示談

交通事故の示談交渉を有利に進めるための事前準備と注意点
交通事故の示談交渉を有利に進めるには事前に示談交渉の流れや仕組みを把握しておくことが重要です。
今回は示談交渉を有利に進めるために知っておくべきこと、注意すべきことを紹介したいと思います。
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示談がどのように進むのか、また被害者としてどのように示談を進めれば慰謝料増額しやすいかなどを徹底的に解説しています。
示談は交通事故による賠償額を決めるだけでなく、賃貸借上のトラブルや売掛金回収上のトラブルなど、幅広い分野で行われています。
示談とは、事故当事者双方の話し合いによって紛争を処理する方法で、法律上、和解契約(民法第695条)になります。和解契約とは、紛争解決に向けてお互いが条件を譲歩してこれを確定し、紛争を蒸し返さないことを約する契約のことをいいます。
和解契約も諾成契約(当事者双方の合意だけで成立する契約)の一種なので、法律上口頭で成立しますが、万一相手が一度決めた示談の内容を履行しないようなときに備えて必ず文書化しておきましょう。裁判する上で有力な証拠になります。
一度示談が成立すると、その後に当事者の一方が示談の内容を勝手に変更することができなくなります。万一当事者の一方が示談で決めた内容を守らない場合、訴訟を提起して勝訴判決を得てから強制執行することになります。公証役場に行き、予め示談の内容を強制執行認諾文言付きの公正証書に記載しておけば、訴訟を経ずに強制執行することもできます。
示談のメリットはまず時間がかからないことが挙げられます。あくまで当事者同士で話し合うだけなので、早ければ1日とかからず示談が成立することになります。これを裁判で解決するとなると、訴訟提起までに弁護士に相談して、証拠や関係書類を集めるだけでかなりの時間を要しますが、訴訟提起後に審理で要する時間はその倍以上かかると見込んで良いでしょう。その間、相手方の主張内容に一喜一憂されることもあるので、かなりの長期間、精神的に落ち着かない日が続きます。
また、費用も安く済むというメリットもあります。裁判となると少なくとも収入印紙や弁護士に払う報酬が必要になり、多額の費用がかかることが予想されます。
しかし、示談にもデメリットがあります。話し合いがまとまらなかったり、そもそも相手方が示談交渉に応じてくれなければ、示談を成立させることができません。また自己に有利な示談内容にするには、やはり法律の知識が必要不可欠であると考えます。
実例からひもとく示談金の相場示談金は示談交渉を経て双方が合意に達していれば、著しく不当でない限り、いかなる金額を定めても法律上問題ありませんので、厳密な意味で相場というものは観念できません。また、保険会社が提示する示談金の相場も、保険会社が独自に算出したもので、被った損害を補うには足りない金額であることが見受けられます。こういった事情と以下で紹介するモデルケースを説明する便宜を踏まえ、本記事中では、裁判所が実際に認定した交通事故の損害額の相場のことを「示談金の相場」と呼ぶことにします。
四輪車同士の事故の場合
裁判所が損害額を認定する際、被害者の過失を考慮して実際の損害額から過失割合分だけ減じたものを損害額として認めています。
例えば、信号機のない交差点でXが運転する四輪車が相手側Yから見て左から交差点に直進するのに対し、Yが運転する四輪車がXから見て右から交差点に直進して衝突を起こした場合、道交法上向かって左側から交差点に進入する車が優先するという理由から、過失割合はX側は40%、Y側は60%となります。このときXが100万円分の損害を被った場合、「示談金の相場」として60万円が妥当といえるでしょう。
四輪車とバイク(単車)の事故の場合
四輪車同士とは異なり、四輪車とバイク(以下、単車とします。)の事故だと、単車の運転者が物理的に保護されていない分、車側の過失割合が重くなる傾向があります。
上記で紹介した例を少し修正し、X側が単車であった場合、過失割合はX側が30%、Y側が70%となります。これとは逆にX側が四輪車で、Y側が単車の場合、道交法上向かって左側から交差点に進入する車が優先するという理由があっても、過失割合はX側が50%、Y側が50%となります。
車と自転車の事故の場合
四輪車と自転車の事故の考え方も、四輪車と単車の事故と同じように考えられます。ただ、自転車の場合は物理的に運転者が保護されないことに加え、免許がなくとも運転できる(交通法規を知らない者でも乗れる)点から単車以上に保護されることになります。
先ほどの例でX側が自転車で、Y側が四輪車の場合、過失割合はX側が20%、Y側が80%となります。さらに自転車側が高齢者や児童の場合、四輪車側の過失割合が5%増えます。
四輪車と歩行者の事故の場合
歩行者が車と衝突する事故では、どのようなケースでも車側の責任が重くなっています。これは、衝突によって被る損害が物理的に歩行者の方がはるかに大きいことから、十分な安全を図るよう注意する義務が車側に課せられているからです。
とはいえ、歩行者側に落ち度がある場合には、歩行者側の過失割合が高くなることもあります。例えば、赤信号を明らかに無視した歩行者に対し四輪車側が直進して事故を起こした場合、歩行者側は信号を無視した過失が、四輪車側はブレーキを踏むタイミングが遅れたり前方不注視といった過失が認められ、四輪車側の過失は30%、歩行者側の過失が70%が認められます。ただし、これらの事情に加え、歩行者が突然飛び出してきたような場合なら、四輪車側の過失が0になることもあり得ます。
以上がいわゆる「示談金の相場」としての典型例となります。こういった事例については現在多くの裁判例が蓄積されており、これを財団法人日弁連交通事故相談センターが調査・分析したものが「交通事故損害額算定基準」(通称「青本」)として発行されています。
示談交渉の流れとポイント交通事故などで、被害者が損害賠償を請求する場合、具体的な金額を明示しなければなりません。事故で怪我を負った場合、怪我が完治しリハビリの必要もなくなってから、事故による治療費、入通院費、逸失利益や慰謝料額を計算できますので、治療が済んで損害額を確定したら示談交渉を開始しましょう。ただし、自賠責保険の場合、原則として事故発生から2年以内でなければ損害保険会社に対して請求できなくなります。加害者に資力がなければ実質的に賠償を受けられなくなるので気をつけましょう。
被害者が示談交渉で注意するのは、損害額を明確にした上で、できる限り感情を抑え、第三者の公平な意見を聞き過大な要求をしないよう心がけることです。無理な要求は加害者側の態度の硬化を招くばかりか、紛争の長期化を招くことになります。加害者側は示談交渉付きの任意保険に加入していない場合、自分で交渉に当たらねばなりません。法律の知識や保険制度を理解しないまま交渉に挑むといらぬ混乱を招きかねず、紛争がより激化しかねません。信頼できる第三者機関、例えば日弁連交通事故センターや交通事故紛争処理センターでまず相談するのがいいと考えられます。これらの機関はもちろん被害者でも利用できます。
なお、弁護士や司法書士(金額が140万円に満たない場合)以外の者が報酬を得る目的で示談することは弁護士法72条・77条で禁止されています。示談金を横領する悪質な示談屋もいますので、弁護士以外に示談を依頼するのはお勧めしません。
示談交渉を有利に進めるには交通事故の過失割合の考え方や損害額の算定の仕方、保険制度のあり方など幅広い知識を有していなければなりません。ただし、こうした知識はインターネットで弁護士事務所や保険会社が平易に解説していたり、関連書籍も多く出版されていますので、時間があるときに興味のあるところだけでも調べてみることをお勧めします。
示談を得意としている弁護士
細川 宗孝 弁護士 神奈川県
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交通事故被害者です。物損のみの示談先行は必須ですか?