相続 - 問題解決サポート
相続問題をスムーズに乗り切るためには、相続が起こった際にそなえての事前準備が重要ですし、問題が起こってしまった場合の対処方法も知っておく必要があります。相続税や贈与税といった税金の問題のほか、遺産分割や遺言の対応、相続登記など、たくさんのなすべき手続きがあります。
こうした相続にまつわる知識と、相続の問題に注力している弁護士・法律事務所を紹介します。
相続問題をスムーズに乗り切るためには、相続が起こった際にそなえての事前準備が重要ですし、問題が起こってしまった場合の対処方法も知っておく必要があります。相続税や贈与税といった税金の問題のほか、遺産分割や遺言の対応、相続登記など、たくさんのなすべき手続きがあります。
こうした相続にまつわる知識と、相続の問題に注力している弁護士・法律事務所を紹介します。
相続が起こったら、相続税を支払うべきケースがあります。
相続税には基礎控除が認められます(おそらくほぼこれでカバーされていると思います。)が、基礎控除を超える分の遺産に対しては、かなり高い税率で相続税が課税されてしまいます。
そこで、以下では、損をしないための相続税の知識を押さえておきましょう。
相続が起こって遺産相続をしたら、どのような少額の遺産相続のケースでも相続税を支払わなければならないわけではありません。相続税には基礎控除が認められるので、基礎控除以内の遺産しかない家庭では、相続税の支払は不要なのです。
相続税の基礎控除については、平成27年1月から大きく減額されています。
すなわち、平成27年1月1日以降に起こった相続に対する基礎控除の額は、3,000万円+法定相続人数×600万円にされたのです。
このことを、具体例を用いて確認してみましょう。
たとえば、配偶者と子ども3人が相続人となるケース(相続人は合計4人)を見てみます。この場合、基礎控除の金額は
3,000万円 + 600万円 × 4人 = 5,400万円
となります。そこで、現在の制度によると、5,400万円以上の遺産相続があると、その分には相続税が課税されてしまうのです。
遺産の金額が相続税の基礎控除を超えて相続税が課税される場合、相続税の税率はどのくらいになるのかを確認しましょう。
相続税の税率については、平成27年1月1日から変更されていますが、具体的には以下のとおりになります。
法定相続分に対応する遺産取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば、法定相続分が900万円の場合には、相続税の税率は10%なので、相続税の金額は90万円となります。
法定相続分が2,000万円の場合には、相続税の税率が15%で、50万円の控除額があるので、
2,000万円 × 15% - 50万円 = 250万円の相続税が課税されます。
法定相続分が4,000万円の場合には、相続税の税率が20%で、200万円の控除があるので、相続税の金額は、
4,000万円 × 20% - 200万円 = 600万円となります。
相続税が発生する場合には、相続税の申告と納税が必要になります。そこで、相続税の申告方法と納税方法を確認しましょう。
相続税を申告する場合には、相続税の申告書を作成して、所轄の税務署に提出する必要があります。このとき申告書を提出する先の税務署は、被相続人が居住していた地域を管轄する税務署になります。相続人が居住している地域の税務署ではないので、注意が必要です。
また、相続税の申告書には、第1表から第15表までありますが、必ずしもすべての表に記載が必要なわけではなく、ケースに応じて必要なものだけ記載すればOKです。
相続税の申告書を税務署に提出する際、添付書類として必要になる書類があります。たとえば、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本や除籍謄本、遺言書がある場合には遺言書の写し、遺産分割協議書がある場合には遺産分割協議書の写し、相続人全員分の印鑑登録証明書(遺産分割協議書に押印したもの)などが必要になります。
相続税の申告書を税務署に提出する場合、基本的には税務署に持っていって提出すると良いですが、実際に税務署に行かなくても郵送でも申告書の提出は可能です。
また、インターネット上のオンライン手続でも、相続税の申告が可能です。国税庁のホームページを参照して、手続をすすめましょう。
相続税の申告には、期限があります。具体的には、相続開始後10か月以内に相続税の申告書を税務署に提出する必要があります。よって、遺産がたくさんあるケースなどでは、相続が開始したら、すぐに相続財産調査をして、相続税の申告の準備にとりかかる必要があります。
また、相続税の納付の期限も同じく相続開始後10か月になります。多額の相続税が課税されるケースなどでは、現金が手元にないので、相続税が支払えないという状態にもなりかねません。そこで、きちんと資金を手元に残しておくことが必要になります。
さらに、相続税の申告と納税は10か月以内ですが、相続人の間で遺産分割協議が難航してしまうと、それまでに遺産分割協議が済まないことがあります。このような場合でも、相続税の申告をしなければならないのかという問題があります。
遺産分割協議が済まないと、誰が具体的にどの程度相続をするかが明らかにならないので、誰がどれだけの相続税を支払うべきかが確定できないからです。
しかし、遺産分割協議が済んでいなくても、相続開始後10か月以内に相続税申告と納税は必要です。手続をしないと加算税や延滞税などが加算されてしまいますし、税務署から相続税申告と納税の督促が来てしまいます。
そこで、まずは法定相続分などにしたがって相続税の申告と納税をしてしまいましょう。
いったん相続税を支払っておいて、その後遺産分割協議が済んで、相続税を支払すぎた状態になってしまったら、税務署に対して相続税の更正請求をすることができ、これによって、過払いの相続税を取り戻すことが可能です。更正請求は、遺産分割協議が済んでから4か月以内にする必要があります。
このように、いったん相続税の申告と納税をしても、その後遺産分割協議が終わったら、きちんと正確な内容で相続税負担額の調整が行われるので、支払すぎになることを心配する必要はありません。むしろ延滞することの不利益の方が大きいので、期限内にきちんと手続すべきです。
相続税の申告書を作成するのはかなり大変な作業になることがあります。
とくに、遺産の種類が多く、財産評価も難しいケースでは、個人が自分で対処することが困難になることも多いです。たとえば、土地や建物があったり、賃貸アパートやマンションがあったりすると、相続税評価をするだけでも大変な作業になります。
このような場合には、相続税の申告と相続税納付の手続を、税理士や公認会計士に相談したり、依頼したりすることができます。
相談するだけなら費用はほとんどかからないことが多いですが、申告手続自体を依頼すると、数万円~数十万円程度の費用がかかってきます。
相続財産の内容や申告にかかる手間などを考えて、費用を払ってでも税理士や公認会計士に手続を依頼した方が良いと考えられるケースでは、税理士や公認会計士に申告手続を依頼すると手間が省けて楽になります。
相続税には基礎控除がありますが、基礎控除を超える額の遺産があると、多額の相続税が発生することがあります。相続税を支払う場合、原則的に、相続開始後10か月以内に一括で納付しないといけないので、相続人にとって大きな負担になることがあります。
たとえば、相続財産のほとんどが不動産であるケースなどでは、現金が手元に入ってこないので、多額の相続税が課税されたら相続税を支払えないケースが出てくるのです。
このように、相続税を支払えない場合にそのまま支払わずに放置するとどうなるのかという問題があります。
この場合には、ケースに応じて加算税や延滞税が課税されることになります。
まず、相続税の申告をするのを単純に忘れてしまった場合には、無申告加算税が課されます。ただし、申告期限から2週間以内にきちんと申告手続をすれば、無申告加算税を課税されずに済みます。2週間を過ぎてから、自分で申告をして納税した場合には、納税する相続税の金額の5%が無申告加算税して課税されます。
自分から申告せず、税務署の税務調査を受けてから申告をした場合には、税金の15%の金額の無申告加算税が課されます。納付税額が50万円を超える部分については、無申告加算税の税率は20%にもなります。
過少申告したケースでも、過少申告加算税が課されます。自主的に修正申告した場合には過少申告加算税は課税されませんが、税務調査によって指摘されたことをきっかけに修正申告したり、更正があったりした場合には、追加で支払った税金の10%~15%の過少申告加算税が課されることになります。
さらに、相続税申告納税の際に、遺産を隠したり、偽装したりした場合には、重加算税が課されます。重加算税の税率は、追加で支払った税金の35%~40%にもなるので、相続税支払の際にはくれぐれも財産隠しをしてはいけません。
相続税の申告をしても、高額過ぎるなどの理由で納付ができないケースがあります。この場合には、延滞日数に応じて延滞税が課税されます。延滞税については、現在では利子税と言われていますが、その税率は、納付期限から2か月以内の場合には年率2.4%となりますが(令和4年1月1日から令和4年12月31日までの場合)、2か月を超えると、「年率14.6%」と「延滞税特例基準割合(※1)+7.3%」のいずれか低い割合を適用することとなり、「年率8.7%」になります。
このように、相続税を支払わずに放置していると、本来の相続税だけではなく多額の加算税や延滞税がかかってきますが、これらについて納税義務者が支払をしない場合には、税務署は支払の督促をしてきます。
督促があっても納税義務者が申告や納税をしない場合には、税務署は滞納処分として、納税義務者の財産を差し押さえて、競売などにかけてしまいます。
さらに、他の共同相続人も連帯責任を負うので、税務署が他の共同相続人にも督促をしたり財産を差し押さえたりするので、多大な迷惑をかけてしまうことになります。
このように、相続税の申告や納税をせずに放置すると、大変な事態に陥ってしまうので、くれぐれもそのようなことのないよう、注意が必要です。
相続税を支払えない場合には、いくつかの対処方法があります。まずは、延納手続という方法があります。延納とは、相続税の支払を繰り延べて、分割払いを認めてもらう方法です。
相続税は原則として一括払いですが、延納が認められる場合には、原則的に5年以内で支払を終える必要があります。ただし、相続財産の50%以上が不動産等であるケースでは、10年から20年まで延納期間を延長してもらうことができます。
もっとも、延納による相続税支払中には利子税がかかります。利子税の金額は以下のとおりです。
※ この表の「特例割合」は、令和3年1月1日現在の「延納特例基準割合」1.0パーセントで計算しています。したがって、「延納特例基準割合」の変更があった場合には、次の表の「特例割合」も変動しますので、延納申請に際し所轄税務署で確認願います。
区分 | 延納期間(最高) | 延納利子税割合(年割合) | 特例割合※ | |
---|---|---|---|---|
不動産等の割合が75%以上の場合 | ①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.7% |
②不動産等に係る延納相続税額(③を除く) | 20年 | 3.6% | 0.4% | |
③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%以上75%未満の場合 | ④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.7% |
⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く) | 15年 | 3.6% | 0.4% | |
⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%未満の場合 | ⑦一般の延納相続税額(⑧、⑨および⑩を除く) | 5年 | 6.0% | 0.8% |
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(⑩を除く) | 5年 | 4.8% | 0.6% | |
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.5% | |
⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.1% |
延納でも相続税の納付が難しいケースでは、物納という方法もあります。
物納とは、不動産などの物をもって、相続税の納税をする方法です。
たとえば5,000万円分の相続税がかかるケースで3,000万円しか現金を用意できない場合、残り2,000万円分の相続税について、土地を納付することで納めるのです。
物納を利用するには、いくつかの要件を満たす必要があります。具体的には、以下のとおりです。
物納をするとしても、どのような財産でも物納に利用できるわけではなく、物納できる適格財産は決まっています。複数の財産がある場合には、物納に利用するための順位もあります。
物納に利用できる財産の種類と順位については、以下の表のとおりになります。
第一順位 | 国債、地方債、不動産、船舶 |
---|---|
第二順位 | 社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券 |
第三順位 | 動産 |
以上のように、相続税には基礎控除がありますが、基礎控除を超える場合には多額の相続税が課税されることがあり、支払ができないと加算税が課税されたり、滞納処分を受けたりするなどの問題が起こります。
相続税の支払ができない場合には、延納や物納などの方法もあるので、ケースに応じて利用すると良いでしょう。
相続が起こったら、遺産の価格に応じて相続税の支払の必要があります。
相続が起こった場合にいきなり多額の相続税が課税されると、支払ができない場合があるので、生前に相続税を減らすための対処をとっておく必要があります。
相続税の節税方法として事前準備に役立つのが、生前贈与です。
生前贈与をすると、その分相続財産が減るので、賢く相続税を節税することができるからです。
そこで、以下では相続税の節税のための事前準備としての贈与と、贈与する際にかかる贈与税についての知識を抑えておきましょう。
生前贈与を利用すると、相続税を節税することができます。生前贈与とは、将来相続が起こった場合に被相続人になる予定の人が、相続人となる予定の人に対して、生前にその財産を贈与することです。
たとえば、親が子どもに対して、親の存命中に現金や不動産を贈与したり、祖父母が孫に財産を贈与したりするケースが典型的です。
ただし、贈与をすると贈与税が課税されます。贈与税の税率はかなり高いので、やみくもに生前贈与をすると、かえって支払う税額が高くなってしまうおそれがあります。
贈与税の税率は、以下のとおりです。
平成27年以降の贈与税の税率は、次のとおり、「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されました。
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3000万円以下 | 3000万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
この速算表は、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において20歳(注)以上の者に限ります。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。
(注)「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。(夫の父からの贈与等には使用できません)
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
贈与税の具体的な税額計算は、次の 1 から 3 の計算例を参考にしてください。
ただ、生前贈与をする場合には、贈与税の基礎控除がありますし、それ以外にもたくさんの贈与税の控除や非課税の特例制度があります。これらの控除や特例を利用すると、贈与税をかけずに財産を将来の相続人に移転して、賢く相続税を節税することができるのです。
生前贈与をすると相続税を節税できることがありますが、その場合には、生前贈与の方法に注意が必要です。
生前贈与は、贈与契約という契約の一種なので、これが有効になるためには、贈与者と受贈者が合意をして贈与契約を締結することが必要になります。
贈与者が一方的に贈与をすることはできません。たとえば、親が子どもに告げずに子ども名義で預金をしていたとしても、それでは生前贈与があったことにはなりません。
この場合、単なる名義預金(他者名義で預金をしているケース)として、親自身の財産であると評価されてしまいます。そうなると、相続が起こった場合には、預金の金額に応じて相続税が課税されることになります。
また、生前贈与は契約なので、贈与者の合意も当然必要になります。受贈者や第三者が勝手に人の財産を受贈者名義に変えてしまったとしても、有効な贈与があったことにはなりません。たとえば、子どもが親から生前贈与を受けようとして、勝手に親の預貯金や現金を自分名義の口座に移したり、不動産の名義を自分名義に変更したりしたケースです。
この場合には、窃盗や横領などの犯罪が成立してしまうおそれもありますし、民法上の不法行為も成立しますので、絶対にこのような行為をしてはいけません。
税務署に、きちんと生前贈与があったことを認めてもらうには、贈与契約書を作成しておくことが重要です。
単に口座間でお金を移しただけのケースなどでは、名義預金として生前贈与が否定されてしまうおそれがあるからです。
親族間の贈与の場合、わざわざ契約書など作成しないで良いだろうという考えの人も多いですが、それでは税務調査が入った際に生前贈与を主張できなくなるおそれがあるので、事前にきちんと対処しておくことが重要です。
贈与契約書を作成したら、きちんと日付を入れて贈与者と受贈者の署名押印をして大切に保管しておきましょう。
生前贈与を賢く利用すると、相続税を大きく節税することができます。
このとき、生前贈与に認められる各種の贈与税の控除制度や、贈与税を非課税とする特例を利用する必要があります。これらを利用せずにむやみに生前贈与をすると、高額な贈与税が課税される可能性があるからです。
そこで、以下では、相続税の節税に役立つ、生前贈与の控除や特例制度をご紹介します。
まずは、生前贈与の基礎控除を確認しましょう。
贈与には、年間110万円までの贈与分に対する控除が認められています。
この110万円分の贈与は、一括で行う必要はありませんし、複数の人に110万円ずつ贈与することもできます。
たとえば、祖父が3人の孫に対して、1人110万円ずつ贈与をしても、その孫が他に贈与を受けていなければ、その贈与分に対しては贈与税が課税されませんので、1年で合計330万円もの金額の生前贈与することが可能になります。
これを10年も繰り返していけば、累計で3,300万円分もの贈与を無税で行うことができます。
この贈与の方法を暦年贈与と言います。
暦年贈与を行う場合には、とくに贈与対象の財産について指定はありません。現金でも預貯金でも不動産でも車でも何でも控除の対象になります。
少しずつ確実に生前贈与をしていく際にとても役立つ生前贈与の方法です。
生前贈与をする場合に贈与税がかからない方法としては、相続時精算課税制度もあります。相続時精算課税制度とは、親や祖父母が子どもや孫に財産を生前贈与する際に、最大2,500万円分の贈与にまで贈与税がかからなくなる制度のことです。
相続時精算課税制度を利用する場合にも、とくに対象の財産に制限はありません。
現金でも預貯金でも不動産でも株券でも、どのような財産も対象にすることができます。
また、相続時精算課税制度を利用する場合、1年でその贈与を終える必要はなく、複数年にまたがって贈与をしても適用されます。
贈与分が2,500万円を超えた場合には、一律で20%の贈与税が課税されることになります。
相続税精算課税制度を利用すると、贈与税がかからなくなりますが、完全に無税になるわけではないので注意が必要です。この制度によって無税になった贈与分については、相続が起こった際に、相続財産に足して、その総額に対して相続税が課税されることになるからです。
よって、多額の相続財産が残るケースでは、この制度を利用してもあまり節税に役立たないことがあります。
また、相続時精算課税制度は暦年課税と併用することができません。相続税精算課税制度を利用すると、暦年課税を利用することができなくなり、いったん相続時精算課税制度を選択すると、後に暦年課税に変更することもできません。よって、生前贈与をする場合には、暦年贈与か相続時精算課税制度のうち、どちらの制度を利用するか、ケースに応じて慎重に検討する必要があります。
相続時精算課税制度を利用するためには、贈与者は60歳以上の祖父母または両親であり、受贈者は18歳以上(令和4年4月1日以降)の子どもや孫である必要があります。
また、この制度を利用するためには、最初の贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告をする必要があります。このとき、戸籍謄本などの書類とともに、「相続時精算課税選択届出書」も提出する必要があります。
生前贈与をする際の贈与税の特例制度として、配偶者間の居住用不動産等の贈与をする場合の特例があります。これは、配偶者間で居住用の不動産や居住用不動産購入のための資金の贈与が行われた場合、最高2,000万円までの贈与分に対する贈与税が非課税になる制度です。
居住用不動産そのものだけではなく、居住用不動産を購入する資金の贈与であっても特例の対象になります。
この制度が適用されるのは、婚姻期間が20年以上の夫婦のケースです。
また、対象となる不動産は、日本国内の居住用不動産である必要があり、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、受贈者が現実に贈与を受けた不動産や資金で購入した居住用不動産に住んでいて、その後も引き続き居住する見込みがあることも必要になります。
居住用不動産等の贈与の特例制度については、同じ配偶者間では一生に一回しか適用されません。よって、20年以上の夫婦であっても、2回目からの居住用不動産の贈与を受けた場合には、通常どおり贈与税が課税されます。
この制度の適用を受けるためには、贈与税の申告をする必要があり、その際次のような書類を添付しなければなりません。
このように、配偶者間の居住用不動産等贈与の特例を利用すると、一定の手続は必要になりますが、最大2,000万円という多額の贈与分への贈与税が完全に非課税になる点は指摘できます。
ただ、節税という点からしますと、あまりお勧めできない制度ともいえます。
最大の理由は、そもそも夫婦間の相続であれば最低でも1億6,000万円まで無税で相続できるからです。
夫が亡くなり、その財産を妻が相続する場合や、妻が亡くなり、その財産を夫が相続する場合には、最低でも1億6,000万円まで無税で相続させることのできる、配偶者の税額軽減という特例があります。1億6,000万円と2,000万円では節税という観点からはどちらが節税となるか一目瞭然です。
つぎの理由は、小規模宅地等の評価減という制度が使えない点です。
この制度は一言でいいますと、「亡くなった人が自宅として使っていた土地は、配偶者か同居している親族が相続するなら、8割引きの評価額で相続していいですよ」という特例です。
この制度があるため、本来2,000万円の評価額である自宅でも、配偶者が相続するのであれば400万(8割引き後)の評価額で相続することが可能です。
しかし、この小規模宅地特例は、配偶者に自宅を贈与するときは使えません。あくまで相続の時にしか使うことができないのです。
すなわち、2,000万円分の不動産を生前贈与しても、相続税の対象となる財産は、400万円分しか減らせていないのです。
しかも、どちらにしても配偶者へ相続させる場合には1億6,000万円まで無税なので、ますます節税効果がないわけです。
さらに、不動産取得税や登録免許税に着目すると、節税どころかむしろ損をしてしまう制度ともいえそうです。
生前贈与を利用して贈与税が非課税になる特例制度としては、直系尊属からの居住用不動産の購入資金贈与の際の特例があります。
これは、親や祖父母が子どもや孫に対して、居住用の不動産を購入したり増築したりするための資金を贈与した際に、ケースに応じて一定の金額の贈与税が非課税になる制度です。
この制度を利用するためには、贈与を受ける子どもや孫は贈与を受ける年の1月1日において、18歳以上(令和4年4月1日以降)になっている必要があります。
また、この制度が適用されるのは、居住用不動産の購入や増改築のための費用の贈与に限られます。居住用不動産そのものの贈与の場合には適用されませんし、子どもがすでに住宅ローンを組んでいる場合、その住宅ローンの支払をしてあげたとしても、この制度の適用はありません。
これらの場合には、贈与した不動産の評価額や、支払ってあげた住宅ローンの金額に応じて贈与税が課税されることになるので注意が必要です。
この制度によって非課税になる金額は、以下のとおりです。
贈与を受けた者ごとに省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税となります。
(注1)既に非課税の特例の適用を受けて贈与税が非課税となった金額がある場合には、その金額を控除した残額が非課税限度額となります(一定の場合を除きます)。
(注2)「省エネ等住宅」とは、以下の省エネ等基準に適合する住宅用の家屋であることにつき、住宅性能証明書など一定の書類を贈与税の申告書に添付することにより証明されたものをいいます。
この制度を利用するためには、贈与やあった年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告をする必要があります。その際、贈与税の計算明細書や戸籍謄本、住民票の写しや不動産の登記事項証明書、不動産新築や購入の際の契約書の写しなどの書類を添付して提出する必要があります。
親や祖父母が子どもや孫に対して教育資金を贈与する場合にも、贈与税が非課税になる特例があります。
具体的な手続としては、まずは子どもや孫の名義で信託銀行に口座を開き、その口座に対して一括で贈与金額を送金します。すると、最大1,500万円までの教育資金の贈与分が非課税になります。
具体的な非課税枠として、学校などに対する支払の場合には、1,500万円までが非課税になりますし、スポーツ施設や習い事などの支払の場合には、500万円までが非課税になります。
贈与を受けた子どもや孫は、教育資金としてお金を必要とする際、支払の領収証などを信託銀行に提示して、払戻しを受けていくことになります。
受贈者が30歳になったら、この制度は当然に終了し、そのときの口座残高に対しては贈与税が課税されることになります。
なお、教育資金の贈与の特例は、令和3年(2021年)に税制改製され、適用期限が2年延長(令和5年3月31日まで)されたほか、贈与者死亡時の残高が原則として相続税課税対象となりました。
このように、生前贈与には各種の控除制度や贈与税非課税の特例制度があります。これらを上手に活用すると、とても効果的に相続税を節税することができます。
どの控除制度や特例を利用すべきかについての判断は、ケースによって異なりますので、税理士や公認会計士などに相談しながら最も良い方法を選択して利用すると良いでしょう。
相続が起こった場合、有効な遺言書が残されていなければ、相続人同士が話し合って、誰がどの遺産を取得するのかを決めなければなりません。
このように、誰がどの遺産を取得するかを決める手続を、遺産分割協議といいますが、遺産分割協議を行う場合、相続人同士がもめてトラブルになることが多いです。
遺産分割協議がトラブルになると、もともと仲の良かったきょうだいであっても、関係がこじれて一生絶縁状態になってしまうこともあり、大変深刻な事態になります。
そこで、相続が起こる場合には、なるべく遺産分割協議でトラブルにならないための方法を知っておく必要があります。
以下では、そのために役立つ知識をご紹介します。
遺産分割協議でもめないようにするためには、遺産分割協議をしなくても良いようにしておく方法が最も効果的です。
具体的には、遺産を相続させる人が遺言書を遺しておく方法があります。
遺言書とは、死後の財産処分方法などについての意思を書面化して遺しておく書類のことです。
遺言をすると、誰にどの財産を相続させるかについて、被相続人本人が自分の意思で指定することができます。
たとえば、全財産を妻に相続させるという内容の遺言を遺すこともできますし、妻には不動産、長男には会社の株券、長女には預貯金などと、それぞれの財産を指定して遺すこともできます。
さらに、遺言をすると、法定相続人以外の人にも財産を渡すことができます。たとえば、長男の配偶者と同居して生前お世話になっていた場合、長男の配偶者には法定相続分がないので放っておいたら遺産相続することはできません。
ここで、遺言によって長男の配偶者にも遺産を渡すことを書き残していたら、長男の配偶者に遺産を渡すことができます。
このように、遺言を残していると、相続人たちは自分たちで遺産分割協議をして誰がどの遺産を相続するかを決めなくても良くなるので、遺産相続トラブルが起こりにくくなります(もっとも、遺言書が存在していたとしても、遺言書を無視して遺産分割協議をすること自体は認められますので、限界はあります。)。
ただし、遺言は厳格な要式行為なので、要式に外れた形で遺言を遺すと無効になってしまうことには注意が必要です。
遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言という2種類がありますが、自筆証書遺言の場合には、少しでも間違うと無効になってしまいますし、相続が起こった後も、相続人らが「遺言書は本当に遺言者の意思で作成されたものかどうか」について争うことが多く、さらに、偽造や変造が行われた可能性も指摘されがちです。
そこで、遺言を作成するのであれば、公正証書遺言を残しておくことがおすすめです。
公正証書遺言とは、公証人に公文書である公正証書として遺言書を作成してもらう手続のことです。この方法であれば、偽造や変造などの問題はほとんど起こりませんし、相続人らも「偽物ではないか」という疑問を抱きにくいので、相続トラブルが起こる可能性を低くすることができます。
遺産分割協議でもめないようにするためには、法定相続人と法定相続分について正しく理解しておくことも大切です。
相続が起こった際、有効な遺言がない場合には、法定相続人が法定相続分に応じて遺産を取得することになります。
このとき、誰が法定相続人になるのか、その場合の法定相続分(遺産を取得する割合)はどうなるのかについて、法律で定めがありますので、その内容を理解しておく必要があります。
法定相続人や法定相続分についての知識がないと、「なぜ自分が相続人になれないのか」と考える親族が出てきたり、「もっと遺産をもらえるはずではないか」と考える相続人が出てきたりして、遺産分割協議がトラブルになってしまうことがあります。
たとえば、内縁の妻(夫)や長男の配偶者は、法定相続人ではないので遺産の相続権はありません。
このことは、本人にしてみれば納得しがたいことがあります。
また、被相続人に子どもがいる場合には配偶者と子どもが相続人になります。配偶者が亡くなっていたら、子どもだけが相続人となります。
たとえば、3人兄弟で長男、二男、長女のケースでは、子ども達はそれぞれ3分の1ずつの法定相続分を取得しますが、実家の不動産しか遺産がない場合などに問題になります。
この場合、長男が実家を相続すると、長女が長男に対して3分の1に相当する金額の代償金の支払を求めることがあります。
しかし、長男にしてみれば、「家を継ぐのだから、自分が全部もらって当たり前」という考えに立って、長女に対する代償金の支払を拒むことがあります。
こうなると、長女が自分の法定相続分を主張して遺産分割協議がトラブルになります。このような問題は、当事者がきちんと法定相続分について理解していないことから起こります。
そこで、遺産分割協議を円滑に行う場合、それぞれの当事者が、民法で定められている法定相続人と法定相続分についてきちんと理解しておくことが必要になります。
遺産分割協議でもめるパターンとして、相続人調査をきちんとしていなかったり、不十分であったりするケースがあります。
相続人調査とは、そのケースにおいて、誰が相続人となるかを調査する手続です。
被相続人(男性)が結婚や離婚を繰り返しているケースでは、被相続人の生前に関わりのなかった前妻との間の子どもなどがあることがあります。
また、人によっては、隠し子があって認知をしているケースもありますし、養子縁組をしているケースもあります。
このように、相続が起こった場合には、本当に他の相続人がいないのかどうかをきちんと調べる必要があります。相続人がいるにもかかわらず、その相続人を外して遺産分割協議をしても、その協議は無効です。
相続人調査をするためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍謄本を取り寄せる必要があります。これらをつなぎ合わせていくと、途中で結婚や離婚していたり、子どもができたり認知していたりすると、それらの事実が明らかになります。そこで、新たな相続人が発見されたら、その人に連絡をして遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
遺産分割協議でもめないためには、共同相続人全員が相続財産の調査手続に協力することが重要です。遺産分割協議を行う場合、具体的にどのような相続財産がどれだけあるのかを調べる必要があります。
このとき、共同相続人のうち特定の人が、遺産を隠し持っているのではないかと疑われてトラブルになるケースが多いです。
たとえば、長男が被相続人と同居していたケースでは、他のきょうだいが長男に対して、「被相続人の預貯金を隠し持っている」と主張したり、「生前に勝手に被相続人名義の預貯金を出金して使っていた」と主張したりしてトラブルになります。
このような場合、長男の側も意地になって、管理している預貯金の内容を開示しなかったり、きちんと説明をしなかったりすることが多いです。すると、きょうだいは余計に疑心暗鬼になって、トラブルがどんどん拡大してしまいます。
このように、相続財産の調査に相続人全員が非協力的になってしまうと、遺産分割協議はもめてしまいます。被相続人名義の誰も知らない財産がある可能性もありますが、きょうだい間でもめてしまっては、そのような財産調査ではなくなってしまいます。
このように、遺産分割協議を円滑にすすめるには、相続人が冷静になって互いに相手を信頼し、相続財産の調査や開示に協力することが重要になります。
遺産分割協議をスムースにすすめるためには、具体的な遺産分割の方法を知っておくことが必要ですので、以下で説明します。
遺産分割協議をする場合、まずは法定相続人全員が集まって、誰がどの遺産を相続するかを決めます。
このとき、相続人調査によって調べたすべての相続人が参加する必要がありますし、相続財産調査で調べたすべての相続財産について分配方法を決める必要があります。
それぞれの相続人が取得する相続財産の割合については、話合いによって自由に定めることができます。民法が定める法定相続分はありますが、必ずしもこれに従う必要はなく、共同相続人全員が納得したら、これと異なる割合で相続をすることもできます。
もめそうな場合には、法定相続分を基準にして決めると良いでしょう。
このようにして、誰がどの遺産を取得するかを決めることができたら、遺産分割協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、全員の署名押印が必要になります。このとき、後に不動産登記申請などをすることを考えると、利用する印鑑は実印にして、相続人全員分の印鑑登録証明書を添付しましょう。
遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合には、ページとページの間に共同相続人全員が契印します。契印に使う印鑑は、署名押印に利用したのと同じもの(実印を利用した場合は実印)である必要があります。
相続人同士で遺産分割協議をしても、合意ができず協議が整わない場合には、遺産分割調停をする必要があります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所に申立てをして、遺産分割協議をする方法です。調停を利用すると、間に調停委員や裁判官が入ってくれるので、相手と直接顔を合わせずに済み、お互いが感情的になることも減るので、話がまとまりやすくなります。
また、調停委員や裁判官から法的なアドバイスももらえるので、無理な主張をしていた当事者も、法律を理解して納得しやすくなります。
遺産分割調停が成立したら、裁判所で遺産分割調停の調停調書を作成してもらえますが、これを利用すると、各種の相続手続ができます。
また、遺産分割調停をしても合意ができず解決できない場合には、遺産分割審判となって、審判官(裁判官)が、ケースに応じた遺産分割方法を決めてしまいます。
このことによって、最終的に遺産分割問題は解決されることになります。
このように、相続人達が遺産分割協議でもめないためには、まずは被相続人が遺言書を残しておくことが効果的です(ただし、限界あり)。また、相続人らがそれぞれ法定相続人や法定相続分を理解し、相続手続や遺産分割協議の進め方についても知っておく必要があります。
遺産分割が審判で決定されると、ケースに応じた柔軟な解決が難しくなることもあり、相続人間の対立も深まってしまうので、そうなる前に、なるべくお互いが譲り合って自分たちで遺産分割協議をととのえるようにしましょう。
相続があった場合、相続トラブルが起こってしまうことが多いです。相続人が複数いる場合には、相続人どうしが話合いをしてそれぞれの遺産相続分を決めなければなりませんが、この遺産分割協議の手続がうまくいかずに、トラブルが発生してしまうのです。
相続トラブルが起こると、もともと仲が良かった兄弟姉妹であっても、熾烈な骨肉の争いが繰り広げられて、一生絶縁状態になってしまうことも珍しくありません。
ここで、遺言を遺しておくと、相続トラブルの予防に非常に役立ちます。
遺言は厳格な要式行為なので、要式に反した遺言を作成してしまうと無効になってしまいます。そこで、遺言をする際には、無効にならないように正しく作成する方法を知っておく必要があります。
また、遺言を作成する場合、その内容にも気をつけておかないと、せっかく相続トラブルを避けようとしても、かえってトラブルを発生させてしまうこともあります。
以下では、相続トラブルの発生防止に有効な遺言書の作成方法を解説します。
有効な遺言を作成するためには、遺言の種類を理解しておく必要があります。
ひと言で遺言といっても、遺言にはいくつもの手続の種類があります。
大きく分けると特別方式遺言と普通方式遺言です。
特別方式遺言とは、死亡の危機に瀕した人が緊急に作成する遺言なので、通常のケースではあまり問題になりません。
通常利用する方式の遺言は、普通方式遺言です。
普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
この中で、秘密証書遺言は、どうしても遺言内容を秘密にしたいケースにのみに利用すべき遺言方法で、手間がかかる割にあまりメリットがないので、相続トラブル防止に効果的な遺言書の作成方法としては、おすすめではありません。
残るは自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、この中でも相続トラブルを効果的に予防したい場合には、公正証書遺言を利用する方法が効果的です。
公正証書遺言とは、遺言書を公証人に作成してもらい、公文書である公正証書の形で残しておくタイプの遺言です。
公正証書遺言をすると、公証人が遺言書の作成手続にかかわってくれるので、要式に反して無効になってしまうおそれがほとんどありません。
また、きちんと遺言者の身分確認をした上で、証人を立てて公証人が公証役場で作成するので、相続人らが後になって「遺言は偽物ではないか」という疑問を持つことがあまりありません。
また、公正証書遺言はその原本が公証役場で保管されるので、紛失や変造などのおそれもありません。
よって、相続トラブルを効果的に予防するには、公正証書遺言を作成しておくことがおすすめです。
つぎに、公正証書遺言の作成方法をご説明します。
公正証書遺言を遺したい場合には、まずは自分で遺産の分け方を考える必要があります。
公証役場では、公正証書遺言を作成してもらうことはできますが、遺産の分け方などについての法律相談をすることはできないからです。遺産の分配方法の決め方や考え方が分からない場合には、弁護士などの法律の専門家に相談する必要があります。
遺産の分け方を決めたら、自宅の近くの公証役場に行って、公正証書遺言作成の申込みをします。このとき、どのような内容の遺言を作成したいのかを公証人に伝える必要があります。
もし入院していたり体調が悪かったりするなどの理由で公証役場に行くことができない場合には、費用を払って公証人に病院や自宅に来てもらうことも可能です。
公正証書遺言の作成を申し込む際には、いくつかの必要書類を用意する必要があります。
まず、自分の戸籍謄本や印鑑登録証明書、遺贈する相手の住民票などが必要になります。
不動産を遺贈する場合には、その不動産全部事項証明書や固定資産税評価証明書なども必要になります。
本人確認も行われるので、マイナンバーカードや運転免許証などの本人確認書類も必要になります。
さらに、公正証書遺言をする場合、証人が2人必要になります。証人については、原則的に遺言者が自分で用意しなければなりません。
ただ、自分で証人を用意できない場合には、費用を支払って公証役場で証人を紹介してもらうことが可能です。
このように、公正証書遺言の申込みを済ませたら、公証人と証人の日程を調整して、公正証書遺言を作成する日程を決めます。
定められた日に公証役場に行けば、公正証書遺言を作成してもらうことができます。
遺言ができたら、正本が渡されるので、大事にとっておきましょう。
また、公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されます。
よって、受け取った公正証書の正本を万が一なくしてしまっても、謄本請求をすれば、公正証書遺言の写しの交付を受けることができます。
また、公正証書遺言をする場合には、費用がかかります。
具体的な金額は、遺産の評価額によって異なりますが、だいたい数万円程度になることが普通です。この費用については、公正証書遺言を作成する当日に公証役場で支払うことになります。
以上が、公正証書遺言の大方の作成手続となります。
遺言によって相続トラブルを避けたい場合には、できれば公正証書遺言をする方法がおすすめですが、公正証書遺言を作成すると、上記のように手間がかかりますし、費用もかかってしまいます。このようなことを嫌って、公正証書遺言をしない人も多いです。
その場合には、自筆証書遺言をしておくと、相続トラブルの防止に役立ちます。
自筆証書遺言とは、全文を遺言者が自筆で記載するタイプの遺言です。
自筆証書遺言をする場合には、公証役場など、どこかへ出かける必要もありませんし、いつでもどこでも自分で書くことができますし、費用もかかりません。
いったん遺言を残しても、その後何度でも書き直すこともできます。
このように、自筆証書遺言はいつでも手軽に利用できるメリットがありますし、自筆証書遺言でも、きちんと要式を満たしていれば有効に相続トラブルを避ける手段になります。
よって、自筆証書遺言であっても、遺言を作成しないよりはずっと相続トラブルを防止することにつながります。
自筆証書遺言でも、きちんと作成すれば相続トラブルの防止に役立ちますが、自筆証書遺言の場合には、特に遺言書の要式に反しないように注意が必要です。
そこで、以下では自筆証書遺言の作成の際のポイントを解説します。
自筆証書遺言を作成する場合、まずは、全文自筆で記載することが重要です。
現代では、パソコンや携帯電話などの普及によって、ふだんあまり自筆で文章を書かなくなっていますが、自筆証書遺言の場合には、パソコンなどで文書作成をすることが認められません。全文を自筆で書かないと無効になってしまうので注意が必要です。
もっとも、自筆証書によって遺言をする場合でも、例外的に、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになります。自書によらない財産目録を添付する場合には、その財産目録の各頁に署名押印をしなければならないこととされています。
さらに、自筆証書遺言では、必ず署名押印することが必要です(ただし、財産目録について例外あり)。せっかく一生懸命に全文自筆で遺言書を書いても、署名押印を忘れてしまったら、遺言書は完全に無駄になってしまうので注意しましょう。
遺言書に押印する印鑑については、とくに決まりはありませんが、後に相続人らが遺言の真正に対して疑問を持たないようにするためには、実印を利用する方法がおすすめです。
また、自筆証書遺言を作成する際には、日付の記載も重要になります。日付は、年月日までの特定が必要です。たとえば「〇年〇月吉日」などと記載してしまうと、日付の特定がなされていないとして遺言書が無効になってしまうので、注意が必要です。
さらに、日付についても自筆で書き入れる必要がありますので、ゴム印などを利用することもできません。
自筆証書遺言を作成する際には、遺言書の加筆訂正方法にも注意が必要です。
遺言書の加筆訂正方法については、民法に定めがあります。具体的には、
「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」と規定されています(民法968条3項)。
たとえば、遺言書内に加筆をする際には、加筆する部分に吹き出しを入れて、その中に加筆する内容を書き入れます。そして、遺言書の欄外や末尾に「○○行目『××』を『△△』に訂正」と書いて、署名をします。
遺言書を訂正する場合には、訂正する部分を二重線で消して(修正液などを利用してはいけません。)、訂正箇所に押印します。そして、加筆する場合と同様、遺言書の欄外や末尾に「○○行目『××』を『△△』に訂正」と書いて、やはり署名が必要になります。
このように、遺言書を加筆訂正する場合には、かなり厳しいルールがあり、失敗すると遺言書全体が無効になってしまいます。
そこで、自筆証書遺言の作成途中に間違ってしまった場合や加筆したい場合には、全文を書き直した方が安心です。
以上のようなことに注意して遺言書を作成すれば、自筆証書遺言であっても遺言が無効になってしまうことを避けられます。
自筆証書遺言については、遺言書保管制度が認められています。ここでは、本制度のメリットをご紹介します。
遺言書保管制度について
遺言書の保管申請時には、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて,遺言書保管官の外形的なチェックが受けられます。
遺言書は、原本に加え、画像データとしても長期間適正に管理されます(原本:遺言者死亡後50年間,画像データ:同150年間)。
そのため、
<注意事項>
※遺言の内容について相談に応じることはできません
※本制度は,保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。
データでも管理しているため、遺言書の原本が保管されている遺言書保管所にかかわらず、全国どこの法務局においても、データによる遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付が受けられます(遺言書の原本は、原本を保管している遺言書保管所においてしか閲覧できません。)。
相続人のうちのどなたか一人が、遺言書保管所において遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人全員に対して、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。
遺言者があらかじめこの通知を希望している場合、その通知対象とされた方(遺言者1名につき、お一人のみ)に対しては、遺言書保管所において、法務局の戸籍担当部局との連携により遺言者の死亡の事実が確認できた時に、相続人等の方々の閲覧等を待たずに,遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。
遺言書を作成する場合には、作成方法だけではなく内容にも注意が必要です。遺言書に書く内容について、相続トラブルを効果的に予防するために知っておきたい知識がありますので、以下でご説明します。
とくに自筆証書遺言を作成する場合の問題ですが、遺言書を作成する場合には相続人らに宛てて、いろいろな自分の心情を記載したくなるものです。しかし、遺言の主な目的は、相続財産を分配する方法を定めることです。ここで、それ以外の余計なことを書きすぎると、遺言全体として何が言いたいのかが分かりづらくなってしまいます。
一見して内容が明らかにならない場合には、たとえ要式を満たしていても、その遺言内容が実現されなくなってしまいます。
よって、遺言をする場合には、なるべく余計なことは書かずにシンプルに遺産分割の方法を記載しましょう。相続人らに宛てた気持ちなどは、遺言とは別に手紙などの形で残しておくと良いでしょう。
遺言を残す場合には、各相続人の取得分について、基本的に遺言者が自由に定めることができます。たとえば、全財産を長男に取得させることなども可能です。
しかし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分があります。遺留分とは、一定の法定相続人に認められる、法律上最低限認められる遺産の取り分のことです。
遺言によって、遺留分を侵害してしまったら、死後に遺留分を侵害された相続人が、侵害した相続人に対して遺留分額侵害請求をする可能性が高いです。
こうなると、相続人らの間で、遺留分の支払方法についての話合いが必要になりますし、話合いができなければ裁判所で調停をしたり、訴訟をしたりしなければならなくなり、かえって紛争を発生させてしまうことになります。
このような問題があるので、遺言をする場合には、法定相続人の遺留分を侵害しない内容にしておくようにしましょう。
そうすれば、死後に相続人が遺留分についての話合い工夫をすると、相続トラブルを効果的に予防することができます。
以上のように、賢く遺言を作成しておくと、効果的に相続トラブルを避けることができます。
できれば公正証書遺言を残しておく方法がおすすめですが、それができないケースでも、最低限自筆証書遺言を作成して残しておくと良いでしょう。
相続が起こった場合、プラスの財産しかない場合には、相続をそのまま受けても問題は起こりにくいです。
しかし、被相続人が借金をしているケースがあります。
たとえば、被相続人が消費者金融などを利用していることもありますし、事業をしていた人などの場合には、事業資金として多額の借入れをしているケースなどもあります。
このような場合、相続人は、被相続人の借金まで相続してしまうことになります。
借金を相続しないためには、相続放棄か限定承認の手続をとる必要がありますが、この2つの手続は、似ているようで全く異なります。
そこで、以下では相続放棄や限定承認によって借金の相続を免れる方法をご説明します。
相続放棄をすると、被相続人が借金している場合であっても借金を相続しないで済みます。
相続放棄とは、相続人が被相続人の遺産について、一切の相続をしないことですが、相続放棄をした場合には、その相続人は、はじめから相続人ではなかったことになります。
被相続人のすべての遺産や借財を相続しないことになるので、借金の支払を免れることができるのです。
また、相続放棄をすると、相続人ではなくなるので、遺産分割協議に参加することはできなくなりますし、参加する必要もなくなります。
そこで、遺産に関心がなく、遺産分割協議が煩わしいと感じている場合でも、相続放棄することによって相続人の地位を失うことにはメリットがあります。
相続放棄をする場合には、いくつかの注意点があります。
まず、相続放棄をすると、相続放棄者の子どもが代襲相続することもできなくなります。代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に死亡していた場合に、相続人の子ども(被相続人の孫など)が代わりに相続人となる事です。
相続放棄が起こると、放棄者ははじめから相続人ではなかったことになってしまうので、相続権は次の順位の相続人に移ります。よって、この場合には代襲相続が認められないのです。
また、相続放棄をする場合には、もう1つ重要な注意点があります。それは、相続放棄をすると、マイナスの借財だけではなく、プラスの資産も相続することができなくなることです。
相続が起こった際、借金がある場合であっても他にプラスの資産があるケースは多いです。たとえば親が亡くなった際、事業資金の借り入れがあったとしても、実家の土地建物や会社の株式などのプラスの資産もあることが考えられます。
この場合、相続放棄をすると、実家の土地建物や会社の株も取得することができなくなります。
自分以外の相続人がいて、その人が必要な財産を相続してくれるなら良いですが、誰も相続する人がいないと、被相続人の財産は守られなくなるので注意が必要です。
守るべきプラスの資産がある場合には、相続放棄をすべきではありません。
相続が起こった際に被相続人に借金があるケースでも、他にプラスの資産があることが多いです。また、この場合、借金の金額やプラスの資産の評価額が、具体的にどのくらいになっているのかが分からないこともよくあります。この場合、相続放棄をすると、すべての相続ができなくなってしまうので、もしきちんと計算してみて、プラスの財産の方が多かったとすると、損をすることになります。
そこで、「借金の方が多いのであれば相続したくないけれど、プラスの資産の方が多いなら相続をしたい」と考えることも多いです。
このように、プラスの資産とマイナスの負債を差し引きして、プラスの資産の方が多かったら、その余剰分のみを相続するという手続のことを、限定承認と言います。
このように、プラスの資産が多かった場合にその余剰分だけ受け取れるという限定承認はとても有用な手続であるようにも思えますが、いくつかのデメリットがあります。
まず、限定承認をする場合、みなし譲渡所得税という税金が課税されることがあります。
遺産の中に不動産が含まれているケースなどでは、限定承認をすると、時価で不動産の譲渡があったとみなされて、譲渡所得税が課税されてしまうのです。
このとき、不動産の時価から、もともとの取得金額や費用を差し引いた金額に対して譲渡所得税が課税されます。
たとえば、相続が起こった際の時価が3,000万円の不動産で、取得時にかかった費用が合計1,000万円の場合には、
3,000万円-1,000万円=2,000万円分の譲渡所得に対して譲渡所得税が課税されます。
また、限定承認をすると、かなり複雑な手続になってしまい、相続問題が解決するまでに期間が長くかかる点もデメリットとなります。
具体的な期間については、債権者の有無や数、プラスの資産の種類や数、金額などによって異なるのでケースバイケースですが、少なくとも数か月以上はかかることが普通です。
明らかにプラスの資産が多いケースでは単純承認した方が得になりますし、明らかに借金の方が多いケースなどには、やみくもに限定承認を利用することなく、すんなり相続放棄をした方がスムースに相続手続を終えることができます。
さらに、限定承認する場合には、すべての共同相続人が手続をする必要があります。共同相続人の中に、1人でも単純相続してしまったり、相続放棄してしまったりした人がいたら、限定承認はできなくなるので注意が必要です。
相続放棄や限定承認の制度を利用すると、相続財産の中に借金が含まれている場合でも支払を免れることができますが、これらの手続ができる期間は限られています。
具体的には、自分のために相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内とされています。この3か月のことを、熟慮期間といいます。
そこで、原則としては、自分が相続人となったことを知ってから3か月以内に、相続放棄や限定承認をするかどうか決めないといけません。
ただ、とくに相続放棄をする場合、借金の存在を知らないのであれば、相続放棄をしようという動機が起こりません。そこで、自分が相続人となっていても、遺産の内容が明らかになって借金があることが分からない限りは、熟慮期間が進行しないと考えられています。
よって、相続が起こって借金があることが判明してから3か月間の間は、相続放棄などの手続ができることになります。
また、とくに限定承認の場合の問題ですが、実際にある程度相続財産の調査をしてみないと、マイナスの借財かプラスの財産のどちらが多くなっていそうかが分からず、判断の根拠がもてないことがあります。
そこで、このような場合には、家庭裁判所に申立てをして、熟慮期間を伸長してもらうことができます。
ただし、熟慮期間の伸長申立てをしても、必ずしも伸長が認められるとは限りません。伸長が認められなければ、熟慮期間経過後の限定承認はできなくなるので、できればこの制度に頼ることなく、熟慮期間の3か月の間に限定承認の申述をするかどうかを決定しましょう。
次に、相続放棄をする場合の手続の方法をご説明します。
相続放棄する場合には、家庭裁判所において、相続放棄の申述という手続をします。
相続放棄の申述をする場合には、相続放棄申述書という書類を作成して、家庭裁判所に提出します。このときの申請先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
申述の際には、自分の戸籍謄本や被相続人の除籍謄本、住民票の附票などが必要になります。また、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手も必要になります。
相続放棄の申述書を提出して受理されたら、とくに問題がない場合、通常は1か月程度で家庭裁判所から相続放棄の申述の受理書が送られてきます。
この相続放棄受理書のコピーを債権者に提示したら、それ以上借金の督促を受けることはなくなります。
限定承認をする場合の手続の方法をご紹介します。
限定承認についても、家庭裁判所で手続しますが、この場合には、限定承認の申述という手続になります。
限定承認の申述をするためには、限定承認申述書という書類を作成して、家庭裁判所に提出します。申請先の家庭裁判所は、相続放棄の場合と同様、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
そして、限定承認の申述の際には、以下の書類を添付する必要があります。
とくに、相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての謄本類を収集するのは、かなり大変な作業になることが多いですが、謄本が一通でも抜けていると手続を進められないので、根気強く集めましょう。
限定承認の申述の際にも、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手の納付が必要です。
限定証人の申述をしたら、相続財産管理人が選任されて、相続財産や債権者の調査を行い、必要な支払などをして相続財産管理人の報酬を差し引き、残りのお金があれば申述人に渡されることになります。
このように、被相続人の借金を免れる方法としては相続放棄と限定承認という2つの方法がありますが、限定承認には制限も多く、手間もかかりますので、相続放棄を選択すべき場面も多いです。ケースに応じて、これらの手続を賢く使い分けましょう。
人が亡くなったら、通常は相続が起こります。相続が起こる場合には、誰が相続人になるのかが問題になります。
また、自分が相続人になる場合でも、相続をしたくない場合があり、相続しないためにはどのような手続をとればよいのかも問題になります。
さらに、相続人がまったくいないケースでは、遺産がどのように取り扱われるかという問題もありますので、相続人について知っておく必要性があります。
そこで、以下では、このような場合に問題になる相続人に関する知識を抑えておきましょう。
相続が起こったら、どのようにして相続人を決定するのかが問題となります。この場合、有効な遺言があるかどうかによって、結論が異なってきます。
まずは、遺言によって相続人が指定されているケースがありますが、この場合には、遺言で指定されている指定相続人が相続人となります。
遺言で指定される相続人は、民法上の法定相続人である必要はありません。
たとえば、被相続人が、内縁の妻(夫)に遺産を渡す内容の遺言をしている場合には、内縁の妻(夫)が相続人となりますし、お世話になった他人に遺産を渡す内容の遺言をしている場合には、その指定された第三者が相続人となります。遺言によって、法定相続人を相続人と定めることも可能です。
また、遺言で相続人を指定する場合には、その相続分も遺言者が自由に定めることができるので、法定相続分に従う必要はありません。
たとえば、全財産を配偶者に相続させるという内容の遺言をすることもできますし、長男に3分の2、二男に3分の1の割合で遺産を取得させる内容の遺言をすることも可能です。
このように、遺言によって相続人が指定される場合、その指定内容は法定相続人や法定相続分よりも優先します。
そこで、相続が起こった場合に相続人を定めるには、まずは有効な遺言がないかどうかを確認することになります。
有効な遺言があれば、そこで指定された相続人が、指定相続分に従って遺産を取得することになります。
遺言をすると、法定相続人であるかどうかに関わりなく、遺言者の意思によって相続人を定めることができます。このように、遺言で相続人を定めておくべきケースはどのような場合なのかを考えてみましょう。
まずは、法定相続人以外の人に相続をさせたい場合です。たとえば、内縁の妻(夫)や長男の配偶者に相続させたいケースなどが典型的です。
内縁の妻(夫)や長男の配偶者には相続権がありませんので、遺言を遺していなければ、まったく遺産を受け取ることができません。当然、遺産分割協議に参加することもできません。
被相続人名義の家に内縁の妻(夫)が住んでいることも多いですが、放置していると、被相続人の子どもなどの相続人が家を相続して、内縁の妻(夫)を追い出してしまうおそれもあります。
そのようなことになったら、内縁の妻(夫)はたちまち生活に困ってしまいます。そこで、このようなことのないように、内縁の妻(夫)に自宅を相続させる内容の遺言を定めておくのです。
また、長男の配偶者に介護などでお世話になったケースなどでは、感謝の気持ちを込めて、遺言をして長男の配偶者にも遺産を渡すと、相続トラブルを避けやすくなります。
遺言で相続人を定めるべきケースの2つ目としては、法定相続分以外の相続分で相続人に遺産を遺したいケースが考えられます。
たとえば子ども3人が法定相続人となっているケースで、長男が家を継ぐので、長男に多めに遺産を渡したいケースなどです。
この場合、遺言がないと、きょうだい3人はそれぞれ3分の1ずつの法定相続分となりますので、その割合で遺産を相続することになります。
遺言によって相続分を指定しておくことにより、はじめて自分の希望どおりの相続人に希望どおりの相続分で遺産を渡すことができるようになります。
相続が起こった場合、有効な遺言がないケースも多いです。その場合には、法定相続人が相続人となります。
法定相続人とは、民法において定められた相続人のことです。
配偶者がいる場合には、配偶者は常に法定相続人になりますが、それ以外の法定相続人には順位があり、先順位の相続人がいないケースにのみ、自分が相続人となることができます。
また、法定相続人が相続人となる場合、相続分については、法定相続分が定められています。法定相続分とは、それぞれの法定相続人が取得する遺産の割合のことです。
法定相続分が具体的にいくらになるかは、誰が法定相続人になるかによって異なります。
遺言がない場合には、法定相続人が相続人となって相続をすることになりますが、配偶者は常に法定相続人となります。
よって、被相続人に配偶者以外の法定相続人がいない場合には、配偶者がすべての遺産を相続します。
配偶者以外の法定相続人には順位がありますので、先順位の法定相続人がいる場合には、後順位の法定相続人は具体的に相続をすることができません。
そこで、以下では法定相続人の順位を確認しておきましょう。
まず、第一順位の相続人は被相続人の子どもです。よって、被相続人に子どもがいる場合には、子どもが相続人となります。
このとき、被相続人の配偶者がいれば、配偶者と子どもが法定相続人となりますし、配偶者がいなければ子どもだけが相続人となります。子どもだけが相続する場合に、子どもが複数いれば、相続分については遺産を子どもの人数分で頭割り計算します。
たとえば、子どもが2人いるケースでは、それぞれの子どもが2分の1ずつの遺産を相続します。
配偶者と子どもが相続人となるケースでは、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1になります。子どもが複数いる場合には、子どもの法定相続分を子どもの人数で頭割り計算します。
たとえば、配偶者と子ども3人が法定相続人となるケースでは、法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもたちはそれぞれ
2分の1 × 3分の1 = 6分の1 ずつの法定相続分で遺産を取得します。
被相続人に子どもがいないケースでは、第二順位の親が法定相続人となります。
被相続人に配偶者がいないケースでは、親のみが法定相続人となるので、親がすべての遺産を取得することになります。親が2人とも生きている場合には、それぞれの親の相続分は2分の1ずつになります。
被相続人に配偶者がいて、配偶者と親が相続人になるケースでは、それぞれの法定相続分は、配偶者が3分の2、親が3分の1になります。
親が2人とも生きている場合には、それぞれの親の法定相続分は 3分の1 × 2分の1 = 6分の1 になります。
被相続人に子どもがなく、親もすでになくなっているケースがあります。この場合には第三順位の法定相続人である兄弟姉妹が相続人となって、遺産相続をします。
被相続人に配偶者がいないケースでは、兄弟姉妹のみが相続人となります。兄弟姉妹が複数いれば、兄弟姉妹の人数で相続分を頭割り計算します。
たとえば、きょうだい3人が法定相続人となる場合には、きょうだいそれぞれの相続分は、3分の1ずつになります。
被相続人に配偶者がいる場合には、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。この場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1になります。
兄弟姉妹が複数いれば、兄弟姉妹の取り分を人数に応じて頭割り計算します。
たとえば、配偶者ときょうだい3人が相続人となるケースでは、配偶者の法定相続分が4分の3、兄弟姉妹それぞれの法定相続分が 4分の1 × 3分の1 = 12分の1 ずつになります。
このように、法定相続人が相続人になる場合には、それぞれの法定相続分まで法律で定められているので、そのルールをきちんと理解しておくことが大切です。
ただし、法定相続人が集まって遺産分割協議をした結果、法定相続人が全員合意して法定相続分と異なる割合で遺産相続することに決めた場合には、法定相続分にこだわらず、遺産分割協議で決めた相続分で遺産相続することができます。
また、遺産分割協議をする場合には、法定相続人が全員参加する必要があります。1人でも相続人が欠けていると、遺産分割協議が有効に成立しなくなるので注意が必要です。
誰が相続人となるかという問題を考える際、代襲相続の制度についても押さえておく必要があります。
代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に死亡しているケースにおいて、相続人の子どもがもともとの相続人の代わりに相続人となることです。
たとえば、子どもが親よりも先に死亡している場合、子どもの子ども(被相続人から見ると孫になる)が相続人となります。
代襲相続が認められるのは、配偶者と親以外の法定相続人です。配偶者には代襲相続しないので、たとえば配偶者が先に亡くなっている場合でも、配偶者の親(被相続人から見ると義父や義母になる)遺産相続されることはありません。
また、代襲相続できる人は、子どもの子ども(孫)や兄弟姉妹の子ども(甥、姪)です。
被相続人よりも先に子どもが亡くなっている場合には孫が代襲相続をしますが、孫も被相続人より先に亡くなっているケースにはどのような取扱いになるかが問題になります。
この場合、孫に子どもがいれば(被相続人から見るとひ孫になる)、その人(ひ孫)が相続人となります。この場合の代襲相続のことを再代襲相続と言います。
被相続人の子どもや孫などの直系の子孫のことを直系卑属といいますが、直系卑属が代襲相続する場合には、際限なく代襲相続が起こります。
これに対して、兄弟姉妹の子どもである甥や姪が代襲相続すべき場合に、その甥や姪自身も被相続人より先に亡くなっている場合、甥や姪の子どもが再代襲相続することはできません。
兄弟姉妹の系列については、被相続人との血縁関係が遠くなりますので、代襲相続は一代限りしか認められないのです。
なお、親が法定相続人となるべきケースにおいて、被相続人よりも先に親が亡くなっている場合、親の親(祖父母)が生きていれば、祖父母が相続人となります。このことは代襲相続のケースとよく似ていますが、代襲相続という言い方はしません。
自分が相続人となるべきケースであっても、相続人になりたくない場合があります。たとえば、被相続人が多額の借金をしていた場合に借金をしたくないケースもありますし、長男などの他の共同相続人に自分の相続分も相続してほしいと希望するケースもあります。
この場合、相続放棄をすると、自分は初めから相続人ではなかったことになりますので、相続人にならずに済みます。相続放棄とは、一切の遺産相続を放棄することです。プラスの財産もマイナスの負債もすべて相続しないことになるので、借金も相続しません。債権者が請求をしてきても、相続放棄をしたことを証明すれば、それ以上請求されることはありません。
相続人にならない方法としては、相続分の放棄をする方法もあります。相続分の放棄とは、他の共同相続人に対して、相続をしないことを表示することです。この場合、プラスの財産については相続をしないことになります。ただし、相続分の放棄をしても、借金を免れる効果はありません。
人が亡くなった際、その人が天涯孤独であったり、相続人が全員相続放棄してしまったりすると、相続人がいないことになってしまいます。このように、相続人がいないケースでは、遺産がどのように分配されるかが問題になります。
相続人がいないケースでは、遺産の処分をするために相続財産管理人を選任する必要があります。相続財産管理人とは、遺産を管理して債権者を探して必要な支払をするなどして遺産を分配する職務を行う人のことです。
相続財産管理人は、利害関係人や検察官が家庭裁判所に選任申立てをすることによって選任されます。
相続財産管理人は、選任されると公告をして相続債権者を探します。相続債権者がいれば、遺産の中から必要な支払をします。
そして、特別縁故者を探します。特別縁故者とは、被相続人と特別な関係にあった人のことで、たとえば被相続人と一緒に住んでいた人や、被相続人の療養看護をしていた人などです。
特別縁故者が見つかったら、遺産のうち必要な分を特別縁故者に分配します。
あまった遺産があると、そこから相続財産管理人の報酬を受け取り、残った遺産については国庫に入れる手続をします。
このように、相続人がいないケースでは、遺産は最終的に国のものになります。
以上のように、人が亡くなった場合、誰が相続人となるかについてはケースバイケースで異なります。
法定相続人が相続する場合には相続の順位などもあるので、これらの知識を正しく持っておくことが相続トラブルの防止のために重要になります。
相続が起こったら、いろいろな手続が必要になります。
まずは、被相続人の死亡届を提出しなければなりませんし、遺言があるかどうかも調べないといけません。遺言がなければ遺産分割協議も必要になります。
さらに、基礎控除を超える遺産がある場合には、相続税の支払も発生します。このような相続手続には、期限のあるものもあるので、早めに対処しないと必要な手続ができなくなってしまうおそれもあります。
そこで、相続をスムーズに行うためには、相続手続について正しく理解しておく必要性が高いです。
以下では、相続手続の流れと重要な点を解説します。
人が亡くなったら、各種の相続手続をする必要があります。相続手続をすべて終えるには1年以上かかることもあります。まずは、相続手続の簡単な流れを確認します。
相続が起こったら、だいたい上記のような手続が必要になりますが、すべてのケースで上記のすべての手続が必要になるわけではありません。ケースに応じて必要な手続を選んでいかなければなりません。
また、上記の手続には期限があるものもあるので、期限を過ぎてしまわないように注意が必要です。
以下では、それぞれの手続について、さらに詳しく見てみましょう。
被相続人が死亡したら、死亡届を提出する必要がありますが、そのためには、まずは担当医から死亡診断書を受け取ります。死亡診断書は、通常死亡届と一体になっているので、死亡届の欄に必要事項を記載して市町村役場に提出すれば、死亡届ができます。
死亡届に記入する内容は、死亡した人の氏名や性別、生年月日、死亡時刻と死亡した場所(住所や病院の所在地など。死亡診断書に記載があるので参照しましょう。)、死亡した人の住所と本籍地、配偶者の有無、死亡者の世帯主の職業、死亡届の届出人の住所と本籍地、届出人の署名、生年月日、火葬場所(火葬場や墓地の名前)などです。難しくないので、順番に書き入れていくと良いでしょう。
死亡届を提出したら、しばらくして被相続人の戸籍が抹消されて除籍されます。
また、死亡届を提出すると、火葬許可証の交付を受けることができますので、これを利用して被相続人を火葬に付することができるようになります。
被相続人が死亡したら、被相続人名義の預貯金口座などの取引を止めることも必要になります。取引を止めておかないと、被相続人名義預貯金を管理している相続人が勝手に遺産を出金したり、使い込んだりしてしまうおそれもあるので、金融機関に連絡を入れて、すぐに取引を止めてもらいましょう。いったん預貯金口座などの取引を止めると、きちんと遺産分割協議が済んで誰が相続するか決めるか、相続人全員で解約出金の手続をしないと預金の解約出金ができなくなります。
被相続人が亡くなったら、まずはこの2つの手続を忘れずに行いましょう。
被相続人が生命保険に加入していることも多いです。この場合には、加入している生命保険会社に連絡を入れて、死亡保険金を受け取る必要があります。
死亡保険金を受け取るためには、被相続人の除籍謄本などの書類が必要になることが普通です。各保険会社によって書式の異なる保険金請求書があるので、加入している保険会社から書類を取り寄せて、具体的な必要書類を確認して、保険金請求の手続をしましょう。
死亡保険金の受取人が指定されていたら、その相続人が受け取りますし、受取人が指定されていなかったら、相続人全員が按分して受け取ることになるケースもあります。
また、生命保険の死亡保険金は、民法上は遺産に含まれないので、受取人の固有の財産になります。よって、遺産分割協議を行う場合に遺産に足して分割する必要はありません。
ただし、税務上は、相続財産とみなされてしまいます。この取扱いのことをみなし相続財産といいます。よって、生命保険の死亡保険金を受け取った場合には、相続税課税の対象になってしまいます。
このように、生命保険の死亡保険金は、民法上と税務上の取り扱い方法が異なるので、注意が必要です。
被相続人が死亡したら、被相続人が遺言をしていないかどうかを調べる必要があります。
相続手続を行う場合、遺言があってその内容が有効であれば、その内容が優先されて適用されるからです。なお、複数の遺言書があって、その内容が異なる場合には、日付の新しい方の内容が有効になります。
たとえば、被相続人に配偶者と子ども2人がいる場合、遺言がなければ、基本的に配偶者が2分の1、子どもたちがそれぞれ4分の1ずつの遺産を受け取ることになります。これは、民法の定める法定相続人が法定相続分に従って遺産を受け取ることになるからです。
ところが、ここでこれと異なる内容の遺言があると、遺言内容に従って遺産分割が行われます。
たとえば、遺言内において、孫に対して遺産の一部を渡すと記載されていればその遺産については孫が相続しますし、配偶者にすべての遺産を相続させると記載されていれば、配偶者がすべての遺産を相続するので子ども達は遺産を受け取ることができなくなります。
このように、遺言があるかないかによって、その後の遺産分割の方法がかなり異なってきます。
遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は、自宅内に保管されていることが多いです。被相続人が使っていた机や戸棚、タンスや金庫などの中を探してみましょう。被相続人が事業を営んでいたケースなどでは、事業所に遺言が保管されていることもあります。
また、公正証書遺言がある場合には、被相続人は、公正証書遺言の正本や謄本を受け取っているので、これを自宅などに保管していることが普通です。よって、同じように被相続人が書類をしまっている場所などを探してみましょう。
遺言が見つかったら、遺言内容に従って遺産を分配する手続をすすめていくことになります。
被相続人が遺言をしていた場合、その遺言の方法が自筆証書遺言や秘密証書遺言であった場合には、検認手続が必要になります。
検認とは、遺言書の状態や形状などを裁判所に認証してもらう手続のことです。
自筆証書遺言が封入されている場合には、それを発見した相続人が勝手に開封してはいけません。検認をしないまま勝手に開封をしたら、科料などの制裁が科されることがありますし、他の相続人からも「遺言書に手を加えたのではないか」と疑われて、相続トラブルが起こってしまうおそれが高いからです。
遺言書が封入されていないケースであっても、検認の手続は必要です。
遺言書の検認をする場合には、家庭裁判所に検認の申立てをします。
このとき検認申立てをする先の家庭裁判所は、被相続人の最終の住所地を管轄する裁判所です。
検認申立てをしたら、検認手続をする日の通知が来ますので、その日に家庭裁判所に行けば、裁判所に検認済証明書を付けてもらって遺言書を返還してもらうことができます。
検認済証明書付きの遺言書があれば、それを使って不動産の相続登記などの各種の手続ができるようになります。
被相続人が借金を残しているケースでは、相続放棄や限定承認の手続を検討する必要があります。
借金も相続の対象になるので、放っておくと、相続人が被相続人の代わりに債権者に対して借金返済をしなければならないからです。
相続放棄をすると、すべての遺産や借金を相続しないことになるので、相続人であっても債権者に支払をする必要が無くなります。限定承認とは、相続財産の内容を調べて、プラスの資産が多ければそのプラスの分だけを受け取り、マイナスの借財の方が多い場合には相続をしないという手続です。
相続放棄や限定承認をするには、期限があります。具体的には、自分のために相続が開始したことを知ってから3か月以内に手続をしなければなりません。
また、相続放棄や限定承認をしたい場合には、家庭裁判所に対して相続放棄の申述や限定承認の申述の手続をする必要があります。
そこで、被相続人に借金がありそうな事案では、具体的にどの程度の借金がありそうかを調べて、借金が多そうであれば、相続放棄をするか限定承認をするかを早めに決めて、家庭裁判所に申述の手続を済ませなければなりません。
被相続人が事業を営んでいたケースなどでは、被相続人の事業について確定申告が必要になります。被相続人自身は年度途中で死亡しているので、自分で確定申告することができません。そこで、相続人らが代わりに手続しないといけないのです。
このことを準確定申告と言います。
準確定申告には、相続開始後4か月という期限がありますので、注意しましょう。
遺言によって遺産の受取人が指定されていない場合には、法定相続人が集まって遺産分割協議をしなければなりません。そのためには、誰が相続人となるかを決定しないといけないので、相続人調査をする必要があります。
被相続人(男性)が結婚や離婚を繰り返している場合には、自分たちの知らない前妻との子どもがいるケースもありますし、認知している隠し子があるケースなどもあります。
相続人を調べたい場合には、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍謄本を取得します。これらを順番にたどっていけば、被相続人の結婚離婚歴や、それぞれの時点における子どもの有無、認知している子どもの有無などが分かります。
新たに相続人が発見されたら、その人にも連絡を入れて遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
相続手続で相続人調査と並んで重要な手続が、相続財産の調査です。被相続人が亡くなった時点では、具体的にどのような遺産があるのかが明らかになっていないことが多いです。遺産には、現金預貯金や不動産、株券、車や骨董品などさまざまなものがあります。
相続財産を調べたい場合には、被相続人宅に保管されている預貯金通帳や金融機関からの通知書などの書類、証券会社からの通知書やパソコン内に保管されているメールなどの資料を見て、被相続人がどのような金融機関や証券会社などと連絡をとっていたのかを調べましょう。そして、財産がありそうな金融機関があれば、対象の金融機関に対し、相続人の地位をもって財産内容の開示請求をすれば、開示を受けることができます。不動産については、自宅宛に固定資産納付書などが届いているはずなので、そのようなものを参照して調べましょう。
どこに不動産があるかが分かっている場合には、近くの法務局で不動産の全部事項証明書を発行してもらうことができます。
相続人調査と相続財産調査が終わったら、法定相続人全員が集まって遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議とは、どの相続人がどの遺産を取得するかという遺産分割の具体的な方法を話し合って決める手続のことです。
このとき、具体的な相続分については、相続人らが自由に話し合って決めることができますが、基本的な相続分については民法が法定相続分を定めているので、それに従うと良いでしょう。
相続人全員が納得して協議がととのったら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、共同相続人全員が署名押印して、相続人の人数分作成して、それぞれが1通ずつ所持します。このとき使う印鑑は、後日不動産登記申請をすることなども考えて、実印を使うようにしましょう。
相続が起こったら、相続開始後10か月以内に相続税の申告をする必要があります。
相続税には基礎控除が認められますが、基礎控除を超える遺産があると、相続税が発生します。そこで、相続税申告書を作成して、管轄の税務署に提出しましょう。
相続税は、納税についても10か月以内にしなければなりません。遅れると延滞税などが課税されてしまうので、相続が起こったら速やかに相続税の申告納税の準備を進めていく必要があります。
自分の遺留分を侵害された内容の遺言や死因贈与がある場合には、遺留分額侵害請求をします。遺留分額侵害請求についても、相続開始後1年以内という期限があるので、注意が必要です。
遺産分割協議がととのったら、具体的にその内容に従ってそれぞれの財産についての名義書換手続を進めていきます。不動産については法務局で相続登記の申請をしますし、預貯金については各金融機関で払戻しを受けます。このとき、遺産分割協議書が必要になります。
被相続人が年金や健康保険に加入していた場合、その内容によって遺族年金や葬祭費などの支給を受けられることがあります。これらについては、申請しないと受け取れないのが普通なので、自分で連絡を入れて、必要な手続をとりましょう。
このように、相続が起こるといろいろな手続が必要になります。期限がある手続については、早めに対処をして、スムースに相続手続をすすめましょう。
遺産相続が起こると、相続人ら遺産分割協議をして遺産の分配方法を決めなければなりません。遺産分割協議では、すべての共同相続人が納得すれば自由に相続分を定めることができますが、通常は法定相続分に従って遺産を配分します。
また、遺言がある場合には、遺言内容に従って遺産が配分されますが、もともと法定相続人だったのに、遺言によって一切の遺産を受け取れなくなるケースもあります。このような場合には、一定の法定相続人には最低限の遺産の取り分である遺留分を請求して、一定の遺産を確保することができます。
このように、法定相続分や遺留分について知っておくと、遺産相続の各種の場面で非常に助かりますので、これらについての正しい知識を持っておくことが重要です。
以下で、それぞれについて具体的に見てみましょう。
法定相続分とは、民法で認められる法定相続人に認められる相続分のことです。
相続が起こった場合、有効な遺言があればその内容が優先されますが、遺言がないケースでは、民法で定められた法定相続人が相続人となります。この場合には、民法によってそれぞれの相続人の相続分も決まっています。その法律で定められた法定相続人の相続分のことを、法定相続分というのです。
遺産分割協議を行う場合には、法定相続分に従って遺産を分配していけば、誰からも文句が出にくいのでスムースに話し合いをすすめていくことができますし、遺産分割調停の場でも法定相続分をもとにして遺産を配分することが普通です。遺産分割審判になって裁判所が遺産分割方法を決定する場合には、法定相続分を厳格に適用して相続分を決めてしまいます。
このように、法定相続分は、相続が起こった場合の遺産分割方法の基準となる重要な考え方です。相続手続をスムースに進めるためには、それぞれの相続人が法定相続分について正確に理解していることが望ましいです。
つぎに、それぞれの法定相続分の割合について、ケースごとに確認してみましょう。
法定相続分は、誰が法定相続人になるかによって異なってきます。
まず、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は常に法定相続人となります。法定相続人が配偶者しかいない場合には、配偶者がすべての遺産を相続します。
被相続人に子どもがいる場合には、子どもが第一順位の法定相続人として、相続します。
配偶者と子どもが相続人となる場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1になります。被相続人に配偶者がいない場合には、子どもがすべての遺産を相続します。子どもが複数いる場合には、子どもの法定相続分を子どもの人数で頭割り計算します。
被相続人に子どもがいない場合には、第二順位の親が法定相続人となります。配偶者と親が法定相続人になる場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1の法定相続分となります。
親が二人との存命のケースでは、親の法定相続分である3分の1を二人の親が分けるので、3分の1 × 2分の1 = 6分の1 ずつの法定相続分となります。配偶者がいない場合には、親がすべての遺産を相続します。
被相続人に子どもがなく、親もすでに他界しているケースでは、第三順位の兄弟姉妹が法定相続人となります。配偶者と兄弟姉妹が法定相続人になるケースでは、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の法定相続分となります。この場合も、被相続人に配偶者がいない場合には、兄弟姉妹がすべての遺産を相続します。
兄弟姉妹が複数いる場合には、兄弟姉妹の法定相続分を、兄弟姉妹の人数で頭割り計算します。
法定相続分に従って遺産を分配した場合、具体的にどのような分け方になるのか、具体例を使って確認してみましょう。
まず、遺産の額が5,000万円で、配偶者と子ども2人が相続人となるケースを考えてみます。
この場合、配偶者の相続分が2分の1なので、5,000万円 × 2分の1 = 2,500万円となります。
子どもが2人いるので、それぞれの子どもたちの法定相続分は、2分の1 × 2分の1 = 4分の1になります。
そこで、子ども1人あたりの法定相続分は、5,000万円 × 4分の1 = 1,250万円ずつとなります。
次に、配偶者と親が法定相続人になるケースを考えてみましょう。遺産総額は同じく6,000万円だとします。この場合、被相続人の母親が存命の場合、配偶者の法定相続分は3分の2なので、6,000万円 × 3分の2 = 4,000万円となります。母親の法定相続分は3分の1なので、6,000万円 × 3分の1 = 2,000万円 となります。
父も母も存命の場合、配偶者の法定相続分は4,000万円のまま変わりませんが、父母それぞれの法定相続分は、6,000万円 × 3分の1 × 2分の1 = 1,000万円ずつとなります。
配偶者と兄弟姉妹4人が法定相続人になるケースを考えてみましょう。遺産の金額は8,000万円とします。この場合、配偶者の法定相続分は4分の3なので、8,000万円 × 4分の3 = 6,000万円となります。兄弟姉妹それぞれの法定相続分は4分の1 × 4分の1 = 16分の1 となります。
そこで、兄弟姉妹1人あたりの法定相続分は、8,000万円 × 16分の1 = 500万円ずつとなります。
このように、法定相続分の考え方を使うと、どのような事例でも法定相続分をあてはめることによって機械的に遺産分割方法を決定することができますので、遺産相続トラブルを回避する方法や、相続トラブルが起こってしまった場合の解決方法として役に立ちます。
法定相続分について理解しておくために、代襲相続の制度についても知っておく必要があります。代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に死亡していた場合に、相続人の子どもがもともとの相続人の代わりに法定相続人になる制度のことです。
たとえば、子どもが親より先に死亡していたケースでは、孫が代襲相続して、子どものお代わりに相続人となります。
代襲相続が起こった場合、代襲相続者の法定相続分がいくらになるのかが問題になります。
この場合、代襲相続者の法定相続分は、もともとの相続人の法定相続分を引き継ぐ事になります。
よって、孫が代襲相続する場合には、孫は子どもの法定相続分に対応する遺産を受け取ることができます。孫が複数いれば、孫の人数によって子どもの相続分を頭割り計算します。
わかりやすいように、具体例を考えてみましょう。
被相続人にA、B、Cという3人の子どもがいるとします。遺産の総額は3,000万円で、Bさんは、被相続人より先に他界しており、Bさんには2人の子ども(D、E)がいるとします。
この場合、本来であればAさんとBさんとCさんが、それぞれ3分の1である1,000万円ずつの遺産を取得できるはずです。しかし、Bさんはすでに他界しているので、代わりにDさんとEさんが代襲相続します。この場合、孫が2人いるので人数分で頭割り計算をしなければなりません。そこで、DさんとEさんのそれぞれの遺産取得分は、3分の1×2分の1=6分の1ずつになります。
具体的には、3,000万円×6分の1=500万円ずつが、DさんとEさんそれぞれの法定相続分として認められます。
このように、代襲相続が起こる場合というのは、代襲相続者が複数いるケースも多いので、それぞれの法定相続分がどうなるのかという計算が複雑になることもあり、注意が必要です。
遺言があると、法定相続人の法定相続分に優先して、遺言の内容に従って遺産分割が行われます。
たとえば、遺言において、すべての財産を内縁の妻に譲ると書かれていたら、被相続人に子どもがいても、一切の遺産を受け取ることができなくなってしまいます。
また、遺言によって、相続分の指定がなされていて、自分の遺産取得分が法定相続分よりも大きく減らされているケースもあります。
たとえば、子ども3人が法定相続人になる場合には、それぞれの子ども達の法定相続分は3分の1ずつです。しかし、遺言によって、9割の遺産を長男が取得することとされており、二男と長女は20分の1ずつの遺産取得しかできなくなるケースもあります。
このように、本来法定相続人であるにもかかわらず、遺産を受け取れなくなったり、受け取れる遺産の額が減らされすぎたりする場合には、本来の法定相続人には遺留分という権利が認められます。
遺留分とは、一定の法定相続人に認められる、最低限の遺産相続権のことです。
遺留分の割合は、基本的には本来の法定相続分の2分の1ですが、親などの直系尊属のみが法定相続人になるケースでは、本来の相続分の3分の1になります。
たとえば、子ども3人が相続人となる場合、子ども達それぞれの本来の法定相続分は3分の1ずつなので、遺留分は3分の1 × 2分の1 = 6分の1 になります。
よって、先の例でいうと、遺留分を侵害されている二男や長女は、遺留分の6分の1と遺言で取得が認められた20分の1の差額である60分の7の遺産について、遺留分として受け取ることができます。
遺留分を侵害された場合、何もしなくても自動的に遺留分をもらえるわけではありません。
遺留分を受け取るためには、遺留分の請求をする必要があります。遺留分の請求手続を、遺留分額侵害請求といいます。遺留分額侵害請求をする場合の相手方は、遺留分を侵害している受遺者や他の相続人です。先の例でいうと、二男や長女は、長男に対して遺留分額侵害請求をすることになります。
遺留分額侵害請求をする場合、その方式に特に制限はありませんので、口頭などでも請求することは可能です。しかし、遺留分額侵害請求には請求期限があることなどもあって、本当に遺留分額侵害請求が行われたのかや、いつ行われたのかが後から問題になるケースが多いです。そこで、遺留分額侵害請求は、確実に証拠が残る方法で手続する必要があります。
具体的には、内容証明郵便を利用して遺留分額侵害請求をしましょう。内容証明郵便とは、郵便局と差出人の手元に、送付したのとまったく同じ内容の控えが残るタイプの郵便です。
確定日付が入るので、いつ送ったのかということも証明できますし、配達証明をつけておけば、いつ相手に届いたのかも明らかになるので、後から「そんな通知は受け取っていない」と言われることも防ぐことができます。
内容証明郵便を送付する場合には、郵便局に行って手続する必要がありますが、どこの郵便局でも取り扱っているわけではないので注意が必要です。
また、電子内容証明郵便サービスもあるので、インターネットを利用する人であれば活用すると便利です。
遺留分額侵害請求を行う場合には、請求期限があるので注意が必要です。具体的には、相続があったことと遺留分額侵害の事実を知ってから1年以内に請求をする必要があります。相続が開始したことを知らなくても、相続開始後10年が経過したら、やはり遺留分額侵害請求はできなくなってしまいます。
このように、請求期限があることからも、遺留分額侵害請求手続をする場合には、確実に証拠が残る内容証明郵便を利用する必要があるのです。
遺留分額侵害請求をしたら、遺留分額を侵害している者と話合いをして遺留分に相当する遺産の受け取り方法を決めないといけません。話合いが成立したら、その内容に従って支払を受けることができます。
ところが、遺留分額侵害請求をする場合、お互いが感情的になって話合いができないケースが多いです。その場合には、家庭裁判所の遺留分額侵害請求調停を利用して、話合いをすすめます。遺留分額侵害請求調停では、間に家庭裁判所の調停委員会が入ってくれるので、相手と直接顔を合わせる必要がなく、冷静になって話を進めやすくなります。
調停でも解決ができない場合には、遺留分額侵害請求訴訟をして問題を解決しなければなりません。訴訟になると、時間もかかりますし柔軟な解決も難しくなるので、できれば調停までの手続で遺留分の支払方法を話し合って解決することが望ましいです。
このように、相続が起こった場合には、いろいろな問題が起こるので、さまざまな分野での知識を持っておくことが必要になります。
まずは被相続人が生前に遺言をしておくことが相続トラブルの予防に効果的ですし、相続人らも法定相続人や法定相続分についての正しい知識をもって、冷静に対処をして話し合いをすすめる必要があります。被相続人に借金があったら相続放棄もしなければなりませんし、相続税の申告や納税も必要になります。
今回の記事を参考にして、スムースに相続手続を進めましょう。