が破綻していたということがない限り、不法行為責任に基づく損害賠償金支払義務を負うことになります。
ドメスティックバイオレンス(DV)とは、夫婦間や内縁関係にある男女の間で発生する家庭内暴力のことをいいます。不貞行為と並んで、DVも離婚原因として多く見受けられます。
ここでいう「暴力」行為は、かなり広い概念です。直接的な暴行行為を含むことはもちろんのこと、それ以外にも、生活費を渡さないといったような経済的暴力、外出を制限したり、実家や友人から隔離するといったような精神的隔離、行動を監視したり、相手方を無視するといったような心理的虐待、性交を過度に強制したり、相手方が好まない性交渉を強制するといったような性的虐待も含まれます。
夫が妻から家庭内暴力を受けるというDVも稀にはありますが、ほとんどの場合は、夫から妻への虐待です。
身体的暴行や、精神疾患に至った精神的虐待は、刑法上の暴行罪や傷害罪に該当します。また、過度の性行為の強要は、場合によっては強制性交等罪になると解されています。これらの虐待は、日常的にかつ恒常的になされることが多いので、すぐにでも警察に相談するなどの手段を採ることが必要でしょう。
かつては、家庭内のことであるといった理由や、妻は夫に従うべきだという古い考えを理由として、特に女性の被害者が泣き寝入りをしていました。しかし、女性側も毅然とした態度をもって臨むことが必要でしょう。前にみた警察への相談もその一つですが、他にも、家庭内暴力専門の相談所がありますし、場合によってはシェルターもあり、そこに避難することもできます。
DVが離婚原因となることはいうまでもありません。
現行法は、離婚について破綻主義を採用していて、夫婦関係が破綻していない限り裁判離婚は認められません。しかし、他方で夫婦の合意のみによる協議離婚も認めています。ヨーロッパの多くの国では、協議離婚を認めず裁判離婚だけを認めています。もっとも、裁判離婚だけといっても、いわゆる馴合い訴訟で、その実質は協議離婚というのも多いといわれています。
さて、協議離婚は夫婦の合意のみで認められていますが、離婚が成立するためには、離婚届を提出することが必要となります。この離婚届から説明していきます。
離婚は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって成立します。A男さんとB女さんとが協議離婚することに合意して、それぞれが署名押印した離婚届も作成しました。ところが、B女さんが様々な理由で、まだ離婚したくないとその気持ちを変えてしまったにもかかわらず、A男さんが離婚届を提出してしまったような場合に、離婚はどうなるのでしょうか。
果たして協議離婚が成立しているのでしょうか。
協議離婚の場合、離婚意思は、婚姻生活を解消させるという実質的意思ではなく、離婚の届出をするという形式的意思であると解されていますので、離婚届を提出する際に双方の離婚意思が存在していることが必要となります。したがって、A男さんとB女さんは、一度は離婚に合意をしているのですが、その後離婚の届出前に、B女さんが離婚の意思を翻意したにもかかわらず提出された離婚届は無効となります。
もし、離婚届を作成してしまったけれども、その後、離婚したくなという状態になった場合、その離婚届は形式的には有効ですから、つまり、役所からしてみれば、B女さんが、離婚の意思を撤回してしまったことは分からないのですから、A男が、この離婚届を提出してしまったら、これは役所によって受理されてしまいます。実体的には無効の離婚であっても、B女さんが無効であることを裁判に訴えて争うことは大変なことです。
そこで、このような離婚届を役所が受理しないようにする方策があります。離婚届不受理申出といわれるものです。この申出を役所に出しておけば、不受理申出を撤回しない限り、役所は、A男さんから提出された離婚届を受理することはありません。
B女さんが居住している市区町村の役所に申出をしてもよいですが、その場合申出を受けた役所は、その申出を本籍地のある市区町村役所に送付しますので、その間若干の時間がかかります。急ぐ場合には、本籍地のある役所に申出をすることがよいでしょう。
申出書は、役所に置いてありますので、免許証などの本人確認書類と印鑑を持参して申出を行うことになります
その後、やはり離婚をするということになったら、不受理申出を取り下げることになります。
次に、離婚の手続きを説明します。
協議離婚の場合、成年の証人2名の署名押印のある離婚届書を作成して、届出人の本籍地又は所在地の市役所・区役所・町村役場に届け出ることになりますが、本人確認のための書類も必要となります。
裁判離婚、調停離婚、審判離婚の場合、届書(証人の署名押印は不要です)と共に、裁判離婚のときには判決の謄本と確定証明書、調停離婚のときには調停調書の謄本、審判離婚のときには審判書の謄本と確定証明書を添付する必要があります。
なお、裁判離婚、調停離婚、審判離婚の場合には、戸籍に、それぞれ裁判離婚等々の記載がなされます。
協議離婚自体は、離婚届を提出することによって成立しますが、協議離婚であっても夫婦間の財産をどのように分けるのか、例えば不貞行為をした相手方に対する慰謝料はどうするのか、居住先はどうするのか、未成年の子どもがいる場合親権者が誰にするのか、養育費はどうするのかなどの取り決めが行われることも少なくありません。
このような場合、夫婦間において離婚協議書を作成しておくのがよいでしょう。後々のトラブルを避けることができます。
では、どのような内容を記載すべきかについて見ていきましょう。
まずは、いつをもって離婚するかを明確にしておく必要があります。例えば、「AとBは、本日(他にも令和○年○月○日と具体的に書く場合もあります)をもって離婚することに合意した」と記載します。
次に、未成年者がいる場合、その親権者を指定しておかなければ離婚届は受理されません(離婚届に親権者を記載する欄があります)。そこで、協議書においても、親権者を指定することになります。具体的には、「AとBは、未成年者○○(令和○年○月○日生)の親権者をAと指定する」と記載します。
未成年者については、その養育費を定めることが多いと思われます。養育費については、離婚届の必須記載事項ではありませんが、後々の揉め事を避けるためにも、協議書で定めておくのがよいでしょう。
現在の実務の運用は、満20歳に達するまで養育費を支払うことになっておりますので、「Bは、令和○年○月から未成年者○○が満20歳に達する月まで、毎月末日限り、未成年者○○の養育費として金○○円を、A名義の○○銀行○○支店宛て振り込む方法により支払う。」と記載します。
また、小学校入学時、中学校入学時、高校入学時においては、それなりの金銭が必要ですから、特約として、例えば「小学校入学時に○○円、中学校入学時に○○円、高校入学時に○○円を支払う」と定めることも多いです。さらに、成人を過ぎたとしても、大学に進学していることを条件として、「大学に進学している場合には卒業するまでの間、毎月○○円を支払う(ただし、令和○年○月まで)」と定めることもあります。この「ただし」以降は、留年したらそれ以上は払いませんという意味です。
未成年者については、親権者でない親の面接交流権も記載することが多いようです。
例えば「AとBは、Bが毎月指定する日の○時間の間、Bが未成年者○○と面接交流することに合意した。AとBは、その面接交流権の実施について誠実に協議をしなければならない」などと定めます。誠実協議というのは、将来の日時をこの場で決めることが困難だからです。
また、特別に、「夏季休暇では○泊○日での面接交流を認める」などと別途定めることもできます。
もっとも重要なのは金銭をめぐる問題です。ここで金銭は、慰謝料と財産分与です。
まず財産分与ですが、これは離婚時において存在する夫婦共有財産を分けるものです。単に「Bは、Aに対して、財産分与として、令和○年○月○日限り金○○円を支払う」というのもあります。しかし、より慎重にするのであれば、「夫婦共有財産の目録を作成し(不動産は評価額も書いて)、これを○対○で分ける。今後夫婦共有財産が発見された場合には、これも○対○で分ける」と記載した方がよいと思います。
なお、夫婦の合意で、「所有する不動産を売却して○円を分ける」という記載も時々あります。しかし、後で説明をする公正証書とする場合には実効性がないことに注意をしてください。
慰謝料については、単に「BはAに対して、離婚に伴う慰謝料として、令和○年○月○日限り金○○円を支払う」と記載するだけでよいでしょう。
次に協議書の方式について説明をします。もちろん、夫婦間で作成する私署協議書でもよいのですが、養育費支払い、財産分与支払い、慰謝料支払いといった金銭条項がある場合には、公正証書で協議書を作成することをお勧めします。
公正証書は公証人が作成する公文書で高い証明力がありますが、それ以上に重要なのは、金銭条項のある場合の「強制執行認諾条項」です。
例えば、「BはAに対して、離婚に伴う慰謝料として、令和○年○月○日限り金○○円を支払う」という金銭条項があるとします。この場合、期日に至ってもBが支払いをしないので、AさんはBの給与を差し押さえて回収しようと考えたとき、もし強制執行認諾条項が付された公正証書でなければ、AさんはBを被告として慰謝料支払請求訴訟を提起し、勝訴判決を得て、それが確定することによって初めて給与差押えなどの強制執行手続を採ることができるにすぎません。
ところが、裁判には時間がかかりますから、裁判の間にBが会社を辞めてしまったような場合には、もはや給与の差押えはできません。
「強制執行認諾条項」というのは、Bが不履行の場合、Aから強制執行を受けることを認めますという内容であって、このような裁判手続を経なくても、その公正証書に基づいて、直ちに強制執行をすることができるのです。ここでの注意点は、単に公正証書を作成するというのではなく、強制執行認諾条項付きの公正証書を作成しなければ意味がないということです。また、先に、「所有する不動産を売却して○円を分ける」という記載例を紹介しましたが、これは金銭条項ではありません。というのも、不動産を売却するという行為が先行しており、不動産を売却するという人の行為を強制することはできないからです。
どのような離婚原因があるかは別として、夫婦間の話合いで、円満に離婚をするとの協議離婚が成立すれば、それはそれでよいことでしょうが、離婚それ自体、つまり離婚には合意しているものの、子どもの親権者を誰にするか、財産分与をどうするかなどで、夫婦間の協議が成立しないこともよくあります。
このように夫婦間の協議が成立しない場合のために、現行法は、民法が裁判離婚を定め、家事事件手続法が調停離婚と審判離婚を定めています。
離婚の協議が調わない場合、まずは相手方住所地の家庭裁判所に調停離婚を求め(調停前置主義といいます。いきなり裁判をすることはできません)。さらに、調停でも問題が解決しない場合には、審判離婚又は裁判離婚へと進んでいきます。現実には、調停離婚で解決する場合が多く、次に裁判離婚となります。審判離婚はほとんどないといってよいのが実情です。それぞれについて見ていきましょう。
離婚調停は、家事審判官(裁判官)1名と調停委員2名で構成される調停委員会において、個別又は同席の上で、事情聴取が行われ、調停委員会による調整が行われていきます。調停はあくまでも当事者夫婦の合意によってしか成立しません。調停委員会は、夫婦それぞれから事実や意見を聞いて、妥協案を作成して提示します。
しかし、調停委員会の案に従わなければならないということはなく、あくまでもその案に不服であれば、調停を不成立とすることもできるのです。
離婚調停を起こしたり、起こされたりした場合、弁護士に依頼することもできますし、自分で調停に臨むこともできます。ただ、調停委員の考えに不服があるような場合でも、自分が不利になるのではないかと考えて、調停委員に自分の考えをはっきりと主張することができない場合もよくあります。
そのような場合に備えて、弁護士を依頼することもお勧めです。
ただ、弁護士に依頼をしたからといって、調停に出席しないというわけにはいきません。というのも、調停委員は直接に、当事者から話を聞きたいとの意向が強く、また代理人である弁護士も、夫婦の機微に関することまでは分からないことが多いからです。
調停に出席するとして、相手方と顔を合わせたくないという人がほとんどです。相手方と顔を合わせる心配はありません。控室は、それぞれ別個ですし、調停委員も、双方が顔を合わすことがないように、調停が終了しても、帰る時間をずらすなどの気遣いをしてくれますから、大丈夫です。
無事に調停が成立した場合、調停調書が作成されます。この調書には、親権者を誰にするかなど離婚に関して決定しなければならないことはもちろん、財産分与や慰謝料、養育費の支払い、子どもとの面接交渉権の内容などが記載されます。
調停条項の第1項は、「申立人と相手方は、本日調停離婚する。」となります。
離婚調停で、どうしても折り合いがつかず、調停が不成立となった場合、離婚審判又は離婚裁判に移行することになります。
調停が不成立となった場合に相当と認められる場合、家庭裁判所は、職権で、(調停に代わる)審判をすることができます。離婚の合意はあるものの、財産分与や親権者が決まらないといった場合に離婚の審判がなされることとなります。ただ、前にも説明をしましたが、審判になることはあまりないといえます。ほとんどのケースは、離婚裁判となります。
離婚の審判がなされた場合、審判に異議のある当事者は、2週間以内に異議を申し立てることができます。異議が提出された場合、審判離婚はその効力を失います。
調停離婚が不調で終了した場合、調停離婚が不調で離婚審判となったが審判に異議が出された場合、家庭裁判所での離婚裁判となります。
離婚裁判での主たる争点は、離婚の合意のあることを前提とする離婚審判に異議が出された場合を除いて、民法770条1項に定める離婚原因が存在するかどうか、770条2項に定める婚姻の継続の相当性(有責性など)になります。各自の主張が出揃ったら、証人尋問や当事者尋問を行って、また場合によっては和解勧告を経て(それでも和解とならず)判決となります。
民法770条は、1項で離婚原因を定め、2項で離婚請求棄却事由を定めており、破綻主義、つまり婚姻関係が回復不可能な程度に破綻したときに離婚を認めるという制度を採用しているといわれています。まずは、770条1項に定めてある個々の離婚原因を見ていきましょう。
1号は、「不貞行為」を定めています。不貞行為とは、夫婦間の貞操義務に反する行為、つまり一方配偶者が、配偶者以外の異性と自由意思によって性交渉又はそれに準じる行為を行うこととされています。したがって、性交渉又はそれに準じる行為を含まない異性との交渉は含まないことになります。この不貞行為については前に説明をしました。
2号は、「悪意の遺棄」を定めています。悪意とは、離婚となってもかまわないという意思を意味します。また、遺棄は、民法752条で定める夫婦間の同居・協力・扶助義務に反する行為であって、置き去りや追い出しなどを意味します。したがって、離婚となってもかまわないと思いつつ、一方配偶者を追い出すような行為が悪意の遺棄となります。
しかし、共同生活をしないことに正当な理由があれば遺棄には該当しません。例えば、協議別居もそうですし、婚姻関係が破綻しており同居が期待できない場合の別居は遺棄に該当しません。
また、Aさんがその妻Bと同居をしていたのですが、Bさんがその兄弟を同居させ、多額の経済的援助をしたことから、Aさんは家を出ていき生活費を渡さなかったという事案で、裁判所は、生活費の不支給は、妻自ら招いたもので、妻は夫に対する扶助請求権を失い、夫の行為は悪意の遺棄に該当しないとしたものがあります。
3号は、「3年以上の生死不明」を定めています。婚姻義務違反に基づく事由ではなく、まさに破綻主義を採用したものとされています。3年の起算点は、最後の音信があった時となります。例えば、夫が出稼ぎに出て、1年間は手紙が来ていたのですが、その後3年経った今では、何の音信もなく、どこで何をしているのかも、生きているのか死んでいるのかも分からないような状態となったようなときです。戦後すぐの時代には、戦地から帰還しない人も多く、裁判例もありましたが、現在ではほとんどありません。
4号も婚姻義務違反に基づく事由ではなく、まさに破綻主義を採用したものとして「強度で回復見込みのない精神病」を定めています。アルコール中毒や神経衰弱症、アルツハイマー病はこれに当たりません。もっとも、アルツハイマー病は、「婚姻を継続し難い事由」に該当する可能性はあります。しかし、精神病の人が離婚されてしまったならば、その人の今後の生活はどうなるのでしょうか。
そこで、強度で回復見込みのない精神病の存在だけで離婚が認容されることはないのです。昭和33年の最高裁判例は、「病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当である」としています。
なお、この精神病は、離婚原因として挙げられていますので、当然ながら裁判離婚を前提としています。しかし、精神病の人には訴訟追行能力がありません。そこで、誰を被告として裁判をするかが問題となります。この場合、精神病者に後見開始の審判をして、後見人を被告として裁判をします。
また、一方配偶者が後見人となった場合には、後見監督人を選任して、後見監督人を被告とすることになります。
5号は、「婚姻を継続し難い重大な事由」を挙げ、婚姻関係破綻を前提とした抽象的離婚原因を定めています。そこでは、婚姻破綻の具体的判断基準が問題となります。暴行・虐待、重大な侮辱、訴訟提起・強制執行・告訴・告発、犯罪行為、家庭の放置、配偶者親族との不和、性格の不一致、性生活の異常、疾病・身体障害、過度の宗教活動が判例に現れた具体的事由です。
よく、性格の不一致といわれますが、これだけで5号の離婚原因にはあたりません。性格の不一致を前提として、実際に婚姻関係が破綻してしまっていることが必要となります。
2項は、離婚請求棄却事由を定めています。この請求棄却事由は、前項1号から4号に適用されるもので、婚姻関係破綻を前提とする5号には適用されません。つまり、例えば、不貞行為があったとしても、それでもなお婚姻関係が破綻していない限り、離婚を認めないとするのが2項なのです。もっとも、裁判所による裁量権の濫用が問題となり、この規定を削除すべきであるとするのが定説となっています。
かつては、例えば自ら不貞行為をした者が、離婚を請求したとしても、これが認められることはありませんでした。配偶者や子の保護の必要性から、離婚が制限されてきたのですが、本来は破綻主義となじまない制限であったといってよいでしょう。
しかし、昭和62年の最高裁判決は、有責配偶者からの離婚請求を認めないという従来の判例法理を変更しました。ただし、それは厳しい要件の下でした。その要件は、「長期間別居の事実」、「未成熟子の不存在」、「著しい苛酷の不存在」です。以下、それぞれについて、その後の判例もふまえて説明をします。
別居期間には二種類あります。一つは「絶対的(長期間)別居」、もう一つは「対比的別居」といわれます。絶対的別居は、当事者の年齢や同居期間と対比することなく別居とされるもので、判例では16年で別居と認められています。対比的別居とは、同居期間と対比して、例えば同居が5か月の場合別居10年が認められています。さらには、同居期間との対比以外にも諸事情を考慮して別居を認めるものもあり、6年とか8年で別居とされた例があります。
次に未成熟子の不存在ですが、「未成年」とは異なる概念です。判例では12歳、17歳、18歳が未成熟子とされています。基本的には扶養されている子は未成熟子とされるでしょう。ただ、それでも、諸事情を総合考慮して信義則に反しない場合には離婚が認容されることもあります。
最後に著しい苛酷の不存在です。これは、離婚によって相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情とされています。ただ、実態としては相手方配偶者の経済状態が重視されていて、慰謝料や財産分与により調整されているのが一般です。
一方配偶者の責任によって離婚をした場合や正当な理由のない婚約破棄の場合、他方配偶者又は他方当事者は、相手方に慰謝料を請求することができます。また、特に浮気が原因の離婚の場合、相手方配偶者以外にも離婚原因を作出した者がいる場合には(例えば不貞行為の相手方)、その者に対して慰謝料を請求することができます。
この「慰謝料」というのは、目に見える、あるいは損害額の算定が客観的になされる損害についての賠償とは異なっていて、精神的ショックを癒すための損害賠償金です。
まずは、婚約破棄についてみていきましょう。正当な理由がなく婚約が破棄された場合、一方的に婚約を破棄された当事者は、婚約を破棄した当事者に対して、損害賠償を求めることができます。
A女さんとB男さんとが婚約をして、お互いに結納を交わし、A女さんがB男さんに結納金を渡し、B男さんはA女さんに婚約指輪を送りました。さらに、半年後の結婚式の準備として、結婚式場を予約し新婚旅行の予約もし、A女さんとB男さんが、折半で予約金を支払い、A女さんは結婚に備えてそれまで勤務していた会社を退社しました。ところが、B男さんは、他に好きな女性ができたということで、婚約が破棄されてしまったとしましょう。
「婚約」のところでも説明をしましたように、A女さんが賠償を求めることができる損害に、結納金の額、結婚式場と新婚旅行の予約金が入ることは明らかでしょう。また、将来結婚することができると考えて会社を退社したのですから、仮に婚約までしていなかったならば、会社を退社することはなかったでしょうから、仮に会社に勤務していたとしたならば将来得られたであろう金額(逸失利益といいます)も損害として賠償請求することができます。
ただ、その反面、A女さんは、指輪を返還しなければなりません。
しかし、一方的に婚約を破棄されたA女さんにしてみれば、両親や親戚などとの関係、さらには辞めた会社の社員だとか友人との関係で、かなりの精神的ショックを受けるでしょう。この精神的ショックを金銭で癒すことはできませんが、それでも精神的ショックを慰謝するためには、金銭での賠償をしてもらうしかないのです。それが慰謝料とよばれるものです。
婚約破棄による慰謝料の金額は、これといった基準があるわけではありません。当事者双方の、年収や地位、環境などを総合的に考慮して決定することになります。一般的には、まだ結婚に至っていないこともあって、離婚による慰謝料金額よりは低めであると思われます。実務では、50万円から100万円程度とされることが多いようです。
内縁関係は、婚姻関係に準ずるものとされていますので、内縁関係を一方的に不当に破棄された場合には、慰謝料を請求することができます。この場合に、どの程度の金額を請求することができるでしょうか。当事者の資力や有責性の程度など様々な要素によって決せられますので、一概にいくらだと断言することはできませんが、内容的には、内縁関係が婚姻関係に準じている以上、内縁関係破棄の場合の慰謝料額は、離婚の際の慰謝料額とほぼ同様であるといってよいでしょう。
離婚の場合、財産分与がなされますが(この財産分与については後で説明します)、それに併せて、一方配偶者は、有責配偶者に対して、慰謝料を請求することができます。財産分与は夫婦共有財産の清算であって、慰謝料は不法行為に基づく損害賠償請求ですから、両者はその性格を異にします。
したがって、財産分与の請求と慰謝料の請求は、別個にすることができますし、両者を併せて請求することもできます。ただ、協議離婚に際して財産分与が行われた場合に慰謝料の存否やその額をめぐって問題が発生することがあります。
A男さんとB女さんが協議離婚をしたとしましょう。離婚時の夫婦共有財産として金銭に換算して3000万円があり、A男さんは、B女さんに財産分与として2000万円を渡した場合、B女さんは、A男さんに慰謝料を請求することができるかという問題があります。
この場合の適正な慰謝料額が500万円であったとすると、B女さんが受領できるのは、財産分与として3000万円÷2=1500万円と、慰謝料額500万円の合計2000万円となるはずです。ところが、結果的にB女さんは、財産分与という名目であっても、既に2000万円を受け取っています。
そこで、財産分与に十分な慰謝料が含まれていると判断されて、別個の慰謝料請求をすることはできません。もちろん、B女さんが受け取った金額が2000万円ではなく、1700万円であった場合には、逆に財産分与に十分な慰謝料が含まれているとはいえませんから、別個慰謝料として300万円を請求することができるということになります。
では、慰謝料額として請求できるのはどの程度でしょうか。請求自体はいくらでも請求可能なのですが、実際裁判所がいくらと認めるかは、前にも書きましたが、様々な要素によって変動します。ただ、実務上は、概ね200万円前後であることが多いようです。
もっとも、慰謝料を算出するのに、抽象的であったとしても、何らかの考慮要素があることも否定できません。その考慮要素としてどのようなものがあるのかは、様々な判例を分析することによって見えてきます。これらを検討してみましょう。もちろん、裁判離婚での考慮要素ですが、協議離婚の場合にも当てはまります。
裁判離婚であっても協議離婚であっても、そこには必ず離婚原因があります。そこで、どのような離婚原因が存在するのか、複数の離婚原因が存在するとした場合主たる離婚原因は何なのかを検討することが必要です。また、そのような離婚原因が発生した理由は何なのかも検討する必要があります。
例えば、AさんとBさん夫婦がいて、Aさんが不貞行為をしたとしましょう。不貞行為は夫婦生活の基礎を脅かす重大な離婚原因でしょうから、慰謝料増額要素となります。
しかし、Bさんが家庭を顧みない生活をしていてAさんが不貞行為をしたというような場合には、Aさんが不貞行為をした一因がBさんにも存在するといえるでしょうから、そのような事実は慰謝料減額要素となります。
当事者の性別や年齢も重要な要素です。一般的にいえば、女性の社会参加が進んでいるといっても、まだまだ専業主婦が多いことは事実です。このような専業主婦の場合、離婚によってその後の生活に影響が出るのは当然でしょう。ですから、男性に離婚原因があって離婚をするような場合、慰謝料を請求する側である配偶者が女性であることは慰謝料増額要素となります。
逆に言えば、女性に離婚原因があって離婚をするような場合、慰謝料を請求する側である配偶者が男性であることは、慰謝料減額要素となることはあっても、増額要素となることは少ないでしょう。年齢も重要な要素だといえます。
これは、その後の就職の可能性や後で説明をする婚姻期間の長さにも関係してきますが、高年齢であるほど慰謝料増額要素となることが多いようです。ただし、年齢だけで考えると、生活費が通常よりも少額ですむ場合もあって、必ずしも増額要素になるとは限らないことに注意してください。
婚姻期間や別居期間の長さも影響します。婚姻期間が長ければ長いほど、慰謝料が増額されることはいうまでもありません。長い婚姻生活が破綻させられる方が、短い婚姻生活の破綻よりも、精神的苦痛が多いと考えられるからです。
他方で、別居期間が長いことは、どちらかといえば慰謝料減額要素となります。これは、別居期間が長ければそれだけ精神的苦痛が減っていくと考えられるからです。特に、別居期間中に、婚姻費用が支払われている場合には、婚費分担が義務だとしても、減額要素として働くことがあります。
離婚による経済的不利益も重要な要素だと言われています。前にも説明をしましたが、特に専業主婦の場合、離婚後も生活を維持する必要がありますので、その生活を保障するという意味でも、慰謝料増額要素となります。
ただ、難しいのは、高額所得者に離婚原因があり、専業主婦として他の人よりもよい生活をしていた女性の場合です。離婚後の生活保障が、それまでの生活を保障すべきだとすれば慰謝料増額要素となるのでしょうけれども、公平性という観点からして若干疑問が残ります。また、これは後で説明をする過分な婚姻費用の受領とも関係してきます。
子どもの有無と人数もかなり重要な要素です。子どもがいなければ、それだけ離婚後の生活費もかからないでしょうから、子どもがいないことは慰謝料の減額要素となります。そして、子どもがいることは、増額又は減額要素となります。
子どもについていえば、養育費の取り決めがなされ、裁判となった場合には、算定表に基づいて金額が算出されますが、その金額だけで子どもを養育していくことはかなり難しいといえるでしょう。そこで、子どもの有無を慰謝料に反映させようとするのです。
例えば不貞行為をした一方配偶者Aが他方配偶者Bに慰謝料を支払う場合を考えましょう。Aさんが子どもの親権者となる場合、Bさんが受領する慰謝料の減額要素となるでしょうし、逆にBさんが親権者となる場合には、慰謝料増額要素となるでしょう。そして、当然ながら、子どもの人数が増えるほど、慰謝料増額要素になっていきます。
相手方の収入も考慮要素となるとされています。もちろん、収入が高いほど慰謝料増額要素となるというものです。アメリカなどでは夫の収入が高ければそれだけ慰謝料も高額になり、我々からすれば天文学的な数字が出されることもあります。しかし、それが日本の場合にストレートに妥当するかは疑問です。
そもそも、アメリカなどでは、結婚する際に、離婚をした場合には、そのシュチエーションごとに○○円の慰謝料を支払うとの契約がきちんとなされていることが多く、その意味でも日本には妥当しないでしょう。慰謝料を支払うべき配偶者の収入は考慮すべきでしょうが、収入が低いことは減額要素となっても(しかも現実的に高額の慰謝料は支払い困難でしょう)、収入が高いことを過大に慰謝料増額要素とすることには疑問があります。
次に過分な婚姻費用について考えてみましょう。会社を経営しているAさんは高額所得者で、その妻Bさんは、通常の婚姻費用とは別に、会社の取締役として(名ばかりの実体のない取締役として)取締役報酬を受け取っていたというような場合です。言葉は悪いですが、このような取締役報酬は不労所得のようなものです。
そこで、慰謝料の前払いもしくは財産分与の前払いがなされていると考えて、それぞれの減額要素と考えることができますし、少ないのですがそのような判断をした裁判例もあります。
なお、裁判離婚のためにはもちろん、適切な額の慰謝料請求のために、その証拠を残しておくことが重要です。例えば、夫が他の女性とホテルに行った写真、夫の言動についての日ごろからのメモといったようなものです。DV被害の場合には、その傷害の程度を問うことなく、診断書をとっておくことも大事です。それによって、被害の程度はもちろん、その回数も立証することができます。
夫婦が離婚する場合には、夫婦の財産の清算が行われます。夫婦の財産には、特有財産と共有財産がありますが、財産分与は、共有財産について行われます。
特有財産とは、例えば、結婚にあたり、何かあったらということで、結婚に際して親からもらった金銭をそのまま預金していたとか、結婚前から持っていた自分自身の預金などを意味します。つまり、夫婦で築き上げた財産とはいえない財産です。
めったにあることはないのですが、台所用品は結婚にあたって、私がそのお金ですべて購入したからだといって、台所用品のすべてを持ち去ることを主張する女性もいます。形式的には特有財産といえるかもしれませんが、夫側は釈然としないかもしれません。
これに対して、共有財産とは、婚姻生活中に夫婦が協力して取得した財産や婚姻生活中に負担した債務をいいます。財産分与は、夫婦が築き上げた積極財産、もしくは、結婚生活に必要な債務を負担したというような消極財産を対象とするものですが、それは客観的に算出されるものですから、これを二分してそれぞれが取得することになります。
ですから、財産分与自体で揉めることはあまりありませんが、夫側がそこでも頑張ることがあります。概ね、自分が稼いで、妻は専従主婦だったのだから、夫婦共有財産の形成に対する寄与度(貢献度)が低いとの主張をするのです。夫婦関係が破綻しているから言いたい放題となるのです。
しかし、このような主張が受け入れられることはあまりありません。現在では、半々とするのが一般的です。
夫婦共有財産は、夫名義にしている不動産や夫名義の預金も入ります。日本では、不動産を共有名義にする習慣があまりなく、通常は夫名義になっています(もっとも、最近は一部でも共有持分を登記するケースが増えました。)。
預金についてもそうです。しかし、それは形式的なことにすぎません。ですから、共有財産であるかどうかは、名義がどうなっているのかではなく、実質的にどうなのかという基準で判断されることになります。実質的な判断といっても難しいものではありません。結婚生活中に取得した財産、負担した債務かどうかということだけです。
では、具体的にどのように分与されていくのかを見てみましょう。
夫婦共有財産として、預金残高が600万円、自宅として土地建物があり、その自宅購入のために組んだ銀行ローン残高が300万円あるとします。まずは、自宅の土地建物の評価をしなければなりません。一般的に見て、夫側は低く評価をし、妻側は高く評価する傾向があります。客観的に近隣相場にしたがって調査をし、場合によっては土地家屋調査士に評価をお願いすることもあります。その結果、土地建物の評価額が1000万円であるとします。
積極財産(プラスの財産)が、預金600万円+土地建物1000万円、消極財産(マイナスの財産)としてローンが300万円です。そこで、夫婦各自が、「600万円+1000万円-300万円=1300万円」を半々の650万円に分けることになります。もちろん、土地建物を売却してローンを清算して、預金と合わせての1300万円を分けるという方法もあり、これが一番手っ取り早い方法ともいえます。
しかし、一般的には、夫がその自宅に固執する傾向があります。土地建物の名義人である夫が協力しない以上、これを売却することはできませんので、自宅はそのままにしておくしかありません。
また妻側が自宅に住みたいということもあります。これは非常に難しいことになります。妻としては、自分名義に直した上で居住することになるのでしょうが、その場合ローンがどうなるのかという問題があります。自分がローンを支払っていくと主張して銀行に名義書換を求める妻もいますが、銀行がこれに応じることはほとんどありません。では、夫がきちんとローンを支払うのであればよいのですが、それを信頼することはできない状態でしょうから難しいのです。
そこで、土地建物はそのままで、夫が居住するとなったら、夫としては預金600万円をすべて妻に渡した上で、さらに50万円を用意してこれを妻に渡すということになります。
さらに、よくあるのは、1000万円の土地建物を取得した際に、夫の実家が頭金として200万円を出しているといったようなケースです。形式的にいえば、この200万円も借金の一つですから、その半額の100万円を妻が負担しなければなりません。しかし実質的に考えると、夫の実家から夫婦に対して贈与されたものと見ることができます。もし、このように判断することができれば、これを借金として把握せず、半額を負担するということもないでしょう。
財産分与で問題となるのは、退職金がどうなるかです。もちろん、離婚前に退職して退職金が入っていれば何の問題もなく、それを分ければいいだけです。ところが、離婚時にまだ退職をしていない場合が問題となるのです。
下級審も含めて様々な考え方があります。(1)将来の退職金支給を条件として財産分与の対象とする考え、(2)将来の金額を現時点で対象とする考え、(3)離婚時点で退職したならば得られるであろう金額を対象とする考えがあります。
専業主婦にとって最も有利なのは(2)の考えです。しかし、将来会社が倒産して退職金が出ないという場合もなきにしもあらずですから、疑問のある考えです。また、(1)もかなり先のことになるという弱点があります。その意味で、(3)の考えがもっとも妥当と考えられます。
ただ、退職金は給与の後払いとの性格を有しています。つまり、夫が22歳で就職し、30歳で結婚、40歳で離婚、65歳で退職した場合、退職金は通算の43年間の給与の後払いということになるはずです。これを前提とすると、40歳時点で退職したならば得られるであろう金額には、結婚前の8年間分が含まれていることになります。そこで、厳密にいえば、離婚時に退職したならば支給される退職金のうち、妻が寄与したのは、18(通算勤続年数)分の10(婚姻期間)にすぎないことになり、その按分をすべきではないかという主張もあります。
生命保険金は、離婚時に保険料を支払っている最中であれば、財産分与の対象とならないとする考えもありますが、離婚時に解約をしたならば返戻される解約返戻金を対象とすることは可能だと思います。
現在ではもっとも重要なのは年金分割ですが、年金分割については別に説明をすることにします。
最後に、自らが不貞行為をするなどして、婚姻生活破綻の原因について責任がある者も、財産分与を請求できるかという問題があります。
多くの場合、財産分与の請求は、専業主婦であった妻側からなされることが多いのですが、男性のみならず女性が不貞行為に至ることもあって、この場合、男性側から、不貞行為をして婚姻生活を破綻させたのだから、財産分与をしない、したとしても半々とすべきではないとの主張が出されることがあります。
もっとも、財産分与は、客観的に存在する夫婦共有財産を、客観的に分与することですので、有責配偶者であっても、財産分与を受けることができます。
A男さんが会社員として厚生年金に加入していて、妻のB女さんは専業主婦として家庭を支えていたという場合、特に熟年離婚をした場合に、夫であるA男さんだけが年金を受け取ることができるとするのは、B女さんに不利益ですし、不公平です。そこで、離婚に際して年金分割をすることができるとの制度が平成16年に導入されました。
この年金分割については、具体的な年金額を分割するのではなく、婚姻期間中の給付実績を分割するものであること、国民年金(基礎年金)は対象にならないことに注意をしてください。基礎年金は分割の対象となりませんので、夫が自営業、自由業、専業農家である場合には、年金分割制度の適用はありません。
さらに注意が必要なのは、B女さんにメリットがあるのは、A男さんが、B女さんよりも、厚生年金や共済年金(現在は厚生年金に一本化)を多く支払っていた場合ということです。もし、B女さんが、A男さんよりも、受給額が多い場合には、B女さんの方が、A男さんから年金分割を請求されるということになってしまいます。
また、一般的な年金受給資格がなければ年金分割をしたとしても、年金を受領することはできません。つまり、保険料納付期間、免除期間、合算対象期間の合計が25年以上必要となります。ですから、年金分割は熟年離婚で問題となることが多いのです。
年金分割には、合意分割と3号分割があります。合意分割、3号分割といっても、よくお分かりにならない人も多いと思います。簡単にいえば、B女さんが専業主婦である場合、A男さんの扶養家族となりますが、そのB女さんを3号被保険者といいます。この場合に離婚をすれば、合意分割と3号分割が問題となります。
これに対して、B女さんが専業主婦でない場合、つまりA男さんの扶養家族となっていない場合には合意分割の方法によることになると理解してもらってよいでしょう。合意分割と3号分割について簡単に説明をしていきます。
合意分割の場合、夫婦間で、年金分割をすることと、分割割合について合意をすることになります。ただ、離婚状態ですから、すんなりと合意が成立するとは限りません。その場合には、裁判によって分割割合を決定することになります。
分割の対象期間は婚姻期間で、分割割合は2分の1が上限となり、請求期間は離婚日の翌日から2年以内となります。
年金分割について合意が成立した場合には、そのことを書面にしておきましょう。できれば、公正証書にしておく方がよいでしょう。この書面や年金手帳、離婚届、戸籍謄本などを、請求者の現在の住所を管轄する年金事務所に提出することによって、分割手続は終了します。
では、合意が成立しなかった場合はどうすればよいでしょうか。この場合には、家庭裁判所における調停離婚、審判離婚、裁判離婚において、分割の決定がなされることになりますので、調停調書、審判書又は裁判書を提出することになります。
分割対象期間は、婚姻期間のすべてというわけではなく、平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、B女さんが先に説明をしました扶養家族となっていた期間となることに注意が必要です。分割割合は、2分の1となります。また、請求期間については、合意分割と同様です。
3号分割の場合、分割自体についての合意や分割割合の合意はなく、当然分割であり、また分割割合は当然に2分の1です。ですから、合意分割における合意内容を証明する書類は不要で、それ以外の年金手帳等を年金事務所に提出することになります。
親と子どもとの関係のうち、一般的に、母親と子どもの関係は、妊娠及び分娩という事実から、明らかです。しかし、「知らずは夫ばかりなり」という言葉があるように、父親と子どもとの関係は、必ずしも明らかであるとはいえません。そこで、民法は父親と子どもとの関係を次のようにしています。なお、最高裁の判決で、待婚期間についての民法の規定は違憲であるとされていて(この判決を受け再婚禁止期間は100日に短縮されました。)、そのため772条2項の合理性にも問題があるのですが、話を進めます。
婚姻が成立した日から200日を経過した後に、又は離婚をした日から300日以内に産まれた子どもは、夫婦が婚姻中に懐胎したものであると推定され、その上で、妻が婚姻中に懐胎した子どもとして夫の子どもであると推定されます。これを「推定される嫡出子」といいます。
ここで、婚姻が成立した日とは、実質的に夫婦となった日を意味するのではなく、婚姻届が提出された日を意味します。
これは「推定」規定ですから、当然ながら反証をもって覆すことができるのですが、後で説明をしますように、「嫡出否認の訴え」という方法でしか覆すことができません。
例えば、A男性とB女性は、同棲生活を送ってきたのですが、B女性が妊娠したことが分かり、AさんとBさんは結婚をすることとして、婚姻届を提出しました。そして、結婚後、3か月して子どもは産まれたとしましょう。
この場合、「推定される嫡出子」は、結婚から200日を経過した後に産まれた子どもをいいますから、AさんとBさんとの間に産まれた子どもは、「推定される嫡出子」には当たりません。このように嫡出の推定が働かない以上、その子どもは非嫡出子となるはずです。
しかし、最高裁(大審院)判決は、このような子どもも嫡出子であるとしました。さらに、この子どもとの親子関係について、「推定される嫡出子」では「嫡出否認の訴え」による否定方法しかないのですが、親子関係不存在の訴えによってもよいと、「推定される嫡出子」と異なる扱いを認めたために、「推定される嫡出子」と異なる概念として「推定されない嫡出子」という概念ができたのです。
例えば、結婚をしているAさんとBさんがいるのですが、Aさんは単身で海外に赴任し、そのAさんのもとへBさんが行ったこともないまま、AさんとBさんが離婚をしたのですが、離婚後3か月をして女性のBさんが子どもを産んだとしましょう。この場合、前に説明をした「推定される嫡出子」となるはずです。しかし、この子どもがAさんの子どもでないことは明らかでしょう。このような子どもを「推定の及ばない嫡出子」といいます。
先の例は、単身での海外赴任でしたが、ではどのような場合に、「推定の及ばない嫡出子」となるのでしょうか。個別具体的な審査の結果、客観的・科学的にAさんとの父子関係が存在しないことが明らかになった場合だとする考えもありますが、最高裁の判決は、一貫して、Aさんが失踪宣告を受けているとか、事実上離婚をしているといったような、同棲の事実がないという外観上明瞭な事実のある場合に限定しています。
先に説明をしました「推定される嫡出子」との間の父子関係を否認する訴えです。この訴えは、妻の不倫を疑い、生まれてきた子どもが自分の子どもではなく、不倫相手の子どもではないかと疑うときになされます。
では、夫の両親が、うちの嫁は不倫をしている、だから生まれた子どもは孫ではないのではないかとの疑いで、この訴えをすることができるのでしょうか。この訴えは、必然的に妻の不倫を前提とする訴えですから、それを暴くことを欲しない夫の気持ちを重視しなければなりません。そこで、この訴えをすることができるのは、夫だけであって(一定の例外はありますが)、その両親などが訴えを提起することはできません。
この訴えを起こす権利は、夫が、子どもが生まれた後に、嫡出であることを承認した場合には消滅します。もちろん、出生の届をしたからといって、ここでいう承認に該当しないことはもちろんです。
また、夫が子の出生を知った時から1年以内に訴えを提起することが必要です。では、子どもが生まれてから半年ほどを経過して、妻の不倫の事実を知り、その子どもが自分の子どもでないと疑い、子どもが1歳半になるころに訴えを提起することは許されるでしょうか。これは許されます。「夫が子の出生を知った時」とは、子どもが出生をしたという事実を知った時ではなく、夫が否認すべき子どもの出生を知った時、つまり、否認の原因となる事実(不倫の事実)を知った時となります。
相手方となるのは、子ども又は親権を行っている母親となります。この訴えには、調停前置主義の適用がありますので、まずは調停申立をすることになります。
前に説明をしました「推定されない嫡出子」や「推定の及ばない嫡出子」との父子関係の否定は、親子関係不存在確認の訴えですることになります。
嫡出否認の訴えと異なっていて、訴えを提起する者や訴えを提起しなければならない期間制限はありません。ただ、この訴えにも調停前置主義の適用があります。
親権は、肉体的・精神的・社会的に過渡期にある子どもが、健全に成長するために、また子どもの財産を管理して法律行為について子どもを代理するために、認められているものです。
かつては、「親のため・家のため」に親権があり、「親の権力・子どもに対する支配権」というように親の権利性が中心にあると考えられていました。しかし、現代では、子どもが健全に成長するための親の義務であると考えられています。この時代においても、親権を親の権利であると考え、しかもそれを濫用する親がいることは嘆かわしいことです。
嫡出子については、父母が親権者となるのは当然のことでしょう。また、養子については養親が親権者となります。では、Aさんが子どもを連れたBさんと結婚し、Aさんがその子どもを養子として養親になった場合はどうでしょうか。この場合、実の親であるBさんと養親であるAさんの二人が親権者となります。
親権をめぐってもっとも問題となるのは父母が離婚した場合です。父母の協議によって親権者を決定することができればいいのですが、いわゆる子どもの取り合いで泥沼の争いになることも少なくありません。しかし、離婚にあたって、未成年の子どもがいる場合には、必ず親権者を決定する必要があり、そうでないと離婚することはできません。
そこで、親権者をめぐる争いとなった場合に、裁判所はどのような基準をもって、親権者を決定するのかを知っておくことも重要だろうと思います。
裁判所は、子どもの利益を考えて親権者を決定しますが、具体的には、父母それぞれの監護能力、経済的能力、居住や教育環境、婚姻中の監護状況、子どもの年齢、子どもの意思などを考慮して決めることになります。
また、一般的には、継続性の原則(できるだけ現状を変更することは避けるとの原則)、母性優先の原則(子どもが乳幼児であれば母親が望ましいとの原則)、意思尊重の原則(ある程度意思表明をすることができる子どもの場合には、その意思を尊重するとの原則)があるとされています。妻が、子どもを連れて別居した場合の多くは、妻が親権者となっています。
また、一方配偶者が不貞行為をするなど婚姻生活破綻の原因を作ったとして、そのような不貞行為をする者に親権者としての資格はないとの主張も時々なされます。しかし、不貞行為をするからといって、子どもの親権者としてふさわしくないということにはなりません。
親権は、子どもに対する監護教育と子どもの財産管理を内容とします。子どもの監護教育は、親権者の権利であると同時に義務です。監護教育は、具体的には「居住指定権」、「懲戒権」、「職業許可権」となります。
また、子どもの財産管理は、子どもの財産を管理することはもちろん、子どもの財産に関する法律行為について子どもを代理する権限のあることを意味しています。
例えば、子どもの財産を売却しようとする場合、売り主である子どもの代理人として、売買契約を締結することです。ただし、親権者と子どもとの間で、利益相反がある場合には代理人となることはできません。
具体例で見てみましょう。親権者であるAが、子どもBが所有している土地を売却する事例です。この土地を仮に親権者Aが買い受けようとする場合、買主であるAはできるだけ安く土地を手に入れたいと考えるでしょう。
しかしその反面、売主である子どもBはできるだけ高く売りたい、したがって代理人であるAはできるだけ高く売却する義務を負っていることになります。このように、親権者Aと子どもBの利害が対立するような場合には、親権者は子どもの代理人となることはできないのです。
利益が相反する場合とは、簡単にいえば、親権者のためには利益(又は不利益)であるけれども、子どものためには不利益(又は利益)である場合ということです。この利益・不利益は形式的に判断されます。二つの事例で考えてみましょう。第一の事例は、親権者Aが、自分の遊びの費用に充てるつもりで、子どもB名義で借金をし、子ども名義の不動産に抵当権を設定するという行為です。第二は、親権者Xが、子どもYの高校進学の資金に充てるつもりで、自分名義で借金をし、子どもY名義の不動産に抵当権を設定するという行為です。
第一の事例の場合、子どもBの名義で借金をしていますから、借金をした人は子どもBということになり、そのために子どもBの不動産に抵当権を設定することに何の問題もないということになります。親権者Aが遊興費に充てるつもりであったという主観的事情は考慮しないのが、形式的判断からの結論となるのです。
これに反して、第二の事例の親権者Xは、自分の借金のために子どもYの不動産に抵当権を設定しています。親権者Xにとっては、子どもYの不動産に抵当権を設定することは利益となることですが、子どもYからすればそれは不利益です。主観的には、子どもYの高校進学の資金に充てるという子どもYの利益のための行為ですが、形式的判断によれば、利益が相反する場合となって、親権者Xは子どもYを代理して、抵当権設定行為をすることはできません。
この二つの事例は、常識的にみればおかしいようにも思われますが、いずれの不動産についても、抵当権を設定した抵当権者からすれば、親権者Aと親権者Xの内心は分からないのですから、取引の安全のために、形式的に判断するとされているのです。
離婚にあたっては、親権者を決定する必要があること、その際にどのような基準で親権者が決定されるのかについては、既に説明をしましたので、離婚に際して親権が問題となるその他の点について考えていきましょう。
離婚をした夫婦の間で、母親が親権者と決定されたにもかかわらず、子どもへの思いを断ち切れない父親が、例えば、子どもが通う幼稚園の前で子どもを待ち伏せて、そのまま自分のところに連れ去っていくということがあります。
このような場合、親権者である母親は、子どもを手元に置いてなければ、親権を適切に行使することができませんから、子どもを戻してくれと頼むことになりますが、父親は易々と子どもを戻すことをしません。では、母親としては、どのような方法をもって、子どもを取り戻すことができるでしょうか?このことは離婚をしていないのですが別居中である場合にも起きます。
また離婚していれば当然親権の共同行使はできません。この場合、離婚夫婦間の子の監護に関する処分というものがあり、親権を行使するためには、その子どもを自分の手元に置くことが必要ということになりますから、この処分をもって家庭裁判所が引渡を命じることになります。そして別居中であっても、それに準ずるものとして扱われることになります。
また、夫婦間の子の監護に関する処分では時間がかかるということで、人身保護法の適用もあるとされていて、子の監護処分の申立と人身保護法の申立を同時並行で提出することも認められています。
ところで、時間が経過すればするだけ現実に子どもを手元に置いている親は有利となります。ましてやそれが母親であればなおさらです。先に説明をしました母性優先の原則と継続性の原則が妥当してしまうからです。
現実に、離婚をした母親が、親権者である父親の手元から幼児を誘拐した事件で、1年ほどもめた結果、父親から母親に親権が変更されたケースもあります。このような場合には、母性優先の原則や継続性の原則が妥当しないことを強く主張していかなければならないでしょうが、かなり困難であるというのが実情です。
母性優先の原則が認められないのは、母親が子どもを置いて家を出ていったような場合しかないといっても過言ではないでしょう。実際には、母親が父親から家庭内暴力を受けて、子どもを連れ出したかったけれども、連れ出すことができなかったというような場合でも、父親が親権者とされた例があります。どうも、子どもを置いていくような母親には、母親としての資格がないといったような偏見的な考えが底流にあるように思われてしかたありません。
親権の内容は、子どもの身上監護と子どもの財産管理で、一般的には親権者が監護者となります。ところが、父親のケースが多いのですが、子どもとのつながりを保持していたいとの考えからでしょうか、時々、監護者は母親でよいが(子どもは母親の下で監護されます)、親権者は自分がなると主張する人がいます。理屈からすれば、監護者としては適任であっても、財産管理者としては不適任である、という場合もあり得ますから、主張としては間違ってはいません。
しかし、現実問題として、子どもに財産があるというのは稀有な事例ですから、それにもかかわらず監護だけを切り離すというのは妥当でないと思われます。
また、逆に、親権者は母親でよいが、監護は自分がすると頑張る父親もいます。これは、養育費を支払いたくないとの意図が透けて見えるような主張で、この主張が認められることはまずないといってよいでしょう。
かつては、養育費の負担、その額も重要な問題でした。離婚をして、例えば母親が親権者となったとしても、父親は子どもに対して生活保持義務を負担していますから、離婚時に又は離婚後に、養育費を定めることとなり、現実に子どもの監護をしている母親は、父親に対して養育費の請求をすることができます。
先にかつては重要な問題であったと述べましたが、今では、家庭裁判所が作成した養育費算定表が活用されていて、夫婦それぞれの収入、子どもの年齢、子どもの人数に応じて、養育費が算定されていますので、昔のように養育費の額で揉めるということは少なくなりました。もちろん、算定表が絶対というわけではなく、種々の事情を勘案して、加減がなされることもあります。
協議離婚や調停離婚の場合に、養育費の取り決めをどのようにするのかについても、知っておくことが必要だと思いますので、一般的な例をあげておきます。父親をA、母親をB、子どもをCとしておきます。
「Aは、毎月○日までに、Cが20歳となる月までの間、B名義の○○銀行○○支店(口座番号××・・)に振り込む方法で、養育費として金○○円を支払う」、「Cが短期大学又は4年制大学に進学した場合は、それぞれ大学卒業まで養育費を支払うこととする」、「Aは、Cの小学校入学時に金○○円を、中学校入学時に金○○円を、高等学校入学時に金○○円を、大学入学時に金○○円を支払う」といったことを決めます。
協議離婚の場合には、公正証書をもって作成しておくことをお勧めします。もし養育費の不払いがあった場合、新たに養育費支払請求の裁判をすることなく、強制執行をすることができるからです。調停離婚の場合には、当然、新たな裁判なくして、強制執行をすることができます。意外に不払いとする親が多いようですから、できれば費用折半もしくは費用を負担してでも、協議離婚にあたっては公正証書にすべきだと思います。
養育費が支払われない場合、家庭裁判所による履行勧告、履行命令、金銭の寄託という方法を採ることができますが、最も有力な方法は強制執行です。例えば、5歳の子どもがいて離婚をし、20歳まで毎月5万円の養育費を支払うこととなっていたとしましょう。離婚から1年間は毎月5万円が支払われていたのですが、その後途絶えて1年が経過してしまったというケースでの強制執行ですが、途絶えた1年間の5万円×12か月の60万円のみならず、20歳までの養育費のすべての合計の840万円で強制執行をすることができます。
離婚をしたことによって、例えば母親が親権者となった場合、父親は子どもと直接に接触する機会をなくしてしまうことになります。しかし、父親は自分の子どもに会いたいでしょうし、子どもの円満な発達という観点からも、父親と接触する機会を有することは意義のあることだと考えられます。
そこで、親子関係の交流をする面接交流権を、親権を有しない親に認めています。通常は、親権を有さない親が、親権を有する親に対して、「会わせろ」と要求することがほとんどですが、厳密にいえば面接交渉を求めるといった請求権ではなく、子の監護のために適切な措置を求める権利です。
面接交渉の具体的内容については、離婚時に定めておくことがよいでしょう。具体的には、毎月○日とか第○曜日、○時から○時まで、どこで、夏季においては○泊○日の旅行といったような内容で、詳細は1週間前までに両親の協議によって決める、といったようなことです。
ただ、子どもが大きくなって、父親とは会いたくないということがしばしばあります。このような場合には、子どもの意思を尊重することになります。そして、面接交渉がなくなった結果、養育費の支給をしていた父親が、「そちらが子どもに会わないのなら、会わせるまで養育費を支払わない」と言うことがよくあります。
しかし、面接交渉の不実現(子どもの意思によらない不実現でも)と養育費の支払いとの間に対価関係はありませんから、面接交渉が実現しないからといって、養育費の支払いを中断することはできません。
夫婦は、それぞれの資産や収入、その他一切の事情を考慮して、例えば、食費・住居費・光熱費・養育費といった婚姻から生じる費用を分担しなければなりません。これを婚姻費用といいます。
ですから、妻に給料をまったく渡さず自分で使ってしまうような夫がいることを聞きますが、このような場合には、妻は夫に対して婚姻費用を分担するように請求することができるのです。ただ、婚姻費用の分担は、まだ、離婚はしていないのですが、別居をしているときに問題となることが多いようです。
別居をして離婚調停をしている夫婦の場合、通常は妻が夫に対して、子どもがいる場合には先に説明をした養育費の請求に併せて、婚姻費用の分担を求めることになります。この場合、これも前に説明をしました家庭裁判所が作成している算定表に基づいて、婚姻費用の分担額が定められることになります。なお、「婚姻費用の分担」ですから、離婚が成立すれば、それ以降の婚姻費用の分担は認められません。
婚姻費用をめぐって、よく問題となるのは有責配偶者がいる場合です。例えば、専業主婦の妻が浮気をして、これが夫に発覚したことから、家を出て別居をしているという場合です。婚姻費用の分担を求められた夫からは、「自分で浮気をして勝手に家を出ていった者に、婚姻費用を支払う必要はない」と主張されることになります。
なかなか難しい問題で、下級審の判例もまちまちですが、婚姻費用の分担は、婚姻中であるとの理由で認められるものですから、原則として妻側の請求を認める判例が多いようです。もっとも、その場合でも、妻の有責性が考慮されて、算定表の金額よりも減額される場合もあります。
離婚の際に、時々問題となるのが氏の問題です。具体例で説明をしましょう。「鈴木一郎」さんと「佐藤花子」さんが結婚をして、佐藤さんは夫の氏である鈴木を名乗ることとして、鈴木一郎さんと鈴木花子さんの夫婦が誕生しました。また、二人の間に子どもが産まれ、「鈴木太郎」君と名づけられました。
不幸にして、鈴木一郎さんと鈴木花子さんは離婚するに至り、太郎君の親権者は母親である花子さんがなりました。
離婚するにあたっては、「当然復氏」という原則があります。つまり、結婚によって氏を、佐藤から鈴木に変更していた花子さんは、離婚にあたって、当然に元の佐藤の氏に戻るという原則です。もちろん、あくまでも原則であって、花子さんが望めば、鈴木姓のままでいるということもできます。
当然復氏が原則であることや、鈴木一郎さんが家制度に固執して、花子さんに対して、今後鈴木姓を名乗るなと言って、当然復氏を強制することもあります。このように、離婚をした鈴木花子さんが、佐藤花子さんとなり、太郎君の親権者となったとしても、太郎君の姓が変更されるわけではなく、太郎君は鈴木太郎君のままです。
ところが、親権者である花子さんが佐藤花子さんで、子どもが鈴木太郎君となると、日常生活で不便が生ずることもあります。よくあるのが、太郎君が、小学校などで「太郎君はなぜお母さんと苗字が違うの」などと言われることです。
親権者である佐藤花子さんと子どもである太郎君との姓が異なっている場合には、家庭裁判所の手続きによって、太郎君の氏を、鈴木から佐藤に変更することができます。
また、花子さんが、石田二郎さんと再婚をして石田姓となった場合に、石田二郎さんと太郎君とが養子縁組をすることによって、太郎君は石田太郎君となり、このような方法でも、太郎君と花子さんとの姓を一致させることができます。
まず国際結婚について説明します。
外国人と日本人との結婚に関して、結婚できるかどうかという判断は、その当事者ごとに、その属する国の法律にしたがってなされます(法の適用に関する通則法24条)。したがって、A国の人と日本人が結婚する場合、例えば、何親等までの範囲の人とは結婚できないとか、婚姻年齢が何歳かなどに関して、外国人についてはA国の法律で結婚できることになっているかどうか、日本人については日本の法律で結婚できることになっているかどうかで判断されることになります。二重の要件がかぶさると考えてもらったらよいと思います。
次に、婚姻に関する方式については、日本で婚姻するのであれば日本の法律に従って婚姻届を提出することになります(法の適用に関する通則法24条)。
さらに、日本人間の婚姻と異なり、その際に添付資料が必要となります。外国人の場合、その人がその国における婚姻要件を具備しているかどうかは、日本の役所では分かりません。そこで、その国の大使館などが発行する婚姻要件具備証明書といったようなその外国の公文書を添付することになります。
最後に、オーバーステイとなっている外国人であっても、日本人と婚姻することは可能です。ただ、この場合、大使館が婚姻要件具備証明書の発行を拒否することも多く、その場合には、それに代わる何らかの証明書を用意することが必要となります。
なお、外国人同士が日本で婚姻する場合にも、これまで説明をしてきたこととほぼ同じなのですが、当事者の一方のその国の定める方式の婚姻でも有効となります(法の適用に関する通則法24条)。
次に離婚についてですが、夫婦の一方が日本人である場合の離婚については、日本の法律が適用されますので(法の適用に関する通則法27条)、協議離婚をすることができます。しかし、その外国人の国からみて協議離婚が有効となるかどうかは別問題です。つまり、その外国が協議離婚を認めていない法制であれば、その外国からすれば離婚は認められないことになります。そのような場合には、調停離婚とか裁判離婚をするしかないと思われます。
また、外国人同士の夫婦で同一外国人の場合には、法の適用に関する通則法27条・25条によって、その外国の法律に従って協議離婚をすることができますが、それ以外の場合には日本の法律に従って協議離婚をすることになります。
最後に、調停離婚と裁判離婚について説明をしますと、日本の法律に従う限り、配偶者が外国人であるとして、日本人同士の離婚と変わるところはありません。問題は、例えば、外国人と婚姻した日本人が、その外国で暮らしていたところ、一人で日本に帰国して調停や裁判を起こすといった場合です。
この場合、日本の裁判所に管轄があるとはいえません。しかし、最高裁判決は、原則として被告(相手方外国人)の住所地(つまり外国の裁判所)が管轄となるが、例外的に原告(申立日本人)の住所地(つまり日本の裁判所)が管轄となる場合もあるとしています。
この例外は、遺棄された場合や相手方が行方不明の場合、またそれらに準ずる場合とされています。