人身事故・死亡事故

車を運転して人身事故・死亡事故の加害者になってしまったら
交通事故によって生じる損害には様々なものがありますが、人身事故の場合、加害者は重い責任を負うことになります。事故を起こさないようにしなければならないのはもちろんですが、それでも事故を起こしてしまった場合、加害者はどのような処分を受けるのでしょうか。
参考記事:
交通事故の加害者になったら|生じる責任と、失敗しない対応方法を徹底解説
交通事故、特に人身事故の加害者になってしまった場合に、どのような対応をするべきかを丁寧に解説しています。
交通事故(人身事故・物損事故)の罰金や点数、生じる責任を徹底解説
交通事故を起こした場合に、どんな責任を負い、どんな罰則を受けたり費用が発生したりするのかをじっくりと説明しています。
車を運転していて人身事故(死亡事故を含む)の加害者になってしまった場合に課される責任には、次の3種類があります。
行政処分~運転免許の取消し、効力停止
自動車や原動機付自転車の運転者が、道路交通法違反や交通事故を起こした場合、公安委員会から運転免許の取消しや効力停止などの行政上の処分が課せられます。もう少し詳しく言えば、違反内容に応じてあらかじめ点数が決められており、その点数に応じて処分がなされます。運転免許の効力停止中は免許の効力を失い、もちろん自動車の運転をすることはできません。
刑事処分~懲役・禁錮や罰金などの刑罰
事故後、警察による捜査が行われます。加害者は、実況見分に立ち会ったり、取り調べを受けたりします。物損事故の場合、警察限りで捜査が終了することが多いのですが、人身事故の場合は、ほとんどが検察庁に送致されます(刑事訴訟法203条、同246条)。検察官は、警察から送られた実況見分調書、現場見取図、加害者や目撃者などの供述調書、被害者の診断書などを基礎にして、あらためて取り調べを行い、加害者を起訴するか否かを決定します。
けがの程度が軽い場合、多くは不起訴処分となります。また、起訴された場合でも、100万円以下の罰金刑が求刑されるような軽い事件の場合は、略式裁判という簡易な手続きがとられることが多いです。なお、死亡事故や重傷事故、飲酒運転や無免許運転中の人身事故、被疑者が犯行を否認する事件などで、主に懲役または禁錮刑が求刑される場合には、正式裁判が行われます。正式裁判になった場合は、裁判所で公判が開かれ、刑罰が決定されます。
交通事犯で刑罰が科される場合、罰金刑がほとんどです。重大な道路交通法違反を伴わない通常の死亡事故や傷害事故の場合は、禁錮刑で処罰されます。懲役刑が科されるのは、飲酒運転や無免許運転など重大な道路交通法違反を伴う死亡事故などの重大事件に限られているのが実情です。また、執行猶予がつけられる場合が多く、すべてのケースで実刑となるわけではありません。
民事処分~損害賠償
交通事故により人にけがを負わせたり、人を死亡させたりした者は、自動車損害賠償補償法(自賠法)第3条または民法第709条・710条により、被害者に対して損害を賠償する責任が生じます。
損害の内容は、(1)事故によって被害者が出費を余儀なくされた損害である積極損害と、(2)事故がなければ被害者が将来得られたであろう利益を事故によって失った損害である消極損害、(3)事故によって被った精神的苦痛に対する損害賠償である慰謝料に大きく分けられます。
(1)には、治療関係費、入院雑費、通院交通費、付添看護費、葬儀関係費、弁護士費用が含まれます。
(2)には、休業により収入が減ったことによる休業損害、事故の後遺障害により労働能力を喪失したために収入が減ったことによる後遺障害逸失利益、生存により得られた収入の喪失である死亡逸失利益があります。
(3)の慰謝料については、傷害慰謝料(入通院慰謝料)、死亡慰謝料、後遺障害慰謝料があります。事故による精神的苦痛は人それぞれですが、交通事故の場合は過去の事例の蓄積をもとにある程度定型化されています。
加害者が任意保険に加入している場合は、保険会社が損害賠償に関するやりとりを代行します。ただ、話し合いがうまく進まない場合は、弁護士を立てて交渉を進めることもあります。
被害者の過失が大きい場合交通事故の原因は加害者だけではなく、被害者にも存在することが少なくありません。被害者の過失が大きい場合は民事上・刑事上の処分に影響することがあります。
民事処分への影響~過失相殺
交通事故の被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができますが、被害者にも過失があった場合、被害者の過失割合分は損害額から減額されます。これを過失相殺といいます(民法722条2項)。
交通事故の加害者と被害者の過失割合については、これまでの事例の蓄積によりある程度類型化されています。過失割合について解説している書籍(通称「判例タイムズ」など)に掲載されているケースを元に、交渉ないし調停・裁判で具体的な過失割合が決められています。
刑事処分への影響
刑事事件の被疑者を起訴するかどうかは、検察官の裁量に委ねられています。交通事故の場合、被害者側の過失が大きいことは、検察官が加害者を起訴するかどうか判断する際の要素の一つになります。死亡事故であっても、被害者に信号無視や飛び出しなど重大な過失がある場合は、不起訴処分とされる場合もあります。
事故後の流れ事故現場ですべきこと
まず、運転者はすぐに車両を停止させ、負傷者の救護(応急処置、救急車を呼ぶ)を行わなければなりません。その際、事故車両を道路の脇に移動させる、破損したガラスや部品を片付けるなど、さらなる危険の発生を防止する措置をとらなければなりません。
そして、事故が発生したことを警察に通報しなくてはなりません。事故の届出をしておかないと、保険金の請求に必要な交通事故証明書の発行を受けることができません。
また、自分が加入している保険会社に連絡する必要があります。
捜査への協力
事故後、警察あるいは検察による捜査が行われます。加害者は実況見分に立ち会ったり、取調べを受けたりすることになります。捜査の過程で作成される実況見分調書や供述調書は、刑事処分の決定において重要な意味をもつのはもちろんですが、民事の示談交渉においても重要な資料となります。捜査に嘘をつかずに誠実に対応することは大切ですが、事実と違うことは違うとはっきり主張するようにしましょう。
示談交渉
まず、当該事故による損害がいくらなのかを確定する必要があります。交通事故証明書、診断書(死亡診断書)、診療報酬明細書、領収書類、収入証明、休業証明書、戸籍謄本・除籍謄本などの書類が必要になります。被害者側でこれらの書類をそろえて、加害者側の保険会社に提出し、提示された金額を検討し、交渉を重ねていきます。金額について合意に至れば、示談書を作成し、賠償金の支払いが行われます。合意に至らない場合は、調停や裁判による解決を試みます。
交通刑務所について刑事裁判で懲役ないし禁錮の実刑になった場合、加害者は刑務所に収監されます。
懲役刑とは裁判で決められた期間、受刑者を刑務所に拘留して強制的に定役(一定の刑務作業)に服させる刑罰です。一方、禁錮とは、裁判で決められた期間刑務所に拘留されますが、定役を伴わない刑罰です(受刑者が自ら請願して刑務作業に服することは可能です)。
交通刑務所という名称は正式名称ではなく、交通事犯を専門に収容している刑務所が通称「交通刑務所」と呼ばれています。
交通刑務所の特徴としては、鉄格子や高い塀に囲まれておらず、一般の刑務所と比べて規則が緩い「開放的処遇」が行なわれているという点があります。これは、交通事故は、計画性をもって行われた犯罪とは異なり、過失による突発的な事故である場合が多く、受刑者の犯罪傾向が進んでいないためだと言われています。刑務作業も行いますが、交通安全や交通法令に関する指導・断酒に関する指導など、「交通安全」に関する指導・教育が強化されています。
警察署の前に、管内の交通事故の死傷者数が掲示されているのを見かけたことがある方は多いと思います。交通事故の発生件数は減少傾向にあるといわれていますが、掲示板が「0件」になっている日は、残念ながらあまり見かけません。いつ自分が当事者になってもおかしくないという危機感を持って、交通安全に配慮し、事故の防止に努めるとともに、万が一の事態に備えることが大切です。
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