慰謝料・損害賠償

交通事故に巻き込まれた時に役立つ慰謝料・損害賠償のはなし
いつものとおりに歩道を歩いていたら、脇見運転中の自動車が突然接触してきた。このような交通事故のトラブルは、ある日突然に巻き込まれるものです。
被害者は少しでも違う行動をしていればよかったと、深く後悔するかもしれません。しかし事故は早目に頭を切り換えて、示談交渉に臨まなければなりません。
ただ実際に加害者側と示談交渉するにも、被害者から何をどう請求できるのか、分かりにくいことも多いでしょう。今回はこんなときに役立つ知識を分かりやすく解説しています。
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慰謝料はどれくらい請求できるものなのか、どうすれば損をせずにしっかり損害賠償を請求できるかなどをじっくり説明しています。
ケガの通院治療費、病院までの交通費、壊れた携帯電話の修理代金、などなど、加害者に請求したい損害の種類はたくさんあるでしょう。被害者から請求できるのは、交通事故から通常生じると認められる範囲の全損害についての賠償です。具体的にどんな損害について請求できるのか、よく確認しておきましょう。
人身損害
財産上の損害- 入院治療費 病院で支払った診察費や入院費、投薬費などの治療費
- 通院交通費 通院のためのバス代、電車代、タクシー代など
- 葬儀関係費 被害者本人が死亡した場合の葬儀関係費(相続人が請求)
- 休業損害 事故で仕事を休んだために収入が減少した時の損害
- 逸失利益 事故の後遺傷害がなければ将来得られていたはずの収入
- 慰謝料 入院や通院、後遺障害によって受けた苦痛の損害
物的損害(財産上の損害のみ)
- 車輌の修理費用 事故で破損した車の修理費用
- 車輌の買換費用 修理不能のため廃車したときの買換費用
- 評価損 事故によって車輌の価値が下がったという損害
- 代車費用 車が使用できずに代車を使用したときの諸費用
- 休車損害 営業用の車輌が使用できなかった場合に受けた損害
- その他の雑費 車輌の移動や処分に支出した費用など
その他に請求できるもの
加害者側の保険会社も、以上のような項目で示談の金額を提案してきます。
実際に受けた被害の内容によっては、これ以外の項目も請求したい場合もあると思います。その時は、裁判などで認められるのかどうか、弁護士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
- 遅延損害金 事故の当日から発生する遅延損害金(年利5%)
- 弁護士費用 弁護士を依頼したときの費用
示談交渉のときに、保険会社が提案した金額を見たら少なく感じたときは、応じていいのか迷ってしまうでしょう。それでは、実際の損害賠償の金額はどのように算定されるのでしょうか。
金額の算定にも基準がある
一口に交通事故と言っても、その状況は様々です。被害者が受けた精神的苦痛の程度は人によって違うので、慰謝料のように、一律の金額に算定しにくいものもあります。
しかし、大量の交通事故を扱う保険会社や裁判所である程度の算定方法が決まっていなければ、解決に時間がかかり、担当者によって金額に違いが出るなど、多くの被害者が困る事態が起こります。
また、自動車保険の種類によっては、どうしても支払限度額が必要なものもあります。
そこで交通事故の実務では、損害賠償の金額を算定するときに、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準(弁護士基準)という3つの基準が用いられています。
自賠責基準とは
自賠責基準とは、自賠責保険の損害賠償額を算定する際に使われる基準です。
自賠責保険は、人身事故の被害者の救済を目的として、自動車等の全ての運転者が強制的に加入する保険です。公平・迅速に被害の弁償を行うために限度額や支払基準が決まっており、金額も低く抑えられています。
3つの中では1番低額の基準ですが、被害者がどのような事故に遭った時でも最低限の補償だけは受けられるような仕組みが作られています。
任意保険基準
任意保険基準とは、各保険会社が独自に設けている、任意保険の算定の基準です。
被害者が自賠責保険の限度額を超える損害を受けたときは、加害者が加入する任意保険から賠償を受ける必要があります。その示談交渉の際に保険会社が提案してくるのが、任意保険基準で再出した金額です。
この基準は会社ごとに若干違っており、一般には公開されていませんが、自賠責基準を基本として、若干金額を上乗せした金額に設定されているようです。実際のところは、次の弁護士基準と自賠責保険の中間程度の金額になる場合がほとんどです。
裁判基準(弁護士基準)
裁判基準とは、実際の裁判の判決などで判断されている損害賠償額の基準です。弁護士が加害者側と交渉したり、訴訟を起こす際の基準として使われることから弁護士基準とも呼ばれます。
裁判基準といっても、裁判所が公式に発表している基準ではありません。ただ、裁判官による判断のばらつきを防ぐため、裁判所内には何らかの基準があるとみられており、その基準を多くの裁判例から推定したものが、ここでいう裁判基準です。この内容をまとめたのが『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称『赤い本』)などの本で、実際の裁判でもこの基準に近い金額の判決が出されています。
裁判基準は、自賠責基準や任意保険基準よりも金額が高く算定されています。
自賠責保険では、政令などで決まった限度額以上の保険金は支払われません。しかし任意保険からは、交渉によって裁判基準に沿った金額を受け取ることも可能です。
もしも保険会社から示談金額の提案を受けても、決して鵜呑みにはせずに、裁判基準で損害賠償額を請求しくようにしましょう。
交通事故の慰謝料と金額について
保険会社から示談を提案されたとき、一番判断に迷うのが慰謝料の金額でしょう。「慰謝料は100万円」などと算定されても、精神的苦痛の金額として妥当なのか、とても判断しにくいと思います。それでは、裁判基準をまとめた『赤い本』によると慰謝料はどう算定されるか、詳しく見てみましょう。
慰謝料の種類
慰謝料とは、被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。
交通事故では、入通院、後遺障害、死亡の場合に慰謝料が算定されます。なお、物的損害についての慰謝料は、裁判ではほとんど認められていません。
入通院の慰謝料
被害者は、ケガの治療のために入院や通院をする手間をかけられます。この苦痛に対する慰謝料は、後遺症が残り、これ以上治療をしても改善の見込みがないと判断される状態(症状固定)までに発生すると考えられます。
裁判基準では、症状固定までの入院期間と通院期間、日数、頻度、症状の内容などから、慰謝料の金額を算定します。
たとえば、ケガのために1ヶ月の入院のみを行った場合(通院なし)、慰謝料は53万円と算定されます。1ヶ月の入院後に1ヶ月の間通院をすれば、77万円となります。
ただし、むち打ち以外に症状が無かった場合は金額が下がります。1ヶ月の入院(通院なし)で35万円、1ヶ月の入院後に1ヶ月の間に通院で52万円と算定されます。
なお、通院期間の中でも、実際に通院した頻度は症状によって違うので、個々の案件によって調整が図られることもあります。
後遺障害の慰謝料
被害者にケガの後遺症が残ってしまうと、仕事や生活に不自由が生じます。こうした症状固定の後に受ける精神的苦痛についても、慰謝料が発生すると考えられます。
自賠責基準では、症状固定後の慰謝料を算定するために、被害者が「後遺障害」という認定を受けている必要があります。その際に認定された1級から14級までの等級(後遺障害等級)に応じて慰謝料が算定されます。
裁判基準の場合も、この等級を利用して算定を行いますが、金額は自賠責保険よりも高額です。たとえば1級の場合は2800万円、2級の場合は2370万円、3級は2000万円と算定されています。
死亡に対する慰謝料
事故によって被害者が死亡した場合、被害者自身は慰謝料を受け取れないので、被害者の相続人が慰謝料を請求する権利を相続します。また被害者の父母・配偶者・子どもなどの近親者にも、固有の慰謝料請求権が認められています。
裁判基準では、相続した分と近親者固有の請求分を合わせて、請求者1人あたり次の様な金額の請求が可能です。
- 被害者が一家の支柱だった場合 2800万円
- 被害者が母親や配偶者などの場合 2400万円
- その他の場合 2000万円から2200万円
交渉は忘れずに行おう
これまで説明した慰謝料の裁判基準は、あくまでも目安に過ぎません。必ずこの金額を請求しなければならないものでもありません。
あまり過大な請求をしても認められませんが、きちんとした根拠があり、適切な金額であれば、慰謝料の増額が認められる余地もあります。できる限り弁護士などに相談をしながら、請求できる慰謝料の金額を詳しく検討してみましょう。
任意保険会社に示談金額を提案されたが、どうも裁判基準よりも金額が少ない。そんなときは、どのように示談交渉を進めれば良いでしょうか。
示談交渉のやり方
保険会社からの提案してきた金額は、裁判基準の金額と同じくらいに増額できる可能性がありますし、被害者の事情によっては裁判基準以上の金額が認められる余地もあります。
まずは、提案された金額が裁判基準とどの程度開きがあるかを詳しく確認しましょう。
あまりにもかけ離れた金額のときは、弁護士に依頼をして増額を交渉してもらうのも、一つの方法です。実際のところ保険会社も、弁護士が代理人になったときの方が柔軟な話し合いに応じることが多いのです。
話し合う以外の方法は?
保険会社との話し合いがまとまらなければ、裁判を起こす方法もありますが、どうしてもお金や時間がかかります。法律的なアドバイスを受けながら、早く解決したいと思うかたも多いでしょう。そんなとは、裁判所の調停や裁判外のADRを利用する方法もあります。
裁判所の調停について
裁判所の調停とは、調停委員や裁判官の助言を受けながら、民事事件を話し合いで解決する方法です。
裁判のように勝ち負けを決めのではなく、話し合いによって円満な紛争の解決が図られます。
手続は、相手方の住所地の簡易裁判所に申立を行うのが原則です。裁判を起こすよりも申立が簡単にできて費用も安く、解決までの時間も短いのが特徴です。
調停で賠償額の合意ができれば、その内容が調停調書という正式な書類に記載されて、調停成立となります。この調停調書は裁判で確定した判決と同じ効力を持つので、相手が約束した金額を支払わなければ、強制執行をすることも可能です。
一方、調停が不成立になったときは、裁判で争って解決していくことになります。
ADRについて
ADRとは、裁判外紛争解決手続のことをいいます。つまり、裁判所の訴訟手続を利用せずに、中立的立場から仲裁や和解のあっせんを受けたり、専門家の助言を受けながら調停で話し合うことで、法律的なトラブルを解決していくことです。
裁判所の調停も「裁判外の紛争解決手続」といえるので、ADRの一つですが、専門的な知識や経験をもつ裁判外のADR機関を手軽に利用することも可能です。交通事故を専門に扱うのは主に次のような機関です。
日弁連交通事故相談センターは、日本弁護士連合会が設立したADR機関です。被害者だけでなく、加害者も事故の発生当初から無料で弁護士に相談できます。中立的な立場から示談のあっせんを受けて、解決を図ることも可能です。
交通事故紛争処理センターは、被害者と保険会社との紛争を解決するためのADR機関です。被害者は保険会社から賠償額を提案されても話し合いがまとまらないときに、相談や和解のあっせんを受けることが可能です。
どちらも示談がまとまっても裁判所の調停のように強制執行はできませんが、より早く解決が図れたり、相談がしやすいのが特徴です。話し合いの相手や状況に応じて、ふさわしい話し合いの場を選んでみましょう。
交通事故の示談交渉が始まると、色々な損害の項目や数字を目にすることになります。とくに事故直後には頭も混乱しているので、保険会社の担当者から示談の話をされても、なかなか判断がつかないこともしばしばです。
しかし、即答をする必要はありません。回答に困ったときは、さまざまな話し合いの場を利用したり、弁護士などに相談をしながら、解決の道を探ることも可能です。
いったん示談した内容は、よほどのことがない限り後から覆すことは難しくなります。提案された金額が妥当か、請求漏れはないかなどの点は、よく確認しなければなりません。
今回の記事を参考にしながら、気持ちを落ち着かせて、示談の内容を検討していただきたいと思います。
慰謝料・損害賠償を得意としている弁護士
山口 達也 弁護士 兵庫県
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交通事故の慰謝料増額の具体的な事由についての確認